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19日目

 今日も雨が降っていた。

 色は更に濃くなり、今や鮮血のように赤く染まっている。

 庭の花が雨に濡れている様を見ると仕事現場を思い出すので、今日は室内で過ごそう。


 昨日購入した植物図鑑をエルと眺めているうち、時計の鐘が昼を告げた。

 そろそろ昼食を作ろう。


「今日はエルの故郷の料理を作ろうか」


 行商から買い求めた料理の本を取り出して告げると、エルが目を輝かせた。

 外の薄暗さと相まって青みがかった緑色の瞳がとても綺麗だ。

 今日はうんとおいしいものを作らなければ。


 そうはいっても、私の料理の腕はさほどよくない。

 レシピ通りに調理を進めることは出来ても「適量」「適度に」と言われると失敗する。

 同僚は難なく成功させるので、きっと私にはセンスがないのだろう。

 全く知らない土地の料理をうまく作れるか今から不安だ。


 だから今日は、なるべく簡単なものを作ろう。

 失敗したらエルをがっかりさせてしまうし、食材も無駄になる。

 作り直す間、お腹を空かせたエルを待たせるのはかわいそうだから。


 さいわいなことに、行商から求めた本は私に合っていた。

 分量も手順も事細かに書かれていて、適量という言葉はほとんど出てこない。

 掲載された料理の絵は見慣れないものばかりだけど、どれもおいしそうだった。

 これなら大丈夫そうだ。


「エルはなにが食べたい?」


 ページをめくりながら尋ねると、あるページをエルが抑えた。

 レシピによると、細かく刻んだ内臓やハーブを混ぜた肉団子のスープらしい。

 シンプルだけどおいしそうだ。これなら失敗することもないだろう。

 材料もちょうど揃っているので、今日の昼食はこのスープにしよう。





 薄切りにした野菜を油を敷いた鍋に入れると、油が跳ねる激しい音が響いた。

 鍋を熱しすぎたのか、油が多すぎたのだろう。

 少し火が通ったところで水と各種調味料を入れて蓋をする。

 鍋の番は耐火性が高い炎の花に任せるとして、次はいよいよ肉団子だ。


 以前手に入れたエルフの各内臓とハーブ、スパイスを調理台の上に並べた。

 保管の魔法を掛けておいたので内臓の鮮度は問題ない。

 塩やスパイスは、エル用だから控えめにしておこう。


 野菜や内臓を細かく切ってボールに入れたところでエルが顔を覗かせた。

 料理の出来上がりを待ちきれず、様子を見に来たらしい。


「おいで。鍋には近づかないようにね」


 そう言って手招くと、エルは興味津々といった様子で私の手元を覗き込んだ。

 肉団子の材料を前にしたエルのお腹がくぅ、とかわいらしい音を立てる。


「もう少しだけ待っていてね」


 ちらちらと鍋のほうを気にするエルを宥めながら材料を丸めていく。

 最初のうちは慣れなくて手のひらほどの肉団子が出来てしまったけれど、慣れてくるとエルが一口で食べられるくらいの大きさに丸められるようになってきた。

 細かくした肉を丸めるなんて初めての経験だけど、なかなか楽しい。


 程よく煮立った鍋の中に丸め終えた肉団子を入れると、赤みがかった肉の色がさっと変わった。

 眺めていたエルが嬉しそうに声を漏らす。

 エルにもし尻尾があったら、きっとちぎれんばかりに振っていただろう。

 もちろん、尻尾がなくともエルはかわいいけれど。


 しばらく煮込んでから皿に盛りつければ、少し遅めの昼食が出来上がった。

 肉団子の大きさはまちまちになってしまったけれど、火はちゃんと通っている。

 初めてにしてはよく出来たと思うのだけど、どうだろうか。


 切り分けた肉団子を口に運ぶと、コクのある味わいが広がった。

 エルフの魔力のせいか、少しぴりっとした刺激がある。

 いい意味で、未知の味だった。

 今までは素材としてしか使ってこなかったエルフの肉だけど、これからは食材にするのもいいかもしれない。


 エルもこのスープが気に入ったようだった。

 普段よりも食べ進むペースが速いのは、きっと気のせいではないはずだ。

 手間は掛かったけれど、こんなに喜んでくれるのなら作ってよかった。


 また今度、いいエルフが手に入ったら作るとしよう。

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