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いのり(1)

 戦いが始まろうとしていた――。人類の選択の時がやってきたのだ。

 時を刻む運命の力は私たちを強制的に次のステージへと繰り上げていく。時は無限ではなく永遠でもない。ただ一瞬を刻み、次の瞬間をつれてくる。どんなに心の準備が出来ていなくとも……。

 あの戦いの最中、私は自分の信じる正義を取り戻す事になった。しかしそれもまた全ては彼女のお陰に過ぎないのだ。彼女とあの時交わした誓いは今でも覚えている。そして今だからこそ判る事もある。

 きっと彼女は全てに気づいていたのだろう。そしてだからこそそれを受け入れたのだ。ジュデッカとレーヴァテイン……両方と共感した彼女だからこそ、闘う事が出来た。愛を知るからこそそれを武器に出来るのだと、思い知らされる。

 何度も何度も繰り返した夜に意味があったのならば……そう、それは全て彼女の為にあった。あの世界にあった全てが彼女の為の舞台だったのだ。私は歴史の目撃者となり、英雄の証明者となった。

 全ての人々の祈りがあの時一つに束ねられたのだ。だが、それで全てが終わったわけではない。そう、そこから始まるのだ。その時彼女は言った。あの時の言葉は今でも私の胸の中に響いている。恐らくこれからもそれが鳴り止む事はないだろう。

 いや、それで良いのだ。それが私には丁度いい戒めだ。彼女の笑顔こそ……永久に私の魂を縛り続ける鎖なのだから……。




「タンホイザー、ERSS展開――。オーバードライブ状態を維持。夕星の歌アリア・システム発動。トリスタン全十二機の同時起動を確認。全コロニーからのエネルギー供給開始。オペレーションカラーズ、始動――」


 月の影から現れる太陽の輝きに照らし出され、タンホイザーは宇宙空間に巨大な翼を広げていた。それは人工的に作られたエネルギー供給用ケーブルの帯である。そしてその周辺には十二機のトリスタンが白く輝く糸で繋がれ、力なく漂っている。タンホイザーの周囲には光の波動が広がり、それが宇宙全域に広まっていく。

 タンホイザーが搭載するERSSとは、オペレーションカラーズの為に存在する代物である。他者と共感し、支配する能力……。その力を以ってすれば巨大なる軍勢を束ね一本の矢とすることが出来るだろう。その力があればあらゆる力に対する絶対的な貫通力を得る事が出来る。

 コックピットの中、ナナルゥは特殊なスーツに着替え、巨大なバイザーとヘッドユニットを装備し、光の宇宙を眺めていた。最早歌姫に自我はなく、セブンスクラウンの傀儡となりその代弁を成す。タンホイザーに注ぎ込まれるエーテルの光はセブンスクラウンの意思、人の悪意そのものである。莫大な意思の流れを処理するユニットとして機能するだけとなった今のナナルゥに人間らしい思考など出来るはずもなかった。

 月面から次々に戦艦が出撃し、各所にあるコロニーのエンジンに炎が点る。莫大な数のFAと戦艦が宇宙を行軍し、タンホイザーの周囲に展開していく。その足元にはカラーオブブラック、カラーオブイエローの姿もあった。


「……えげつねえ事を考えるぜ。ゼロカナルを突破する為に――コロニーを地球に落とすなんてな」


「…………お姉様が悪いんです。お姉様が……マキナ・ザ・スラッシュエッジが力を貸してくれれば、ジュデッカの結界だって破壊出来たのに……」


 漂う闇の中、斑鳩は頭上を見上げる。タンホイザーにエーテルが収束すれば本格的な作戦開始の合図となるだろう。オペレーションカラーズにおける第一段階――軍隊の編成はこれにて終了する。第二段階を以ってしてコロニーに満載したフォゾン爆弾をコロニーごと地球に降り注がせ、ゼロカナルとまとめて地上を焼き払う。第三段階としてカラーズを中心とした戦力でジュデッカを討ち取る……。それがオペレーションカラーズの具体策となった。

 本来ならばその全ての任務をマキナ・ザ・スラッシュエッジが遂行するはずであったが、それは予備のカラーズでもあるほかのカラーズたちが代行する事となった。ノエルの表情は決して優れない。こんな乱暴な作戦を果たしてマキナは望んだだろうか――? 別れ際、マキナは自分たちを全て打ち倒し、まるで振り払う如き容易さで地球へとその姿を消してしまった。

