特別なんかじゃない(1)
今から五十年ほど前の世界――。地球はまだ蒼く、そして人々は大地での生活を当たり前のように送っていたそうです。そう、宇宙から落下してきた二つの隕石が地球をエーテルで覆ってしまうまでは……。
世界は二つの隕石、“ジュデッカ”と“レーヴァテイン”によって壊滅的な打撃を受けました。尤も、人々は頑張ってその隕石を砕きに砕きまくり、地球への直撃をなんとか避けようと頑張ったそうです。“オペレーションメテオストライク”と呼ばれたその作戦はほぼ成功でした。事実、地球は大規模なダメージを負い、しかし確かに生きながらえたのです。
しかし悲劇はそれだけに留まりませんでした。人の住む世界を浸食する光、エーテルの出現……。人々は見る見るその生活圏を浸食され、やがて宇宙へと追いやられていく事になるのです。星をカナルが多い尽くすその美しくも恐ろしい出来事を、人々は“ロストグラウンド事件”と呼び、心とそして歴史の中に深く刻んだのです。
ロストグラウンド事件後、人々は様々な方法で星を取り戻そうとしました。エーテルを操る技術、フォゾン技術を手にし、そして一部の人間は宇宙へ生活圏を伸ばし、一部の人間はカナルの上での生活へと着手し、一部の人間はより優れた人類の創造を目指したのです。
それにより“セブンスブレイドプロジェクト”と呼ばれる宇宙に七つの大型コロニーを建造する計画が発動し、月面のムーンシティを拠点に各地に生活圏が拡大され、地上から延びていた搭を中心にリングタワーコロニー、“アルティール”、“ベガ”、“デネヴ”が建造され、そしてカナルの上に浮かべた人工都市、プレートシティが開発されたのです。
そして、エーテル環境下においても活動可能な個体を目的として生み出された次世代人類――。第一世代と呼ばれる彼等古きアナザーたちの多くは、今は生きていないとされています。アナザーの研究は途中で破棄され、その研究の第一人者が何者かに殺害された事により頓挫してしまったのです。
ニアも含める第二世代アナザーたちは第一世代の子供、あるいはその研究施設から生み出された二次的な物であり、第一世代と比べその性能は劣るそうです。第一世代アナザーたちは地球上でのエーテル適応実験に狩り出され、その多くはエーテルの光に焼かれて息絶えたと言われています。
エーテルとは、光と熱を帯びた霧状の物質であり、個体、液体、気体全ての性質を持ち合わせるものなのだそうです。その全てを理解したわけではありませんが、人はそれを糧として生きる力に変えてきたのです。
「人が手にしてきたエネルギーは全て新たなステージへ人を引き上げてきた。炎、電気、核……。だがどれもが人に新たな痛みと恐怖を齎す物でもあった。力は比例する脅威を人に与える。エーテルも同じ事だ」
と、ジル先生は言っていました。エーテル。フォゾン。エーテル。フォゾン……。最早コロニーもこの世界も、エーテル無しでは機能出来ない事でしょう。
人間は、元々いっぱい戦争をしてきました。みんな戦争をしてきました。いつの時代になってもそれは変わらなかったそうです。五十年前、ロストグラウンド事件当時も、人々は争いをやめなかったと言います。もしもその時誰もが手を取り合う事が出来たならば、その結果は違っていたのかも知れません。
人は今、世界中で戦争を繰り返しています。しかしこの世界の戦争の意味は、五十年前とは違ってより原始的かつ根本的な物へと意味を変えているのです。主義主張、その差異から生まれる差別、支配、悪意……。それよりもより根源的な闘争本能。“生き延びる為”という、武器を手にする理由。
この世界は有限です。特に、エーテルカナルを流されるだけのプレートシティの人々は常に自分の住むシティ以外のシティと戦いを繰り広げています。カナルの流れは無限であり、しかし同時に有限でもあるのです。このカナルは自分たちの領土。このカナルの使用権は自分たちのもの……。カナルは脅威であると同時にエネルギー源でもあるのです。シティという巨大な生物を養う為に、カナルのエネルギーは必須なのです。
