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「フリードリヒ、見せたいものがある。
一緒に来なさい」
ある日、父様が僕の部屋に来た。
父様といっしょにお出かけするのは久しぶりだ。
雨が降るようになってからはお話する時間もなかったから、うれしかった。
「うん!」
差し出してくれた手を、ぎゅっと握る。
父様の手は母様みたいにひんやりしていて、硬かった。
ごつごつして、まるで骨みたいだ。
びっくりして見上げた時、父様がすっかりやせたことに気がついた。
ずっと魔法を使ってたからだ。
魔力がなくても魔法は使えるけど、その時は生命力を消費する。
いつもはだれよりも多かった父様の魔力が、今は空っぽだった。
「父様……」
「大丈夫だ。このくらい、どうってことない。
民は私よりもっと飢えているのだから」
父様はにっこり笑って僕の手を強く握った。
それから、たくさん歩いた。
地下まで降りて、かくし扉を通って、ぐねぐね曲がった迷路みたいな通路をぬけて。
ついたのは、すごく大きな扉の前だった。
屈んだ父様が僕の目を見つめる。
「フリードリヒ。
私がこの部屋に入って五分経ったら、お前も部屋に入りなさい。
それから、中のものを持って城に戻るんだ。分かったね」
「父様は?」
「……私はこれから、王として最後の役目を果たす。
だから、フリードリヒについていてやることは出来ない。
だが、お前はもう六歳になったんだ。一人でもちゃんと出来るな?」
「………………」
どうしてだろう。
いつもならすぐに「うん」って言えるのに、今だけはそう言いたくなかった。
せっかく父様が、僕に頼みごとをしてくれてるのに。
「フリードリヒ」
「……う、ん……うん。分かった」
やだ、って言いそうになるのをこらえてうなづいた。
母様の時みたいにわがままを言っちゃだめだ。父様をこまらせないようにしないと。
父様は「いい子だ、フリードリヒ」って笑って、僕の頭をなでてくれた。
「お前はきっと、いい王になるな」
それが最後に聞いた父様の言葉だった。
扉が閉じて、静かになった。
父様の声も、ほかの音も、なにも聞こえない。
不安になって何度か扉に手をかけたけど、けっきょく開けなかった。
言われたことはちゃんと守らないと。だって僕はもうお兄さんなんだから。
小さな声で数を数えて、五分経つのを待った。
……三百まで数えた後、顔を上げた。
もう、入ってもいいよね。
重たい扉を押し開けて、中に入る。
部屋にはだれもいなかった。父様も、だれも。
その代わり、部屋の中央に父様の目と同じ銀色の石があった。
こんな石、父様は持ってたっけ。
部屋を見渡したけど、ほかにものはない。
おそるおそる石を拾うと、そこから透明な水がたくさんあふれ出した。
つめたくて、なんの味もしないきれいな水だ。今のみんなが一番求めてるもの。
この石があれば、国中に飲み水がいきわたる。
石を落とさないようしっかり握って、来た道をもどった。
一人はこわいけど、父様と約束したから平気だ。
それにきっと、国のみんなも待ってる。早くもどって、水をあげないと。
かくし扉を開けて、地下にもどる。
あとは階段を上がって、部屋にもどって、それからみんなに水を渡そう。
みんな、よろこんでくれればいいな。