 頭を横に振り、意識を集中する。マキナ・ザ・スラッシュエッジは既に居ないのだ。敵となった以上は戦わねばならない。それに――マキナは裏切ったのだ。ずっと憧れていた、カラーズたちの中でもオリジナルと呼ばれる“代行者”だというのに。ノエルにとってマキナは神にも等しかった。マキナの代用品として作られたノエルだからこそ、そう考えてきた。

 だが、神は今信者を裏切り異邦神に着いた――。これは明確な裏切りなのだ。ジークフリートを真似て作った偽者、斑鳩。マキナを真似て模造した偽者、ノエル……。共に偽者。本物になりたいなどと考えもしなかった。だが――。


「お姉様がもし生きていたら……あたしが殺します。この、斑鳩二式で」


「おいおい、無茶言うなよ。マキナを殺すのはこの俺様だ。あいつは譲らないぜ? その為のヴァルベリヒ・ヴァルハルだ」


 二機のカラーズ機は一度大破し、既に修復と同時に改造が施されている。細部のディテールが変化しただけでなく、フォゾンドライブの出力もERSの性能も比べ物にならないほど上昇している。前回は一方的な敗北となったが、今回はそうはいかない……その自信があった。


「じゃあ、早い者勝ちってことで」


「ハッ! ま、運頼みだな。しかし、アテナは戻ってこなかったか……。死んだかもな、ありゃ」


 二人も星の結界を砕いた一撃を遠巻きに見ている。あれだけの攻撃を受けたのだ。ブリュンヒルデは間違いなく大破……アテナも無事ではすまないだろう。ノエルにはその事実も赦せなかった。マキナとアテナ……二人は良き仲間であり、理解者ではなかったのか。

 あの二人と共に過ごした時間の中で、ノエルは少しずつ変わっていった。殺すだけが、闘うだけが全てではないのだと二人は物語っていた。それもいいなと思えたのだ。やっと変われそうだったのだ。なのに……二人は目の前で殺しあった。理解出来ない。余りにも矛盾している。

 人間は結局どこまで行っても分かり合えず、殺しあうのが運命なのだろうか……。だとすれば信じることのなんと儚き事だろうか。夢見る事のなんと愚かな事だろうか。もしもマキナがアテナを殺したのならば……仇を討ち因果応報の名の元にそれを無さねばならない。

 アテナはあんなにもマキナの事を思っていたのに。だからこそ手を貸そうと思った。マキナはきっと判ってくれると信じていた。だが現実はどうだ。何一つ分かり合う事など出来ないではないか。それでどうして人を信じられる。それでどうしてセブンスクラウンに立ち向かえる――?

 やはり人は家畜でなければならないのだとノエルは感じていた。自分も役割に徹し、演じる事でその命に少しでも意味を持たせようと。今はナナルゥを護り――この作戦を成功させる。この星の事などどうなろうが知った事ではない。それが、与えられた運命ならば――。




「――――お前も行くのか、リンレイ」


 シュトックハウゼンの停泊する港の中、シュトックハウゼン隊の制服を着用したリンレイの背中にオルドは語りかけていた。二人の掲げる紋章は異なっている。リンレイはセブンスクラウンの紋章を……。オルドは蒼穹旅団の紋章を……。

 ズボンのポケットに両手を突っ込み、オルドは背中を向けているリンレイに語りかける。そう、リンレイは――。シュトックハウゼン隊は――。ザックスは――。決して蒼穹旅団に与したわけではない。彼らは独自に世界を転々とし、真実を探ってきた。ザックスはセブンスクラウンの計画も知っていたし、それに抗おうとする蒼穹旅団の事も知っていた。その両者の間、ザックスは独自に行き来をしていたのである。

 ザ・スラッシュエッジの再臨。そしてオペレーションカラーズの始動と蒼穹旅団の結成……。世界は今、大きな転機を迎えようとしている。オルドはずっとヴィレッタ、サイと行動を共にしてきた。そして真実を知り、旅団を立ち上げたメンバーの一人となった。あの頃とは違う。もう仲間を守れないで悔しい思いをしたあの頃とは違うのだ。

