祖国
ツルズのいったとうり、草が茂っていて歩きにくかった。しかし麻は普段薬草取りをしているので、このような道は慣れていた。
ごうごうと、川の音が聞こえてきた。
川の音が大きくなるほど、道はぬかるんでくる。
案内された道は、ツルズの言う通りいつもの道よりかなり早く趙河に着いた。
趙河の流れは早く、水は澄んでいる。
麻は水を汲みながら「ツルズさん、よくこんな道知ってましたね、村長も知らなさそうなのに…」と言った。
「実は私、黒包族なんです。ここら一帯はもともと楊帝国ではなく、黒包族の国、カフテル帝国の領土だったんです。私はその国民の子孫です。」と、ツルズは答えた。「ずっと前から私の祖先はこの村で暮らしていて、地形や生えている植物なども知り尽くしていた。ところが20年くらい前に、楊帝国の期頂沺が巣州を攻めた。その時奴らは私たち黒包族を皆殺しにした。私と母は運良く殺されなかった。しかし、母も亡くなって、今は私しか黒包族はこの村にいないのだ。」
「そうだったのですね…くそっ、期頂沺めっ」
「早く祖国に帰りたい…」
ツルズはそう呟いき、深くため息をついた。
用語解説
カフテル帝国…楊帝国の東に位置する黒包族の国。
帝王は有力豪族の中から選挙によって
決められている。
黒包族…後の回で詳しく説明