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いのり(3)


 地球へと墜落していくコロニー……。それは大地へと墜落する事によりゼロカナルを砕き、そして地球に多大な量のエーテルをぶちまける事になる。

 宇宙のエーテルと地球のエーテルは即ちセブンスクラウンとジュデッカ、その支配領域を意味している。地球に宇宙のエーテルを送り込む事が出来ればセブンスクラウンはその支配領域を広げ、ジュデッカの力を削る事にも繋がる。それはジュデッカの打倒という一点において非常に無駄がなく、効率的であると言える。

 しかし、地球に流れ込んだ悪意を孕んだ膨大な量のエーテルは広まり、人間の住めない荒れ果てた世界を再現してしまうだろう。許容量を超えたエーテルは恐らくは自然を焼き尽くし、星を過酷な環境へと変えてしまうだろう。セブンスクラウンにとっては別段問題の無い事だ。彼らには寿命が存在しない。地球環境を支配した後、長い年月をかけて星を修復していけばいいだけのことなのだから。

 彼らは既に人間を作り出す技術を開発している。アナザー技術、そしてネクスト技術……。遺伝子レベルで役割を決定したネクストのような作られた人間のみで社会を形成すれば、そこには絶対なる秩序が君臨するだろう。さすればこの星が再び人の手で壊される事も無い。管理者の存在がそれを赦さないのだ。

 コロニーに満載された人間の意味は、ただの人質ではない。怨念を抱いた意思の混合体をエーテルと共に地球に流し込む……。重苦しい人の負の思念はジュデッカに対する先制攻撃となり、呪いとなるだろう。全ては計画済みの事……。セブンスクラウンの支配するオペレーションカラーズに一切の誤算は無い。

 完全統率された最新鋭FAヘイムダルに搭乗した兵士たち。それを操るタンホイザーの思念操作。前線を切開くカラーズ……。数による絶対防衛線――。戦力差は絶対的である。勝ち目はあれど、敗北する要素など皆無……そのはずだった。

 戦場を駆け抜ける真紅の炎が翼を広げ、ヘイムダルを次々に撃墜していく……。両手から放つライフルにはそれぞれに小型の圧縮フォゾンドライブが搭載されている。オーバードライブに使用するエネルギーその全てを攻撃の為に方向性を持たせ、開放する事が出来る武器……。それがアテナ・ニルギースの新しい力だった。

 ライフルを連射し、降り注ぐビームの嵐の中を駆け抜けていく。炎が尾を引き軌跡を描く。アテナの目には全てが見えていた。マキナと同じ、未来を予測する力……彼女にはそれが宿っている。避ける事、当てる事に関して彼女は最強である。そして今はその才能を十分に生かす事が出来る機体がある。

 左右に突き出したライフルのドライブを最大出力で開放する。図太い巨大な光の線がヘイムダルたちを飲み込み、その場で回転するブリュンヒルデの周囲、光の鎌が戦線をズタズタに引き裂いていく。連鎖する爆発の炎の中、まるで幻か何かのように無傷のブリュンヒルデ……。アテナは冷静だった。戸惑いも迷いもない。付け込む隙がないのならばそれは正に絶対。プライドに裏打ちされた自信……覚悟。それが彼女の背中を強く支えていた。


「すごいわね、このライフル……。威力が普通じゃないわ」


 頭上から突如、無数のシルエットが降り注いだ。白い光の糸でつながれた十二機のトリスタンである。アテナの周囲を回転しながら翼を広げ、各々に武器を構える。剣、槍、斧、銃……。一機一機が別々の能力を所持している。SGの愛機にして最高の性能を持つ量産機……。ブリュンヒルデを取り囲む白い影を見送り、アテナは両手のライフルのバレルをパージする。

 ロングバレルをパージされたライフルはハンドガンサイズに変化する。二丁拳銃を指先で回転させ、ブリュンヒルデはそれを左右に構え瞳を輝かせる。


「――――面倒だから全部同時にかかってきなさい。格の違いを教えてあげるわ」


 三機のトリスタンが同時にライフルを発射する。その光の交差する地点から軸をずらし、回避するブリュンヒルデ。その避けた先には剣を振り上げたトリスタン。槍を構えて突撃するトリスタン……。