なによりも、この世界には生きるために必要な物が兎に角不足しているのです。衣食住、基本的なその三つさえ揃わないシティが一体どれだけあるでしょうか。シティの人々は明日食べるものを求めて他のシティと争っています。コロニーと地球とでは、その事情はまるで違ったのです。
「コロニー生まれの裕福な人間には判らんだろうが、今地球では壮絶な人類の生き残り合戦が始まっている。文字通りのサバイバルバトルだ。人間は誰もが生きるために糧を必要とする。だが、大地は消えた……。酸素さえも届かないこの天空で人々は生きる為にシティという檻の中で生きていかねばならない。母なる大地の恵みは全て失われたのだ。自業自得とも言えるだろうがな」
そして、地球の大地という大いなる恵みを失った人々は、母の手元から離れ、餌を自分で手に入れなければならない段階になってしまったのです。人工的に大地を作り、小さな地球を模した都市の中、閉じこもって生きなければなりません。
エーテルは炎と同じ。触れれば燃え上がり、身体はエーテルとして分解、解かされてしまう。この世界を流れるカナルが枯れる事無く流れ続けているのは、多くの人々の涙が溶けているからなのでしょうか。
「FAと傭兵とはそのために存在する。フェイスとは人々が生きるために欲した力だ。彼等の生存競争に狩り出され、お前たちも何れは戦場に立つだろう。それはとても難しい背景を背負っているという事を肝に銘じておけ。この世界に正義という言葉は無い。あるのは生きるか死ぬか、そして一寸先の明日だけだ」
ジル先生の講義を聞いている間、わたしはずっと悲しい気持ちでいっぱいでした。コロニーには確かにいい思いではあまりありませんでした。でも、明日死ぬとか、生きるために誰かを殺すなんてこととは無縁だったのです。それはとても幸せな事だったのだと気づかされます。
そして同時に疑問を浮かべるのです。どうして宇宙と地球、そこまで差があるのでしょうか? 地球が大変なのは見ればわかります。だったら皆、宇宙に来ればいいのに……。どうして人間は大地を捨て去れないのでしょうか。
月とコロニーと地球。ノーマルとアナザー……。傭兵と傭兵を雇う人、それに襲われる人……。この世界はわたしが思っていたよりずっとずっと、難しい世界でした。
「でも、それはきっとどこに住んでいても同じなんだと思う」
迷うわたしの言葉を聞き、ニアは難しい顔をしてそう答えました。
「ボクたちが食べている食べ物も、全部誰かが作ったものだよ。誰かの命、何かの動物の命が失われているんだ。同時に、それを得る為にボクらは他の人を犠牲にしている」
「……うん」
カフェのテーブルの上、ハンバーガーが鎮座なさっています。それをじっと見詰めると、挟まったお肉、トマト、レタス、ソースにパンズ……。どれだけのものが使われているのでしょうか。
「生きる事は、何かを殺すって事だよ。そこから目を背けちゃいけない。人間はそういう生き物なんだ。人は、生まれた時点で沢山の罪を背負っているよ。ただ、生きているだけで人はとても罪深いんだ」
「でも、おなかは空くんだよね」
ハンバーガーを齧ります。やっぱりとっても美味しいし、とても幸せです。口元についたケチャップを指先で撫で、わたしは眉を潜めます。
「この世界を生きる人は皆、同じ罪を背負ってる。フェイスに居るという事は、その罪をさらに重ねる事に他ならないんだ。それでもボクらは生きなきゃならない。いや、だからこそかな? 罪深いからこそ、それを途中では投げ出せない」
「言ってる事は判るよ。おなかがすいたら食べるのは当たり前……。だから、それを受け入れてちゃんと食べなさいって事だよね?」
「そうだね。だからボクたちは憎しみや怒りや偏見では無く、愛を糧にして生きなければならないんだよ。何かを愛し、その罪を背負い……。そして笑って生きなきゃならないんだ」
