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私。  作者: 桐生夏樹
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明けない夜はない

 夜は嫌いだ。

 夜が明けると朝になるから。


 朝は嫌いだ。

 絶望の1日が始まるから。


 夜、眠くも無いのに、無理矢理シングルベッドに横たわる。


 目をつむると心の中に絶望が広がる。

 そして、部屋から飛び出し、ベランダから身を放り投げる自分を想像する。


 夜が明けたって、そこには何も無い。絶望しかないのだから。


 何の希望もないのに生きている意味って何?


 なぜ私は、生きているのだろう。

 なぜ私は、意味も無い毎日が繰り返されることがわかっているのに、生かされているのだろう。

 なぜ私は、こんなにも無気力なのだろう。


 なぜ人は、他人を陥いれるのだろう。

 なぜ人は、醜い争いをするのだろう

 なぜ人は、生きているのだろう。


 生きていくのは子孫繁栄のためと綺麗事を言ったって、今の世の中、子供を作らない人だって居ることは周知の事実。


 私は何故生きているのだ。


 自分で自分に問いかける。


 貴女は何故生きているのだ。

 貴女は、何故生きていけるのだ。


 毎日、毎晩、繰り返し繰り返し考えても、答えが出るはずも無く……だけれど、考えずにはいられない。


 一昨日、昨日、今日、明日、明後日、明々後日、一年中同じことを考える。


 答えが出ない問いを自分にずっと、延々と投げかける。


 生きる意味。


 そんなもの今の私には……

 いくら頭が良くたって、成績が良くたって、お金があったって、幸せになれるとは限らない。


 このまま夜が明けなければ良いのに。


 朝になれば、眩しい太陽の光に包まれて、今日もまた始まる絶望を思い知らされることになる。


 真っ暗闇の中、ベッドから起き上がる。


 飼い猫が私にすり寄る。

 眠っている私のことを、ずっと見守ってくれていたらしい。


 そうだよね。

 この子には私しか居ないんだよね。


 この小さな身体で、頑張って生きてくれている。

 私だけのために生きてくれている。


 そうだね……

 しばらくは、この子のために生きていこうかな。


「ほら、一緒に寝よ?」


「よしよし……ママは、ずっとアナタの傍にいるからね。」


 布団の中に入ってくる猫を撫でながら私は考える。


 生きるって何だろう。


 この子が生きる意味ってなんだろう。


 ゴロゴロ喉を鳴らす猫を見ながら考える。


 考えたって答えは出ないのに。


 答えが出ないけれど考える。


 考えずにはいられない。


 だから夜は嫌いだ。

 しんとした無音の世界。


 今、この暗闇の中では、私と猫しかいないのだ。


 良かった。

 猫が居てくれて。


 私の唯一の生きる理由となってくれるから。


 この子を置いては旅立てない。


 違うか。

 生きる理由を、この子に押しつけているだけだ。


 私は誰かにすがりたいのだ。


 助けて欲しいのだ。


 けれど、助けを求める事なんて私に出来る訳がない。


 猫が温めてくれた布団に潜る。


 あたたかいな。


 このまま、この世から居なくなれたら良いのにな。


 安らかに、眠るように居なくなりたいな。


 ゆっくりと時間が過ぎていく。


 真っ暗闇の中、ゆっくりと時間が過ぎていく。


 私のことをあざ笑うかのように。


 答えが出ない生きる意味。


 もし、私が死んでしまったら……


 あのお店のクリームパンが食べられなくなってしまうのか。


 あの喫茶店のチーズケーキが食べられなくなってしまうのか。


 大好きなあの歌が聴けなくなってしまうのか。


 それは嫌だな。


 もう少しだけ、この絶望に付き合うことにしようかな。


 仕方が無い。


 キミ、命拾いしたね。


 すやすや眠る猫の背中を撫でながら呟いてみる。


 決して出ることの出来ない、絶望と言う名の海の中に溺れながら。

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