 ブリュンヒルデは身体を回転させ、蹴りで剣を吹き飛ばし、突っ込んでくる槍に銃口を合わせ、発砲。ライフルの細い光が槍ごとトリスタンを貫き、砕ける破片を掻い潜って剣を持っていたトリスタンの腕を掴み、槍のトリスタンへと投げつける。

 激突した二機の重なった腹部に拳銃を突きつけ、発砲――。零距離射撃モードに切り替えた一撃が爆発し、二機の胴体は一撃で吹っ飛んだ。背後から飛来するトリスタンが振り下ろす斧を銃身で軽々と受け止め、その頭部を爆発させる。一瞬で沈黙した三機のトリスタンの狭間、ブリュンヒルデは挑発するように手招きしてみせる。


「ぐずぐずしないの。時間はないんだから――ちゃっちゃとくたばりなさい、雑魚――!」


 ブリュンヒルデが戦う下方、カナルの上では兄弟の戦いが続いていた。戦況はサイの圧倒的有利――そしてそれは崩れる気配もない。

 嵐のように繰り広げられる拳の弾丸の中、カーネストはただ一方的に打ちのめされるしかない。だがサイの拳には一撃でヴァルベリヒを破壊できるほどの威力は篭っていない。故にカーネストは耐え、反撃の一瞬の隙をうかがっていた。それはサイとて理解している。軽量型のヴァルツヴァイだ、反撃がクリティカルヒットすれば一撃で破壊されかねない。つまりこれは、一見サイが有利に見えるが――立ち止まった瞬間、殺されるのはサイなのだ。

 額から汗を迸らせ、サイは連打を続ける。ヴァルベリヒの装甲が砕け、見る見るみすぼらしい姿へと変貌を遂げていく。だがそれでもヴァルベリヒは止まらない。カーネストは諦めない。執念……いや、それは本能。彼を倒すのは容易ではないとわかっていた。だが改めて痛感する。この男――やはりカラーオブイエロー。


「――どうした。もう息が上がってるのか、サイ?」


「……まだまだあっ!!」


 繰り出される拳を受け止め、二機の黄金は正面から取っ組み合う。カーネストは口元に笑みを浮かべ、血走った瞳を見開き出力を上げる。ヴァルツヴァイはパワーにおいてヴァルベリヒには劣っている。力負けし、その身体が押し返されていく……。


「これがテメエの一年半か、サイ……!? 軽いな……軽すぎるぜっ!! そんなパンチじゃ何百発打ったところで俺は倒せねえなあっ!!」


「く……ッ!?」


「男の拳ってのはなあ……こういうのを――言うんだよッ!!」


 突き放したヴァルツヴァイに巨大な拳が減り込む。次の瞬間アギトアームが延び、ヴァルツヴァイに爪を減り込ませたまま猛スピードで吹っ飛んでいく。上空のカナルを突きぬけ、更に腕を揮い、足元のカナルへと思い切り叩きつける。

 機体がカナルの炎に焼かれる苦しみにサイは悲鳴を上げた。一度掴んだ獲物は絶対に離さない――。腕を伝い、電撃がヴァルツヴァイを焼き焦がす。吹き飛びそうになる意識の中、サイは瞳の奥に大きな力を感じていた。

 ここで負けてしまえば全てが台無しになってしまう。全てが無意味になってしまう。マキナの居場所を護れなくなる。この星を護れなくなる。ニアの意思を――いや、彼女に連年と受け継がれてきた全てのモノが無意味になってしまう。

 かつて一つの小さな街を護ろうとした戦士がいた。その妹は、もっと多くの物を護ろうと、友と共に立ち上がった。そして今――ならば自分はどうすればいい。もっと多くを護る事。もっと願いを叶える事……。それくらいしか、弔いの方法などないじゃあないか――。


「ふ……ぐぅううう……ッ!! おぉおおおおおおっ!!」


 気を失っている場合などではない。やるべき事は腐るほど残っている。アナザーの生きていける未来を作らねばならない。あの日、無力だった自分……。何もなせなかった自分……。判っている。後悔なら何度だってした。何度だってこれからも繰り返すだろう。だが、今この瞬間はせめて――。

 電撃が流れ込むアームを両手で掴む。ありったけの力を込めろ。意思の力がこの世界の本能と運命を打ち砕くのだと証明しなければならないのだ。人間はまだ戦えるのだと……。その為に今日まで戦ってきた。今日まで努力してきた。仲間のためにも負けられない。負ける事なんて出来るはずがない――!