眉を潜め、寂しげにそう笑うニアはとても大人っぽかったのです。わたしはアイスコーヒーを飲みながら空を見上げます。人工の空……。わたしたちは生きています。平和に、明日の心配も無く。
自分がフェイスに所属している意味。その理由……。FAを操るために必要なこと。まだそういうのはわかりません。でも、きっとニアの言う通りです。
わたしたちは笑って泣いて、それでも一生懸命に生きる事でしか罪を償えない生き物なのです。両手を染め上げる血を漱ぐ事は恐らく一生出来ないのでしょう。それでも生きている……。
「――なんだかむずかしいね、この世界は」
「そうだね。でも、だからこそ意味を見つけるだけの価値があると思うんだ。自分の手を汚してでも生きる、そういう理由をね」
おいしそうにハンバーガーを食べ、ニアはそう笑いました。わたしもハンバーガーを食べます。怒られても頑張っても、おなかは空きます。でも多分、それでいいのでしょう。
「でもマキナ、多分キミくらいだよ。さっきの授業でそんな思いつめているのは」
「ふえ……? そうかな……?」
「そうだよ。マキナは優しいんだねぇ。それに賢いよ」
「そんな事ないよ。ニアの方が……」
「にゃーん、マキナかわいいなあっ!! よしよし、なでなで……」
ニアに撫でられながら笑います。まあ、多分そんな事を考える資格も余裕も今の自分たちには無いのでしょう。
とりあえずは目先に迫ったFA運用模擬戦闘試験の事を考えねばなりません。あと、さっきの授業の復習……。横文字の事件ばっかりで何でもかんでも忘れてしまいそうでした。
マキナ・レンブラント、歴史講習後、復習中の日記より――――。
特別なんかじゃない(1)
「え? “ギルド”……?」
「そう、ギルド。来週の模擬戦闘試験が終了したら、講義が選択制になるでしょ? シフトを自分で組むんだけど、そういうの良くわかんないしさ。今週からギルドの申請、受け付けてるらしいから一緒にどうかなって」
放課後、廊下を歩きながらマキナとニアはそんな話をしていた。鞄からアポロが顔だけ出して寝こけている中、マキナは小首を傾げた。
ギルドとは、フェイス内に存在する生徒有志のチームの事である。勿論学園案内などにも記入されていた事だが、マキナはそんなものを見ている余裕が全く無かった為名前さえ知らなかったのである。
二人が入学してからもうじき一ヶ月。最初の一ヶ月間は同じ教官からの基礎訓練が行われ、そこで基礎訓練終了証明を受け、それぞれ個別の本格的な授業へと移行していくのである。同じライダー科であろうとも、そのFAの運用形式、その操縦スタイルの差などは個人によってかなり開けている。それらを効率よく学ぶ為に、生徒は自主的に授業を選択する形式へと移行するのだ。
しかし二人は正直な話まだどんなライダーになるのかなど決めていないし、基本的な操縦で手一杯である。特にマキナに関しては深刻であり、サブパイロットではそこそこなんとかやりくりできるものの、メインパイロットとしての腕前は下の下であり、ニアのサポートがあってもその成績はぶっちぎりのビリであった。
『貴様はどうしてメインパイロットになると塵屑以下なんだ!? どうして一々ビビる!? シャキっとせんか、シャキっと!!』
というのはジル・バーツ教官の言葉である。四十人で構成されているマキナたちのクラスの中、彼女は四十番目の成績であった。
「正直さ、自主訓練だけでこれ以上どうにかするのって難しいと思わない?」
「お、思う……」
「ギルドに所属すれば、先輩たちから学べる事もあると思うんだ。それに大きいギルドに所属していれば、将来学年が上がって依頼を受けられるようになった時仕事が入りやすいし……」
ギルドとは生徒達のチームであると同時に小さな会社でもあるのだ。ギルドマスターと呼ばれる人間を社長とし、メンバーが社員の図となる。依頼は基本的にギルド単位で飛び込んでくる為、ギルド内でその依頼に的確な人材を選出、手配しして任務を遂行するのがフェイスでは当然のスタイルとなっていた。つまり何らかのギルドに所属していなければ、いつまで経っても実戦は経験出来ない事になる。