 オルドは後悔していた。あの日――レーヴァテインとマキナを戦わせてしまった事を。結果ニアは死に、ヴィレッタは大きな傷を負い、マキナは――。漂流する蒼いカナードを回収したのはオルドだった。だからこそ知っているのだ。ニアがどんな思いでマキナを護ったのか……。

 力が必要だった。絶対的な力が必要だった。何かを成すためには大きな力が要る。あの日、友を救えなかった自分……そんな自分が目を覚ましたマキナとどんな顔をして会えと言うのか。謝ったところで意味などない。ならば力を今は求めるのみ……。

 いつかはマキナの帰る場所として在る様に……蒼穹旅団を作って、そこを護ってきた。リンレイに何も言わず、サイと共に旅団を立ち上げたのも全ては甘い自分を戒める為だった。だが――結果、今こうしてかつての仲間たちはバラバラになろうとしている。

 振り返ったリンレイは悲しげな瞳でオルドを見つめていた。しかし、オルドの目には迷いがない……。リンレイは居なくなったオルドやサイの事をずっと探していた。勿論行方不明になっていたヴィレッタもだ。マキナの事を見守り、彼女が目覚める事を待ち望んでいた。だが……。今はシュトックハウゼン隊として各地で戦い、そして艦長であるザックスの補佐が仕事である。ザックスのやろうとしている事に逆らう事は出来ない。


「艦長はオペレーションカラーズで人類の力を見極めようとしているの……。私は最後まであの人の手伝いをしなきゃ。あの人は一人だと何も出来ないから」


「それでいいのか……? セブンスクラウンのやり方に従うっていうのか?」


「でも、マキナの生死がわからない以上……地球を取り戻す手段は他にはないの。セブンスクラウンの主張にも一理あるわ。だから……この目で確かめる。この世界の真実を……。この世界が何を望んでいるのかを……」


 二人はしばしの間見つめあった。それからオルドは目を閉じ、ポケットの中から一枚の写真を取り出した。それはまだ旅団に笑顔が溢れていた時……ムーンシティのビーチで撮った写真だった。そこには全員の笑顔がある。オルドはそれを頼りに今まで頑張ってきた。だが――。

 男はそれをリンレイの目の前で破り捨てる。それは覚悟の証だった。散り散りになって行く想い出の破片を見下ろし、オルドはそれを靴で踏みつめる。取り出した煙草を咥え、ライターで火をつけながら。


「――結局、お前とはちゃんと話も出来なかったな」


「……オルド、私の事を避けていたでしょう?」


「…………。かもな」


「…………。どうして……あの時、迎えに来てくれなかったの? そうしたら、私だって一緒に……」


 紫煙を吐き出し、オルドは片目を瞑る。勿論連れて行きたかった。だが、そうする事がリンレイにとっての幸せかどうかを考えれば躊躇せざるを得なかったのだ。

 歩むのは日陰者の道だ。リンレイには太陽の下を歩いてほしかった。ただ、それだけの事だ。リンレイの傍に居て、リンレイを護りたかった。だが……今となってはもうどうしようもないことだ。

 道は分かたれた。最早取り戻す事は出来ないだろう。オルドはオルドの意思で譲れないものがある。リンレイも同じ事だ。譲れないものが違うのならば……それはもうどうしようもない。


「俺はセブンスクラウンを倒す。そうして人間の持つ可能性ってやつを世界に示してやる。ただそれだけだ」


「…………オルド」


「ザックスのおっさんは、おっさんなりにこの世界の事を考えてるんだろ。だからこそカラーズになった……。あのおっさんは強い。リンレイを無駄死にさせるような事はしないだろう」


「……止めないのね」


「そんな資格、俺にはない」


 背を向けるオルド。リンレイもまた、その背中を追いかけたかった。だが……それはもう出来ないのだ。敵同士なのだから。闘わねばならないのだから。この世界の命運を決める時なのだ。だから――今は譲れぬ時。


「――――俺の前には出てくるなよ、リンレイ」


 リンレイは何も言えなかった。ただオルドは何も言わずに去っていく。決着は戦場で正々堂々と……それが彼の意思だった。胸に手を当て泣き出しそうな顔をするリンレイ。その背後にひょっこりと現れ、ザックスは気まずそうにその肩を叩いた。


