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私とペットの観察記録  作者: 紫苑
僕と騎士の観察日記
30/38

3ページ目

 今日は朝からおなかと胸がいたかった。

 内側からちくちくつつかれてる感じで、ちょっと苦しい。

 きのう、食べすぎたのかな。


 僕を診た医者はなんともないって言ってた。

 食べ慣れないものをたくさん食べたから、気分が悪くなったんだろうって。

 今日は安静にしていなさいって言われたから、朝からずっとベッドの上だ。


 しばらくは本を読んでたけど、痛みが強くなってきたから止めた。

 ベッドに寝転がって、枕元のバラをながめる。

 バラについて父様に聞きたかったのに、聞けなかったな。


 しばらくバラを見てたけど、すぐに飽きた。

 時計はまだほんの少ししか進んでない。

 エルといっしょだと、時間なんてすぐ過ぎちゃうのに。


 ボードゲームしたいな。なぞかけでもいいや。

 でも、どっちも一人じゃ出来ない。エルがいないから、今はムリだ。

 侍女はみんな僕に勝たないよう手加減するからつまらないし。

 エルみたいにちゃんと相手してくれる人がいたらいいのに。


 しばらくごろごろしてたら、扉が小さく叩かれた。

 侍女が薬を持ってきてくれたのかな。


「いいよ」


 ベッドに寝そべったまま返事をすると、扉がゆっくり開いた。

 お盆を持ったエルが「起きてたのか」って顔をのぞかせる。


「エル!」


 まさか、エルが来てくれるなんて思ってなかった。

 びっくりして起き上がると、エルがくすくす笑いながら部屋に入ってきた。


「なんだ、元気そうだな。安心した。

 でも、いまは寝たほうがいい」

「うん……」


 言われたとおり寝そべると、エルがサイドテーブルにお盆をおいた。

 持ってきたポットを傾けると、カップに透明な緑色の液体が注がれる。


「それ、薬?」

「いや、たんなるお茶。

 かおりがいいから、気がまぎれると思ってな」


 そう言いながら、エルがお茶の入ったカップを渡してくれた。

 やけどしないように注意しながら口をつける。

 ……おいしい。それに、エルの言うとおりすごくいい香りだ。

 痛みはまだ消えないけど、ちょっと胸が軽くなった気がした。


「……ごめんな」

「どうしてあやまるの? エル」


 僕がエルにお礼を言うなら分かるけど、エルが僕にあやまる必要なんてない。

 だって、エルはなにも悪いことをしていないのに。

 ……僕が具合を悪くしたせいかな。


 僕が体調をくずしたり、ケガをしたりすると僕のそばにいる人が悪く言われる。

 走って転んだら、止めなかった護衛が悪い。

 夕食を全部食べられなかったら、そんな料理を作ったコックが悪い。

 夜更かしして授業中に居眠りしたら、寝かしつけなかった侍女が悪い。


 みんながそう言うわけじゃないけど、そんな人がいることは知ってた。

 だから今回も「僕を街に連れ出したエルが悪い」って言われたのかもしれない。


「エルは悪くないよ! 僕がおねがいしたんだから。僕のせいだよ」


 僕の言葉を聞いて、エルは少し笑った。


「フリッツがわるいわけ、ないだろう。

 心配しなくても、俺はなにもいわれてない。

 ただ、フリッツの体調に気付けなくてかなしかっただけだ。

 ……ごめんな。気をつかわせて」

「ううん……」


 それきり、僕もエルもなにも言わなかった。

 なんて言えばいいのか分からなかったんだ。

 エルといっしょならいつだって楽しいはずなのに、今はちょっとだけ気まずい。


 なにか、お話することはないかな。

 そう思って部屋を見たけど、特にめずらしいものはなかった。

 僕の部屋なんだから当たり前だけど。


 エルからなにかお話してくれないかなって思いながら、エルを見る。

 その時、エルの首元がちょっと光ってみえた。


「エル。それ、なに?」

「ん? ……ああ、これか。

 俺のたからものだよ」


 やさしい目でそう言って、エルが服の下からなにかを引っぱりだした。

 ペンダントみたいだけど、母様のペンダントみたいに宝石はついてない。