そのギルド所属とは無関係にCランクの生徒達――所謂蒼服と呼ばれる新入生たちは実際の戦場に立つ事は許可されておらず、当然自分のFAの所有していない。故にCランクの状態でギルドに参加するのは、実力の向上の為という理由がメインとなる。
しかし、ギルド側もこの時期は勧誘に必死になっている。二人が校舎から出ると、門までの間に様々なギルドの勧誘が旗やら看板やらを掲げて威勢良く声を上げていた。
「…………どうしちゃったのこれ。今朝登校してくるときは静かだったのに……」
「今日の放課後から勧誘解禁だってさ。ギルド側も新入りが欲しいんだよ」
「なんで? 出撃出来ないし、足手纏いになるだけじゃない?」
「でも、速めに新入りを確保しておかないと後で人手不足になるじゃない。それに、才能がありそうなのは速めに確保して育てたいんでしょ。お金のなる木なら手放す手はないよ」
「なるほど……。あ、でもだったらわたしは全く誘われない事になるよね! 才能ないし、成績ビリ、だし…………」
自分で言っていて落ち込んできたマキナがその場で肩を落す。ニアは苦笑を浮かべ、そんなマキナの肩を抱いて歩き出した。
「だーいじょうぶだって! どっか一つくらい受け入れてくれるギルドがあるよ」
そうして二人は色々なギルドの話を聞いた。しかし、どのギルドも浮かべる表情は難色である。
ニア一人ならばいいけれども、マキナはちょっと――というギルドばかりで、マキナは既に泣いていた。校庭の隅っこに膝を抱えて座るマキナの背後、どんよりとした雰囲気を放つ相棒にニアは冷や汗を流していた。
マキナは兎も角、ニアは既にクラスでも上位の実力者の中に名を馳せる程に上達しており、Cランク傭兵としては中々の腕前とされていた。目ぼしい生徒は既にギルド側も目星をつけており、ニアならば是非にと声をかけられるのだが、マキナは一人も声をかけられる事はなかった。それどころかニアを勧誘したギルドたちも、マキナが一緒だと聞くとどうにも嫌そうな顔をするのである。
それも無理はない。Cランクの中でも落ち零れと名高いあのマキナ・レンブラントの面倒を見るのなど誰だって御免である。ニアが変わり者なだけであって、それが世間の当たり前の反応であった。
「そ、そんなにいじけなくてもいいじゃん……。マキナ、元気出しなよ……」
「うぅぅぅ……っ」
「ほら、ボクが一緒だからさ」
「……いいんだよ、ニア。気を使わなくていいの……。ニア、大人気だもんね。わたしの事はほっといていいよ……」
「う……っ!? このへこたれ具合は重症だなあ……」
思わずたじろぐニアの正面、マキナは小さな背中をさらに小さく丸め、校庭に人差し指で“の”の字を書き続けていた。かつてスクールにていじめられ、総シカトを受けていた記憶が脳裏に蘇りトラウマのスイッチが押されてしまっていたのである。
「みんな、わたしの事無視するんだ……。ふふ、ふふふ……っ」
「もー! シャキっとしなよ、マキナ! ボクは、マキナも一緒じゃなかったらギルドなんか入らないよ!」
「ほんとに……?」
「ほんとほんと! てか、一緒じゃなきゃ意味ないにゃー……」
もちろんそれは不特定多数の意味で、である。しかしマキナは立ち上がり、涙目になってニアに飛びついた。どうやら好意的に解釈してくれたらしい。
「ニア〜! わ〜〜ん!!」
「おーよしよし……。にしても困ったねえ。こうなると、自分たちで強くなるしかないのかな」
「ごめんねニア……わたしのせいで……」
「だからいいってば。それに、このニア様はギルドなんて入らなくたってバッチリ試験合格だにゃす! だから問題ナッシング!」
「――――ですよね。問題あるのは、わたしの方でしたよね……」
「にゃにゃっ!?」
マキナはその場に両手両膝を付き、どんよりとした空気を放ちながら項垂れていた。慌てた様子でニアがそれに駆け寄っていると、二人の前に突然アンセムが現れた。眼鏡を押し上げる動作を取るアンセムを前に二人は同時に立ち上がり、敬礼した。
