超弩級鉄人形
「エ...エンチャントトレーサーの魔法で作られた壁まで...オレ、壊しちまった...」
破壊された土の山が起こした土埃が晴れた頃、残骸の中で青年は再び自らの手をまじまじと見つめ、戦慄していた。しかし、何やら様子がおかしい。
「もしかしてオレ...最強なのか?」
はい、最強です。だってチートだもの。
「そうだ...アーマーガイストだって、エンチャントトレーサーの魔法にだって勝てたんだ...やれる!オレは最強だ!」
崩れ落ちた土の山の上で叫ぶ青年は段々とヒートアップし始めた。よくない方向に、だ。
「おい...アレはマズいんじゃないか...?」
「よっし!世界征服だ!まずは軍の使いであるお前達をぶっ飛ばしてやるッ!!!」
元女神の予感も的中。青年はこちらにビシッと指を差し、素人丸出しの戦闘体勢を取った。
「あー...俺もそう思う」
「うらああああーーーーーーッ!!!!」
「伊香保助けてェーッ!!!」
「は、はいっ!」
伊香保が大きく腕を振ると、先ほどより遥かに大きな地響きと轟音が鳴り響き、所々割れた大地を砕きながら、巨大な何かがせり出してきた。
「し...召喚魔法!メタルゴーレムですっ!」
伊香保の影から顔を出すと、ビルのように巨大な影が、日光を金属の体に反射させながら聳え立っていた。武装といった武装はなさそうだが、純粋な力比べではどう足掻いても勝てなさそうなその雰囲気に、勢いづいていた青年も流石にたじろぐ。
「な...何ィーッ!デカすぎんだろ!!」
「は、反乱分子ですので、少し大人しくしてもらいます!」
伊香保の言葉に応じ、巨大な人形の金属の塊が、巨大な右腕を振り上げる。
「ご...ごめんなさい調子乗ってました!!嘘ですっ!!世界征服とかぶっ飛ばすとか嘘ですからァ!!」
「ぶはは馬鹿め!雑魚め!やったれ伊香保ーっ!!」
同じく伊香保の影から顔を出していた元女神が、騒がしく煽り立てる。そういうとこだぞ。
「大丈夫です殺さないので!....多分!!」
「今多分って言った!!う...うわあああああああああああ!!!!!」
青年が泣き喚きながら、振り下ろされる巨大な拳に向かって腕を伸ばす。しかし、その腕は止まることなく、無慈悲にも青年に向かって叩きつけられ、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
「いや...これ絶対死ん」
「し、死んでません!て、手加減した...ので...あれ?」
ムキになって自らの罪を否定する伊香保の表情が固まる。彼女の視線を追うと、振り下ろされたメタルゴーレムの拳に小さなヒビが入っていた。
「嘘...!?」
小さな日々はみるみるうちに広がって行き、遂には巨大なメタルゴーレムの頭部や脚部に至る全体に広がり、無数の鉄塊となって散り散りに吹き飛んだ。
「まあ...チートだしなぁ」
「全く...主神様はとんでもないモンを作り出してくれたな...」
誰が舞いた種だと思っているのか、このクソ女神は...