「良いのかね? 惚れているのだろう?」


「……私は、シュトックハウゼン隊の一員ですから」


「皆そういってくれてありがたいがね、誰一人シュトックハウゼン隊を辞めたがらないというのはどういうことなのか」


「皆貴方を信じているんですよ。そして、この戦いの結末を見届けたいと思っている……。どうするおつもりですか? これから」


「まずは月に向かう。オペレーションカラーズ本隊と合流し、時を見るさ……。しかし――君は実に乙女だな。そんな顔を出来るのではないか」


 思い切りザックスの足を踏みつけ、リンレイは歪んだ笑みを浮かべる。しかし恥ずかしいのかその顔は真っ赤であった。


「下らない事を言っていないで出航の準備をしてくださいね、カラーオブグリーン様……?」


「ハイ……すいません……」


 ズンズンと勢いよく船に戻っていくリンレイ。しかしふと立ち止まり、振り返る。


「あの、ザックス艦長」


「ん? なんだね?」


「確か、貴方には妻子がいたはずですが……」


「ああ…………死んだよ」


「え……」


「殺された。セブンスクラウンに。少々、勝手が過ぎたらしいな」


 絶句するリンレイ。しかし男は迷い無く振り返る。その表情に陰りは欠片も見当たらない。


「それでもセブンスクラウンにつく私を愚かしいと思うかね?」


「…………。いえ……」


「そうか……。いや、そこはな……。出来れば、笑ってほしい所だよ――。取り返しのつかない――こんな駄目な大人をな――」


 リンレイの傍らを通り過ぎていくザックス。その後姿が船の中に消え、リンレイは少しの間だけ戸惑った。やがてその背中を追いかける覚悟を決め――オルドとは反対方向に歩いていく。反対の、続かない道へと……。




いのり(1)




「マキナ……ほんとに行っちゃうの?」


「うん。宇宙に戻ったら、やらなきゃいけないことが沢山あるから」


 地上より宇宙へと伸びる天空の塔――。アルティールの前に立つジークフリートの姿があった。その装甲は殆どが破損したままであり、動けるように何とか修復された程度である。まだ各所にはシートが張られたままであり、見た目としてはとても心許ない。

 だが、動くようになっただけでもマシなのだ。こちらにはこれ以上の設備は存在しない。あとはアルティールへと戻り、そこからアリオトの隠された場所へと向かうだけだ。

 ジークフリートの周囲には沢山の人々が集まっていた。彼らもおのずと感じ取っていたのだろう。この世界が終わるかもしれない時が迫っているのだと……。マキナはその一人一人に丁寧に頭を下げ、そして最後に片膝をついてニアの頭を撫でた。


「今日までありがとう、ニア」


「……マキナ。まきなーっ!!」


 胸の中に飛び込んでくるニアを抱きしめ、マキナは頬を寄せる。温もりを全身に感じる……。この地上に生きる人々もまた人間。彼らが不幸になるようなことなどあってはならないのだ。

 空に生きる人も、星に生きる人も、誰もが幸せになれますように――。ニアのきらきらと輝く涙で潤んだ瞳を見つめ、マキナは立ち上がる。心は十分に癒えた。あとは戦いの時間だ。戦士としての本懐を遂行するべき時――。ジークフリート……アポロが顔を上げる。マキナは黙って頷き、周囲を見渡した。


「お世話になりました!」


「……マリアの後継者。あんたに……この星の未来を託す。あんたを信じている。だが、仮にあんたがわしらを救えなかったとしても……気にする事はない」


「……おじいさん」


「わしらは十分に生かされた……。十分に幸せだった。マリアがいなければ今頃死んでいた命だ。あんたに預ける。あんたの好きにしてほしい」


「……はい。では、ぼくの好きにさせてもらいます。貴方たちの命――共に空へ連れて行きましょう。祈りだけは、共に在ります」


「ニア、ずっとお祈りする! マキナが無事なようにって……お空にお祈りする!」


「ありがとう。ぼくも、皆の無事を祈ってるよ……。恐らく地球も戦いの部隊になります。安全な場所なんてないけど、出来るだけ安全だと思える場所に身を隠してください」


 マキナの言葉にアナザーたちは頷く。最後まで名残惜しそうにマキナから離れようとしないニアを村長が無理矢理ひっぺがし、下がっていく。天へと貫く塔の門が開き、封印されていた時が流れ始める。マキナはジークフリートの差し出す掌の上に乗り、空を見上げた。


