攻撃力99999の男
「あっ、恐らくあそこの家でござろう!」
途中何人もの逃げ惑う魔族とすれ違いながら、遂に現場と思しき場所が視界に入ってくる。
「よっしゃー!皆の者、突撃ーーーッ!!」
「人の上で暴れるな!あとさっきそれで痛い目見ただろうが!」
元女神が俺の背中の上でぴょんぴょんと暴れ始める。五反田と伊香保が先行して飛んでくる瓦礫を排除しながら、後ろから俺が動けなくなった元女神を担いで進む、という作戦だったから仕方ないが、人の上に乗った瞬間元気と生意気さを取り戻す元女神には非常に腹が立つ。
「あっ、誰か出てきましたよ!」
伊香保が指差す方向を見ると、屋根が吹き飛び、崩れかけたボロボロの民家の中から、玄関を破壊しながら一人の男が飛び出してきた。
「明らかにあの人ですね...」
「チクショーッ!!何なんだよさっきからーーーッ!!」
「ふむ...オーク族の青年のようでござるな」
「えっと...被害が広がる前に、早く押さえましょう!」
確かに、ここにくるまでにも結構な数の瓦礫が降り注いできたし、急いで止めなければならない。道端で混乱する緑色の男に駆け寄る。
「おーい!落ち着くでござるー!」
「あ...あんたらは?」
「拙者たちは魔王軍の使いでござる!助けに来たから、もう暴れるのはやめるでござる!」
「おお...アーマーガイストにエンチャントトレーサー...に......と、とにかく助けてくれ!」
前に立つ二人を見て感動する青年。俺と元女神を見て一瞬「誰だコイツら」って顔したの見逃してねえからな。
「それじゃあ、何が起きてるのか説明してくれ」
「ああ...昨日...狩りの帰りに変なガラス玉を触って...帰ってきてからずっと変なんだ!包丁使ったらまな板ごと切れるし、ドアノブは握り潰すし、歯磨き粉は破裂して飛び出しちゃうし...!」
『スパイダーマンかコイツ』
元女神のツッコミが頭の中に響く。
「...ん?」
「い、いや何でもないッ!とにかくコイツがチートを拾ったのは確定だな!スキャンだスキャン!」
そう言いながら、元女神が慌ててネックレスを両手で持つ。両手を離して地面に降りた元女神は、青年の近くまで駆け寄って行き、ネックレスの装飾部分を翳して覗いた。
「よし分かった!こいつの持ってるチートは...【攻撃力99999】チートだ!!」
「こ...攻撃力99999...!!」
その場にいた全員が固唾を飲み、張り詰めた空気が流れる。
「...それってどれぐらい強いんだ?」
「さ...さあ」
「基準がないでござるからなあ」
緊張感ある空気は瞬間的に過ぎ去り、後には「大丈夫かコイツら」という顔をする青年の不安だけが残っていた。




