プロローグ
ーむかしむかし、あるところに。とてもわるいおにがおりました。
ーおには「のろい」というものをもち、ひとびとからおそれられていました。
ーそんなおにをたいじしようと、ひとりのわかもののさむらいが、たちあがりました。
ーそのさむらいは、かたなをもち、おおきなおにをたおしました。
ーおにはさいごにいいました。
ー『おのれ、いまいましいにんげんめ!わしのもつのろいをうけて、くるしむがいい!』
ーおにはさむらいにのろいをかけ、しんでしまいました。
「....そして悪い鬼は倒され、人々は平和に暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
パタン、と少女はひとつの子供向け絵本を閉じた。
「....ありきたりな鬼退治話。でも最後に出した呪いで、侍の今後をわからなくする、後味悪めの終わり方...か」
「のろいのさむらい」とタイトルに書かれた絵本を見ながら、少女は冷静に分析し、ひとつため息をついた。
「呪いなんてわからない物に怯えて暮らす日々だってあったろうに。ほんと、可哀想な侍」
『いやはや。全くもってその通りでござる。まさかこの拙者が呪いにかかるとは、退治した時は思ってなかったでござるよ』
少女の隣から男の声が響いた。いや、正確には少女の脳の中に直接。
「......」
『しっかし。この本はいつ見ても名作でござるなぁ。正々堂々としたかっこいい侍が憎き鬼を倒す。痺れるでござる』
「....自分で言うか」
また、少女はため息をついた。
少女の名は川端咲。特になんの変哲もない高校に通っている普通の高校生だ。
咲の隣に立っている男....正確には浮いていると言った方が正しいのか。
その男は鳶丸と言う。
如何にも古風な名前である。しかしそれは当然の話。
鳶丸が生きていた時代は大昔の日本だったからなのだ。
言っておくが、この小説の舞台は現代物である。
ー先程までの言葉通り。
鳶丸はこの、「のろいのさむらい」の絵本の主役、「さむらい」だったのだ。
簡単に言えば、この令和の時代に存在する幽霊である。
そんな彼。川端咲の部屋で、咲の周りで、ふわふわと浮いていた。
「....ていうか、またなんでここにいるわけ?」
『それは当然のこと。拙者は咲殿の言うならば用心棒。いつでもどこでも、咲殿にお仕えするでござる!』
「あんた男。あたし女。この壁がわかるか?あーゆーおっけい?」
『おっけ...?』
咲は高校生。お年頃と言うやつ。
鳶丸は少し考えた後、パアアと、顔を明るくし
『おっけ!』
とだけ言った。
「わかってねぇなコノヤロウ!!」
英語がわからない侍。語感を気に入ってしまったのだった。
本題に戻る。
「出てって。あたしの部屋は男子禁制。いくら幽霊であろうと許さないからね」
『そうは言っても。拙者は咲殿の他に行くあてがないのでござるよ』
「だったらさっさと成仏しなさいよ....って言ったって」
そこで咲はまた、ため息をついた。
幽霊なのだから成仏が当たり前だろう。しかしこの侍にはその発想は無かった。
なぜなら
『それは無理って前に言ったでござるよ。何故なら』
『拙者は呪いのせいで成仏できない身体になってるでござる』
.....。
「身体。無いだろ」
『無かったでござる』
この侍さんは、呪いにかかって成仏が出来なかったのだ。
読んでくださり、ありがとうございました!大型犬侍、鳶丸とドライ女子高生、咲をこれからも愛していきます。