「……行こう、アポロ。信じてるからね」


『むっきゅ!』


 ジークフリートからかわいらしい声が聞こえ、マキナはにっこりと笑顔を作った。主をコックピットに乗せたジークフリートはエレベータの上に固定され、巨大な空洞の中を天へと上り始める。ゆっくりと加速し、やがてそれは火花と電撃を伴い、一気に引き絞られた矢が解き放たれるかの如く、空へと舞い上がっていく――。


「マキナー! マキナーッ!! しんじてる! 生きて……! 死なないでぇーっ!!!!」


 少女が走り出し、空に叫ぶ。涙の雫が零れ落ち、乾いた砂の大地の上に染み込んで消えた――。




「――ついに月が動き出した。最終決戦の時だ」


 樂羅の艦橋、司令室でヴィレッタたちは作戦図を取り囲んでいた。といっても作戦など大それた物は存在しない。地球のカナルに展開する樂羅と月に展開するセブンスクラウンの軍団、二つは正面衝突する以外に在り得ない。戦力差は絶対的である。セブンスクラウンの軍勢の一割にも満たない戦力で、旅団は勝利しなければならない。

 誰もが神妙な面持ちを浮かべていた。正直に言えば、逃げ出したくなって当然の構図である。敵の量は甚大、更に無類の強さを誇るカラーズが三名……。如何にしてそれを阻止すれば良いのだろうか。出来る事はごく限られている。


「作戦……と、言えるようなものは……正直、ないんだ。これでリーダーというのは笑わせるな……。だが、コレが今の現実だ。勝利する為に……絶対に必要な事がある」


「……カラーズ三機の迎撃……ザックスも敵側に着いたというのならば四機か。それを全機破壊すりゃいいんだろ?」


「オルドの言うとおりだ。だが正直、カラーズ機とまともにやりあうのは難しい。倒せる可能性があるとすれば――」


「俺たちだけって事ね~」


 サイが腕を組んで頷く。蒼穹旅団オリジナルメンバーは実力的にも頭一つ抜き出ているし、独自に開発した特殊な新型機をそれぞれ所有している。

 ヴィレッタの“オルトリンデ”。サイの“ヴァルツヴァイ”。オルドの“ヘイムダルカスタム”――。それぞれがジェネシスでこの一年で極秘裏に開発された最新鋭の機体である。その製造の方法はカラーズ機と全く同じ……。


「こうして連中と渡り合えるのも、サイのお陰だな」


「次期社長って言ってよねぇ、オルド君~」


「そりゃ、この戦いの後にジェネシスが残っていれば……だろ?」


 サイがこの一年間で真っ先に行ったのが、カラーズ機に匹敵する機体の入手である。ブリュンヒルデと同等の性能を持つ可変機オルトリンデ。ヴァルベリヒの改良機とも言うべき軽装機、ヴァルツヴァイ。ローエングリンと同じバリアシステムを搭載したヘイムダルカスタム……。たった三機のみである。だが、三機も存在するのだ。


「それに別に社長ってわけじゃねえだろ」


「似たようなもんじゃん~? ジェネシスの研究者たちはセブンスクラウンの命令で恐ろしい兵器を作るのが嫌だった……俺たちにつく、って言って作ってくれたんだから。ま、実際ジェネシスの社長はセブンスクラウンみたいなもんだから、あれぶったおしたらあの会社はいただくかねぇ~」


「ま、終わった後の事は後で考えりゃいい。団長、どう当たる?」


「え? あ、ああ……ちょっと考えてみたんだけど……君たち、もう決まってるんだろう?」


 苦笑するヴィレッタの前、男二人は顔を見合わせて頷いてみせる。


「……俺は、戦場におっさんが……カラーオブグリーンが出てくるようならぶっ倒すつもりだ」


「俺はあの兄貴とケリをつける。このままってわけにゃ、流石にいかねーだろ? めんどくさいけどさ」


「私は……そうだな。武装的に最後列のナナルゥの相手をするのがいいだろう。となると、ブラック……ノエルの相手は――」


「――――私がやるわ」


 扉が開き、紅い輝きが翻る――。きびきびとした靴音と共に作戦図の前に割り込み、彼女――カラーオブレッド、アテナ・ニルギースは顔を上げた。肩からかけた上着を持ち直し、真っ直ぐな目でヴィレッタを見つめる。


