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私とペットの観察記録  作者: 紫苑
僕と騎士の観察日記
37/38

10ページ目

「お待ちしておりました、殿下」

「……え」


 来た時はだれもいなかったのに、地下にはたくさんの人がいた。

 一番前の人が笑いながら話しかけてくる。

 聞いたことのある声だなって思った時、その人のことを思い出した。


 そうだ。僕を刺そうとした、あの護衛だ。

 護衛の服を着てないから気がつかなかった。

 でも、この人は牢に入れられてるはずなのにどうしてここにいるんだろう。


「どうしたの?」


 いつもならすぐに答えてくれるはずなのに、この時は答えてくれなかった。

 ただ、こわい顔で僕を見下ろすだけだ。

 この人は護衛の中でも一番背が高いからそれだけでこわい。


 でも、この人は僕を刺そうとする前までとてもやさしかった。

 僕が話す時はいつもヒザを折って聞いてくれた。

 返事がなかったのはきっと、聞こえなかっただけだよね。

 思い切ってもう一度話しかけようとした時、石を取り上げられた。


「なにするの、返してよ!

 父様からあずかった、大事なものなんだ!」


 あわてて取り返そうとしたけど、護衛の背が高すぎて届かない。

 その時、護衛が石をかかげてさけんだ。


「見ろ! 王家が我らに隠れて甘露を啜っていた証拠だ!」


 護衛の言葉はむずかしくて、僕にはよく分からなかった。

 でも、みんなが怒ってるのは分かる。


「まあ、なんて……」

「やはり王家は――」

「恥を知れ!」


 みんなの言葉はほとんど聞き取れなかったけど、男の人の声だけはよく聞こえた。

 聞いたことのある声だ。

 見たら、前にエルとパンを食べに行った屋台のおじさんだった。

 あの時はやさしかったのに、いまはこわい顔をして僕をにらんでる。


 護衛が僕のほうを向いた。


「呪いを垂れ流し、あげく自分たちだけ助かろうとする王家に用はない。

 貴重な水を独占しているとは……見下げ果てましたな」


 今度はちゃんと分かった。護衛はかんちがいしてるんだ。

 父様と僕が二人だけでこっそりきれいな水を飲んでたって。


「ち、ちがうよ。その石は父様が……」

「言い訳は無用!」


 説明しようとしたけどダメだった。

 剣を抜いた護衛が、農具や包丁を持った人たちが僕をにらむ。

 そのぎらぎらとした目が、憎しみがこもった目がたえられなかった。


「や、やだ……」


 こわくなって、僕はもどってきた道をまた走った。

 後ろでいろんな人が僕の名前をさけんでるのが聞こえる。


 たくさん走ったらすぐに息が切れた。

 最近はずっと部屋にいたし、僕はそんなに運動が得意じゃないから。

 立ち止まりそうになる度に身体強化の魔法をかけてまた走る。


 もう、どの道が正しいのか分からない。

 手あたり次第に曲がって、走った。


 そしたら、行き止まりにたどりついた。

 魔力は空っぽだ。身体強化の魔法も解けて、全身が重い。


 でも、がんばらないと。

 だって僕はこの国の王子だから。

 父様と母様の子どもだから。


 ふるえる足を動かして、こっちに向かってくる護衛に向き合った。


「か……返してよ。その石!

 それがないと、国のみんなを助けられないんだ!」


 そのとたん、護衛が大声で笑った。


「助けるも何も、国の民はもう誰も王家に期待しておりませんよ」

「……え」

「民が選んだのです。王家は不要だと」


 そう言われて、頭の中が真っ白になった。

 護衛が剣を抜いて僕に突き付ける


「さすがに幼子をいたぶる趣味はありませんからご安心を。

 一瞬で終わりますよ」

「やだ……やだ、やだ。こないで。こないでよ! こないで!」


 がまんしてた涙がどんどんあふれた。

 やだ。こわい。たすけて。死にたくない。父様。母様。

 ……エル。


「助けて! たすけて、エル!」


 剣が振り下ろされた。

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マシュマロ
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