「カァアアアアネストォオオオオ――ッ!!」


 ヴァルツヴァイが光を放ち、力を増していく。そしてカーネストは異様な光景を確かに目撃していた。カナルから……。ヴァルツヴァイの足元から、黄金の光が立ち上っているのだ。それはまるで力を貸し与えるかのようにヴァルツヴァイの両腕にまとわりつき、次の瞬間アギトアームの拘束はあっさりと解除される。

 雷に焼かれた装甲は黒く煙を上げ、ぼろぼろと崩れている。だが、まだ止まる気配は無い……。何故だろうか、あの機体は倒れるような気がしないのだ。性能ではヴァルベリヒのほうが勝っているはず。では、何故……?

 カナルとは、意思そのもの。人の意思、そして願いそのもの。祈りにも似たその輝きは人を滅ぼし、同時に人を生かす光なのだ。世界の意思が……死んで行った人々の想いが。確かに今、サイには宿っている。

 光を纏った拳を硬く握り締め、サイは前を見据える。カーネストの事は嫌いではない。むしろ、その生き方には尊敬の念すら抱いていた。迷い無く、己を貫く事は悪であれ正義であれ美しい。フラフラといつでも中途半端だった自分と比べ、カーネストは立派な戦士だった。

 だが、だからこそそれは間違っているのだと教えねばならない。大切な兄なのだ。だからこそ……判らせねばならない。セブンスクラウンに支配されているということは、己の意思を貫いているのではない。ただ思考する事を放棄し、操り人形になっているだけなのだと。


「行くぞ……! これでケリをつける……!」


「ハッ! おもしれえ! やってみな、ルーキーッ!!」


「新米かどうかは……あんたの身体で確かめろッ!!」


 同時に二機がカナルの上を滑り出す。ぎゅっと強く拳を握り締めて。サイの拳が光を帯び、カーネストの拳が雷を帯びる。小細工なしの正面衝突――。カーネストの笑い声が響き、サイの雄叫びが轟く……。

 一気に距離を詰めた二機。衝撃がカナルを伝っていく……。繰り出された拳はカーネストの顔面を射抜き、サイは拳を紙一重で回避していた。一瞬時が停止し、再びの攻防――それはクロスカウンターによってサイが制する事になる。二度目の攻撃を受け、ヴァルベリヒの顔が歪む。次の瞬間――ヴァルツヴァイの腕が変形を見せた。

 内蔵されていたのは光を射出する装置。フォゾン・パイルバンカーと呼ばれる武装である。圧縮フォゾンの弾丸を撃ち込む、必殺の武装……。放たれた光は鈍い音と共にヴァルベリヒの頭部を射抜いた。怯むその重い身体を蹴り飛ばし、腹部にもう片方の腕を減り込ませる。

 トリガーを引き、パイルバンカーが射出される。そして手を胸部のフォゾンドライブへと伸ばし、それを雄叫びと共に強引に引きちぎる――。ドライブを失い、ヴァルベリヒは瞳から光を失ってゆっくりと倒れこんだ。サイは肩で息をしながらゆっくりと振り返る。


「兄貴……俺の勝ちだ……」


「――――何言ってやがる! 俺はまだ生きてんだろうがっ!!」


「何ッ!?」


 背後、ヴァルベリヒが再起動する。そしてがっしりとヴァルツヴァイを羽交い絞めにし、次の瞬間コックピットの中で自爆スイッチを作動させる。


「兄貴……ッ!? あんた……!!」


「悪ィなサイ。これでも俺はカラーズだ。ただ敗北して終わりってわけにゃいかねえんでな。てめえも道連れだ」


「カーネスト……ッ!?」


「あばよ――――ブラザー」


 ヴァルベリヒの全身から光が溢れる。次の瞬間、音も無く光が爆ぜ、カナルを霧散させるほどの衝撃が迸った。四方に広がる光の十字の中心、サイの姿は飲まれて消えていった……。