「アンセムさん!? こ、こんにちは!」
「私にしてみれば、何故門の前であんな格好になっていたのかという方が疑問だが……。別に、誰だってここは通るだろう」
気づけばそこは門の目の前、先程から衆人環視の真っ只中である。それに気づいたマキナが顔を真っ赤に染め、ニアが苦笑を浮かべた。
「ああああああのう!? あれはその、あのうっ!?」
「マキナがへこたれ娘なので、ギルドに入れないんですー」
「そう、へこたれ娘なので……ええっ!? へ、へこたれるう……」
「成る程、そういう事か。だったら私に心当たりが一つある。マキナでも入れそうなギルドがな」
二人が目を丸くしている間、アンセムは鞄からメモ紙を取り出し、ペンでサラサラとそこに何かを記入し、折り曲げてマキナに差し出した。メモを受け取ったマキナの肩を叩き、アンセムは校舎の裏へと続く道を指差した。
「校舎裏に回った所に、ギルドルームが幾つか密集している一帯がある。その303号室に行くといい。そこでこのメモを渡せ」
「え? あ、はいっ!! ありがとうございますっ!!」
深々と二人が頭を下げる中、アンセムはそのまま歩き去っていく。その後姿を見送り、二人は同時に溜息を漏らした。
「何の気配も無く接近してくるとは……。流石先生にゃす」
「う、うん……。びっくりしたね」
「でも、あの人一応マキナの保護者なんでしょ? ぜんっぜん会ってる気配ないけど」
「うん……。なんか、会っても気まずいって言うか……」
メモを握り締め、マキナは目を細めた。アンセム・クラークと言葉を交わしたのは、先刻ので三度目である。たった三度――。顔をあわせる事すら普段はない関係である。
彼が放任主義なのか、それともマキナに興味がないのか……。それは少しだけマキナの胸を寂しくさせた。勿論、家族ゴッコを求めるつもりはない。だが、もう少し気にかけてほしいと、そう感じている自分がいるのも確かだった。
仏頂面でいつも何を考えているのかわからないアンセム……。何となく、気まずくて会えないのはマキナにとって不安の芽であった。折角こうして出会い、一応親代わりになってくれたのである。もう少しくらい、彼の事を知りたいと願うのは自然な事だろう。
「ふーん……。ま、先生には先生なりに考えがあるのかもね」
「そう、かな? わたし、先生に嫌われてるのかも……」
「そんな事はないでしょ〜。なーんかあの先生、誰に対しても興味ナシって気がするし」
「…………興味が無い、か」
そんな事を呟き、それから二人は校舎の裏へと移動した。そこには所謂弱小ギルドと呼ばれるギルドたちのルームが密集するエリアが広がっていた。その時点でロクなギルドではない事が確かになったわけだが、とにかく二人は言われた通りの場所に向かう事にした。
303号室、そこはいかにも人気のない古ぼけたギルドルームだった。扉には何故か“出入り禁止”の掛札が存在感を誇示しており、マキナとニアは同時に顔を見合わせた。
「あってるよね?」
「にゃす」
「チャイム……壊れてるし」
「ノックしちゃおうか」
「ごめんくださーいっ!!」
ニアが扉を叩き、マキナが声を上げる。暫くすると扉が開き、そこから一人の少女が姿を現した。銀色の長髪、そして女性にしては背が高い。鋭い切れ長の目が威圧的に二人を見下ろしていた。
「……生憎、募集ならしてないよ」
そう呟く少女。制服の色は――紅。ランクAを意味する物である。二人は同時に再び見詰めあい、それからメモを手渡した。
少女はメモを受け取り、それから中身を眺めてそれを握り潰した。そうして二人を品定めするようにじっくりと見詰め、それから踵を返し部屋の中に入っていく。
二人は三度、顔を見合わせた。彼女が入ってもいいのだと言ってくれているのだと判断し、二人は扉を潜った。二人が中へ入った後古びた自動ドアが閉じる。掛札がその衝撃で落ち、“蒼穹旅団”というギルド名が記されたネームプレートが明らかになった――。