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私とペットの観察記録  作者: 紫苑
僕と騎士の観察日記
33/38

6ページ目

「エル?」


 名前を呼んだけど返事はなかった。

 いつまで待ってもエルがもどってくる気配はない。


 どこにいっちゃったんだろう。

 またお話ししてくれるって、約束したのに。


 もしかして、父様のところにいるのかな。

 父様は僕にエルを貸してくれるけど、なにかあるとすぐにエルを呼ぶ。

 エルは父様の「せいしんあんていざい」なんだって。

 つまり、必要な存在ってことだよって前に父様が教えてくれた。

 最近のエルはずっと僕のそばにいたから、父様が待ちきれなくなったのかもしれない。


「フリードリヒ!」


 ベッドから降りようとした時、母様がやってきた。


「あ、母様……」

「ああ、フリードリヒ! 治ったのね!」


 僕が返事をする前に、母様が僕をぎゅっと抱きしめた。

 その時の細くてつめたい腕におどろいて、母様の姿をあらためて見る。


 母様はいつのまにかすっかりやせて、髪も白っぼくなってた。

 父様がほめてくれるからって、いつもていねいに手入れしてたのに。

 きっと、僕のためにムリして魔法を使ったせいだ。


「母様、髪……ごめんなさい」

「謝らなくていいのよ。フリードリヒが無事なら、それでいいの。

 さあ、早くマクシミリアン様のところへ行きましょう。

 あなたが元気になったことを知らせたら、きっとびっくりするわ」


 そう言って、母様がにっこり微笑んだ。

 そうだ。早く父様のところへ行こう。

 きっとエルもそこにいるはずだから。


 服を着替えて部屋を出ると、すぐに宰相がやって来た。

 僕と母様を見ておどろいてたけど「よかった」って笑ってくれた。


「すぐに陛下をお連れ……」

「フリードリヒ!」


 宰相が言い終わる前に父様がやってきた。

 ぎゅうぎゅう抱きしめられてちょっと苦しい。

 でも、それよりうれしさでいっぱいだった。


「ああ、フリードリヒ。治ったんだな。

 よかった。本当に、よかった……」

「あなた。フリードリヒは病み上がりだから、そんなに強く抱きしめたら駄目よ」

「そうだったな。済まない、フリードリヒ」


 そう言って笑った父様の銀色の目には涙がたまっていた。


「シシーもありがとう。ずっと付いていてくれて」

「この子は私たちの宝物だもの」

「たからもの……」


 母様の言葉にふと、エルのことを思い出した。

 そうだ。父様にエルの居場所を聞かないと。

 それから、エルが助けてくれたことを伝えて……。 


「シシー!」


 その時、父様がさけんだ。


「シシー! シシー! しっかりしろ!」


 いつのまにか僕の横で倒れてた母様を、父様が抱きかかえた。

 母様の身体がぐらぐらゆれる。


「かあさま……」


 こわくなって母様の手を握ったけど、返事はなかった。

 いつもなら「どうしたの?」って笑いかけてくれるのに。

 それに、手も氷みたいにつめたい。


「陛下。医師を呼びましたので……」

「すぐに行く」


 父様は母様を抱えて、宰相といっしょに部屋を出て行った。

 僕もついて行きたかったけどダメだった。


「殿下は病み上がりの身。

 むやみに歩き回っては、またお加減を悪くされるやもしれません。

 どうかお部屋でお休みください」


 それで、僕はまた部屋にもどされた。

 侍女が気をつかってお茶をいれてくれたけど、ちっとも落ち着かない。


 あんなに白い顔をした母様を見たのは始めてだった。

 まるで、お祖父様みたいだ。

 お祖父様が亡くなった時も、さっきの母さまと同じくらい白い顔をしてた。

 ……母様、大丈夫かな。死んじゃったりしないよね。


 そう思ったらすごくこわくなった。

 あたたかいお茶を飲んでるのに、身体がふるえてくる。


 エルがいたら安心させてくれるのに。


 だけどエルはここにはいない。

 父様も、母様もいない。

 それがすごくさみしくて、不安だった。

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マシュマロ
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