いのり(3)




――やっと、本来の力を取り戻したんだね、マキナ。


「え……?」


 宇宙空間を飛翔するジークフリート。その光の翼が折りたたまれ、挙動が停止する。周囲を見渡すマキナの行動の原因は彼女の頭の中に聞こえてきた声にあった。

 マキナはその声に聞き覚えがあった。勿論忘れるはずがない。だが、周囲に彼の姿はどこにも見当たらなかった。耳を澄ましてみる。この世界には沢山の意思が、声が満ち溢れている。その中から目的の物を選び出すことも、今のマキナには容易な事である。

 精神を研ぎ澄ませばERSがその感覚を全てマキナに伝えてくれる。ジークフリートの周囲の空間が蒼く染め上げられていく。光の中、マキナは頭上を見上げた。確かに声は聞こえてくる。遥か彼方より――。


――この世界は今、変化の時を迎えようとしている。決断の時がやってきたんだ。人の意思はジュデッカとセブンスクラウンの戦いに巻き込まれ、そしてその覇権を賭けて今争っている。希望に続く戦だ。


「ラグナ君……? ラグナ君なの?」


 悲しげにマキナは声をあげた。そう、聞こえてくる声は間違いなくラグナの物である。だが、ラグナの姿はどこにも見当たらない。その意思は感じることが出来る。存在も直ぐ傍にあるだろう。だが、どこにいるのかがわからない。


「いるなら姿を見せてよ! ラグナ君っ!」


――それはもう出来ないんだ。マキナ……約束の時が来た。君が本当のジークフリートを目覚めさせたように、僕もまた本当のレーヴァテインを目覚めさせた……。セブンスクラウンは、僕に君を処分させるつもりだ。残念だけど、もうきちんと君を会う事も、言葉を交わす事も出来ない。


「そんな……」


――僕が地球で君にお願いした事を、覚えてるかい……?


「…………うん」


――僕は最早彼らの意思には逆らえなくなってしまった。このままでは君の仲間を殺戮し、蹂躙する悪魔の化身となってしまうだろう。そうなる前に、君に止めてほしいんだ。判るね……?


「…………判るよ。判ってる。判ってるけど……でも……っ」


 ラグナの想いは痛いほど伝わってきた。マキナとラグナ、二人は家族も同然。同一体と言ってもいい、限りなく同じ存在なのだ。だからこそ判ってしまう。たまたまレーヴァテインとジュデッカ、その二つに属してしまった二人……。その立場が逆だったならば、マキナも同じ事を彼に願っただろう。

 震える拳を握り締め、マキナは涙を拭った。そう、ラグナの意思を尊重しなければならない。彼は望み、願っている。それは祈りだ。せめて大切なものを壊させないでほしいと、彼が魂で叫んでいる祈りの声なのだ。それを無碍にする事は出来ない。絶対にしてはならない。

 尊厳を護る為に、手を汚さねばならない事もある。マキナはしっかりと頭上を見定めた。深遠の闇の世界からゆっくりとそれは降り立ってくる。虹色の翼を広げた、巨大なる魔人……。かつて憎み、戦い、そして理解した大切な人の宿る物。そして今は、この世界を滅ぼしかねない力……。

 マキナが光の化身だとすれば、ラグナは闇そのものであった。蝶のような羽を広げ、ジークフリートと対峙するレーヴァテイン……。ラグナはそのコックピットの中に居る。はっきりと感じる。だが、そこにいるラグナは最早ラグナではない。


「――――出会っちまったな、ジュデッカ」


「君は……」


「俺の名はアニムス・レイヴ……。もう聞いてると思うが、セブンスクラウンの中の一部であり、連中がラグナを支配する為に植え込んだ因子だ。あいつは日常用……俺は戦闘用。意味がわかるな?」


