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私とペットの観察記録  作者: 紫苑
僕と騎士の観察日記
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9ページ目

「フリードリヒ、見せたいものがある。

 一緒に来なさい」


 ある日、父様が僕の部屋に来た。

 父様といっしょにお出かけするのは久しぶりだ。

 雨が降るようになってからはお話する時間もなかったから、うれしかった。


「うん!」


 差し出してくれた手を、ぎゅっと握る。

 父様の手は母様みたいにひんやりしていて、硬かった。

 ごつごつして、まるで骨みたいだ。


 びっくりして見上げた時、父様がすっかりやせたことに気がついた。

 ずっと魔法を使ってたからだ。


 魔力がなくても魔法は使えるけど、その時は生命力を消費する。

 いつもはだれよりも多かった父様の魔力が、今は空っぽだった。


「父様……」

「大丈夫だ。このくらい、どうってことない。

 民は私よりもっと飢えているのだから」


 父様はにっこり笑って僕の手を強く握った。


 それから、たくさん歩いた。

 地下まで降りて、かくし扉を通って、ぐねぐね曲がった迷路みたいな通路をぬけて。


 ついたのは、すごく大きな扉の前だった。

 屈んだ父様が僕の目を見つめる。


「フリードリヒ。

 私がこの部屋に入って五分経ったら、お前も部屋に入りなさい。

 それから、中のものを持って城に戻るんだ。分かったね」

「父様は?」

「……私はこれから、王として最後の役目を果たす。

 だから、フリードリヒについていてやることは出来ない。

 だが、お前はもう六歳になったんだ。一人でもちゃんと出来るな?」

「………………」


 どうしてだろう。

 いつもならすぐに「うん」って言えるのに、今だけはそう言いたくなかった。

 せっかく父様が、僕に頼みごとをしてくれてるのに。


「フリードリヒ」

「……う、ん……うん。分かった」


 やだ、って言いそうになるのをこらえてうなづいた。

 母様の時みたいにわがままを言っちゃだめだ。父様をこまらせないようにしないと。

 父様は「いい子だ、フリードリヒ」って笑って、僕の頭をなでてくれた。


「お前はきっと、いい王になるな」


 それが最後に聞いた父様の言葉だった。


 扉が閉じて、静かになった。

 父様の声も、ほかの音も、なにも聞こえない。


 不安になって何度か扉に手をかけたけど、けっきょく開けなかった。

 言われたことはちゃんと守らないと。だって僕はもうお兄さんなんだから。

 小さな声で数を数えて、五分経つのを待った。


 ……三百まで数えた後、顔を上げた。

 もう、入ってもいいよね。

 重たい扉を押し開けて、中に入る。


 部屋にはだれもいなかった。父様も、だれも。

 その代わり、部屋の中央に父様の目と同じ銀色の石があった。

 こんな石、父様は持ってたっけ。


 部屋を見渡したけど、ほかにものはない。

 おそるおそる石を拾うと、そこから透明な水がたくさんあふれ出した。

 つめたくて、なんの味もしないきれいな水だ。今のみんなが一番求めてるもの。

 この石があれば、国中に飲み水がいきわたる。


 石を落とさないようしっかり握って、来た道をもどった。

 一人はこわいけど、父様と約束したから平気だ。

 それにきっと、国のみんなも待ってる。早くもどって、水をあげないと。


 かくし扉を開けて、地下にもどる。

 あとは階段を上がって、部屋にもどって、それからみんなに水を渡そう。


 みんな、よろこんでくれればいいな。

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