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夜、エルがやってきた。
エルはもともと髪も肌もほかの人より色がうすい。
でも、この時のエルの顔はびっくりするくらい青白かった。
「だい、じょうぶ……?」
「ああ、心配するな」
エルは笑ってくれたけど、いつもきらきらしてる目は暗いままだった。
やっぱり、疲れてるんだ。
僕のとなりに来ると、エルがポケットから小さなビンを取り出した。
エルの目と同じ色の液体が入った、きれいなビンだ。
「薬をもってきたんだ」
「薬?」
この病気を治せる薬があるなんて知らなかった。
だって、もしそんなものがあったら医者や父様が用意してくれたはずだ。
エルは……どこからその薬を持ってきたんだろう。
「ちょっと苦いらしいけど、飲めるな?」
「うん……」
苦くてもからくても、病気が治るならなんでもする。
そう言うと、エルは「いい子だ」って笑ってビンを僕の口に近づけた。
薬を飲んだらまたバラが咲きそうでこわいけど、エルが持ってきてくれたんだ。
大丈夫だ、って心の中でくりかえして、思い切って薬を飲む。
……苦い。すごく苦い。
吐き出しそうになったけど、エルが持ってきて薬をムダには出来ない。
なんとか飲み干すと、急に身体が楽になった。
息をしても苦しくないし、花が成長する音も聞こえない。
その時、かさりと音を立ててなにかが落ちた。
枯れた花びらだ。
「フリッツ」
名前を呼ばれて、エルのほうを向く。
そしたら、がさがさって音がしてたくさんの枯れた花びらが落ちた。
落ちた花びらがあっという間に溶けて消える。
雪から出来たバラだったから、溶けたのかな。
しばらくしたら、身体に咲いてたバラは全部なくなった。
いたくない。おなかもちゃんと空いた。苦しくない!
これできっと、エルや母様も元気になる。
「ありがとう、エル!」
「……ああ」
お礼を言うと、エルもうれしそうに笑ってくれた。
エルが僕の頭に手をのばして……そのまま手を下ろす。
いつもみたいに頭をなでてくれると思ってたから、ちょっと残念だ。
気をつかってくれたのかな。
バラが咲いてた時は、さわられただけでいたかったから。
「……もう、夜もおそい。
マックスたちに知らせるのはあしたの朝にして、今日はもうねよう」
「うん!」
気付かなかったけど、窓から見た空には銀色の三日月が浮かんでた。
エルに言われたとおり、今日はもう寝よう。
ベッドに横になってエルのほうを向く。
「どうした? まだ、どこかいたいか?」
「ううん、もう平気。
ただ、エルとお話したくて……」
ほんとは今、すごく眠い。
だけど、エルとこうしてお話するのは久しぶりだ。
すぐに寝るのはなんだかもったいない気がした。
「……じゃあ、しばらくお話するか。
なにか聞きたい話はあるか?」
「なんでもいい?」
「もちろん」
エルがそう言ったから、たくさんのお話を聞かせてもらった。
父様とした冒険の話。昔の母様と父様の話。エルがよく行く食べもの屋さんの話。
いつもなら「もうここまで」って言われるけど、今日は言われなかった。
でも、お話を聞いてるうちにだんだん眠くなってきた。
せっかくエルがお話してくれてるのに。
「起きたらまた、話せばいいさ」
そう言って、エルは静かに笑った。
そうだよね。だって、元気になったんだから。
これからもたくさん、エルとお話出来るよね。
「うん……そうだね。
おやすみ、エル」
「ああ。おやすみ、フリッツ」
起きた時には、エルはどこにもいなかった。




