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私とペットの観察記録  作者: 紫苑
僕と騎士の観察日記
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5ページ目

 夜、エルがやってきた。


 エルはもともと髪も肌もほかの人より色がうすい。

 でも、この時のエルの顔はびっくりするくらい青白かった。


「だい、じょうぶ……?」

「ああ、心配するな」


 エルは笑ってくれたけど、いつもきらきらしてる目は暗いままだった。

 やっぱり、疲れてるんだ。


 僕のとなりに来ると、エルがポケットから小さなビンを取り出した。

 エルの目と同じ色の液体が入った、きれいなビンだ。


「薬をもってきたんだ」

「薬?」


 この病気を治せる薬があるなんて知らなかった。

 だって、もしそんなものがあったら医者や父様が用意してくれたはずだ。

 エルは……どこからその薬を持ってきたんだろう。


「ちょっと苦いらしいけど、飲めるな?」

「うん……」


 苦くてもからくても、病気が治るならなんでもする。

 そう言うと、エルは「いい子だ」って笑ってビンを僕の口に近づけた。

 薬を飲んだらまたバラが咲きそうでこわいけど、エルが持ってきてくれたんだ。

 大丈夫だ、って心の中でくりかえして、思い切って薬を飲む。


 ……苦い。すごく苦い。


 吐き出しそうになったけど、エルが持ってきて薬をムダには出来ない。

 なんとか飲み干すと、急に身体が楽になった。

 息をしても苦しくないし、花が成長する音も聞こえない。


 その時、かさりと音を立ててなにかが落ちた。

 枯れた花びらだ。


「フリッツ」


 名前を呼ばれて、エルのほうを向く。

 そしたら、がさがさって音がしてたくさんの枯れた花びらが落ちた。

 落ちた花びらがあっという間に溶けて消える。

 雪から出来たバラだったから、溶けたのかな。


 しばらくしたら、身体に咲いてたバラは全部なくなった。

 いたくない。おなかもちゃんと空いた。苦しくない!

 これできっと、エルや母様も元気になる。


「ありがとう、エル!」

「……ああ」


 お礼を言うと、エルもうれしそうに笑ってくれた。

 エルが僕の頭に手をのばして……そのまま手を下ろす。

 いつもみたいに頭をなでてくれると思ってたから、ちょっと残念だ。


 気をつかってくれたのかな。

 バラが咲いてた時は、さわられただけでいたかったから。


「……もう、夜もおそい。

 マックスたちに知らせるのはあしたの朝にして、今日はもうねよう」

「うん!」


 気付かなかったけど、窓から見た空には銀色の三日月が浮かんでた。

 エルに言われたとおり、今日はもう寝よう。

 ベッドに横になってエルのほうを向く。


「どうした? まだ、どこかいたいか?」

「ううん、もう平気。

 ただ、エルとお話したくて……」


 ほんとは今、すごく眠い。

 だけど、エルとこうしてお話するのは久しぶりだ。

 すぐに寝るのはなんだかもったいない気がした。


「……じゃあ、しばらくお話するか。

 なにか聞きたい話はあるか?」

「なんでもいい?」

「もちろん」


 エルがそう言ったから、たくさんのお話を聞かせてもらった。

 父様とした冒険の話。昔の母様と父様の話。エルがよく行く食べもの屋さんの話。

 いつもなら「もうここまで」って言われるけど、今日は言われなかった。


 でも、お話を聞いてるうちにだんだん眠くなってきた。

 せっかくエルがお話してくれてるのに。


「起きたらまた、話せばいいさ」


 そう言って、エルは静かに笑った。

 そうだよね。だって、元気になったんだから。

 これからもたくさん、エルとお話出来るよね。


「うん……そうだね。

 おやすみ、エル」

「ああ。おやすみ、フリッツ」






 起きた時には、エルはどこにもいなかった。

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