「……いいのか?」


「ええ……。もう決めた事だもの。それにこれは私の責任でもあるわ。やらせて」


「そりゃ~いいけど、あんたの分の機体はないぜ~?」


「別にヴォータンでもなんでもいいわよ。実力的に私に勝る人間なんて在り得ないもの。機体性能で劣ろうと、実力で叩き潰すまでよ」


「……言うねぇ。これはカラーオブレッド、復活と見ていいのか?」


「――期待しなさい、素人集団。この戦争、勝たせてあげるわ」


 強い目をしていた。炎が再び宿ったような、そんな目だった。考えるべき事は多々あった。この数日、アテナはずっと部屋に引き篭もって悩んでいた。だが、悩んで悩んで、それでも答えは出なかった。だから、それでいいことにした。

 今自分は何をしたいと願っているのか。本能の願いに全てを委ねる事にしたのだ。セブンスクラウンを倒し、マキナを開放する。そしてマキナにとって障害となるのであれば――蒼穹旅団も一人で潰せばいいだけのこと。

 難しく考える事はない。将来の事は考えなくていい。目の前にある敵を倒し、己を研ぎ澄ますのみ――。さすればおのずと答えは見えてくる。マキナは生きている。死ぬはずが無い。なぜなら彼女はスラッシュエッジ――神に愛され世界に愛され、異邦神にさえ愛される少女なのだ。そして誰よりも自分が愛している。ならば――今は是非も無くただ信じるのみ。


「心強いよ、アテナ……! ありがとう!」


「……団長はもう少しシャンとしてなさいよ、ヴィレッタ」


「いや、でも嬉しいんだよ~! うう、よかったなあ、アテナ~!」


「はい、ひっつかないで」


「マキナにはでれでれだって聞いたのに、なんで私には冷たいんだ……」


「下らない情報収集だけはご立派みたいね」


「でもこれくらいつめたいほうがアテナっぽいかも……」


 一人で納得するヴィレッタ。しかし状況はやはり芳しくはない。カラーズがついたといっても機体は存在しない……。ノエルの自信過剰ではなく、斑鳩とブラックは最もブルーに近い存在だ。その本物とマトモにやりあえるだけの力を持ったアテナだとしても、機体の性能が違いすぎる……。その時であった。


「機体の事なら、問題あるまい。アテナ、お主にプレゼントが届いておるよ」


「…………? えッ!? ヤタ……!? カラーオブブラック!? なんでっ!?」


 ヤタ・ヒルベルト――。ノエルの先代のカラーオブブラックであり、行方不明になっていた老人である。和服に身を包み、杖をつきながらゆっくりと歩いてくる。その背後には一組の男女の姿があった。

 傷だらけの筋肉質な男と、アナザーの女性……。二人を引き連れヤタはアテナの前まで歩み寄った。眼帯をつけた老人はゆっくりと微笑を浮かべ、驚きで口がふさがらないアテナを見下ろした。


「久しいのう、アテナ……。マリアの片割れよ。おなごは暫く見ぬと、急にべっぴんになって困るわい。はあっはっはっはっは!!」


「ちょ……え? ヤタ……貴方、どうしてここに……?」


「うんむ……。や、わしはセブンスクラウンとは昔から仲が悪くてのう……。暗殺されそうになったんじゃが、危ない所をこの二人に助けられてな」


 背後に立っていた男がヤタの前に出る。アテナはその男の顔に見覚えがあった。勿論実物を見たわけではない。だが――あの事件をじっくりと調べなおした時に何度も見た顔だ。ノーマルでありながら、アナザーを救おうとした英雄――。


「“七星”のリーダー……ユーゼル!?」


「襲い掛からないでくれよ、紅き猟犬。今は敵同士ではないんだからな」


「ど、どうして貴方が……!?」


「樂羅は元々俺たちの拠点だ。待たせたな、ヴィレッタ。約束どおり、七星は旅団の指揮下に入る」


「協力感謝する、ユーゼル殿」


「何、困った時はお互い様……だろう? 俺たちにとっても他人事じゃない死活問題だ」


「ちょ、ちょっとまって! 貴方確か、マキナと闘って……!?」


「死に掛けはしたが、彼女がコックピットに剣を突き刺さなかったお陰で重態で済んだ。今はこうしてヴィレッタに協力し、同士を募っている……。全ては子供たちの未来の為だ。平和な明日はセブンスクラウンの下に居てはやってこない」


