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「エル?」
名前を呼んだけど返事はなかった。
いつまで待ってもエルがもどってくる気配はない。
どこにいっちゃったんだろう。
またお話ししてくれるって、約束したのに。
もしかして、父様のところにいるのかな。
父様は僕にエルを貸してくれるけど、なにかあるとすぐにエルを呼ぶ。
エルは父様の「せいしんあんていざい」なんだって。
つまり、必要な存在ってことだよって前に父様が教えてくれた。
最近のエルはずっと僕のそばにいたから、父様が待ちきれなくなったのかもしれない。
「フリードリヒ!」
ベッドから降りようとした時、母様がやってきた。
「あ、母様……」
「ああ、フリードリヒ! 治ったのね!」
僕が返事をする前に、母様が僕をぎゅっと抱きしめた。
その時の細くてつめたい腕におどろいて、母様の姿をあらためて見る。
母様はいつのまにかすっかりやせて、髪も白っぼくなってた。
父様がほめてくれるからって、いつもていねいに手入れしてたのに。
きっと、僕のためにムリして魔法を使ったせいだ。
「母様、髪……ごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。フリードリヒが無事なら、それでいいの。
さあ、早くマクシミリアン様のところへ行きましょう。
あなたが元気になったことを知らせたら、きっとびっくりするわ」
そう言って、母様がにっこり微笑んだ。
そうだ。早く父様のところへ行こう。
きっとエルもそこにいるはずだから。
服を着替えて部屋を出ると、すぐに宰相がやって来た。
僕と母様を見ておどろいてたけど「よかった」って笑ってくれた。
「すぐに陛下をお連れ……」
「フリードリヒ!」
宰相が言い終わる前に父様がやってきた。
ぎゅうぎゅう抱きしめられてちょっと苦しい。
でも、それよりうれしさでいっぱいだった。
「ああ、フリードリヒ。治ったんだな。
よかった。本当に、よかった……」
「あなた。フリードリヒは病み上がりだから、そんなに強く抱きしめたら駄目よ」
「そうだったな。済まない、フリードリヒ」
そう言って笑った父様の銀色の目には涙がたまっていた。
「シシーもありがとう。ずっと付いていてくれて」
「この子は私たちの宝物だもの」
「たからもの……」
母様の言葉にふと、エルのことを思い出した。
そうだ。父様にエルの居場所を聞かないと。
それから、エルが助けてくれたことを伝えて……。
「シシー!」
その時、父様がさけんだ。
「シシー! シシー! しっかりしろ!」
いつのまにか僕の横で倒れてた母様を、父様が抱きかかえた。
母様の身体がぐらぐらゆれる。
「かあさま……」
こわくなって母様の手を握ったけど、返事はなかった。
いつもなら「どうしたの?」って笑いかけてくれるのに。
それに、手も氷みたいにつめたい。
「陛下。医師を呼びましたので……」
「すぐに行く」
父様は母様を抱えて、宰相といっしょに部屋を出て行った。
僕もついて行きたかったけどダメだった。
「殿下は病み上がりの身。
むやみに歩き回っては、またお加減を悪くされるやもしれません。
どうかお部屋でお休みください」
それで、僕はまた部屋にもどされた。
侍女が気をつかってお茶をいれてくれたけど、ちっとも落ち着かない。
あんなに白い顔をした母様を見たのは始めてだった。
まるで、お祖父様みたいだ。
お祖父様が亡くなった時も、さっきの母さまと同じくらい白い顔をしてた。
……母様、大丈夫かな。死んじゃったりしないよね。
そう思ったらすごくこわくなった。
あたたかいお茶を飲んでるのに、身体がふるえてくる。
エルがいたら安心させてくれるのに。
だけどエルはここにはいない。
父様も、母様もいない。
それがすごくさみしくて、不安だった。




