13日目
完成した装置を渡しに行った。
予想通り、エルフたちは大層喜んでいた。
けれど、それを見てもエルが喜んでいる時のような充足感は感じない。
あったのは契約が無事に果たされた安堵と開放感だけだ。
長居しても碌なことはないので、報酬だけ受け取ってさっさと帰った。
エルフたちと話をするよりも、エルへのお土産を探すほうが有意義だ。
それに、私が出来ることはもうない。
私の役割は装置の作成だけで、後はエルフたちの仕事なのだから。
今度こそ、彼らの目的が果たされればいいけれど。
いくら報酬が貰えるとはいえ、短期間に三度も彼らと契約するのは面倒だから。
帰りがけ、エルの故郷に立ち寄った。
昨日の温室とほとんど同じ湿度と温度の風が頬を撫でる。
同時に、聞き慣れない喧噪が耳に飛び込んできた。
他種族の言語はエルフのものしか理解出来ないから意味は分からないけれど、なんだか楽しそうだ。
ここなら、エルが喜びそうなお土産が手に入るかもしれない。
そう思って街を歩いてみると、様々な細工菓子を扱った店がいくつも目に止まった。
花の砂糖漬け。
薄い糖衣に様々な風味のシロップが閉じ込められた菓子。
繊細な飴細工。
どれも、本当に菓子かと疑いたくなるほど美しいものばかりだ。
エルの故郷は細工菓子が名産だと同僚から聞いたけれど、それも頷ける。
せっかくなので、これをお土産にすることにした。
一通り見て回った中でもっとも美しい細工菓子を扱っている店に入ると、こちらを向いた店主が穏やかに微笑んだ。
街に入る前に姿を変えたおかげで怪しまれている様子はない。
同僚と違って私は変化の魔法があまり得意ではないから安心した。
並んでいる細工菓子を全て少量ずつ瓶に詰めて欲しい、と身振り手振りで頼む。
程なくして、色も形も様々な菓子の瓶詰がショーケースの上に並べられた。
どれも美しくて、このままコレクションとして飾りたくなってしまったほどだ。
金銭と引き換えに瓶たちを受け取って店を出る。
言葉が通じない中で買い物をするのは大変だったけれど、いいものが手に入った。
故郷の味にエルも喜ぶだろう。
もうすぐこの店もなくなってしまうのだと思うと、少し残念だった。
「ただいま、エル」
家に帰ると、エルが待ちかねたように飛びついてきた。
私を驚かせようと思っていたのかもしれない。
エルの身体をしっかりと抱き止めたら、不満げに首を甘噛みされたから。
ごめんね、と頭を撫でてエルの目を覗き込む。
「お土産を買ってきたから、食べよう?」
そう言うと、エルは「仕方ないな」といった様子で私の胸に頭を押し付けた。
ペットにしては大きめの、私からしてみれば小さな身体を抱え直して居間に連れて行く。
途中、悪戯好きな花がするすると絡みついて来たので解くのが大変だった。
「ちょっと待っててね」
お土産の中から星型の砂糖細工が詰まった小瓶を選んで、先日購入した銀の皿の上に空ける。
乾いた音と共に広がる色とりどりの菓子に、エルが驚いた様子で私を見上げた。
シャンデリアの明かりを反射した目が若草色に輝いてとても綺麗だ。
「星みたいで綺麗だね」
エルの爪先程もない小さな砂糖細工を摘まみ上げてそう言うと、エルが大きく頷いた。
食べていい? と言いたげに見つめる瞳に思わず口元が緩む。
「いいよ。エルのために買ってきたものだからね」
私の言葉が届いたのだろう。エルがぱくりと私の指をくわえた。
かりこりと砂糖菓子を噛む音の後、エルが嬉しそうに鳴く。
催促するような視線に促されて砂糖菓子を口元に運ぶとまた一口。
いつのまにか、特別な理由がなくとも私の手から直接食事をしてくれるほど懐いてくれたらしい。
その日はずっと、胸が温かなもので満たされていた。