「君は……ぼくと戦うって事……?」


「そうだ。俺はただお前を殺す為だけに存在する反存在だ。長い年月を、ただお前を殺すという目的の為だけにこの小さい器に封じられてきたわけだ……。その俺の気持ち……お前に判るか?」


「……わかんないよ。ただ戦うためだけなんて……そんなの寂しすぎる」


「…………ラグナは自分の意思で引っ込んじまった。お前が俺を倒すのに躊躇しないようにだろうな……」


 レーヴァテインは光の中、剣を取り出しそれを構える。美しき光の切っ先がジークフリートへと向けられ、マキナは歯を食いしばり、目をきつく瞑った。


「戦えませんでしたじゃ済まないぜ。お前は俺を殺す為に存在する……。さあ、剣を抜けジュデッカ。人間の流儀に倣って、尋常の勝負と洒落込もう」


「アニムス君は……それで、いいの?」


「無意味な問答だな。俺たちは剣……ただ剣だ。意思を持たず、思想を持たず、ただ敵を切り払う為だけに存在する剣――。かかってこないなら斬って捨てるぜスラッシュエッジ。覚悟を決めな」


「…………っ! 戦いたく、ないよ……! 戦いたいわけがないっ!!」


「お前の友人を殺したのが俺だったとしてもか?」


「それでも……誰かを殺されたからって……誰かを殺していい理由になんかならないっ!! でも――でもっ!!」


 ジークフリートが天に手を伸ばし、光の剣が結晶化する。虹色の翼を広げ、ジークフリートは刃を構える。光と闇、二つの存在が互いに刃を突きつけあう。


「そうしなきゃ……あんまりにも君がかわいそうだから……っ!! 君が……報われないから……っ!!」


「……同情か?」


「違うよ……ただ、悲しくて寂しくて……だから君の望み通り、君を殺してあげる……っ!! 罪はぼくが背負っていく!! この世界の中で――君の代わりにぼくは生き続ける!」


――ありがとう、マキナ。さあ――。


「ありがとう、ラグナ君……っ! さあ――!」


「「 互いの運命に終焉を――!! 」」


 常に光と影は共にあった――。歩めばぴたりとそれをなぞるかのように……。

 互いを思いあい、信じあい、だからこそ戦わねばならない事もある。流星が降り注ぐ世界の果て、地球という大いなる星を背景に二機は同時に刃を翳す。激しく力強く打ち合う対の刃……。光が爆ぜ、その力は全くの互角――。二人は同時に理解した。お互いが全くの鏡写しである事を。そして同時に理解した。お互いのどちらかが、倒れるまでこの戦いは終わらないと――!


「マキナ・ザ・スラッシュエッジ……!」


「…………君の為にその名を名乗るよ。ぼくはただ切り裂く刃……! その名において罪を背負い、闇を裁く!」


「やってみろ! “セブンスカラーズ”!!」


 二機の刃が宇宙に衝撃を響かせる頃、遥か彼方の戦場では漂うシュトックハウゼンの前方にてオルドとザックスの戦いが始まっていた。高性能なバリアシステムを備える二機の銃撃戦は一向にケリがつく気配も無く、オルドが接近戦に切り替えようとしてもザックスはそれを飄々とかわしてしまう。


「――――戦いとは物悲しいとは思わないかね、オルド君」


「あぁっ!? こんな時に何言ってやがる!」


 放たれたフォゾンビームランチャーの光を結界で防御するザックス。こと防御に関してはローエングリンは最強……。例えいかなる攻撃であれ、その防御障壁を破るのは容易いことではない。

 苛立つオルドと向き合い、ザックスはミサイルランチャーでそれに応じる。ミサイルをミサイルで迎撃し、爆発の光に囲まれながら二人は見詰め合う。


「誰かがそれを望んだのだろうか……? この世界をセブンスクラウンの手から取り戻し、君たちはどうする? この世界を永遠に護る事は叶わない。仮に君たちが気高き心を持っていたとしても人は必ず死ぬのだ。受け継いでいく者達は、果たして君たちと同じ気高さでこの星を護れるのか?」