 代わりに、うすくて平たい金色の金具がついてた。


「ロケットペンダントっていうんだ。

 この中に絵を入れて持ち歩ける」


 そう言って、エルが金具をぱちんって開いた。かっこいい。

 金具の中には絵が入ってた。

 父様と母様。それにちっちゃな赤ちゃん。

 赤ちゃんの髪は母様や僕と同じ、淡い金色だった。


「この子……僕?」

「ああ。フリッツが生まれた時の絵だ。

 かいたのは俺だから、あんまりうまくないけどな」

「エルが描いたの?!」


 びっくりしてエルを見ると、エルは照れくさそうに笑って頷いた。

 知らなかった。エル、絵も上手だったんだ。


「でも、なんでこれがたからものなの?」


 たからものって言われるのはうれしいけど、ふしぎだった。

 エルの家族の絵なら分かるけど。


「俺がいま、人間として生きていられるのはマックスとシシーのおかげだ。

 だから俺は二人を……二人のしあわせをまもりたい」

「しあわせって?」

「もちろん、フリッツだよ」


 エルの青い目がやさしく僕を見つめた。


「だけどマックスは王で、シシーはその妃だ。

 フリッツがどれだけ大切でも、民や国を優先しないといけない時がある。

 だから、俺がフリッツのそばにいるんだ。二人に代わってまもるためにな。

 もちろん、俺がそばにいたいのもあるけど」


 それを聞いたとたん、胸が苦しくなった。

 いやだったわけじゃない。うれしかったんだ。


 父様や母様が僕を愛してくれてることは知ってた。

 でも、一番じゃないと思ってたから。

 二人とも、いつも国のためにっていそがしそうで……王様なんだから仕方ないって分かってたけど、さみしかった。

 ちゃんと、僕のこと好きでいてくれたんだ。


 だけど、国で暮らしている人たちのことを考えると胸がいたくなった。

 僕はこの国の王子なのに、自分のことばっかりだ。

 こんなことで、りっぱな王様になれるのかな……。

 考えていたら、エルが僕の頭をたくさんなでてくれた。


「子が親に愛されたいっておもうのはあたりまえだ。

 おもうだけなら罪じゃない。

 それに、フリッツはやさしくて頭がいい。きっといい王様になれるよ」


 いい王様になれる自信はまだあまりない。

 でも、エルがいつもみたいに笑ってくれたから気にしないことにした。


 そのあと、エルはたくさんお話してくれた。

 エルが竜をたおしたり、父様と迷宮を攻略した時のお話はすごくどきどきした。

 父様が王子だったころ、二人でお城を抜け出してよく冒険に行ったんだって!


 僕も行きたいなあって言ったら「あぶないからダメ」って言われた。

 父様はいいのに、なんだかずるい。


「……ああ、もうこんな時間か」


 気がついたら、いつのまにか夜になってた。

 僕だけの時はぜんぜん時間が進まなかったのに、変なの。

 エルといっしょの時は、どうしてこんなに早く時間が進むんだろう。


「誰かがこっそり時間を進めてるのかなあ」

「そうかもしれないな。こんど、犯人をさがしてみるか」

「うん!」


 犯人を見つけたら、エルといっしょにいても時間が早く進まないよね。


「そうだ、フリッツ。夕食はたべられそうか?」

「ううん……おなかが苦しくて……」


 お茶をいっぱい飲んだからか、息をするのもやっとなくらいだった。

 胸のあたりも、さっきからずきずきする。


 ちょっとでも痛みを軽くしたくて、治癒魔法をかけてみた。

 ケガを治療する魔法だから、病気にはあまり効果がないかもしれないけど。

 そしたら、おなかと胸の苦しさが一気に増えた。


 いたい。

 おなかの中でなにかがあばれてるみたいだ。

 身体を丸めて、シーツをつかむ。

 でもいたい、くるしい、いたい!


「フリッツ? フリッツ、だいじょうぶか?」


 返事をしたいけど、いたくて答えられない。頭の中がぐるぐるする。

 痛みはどんどん強くなっていくのに、エルの声はだんだん遠くなっていった。

 こわくていたくて、手をのばす。


 たすけて、エル。

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