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Jihad(2)

「早く! 皆早く逃げるんだ!!」


 アルティールのどこにも既に安全な場所など存在しなかった。逃げ惑う人々の中、孤児院から飛び出したアナザーの子供たちが街を走っていく。子供たちを誘導し、中腹に立って声を張り上げる少年は空を見上げながら考えを張り巡らせていた。とうとうこの世界には終わりがやってきたのだろうか?

 皆の家族、そして皆の希望だったニアは死んだ。アナザーの子供たちにとっての希望は一度潰えてしまったのだ。それでも彼らは生きていく事を決めた。悲しい死を乗り越えて、生きていく事を選択したのだ。

 世界は常に残酷で、いつだって彼らの希望を砕いてしまう。ただ生きて、ただ死にたいだけだというのに。高望みなどしない。出来れば平穏で――。愛する人たちの腕の中で死なせて欲しい。ただそれだけだというのに。

 守ろうと決めた家族を守る力は少年の手の中にはなかった。近づいてくる戦闘の炎も轟音も、それらから身を守る術はない。彼には何も守る事が出来なかった。だからせめて空に祈ったのだ。そして最後にこの場所を去る事で、家族の無事を見届けなければならない。

 やがて二体のヴォータンが槍を構えて激突し、激しい白兵戦闘が繰り広げられた。降り注ぐミサイルの嵐の中、少年の命はかき消されそうな小さな灯火に過ぎなかった。もしもこんな時、ニアが生きていたならば――。力不足が悔しく、どうしようもなく悲しかった。仰ぎ見る空――その作り物の世界を貫き、それが姿を現した時。少年はまるで幻でも見ているかのような気分で瞳に姿を焼き付けていた。

 天蓋を貫き、蒼い巨躯が大地へと降り立つ。落下と同時に暴れる二機のヴォータンの頭を掴み、大地へと叩きつける。凄まじい衝撃と砂塵の中、ゆっくりと頭を上げた蒼き光は雄雄しくシティの中心部に立ち上がった。少年はそれを見上げ、ただ黙ってその姿に見惚れることしか出来なかった。


『――――大丈夫っ!?』


「…………え?」


 その声が自分たちに向けられている物だと気づくまでには幾許かの時間が必要であった。逃げようとしていた幼い子供たちが駆け戻り、蒼い巨人を指差した。


「ロイにーちゃん! あれ、マキナだよ!! マキナ・ザ・スラッシュエッジ!!」


「カラーオブ……ブルー……!?」


 子供たちの無事を確認し、ジークフリートは微かに頷いた。そして振り返り、背後から近づいていたヴォータン目掛けフレアユニットから直接刃を射出し、装甲に反射したそれを空中で受け取った。ジークフリートは両手の刃を逆手に構え、一瞬で踊るようにヴォータンを切り刻む。


『いい加減にしてっ!! 喧嘩するなら外でしなさい!! まだシティには人が残ってるの! そんな事も判らないのッ!?』


『カラーオブブルー……!! お前はオペレーションカラーズの中枢で、恩恵が受けられるからそんな悠長な事を……!!』


『そんなの知らないよ! そもそも他人が自分と比べて恵まれているとかどうとか、そんな事で争うなんて馬鹿げてるっ!! 気に入らないなら努力しなさい! 一人で変えられないなら手を取り合いなさい!! 武力で世界を制するというのであれば――ッ!! 我が刃の化身がお相手仕るッ!!!!』


 無数の剣を腰から翼のように広げ、マキナは鋭く輝く刃を構えて周囲を取り囲むヴォータンをにらみつけた。じりじりと、動くに動けない状況が続く。カラーオブブルーの戦闘能力はカラーズ中でも最強と言って過言ではない。その化け物の中の化け物が目の前に居るのだ。まともに遣り合って勝ち目などあるはずもない。

 勝利を諦め、ヴォータンは散り散りにその場を離れていく。剣を収め、マキナは少年たちにジークフリートを寄せ、片膝を着いてコックピットハッチを開いた。


「よかった、みんな無事だね……」


「……マキナさん……。あの……」


「――――うん、大丈夫だから。もう、こんな事は誰にもさせないから。お家で少しの間だけ、戸締りをちゃんとして待っててね。直ぐに終わらせるから。“こんな馬鹿な事”――。直ぐに終わらせるからね――!」