 かつて世界は一人の勇者によって救われた。マリア・ザ・スラッシュエッジ――世界の秩序の代弁者。その存在にはセブンスクラウンさえ恐れを成した。誰も逆らえず、そして彼女の思想には誰もが賛同した。圧倒的なカリスマは彼女の強い意志から来ている。

 マリアに一度は従い、世界は変わった……。だがどうだ? マリアが死に絶え、人の意思は薄れてしまった。だからこそセブンスクラウンの増徴を許し、人々は己の首を絞める事となった。だがそれは誰かが望んだ事なのではないだろうか? 気高くあるという事は大きな責任を伴う。誰だって同じ事だ。堕落し、悪意に身を染めた方がよほど生きていくのは楽なのだ。気高く誇りを持って生きるという事は、文字通り茨の道に素肌を晒して進む事に他ならない。


「君たちはその道を今歩み出した。そしてこうして戦場という地獄の中で輝きを放っている……。上等ではないか! だが、その意思を絶やさぬと誰が言える!? 再びこの世界が絶望に包まれた時、後の事はどうでもいいと、君たちはただ死んでいるだけなのかね!?」


 そう、人は美しい力を持っている。だが同時に堕落するのは何倍も容易なのだ。人は業を背負って生まれてくる。様々な悪性を秘め、そして時にそれは世界さえも滅ぼしてしまう。

 星の上で戦う正義と悪を体現したかのような、あの二人の剣の戦いはその終着点なのかもしれない。マキナとラグナ、二人は刃を交える。それは誰が望んだ事なのだろうか? 人ならざる存在さえも操るのは悪意……ただ人の慢心、エゴなのだ。

 膨れ上がった悪意はやがて全てを破壊するだろう。今は正しい事を成す事が出来たとしても、またあの二人のような悲劇が生まれるかもしれない。結局人間のした事は、人間以外の物に責任を押し付けただけなのである。セブンスクラウンもジュデッカもいなければ滅んでい多世界……。その責任を、人類という大船の舵を人は放り投げ、他人に責任を擦り付けた――。


「それを取り戻すということは責任も伴い、人類の痛みを引き受けるという事だ!! 君たちにそれが出来るかっ!? 君たちはそれほどまでに崇高なのかっ!?」


 斧を取り出し、構えるローエングリン。対応してヘイムダルカスタムも剣を構える。二機は正面から激突する。激しく火花を散らす刃……その狭間、ザックスの叫びがこだまする。


「我々大人には子供に時代を託す義務がある! そして同時に子供を教育する義務もあるのだ! 君たちが間違えてしまう軟弱者なら、ここで殴る拳が必要になる! 超えて行け、少年! この世界で生きるのならばっ!!」


「ウダウダうるせえんだよ、おっさんッ!! 言われなくたってんなこた判ってる!! だから――見せ付けなきゃならねえんだろがっ!! 人の意思を! 人はやれるって事を!! 神にでも悪魔にでもなく――同じ人間に!! 証明しなきゃならねえんだろがああああっ!!」


 刃が爆ぜ、へし折れた斧がローエングリンの目の前を漂う時――。同じく星の海の中で刃を交えていたレーヴァテインとジークフリートの動きが停止した。二機の構えていた愛刀は激突に耐え切れず、圧し折れ砕けてしまったのである。

 形を失った剣の光を再び集め、二人は剣を形作る。戦いは終わらないかもしれない。だが、いつしか終わらないでほしいとも思うようになっていた。泣き出しそうな顔でマキナは剣を構える。何故――こうまで人はすれ違うのだろう。

 誰かの所為であったわけではない。だから誰かの所為には出来ない。人は、一人分の罪を背負っていく。マキナもラグナも、アニムスも同じ事なのだ。ただ罪を背負い……生きていく為に。

 その為に誰かの世界なんていらないから。まだもう少しだけ、自由でいさせてほしいから……。護りたい物がある。だから戦わねばならない。そこにどんな悲しみや痛みが伴うとしても――。

 打ち付けあう刃。響きあう旋律。舞い散る火花……光の中、マキナは涙の雫を散らし、叫びながら剣を振るう。遥かなる星の為に。数多の星の中で。まるで祈りを響かせるかのように――――。


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