「そ、それはそうだけど……ヤタ、じゃあ貴方も一緒に闘ってくれるの?」


「いんや、わしは高みの見物と決め込ませてもらうわい。機体はもう斑鳩に改造されておるし、黒は戦場に二人必要あるまいて」


「代わりと言っては何だが、俺たちも一緒に戦わせてもらおう。そっちの少年が用意してくれた“神風二式”――無駄には出来ないからな」


 思いも寄らないメンバーの合流にアテナはあいた口がふさがらなかった。振り返ってヴィレッタを睨むのだが、ヴィレッタとて説明しようとはしていたがアテナが落ち込んでいたのでそっとしておいただけなのである。それはアテナもわかっている。死んだと思っていたが生きていて、今は仲間として共に闘う事が出来る……。今はそれだけで良いだろう。


「革命の英雄と共に闘える事、光栄に思うわ」


「お手柔らかに頼む、クリムゾン」


 握手を交わし、笑いあう二人。仲間は確かにこれでも少ないだろう。足りない、足り無すぎる程だ。だが――かつては敵同士だった。分かり合えないと思っていた人々が集い、今こうして手を取り合っている。奇跡のような瞬間の中、アテナはこの景色をマキナに見せたいと思った。きっと泣きながら喜ぶに違いない。だがら――彼女の居場所を護ろうと思う。強く決意した。それこそが、使命なのだと。


「ヤタ、それでプレゼントって?」


「うんむ……。あ~~、格納庫の方に搬入しておいたわい。ついてこい」


「え、ええ……。それじゃあ悪いけど少し外すわね」


 ヤタに続き歩き出すアテナ。二人が向かったのはずらりと機体が格納されたその最も奥であった。巨大なコンテナが鎮座するその前に立ち、アテナは目を丸くする。


「プレゼントってこれ?」


「ああ。差出人は~……あー……アレじゃ。アンセムの小僧じゃよ」


「兄さんから……?」


「これがあれば、お主もまた戦えるじゃろうて。新しいカラーオブレッドとしてな」


 ヤタがコンテナを開放するスイッチを押し、戻ってくる。コンテナはゆっくりと煙を吐き出しながら開いていく……。重苦しい鉄の封印が開放され、そこから巨大なシルエットが姿を現した。真紅のカラーリング――。シャープなデザイン……。そこに在ったのは新しく、しかし見慣れた存在だった。


「ブリュンヒルデ・ルージュクロイツ……。それがこいつの名前じゃよ」


「……ルージュ……クロイツ……」


 紅き女神がその全貌を現し、アテナはそれをじっと見上げていた。新しい力……今度は壊す為ではなく。護る為にこの力を使う。アンセムがこれを自分に託した意味……それを考える。

 拳を握り締め、顔を上げる。これでまた、闘える。もう一度闘える。世界を護ろう。マキナがそれを願ったように。この、新しい銃で。新しい力で――。


~ねっけつ! アルティール劇場Z~


*新型ラッシュ*


マキナ「ごろ~りごろごろ……ごろ~りごろごろ……っ」


ノエル「お姉様何してるんです?」


マキナ「

最近更新頻度が低いから~お休みが多いんだよ~」


ノエル「だからごろごろしてるんですか?」


マキナ「寝てるのが幸せなの」


ノエル「……お姉様ってなんかころころしてるけど、そんなに食っちゃ寝だと太りますよ」


マキナ「…………ノエルちゃん?」


ノエル「は、はい?」


マキナ「太らないの……」


ノエル「そ、そうなんですか……?」


マキナ「どうせ胸に行くから大丈夫っ!!」


ノエル「…………」


アテナ「ノエル……。マキナはコロコロしているのが可愛いのよ」


ノエル「太らせて食べる気ですか……」


マキナ「お姉ちゃんも一緒にごろごろしよー!」


アテナ「うんっ♪」


マキナ「ごろーりごろごろ」


アテナ「ごろーりごろごろ」


ノエル「……ええい、長いものには巻かれろだ!!!!」


三人「ごろーりごろごろ……ごろーりごろごろ……」


ラグナ「……あれ、カメラの充電切れてる」


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