 コックピットの中に再び姿を消し、ジークフリートが蒼い光を放ち動き出す。蒼き騎士が両手に剣を携え、背後に集結しつつある否定派の勢力を見据える。ジークフリートが雄叫びを上げ、コックピットの中マキナは瞳を輝かせながら戦場の中へと突き進んでいく――。

 マキナがアルティールで戦いを始めた頃、アルティールを臨む地球のカナルの上ではエリュシオンとローエングリンが何度も刃をぶつけ合っていた。巨大な光の川の上を駆け巡り、二機は猛烈なデットヒートを繰り広げる。


「どうしましたか、グリーン!? 動きが鈍ってきましたか!? それとも僕が貴方の動きになれてきたんですか!?」


「ちい……ッ! 実に早いな……!!」


 エリュシオンは背と腰に装備した四つのバーニアユニットをこまめに調節しながら猛スピードでのクイックターンを連発し、予測不能な軌道を描き斬撃を繰り出す。一方ローエングリンは速度に関しては疎く、小回りも効かないキャタピラ式の脚部である。四方八方から猛攻を繰り出すエリュシオンを前に完全に防戦一方となっていた。

 黒金の剣が大気を切り裂き、一閃はまたローエングリンに新たな傷を生み出していく。翠の機体は既にいくつ物傷をつけられ、見た目にも満身創痍であった。やけくそ気味に繰り出す大斧は空しく虚空を唸り、その隙に再びライフルが打ち込まれる。

 ローエングリン自慢の結界も幾度となく繰り広げられるエリュシオンの猛攻を前に既に限界が近い。戦況は圧倒的に不利――しかしザックスはまだ諦めてはいなかった。口元には笑みを浮かべ、勝負を捨てた敗者の顔はしていない。それがカリスには不快でならなかった。


「この状況でまだ勝てるとでもお考えですか?」


「言っただろう? 勝負ややってみるまでわからんさ……! それに――私とおしゃべりしている余裕があるのかね? 君のファンが直ぐ傍まで来ているというのに――!!」


「――――何!?」


 遥か彼方、飛来した光の線がエリュシオンに命中する。直撃と同時にシールドでそれを弾くものの、脇腹に受けたダメージは決して軽くはない。吹き飛ばされ、カナルの上で転倒しそうになる機体を瞬時に制御したカリスの腕前は勝算に値する。しかし――青年の瞳は遥か彼方を捉えていた。

 カナルの先、そこから猛スピードで何かが突っ込んでくる。それは、“戦闘機”であった。空が消え、カナルが戦場となり、消えたはずだった兵器の形――。しかしただの戦闘機ではない。巨大――何よりサイズが巨大なのである。そしてその下方には全長よりも更に巨大なフォゾンビームライフルを装備しているのだ。

 再びビームライフルが放たれ、エリュシオンはそれを盾で防ぐ。同時に猛スピードで突っ込んできた戦闘機は正面からエリュシオンへと体当たりを食らわせ、カナルの上を激しく引きずっていく。その衝撃の最中、カリスは歯を食いしばり取り付いている戦闘機へと刃を向けた。しかし――。


「――腕!?」


 機体の翼であった部分から突如人の腕のようなパーツが姿を現し、刃を突きつけるエリュシオンの腕を押さえ込んでいたのである。そしてエリュシオンの目の前でそれは形状を変化させていく。

 紫色の、美しい機体であった。可変能力を備えた超高機動戦闘用FA――。その名は“オルトリンデ”――。この一年間、秘密裏にジェネシスが開発していたとある一人のライダーの為の専用機である。その性能は遠距離狙撃戦闘、そして超機動によるヒットアンドアウェイに特化している。単瞳がぎらりと輝き、正面から組み合ったエリュシオンとオルトリンデはカナルの上を駆け抜けていく。


「……お久しぶりですね。カリス先輩――」


「その声……!? 君か、ヴィレッタ・ヘンドリクスッ!!!!」


 二機は同時に身を離し、カナルから飛び降りたオルトリンデは空中で変形して空を飛翔して行く。遠く離れたローエングリンの前で変形し、カナルの上を滑りながら停止する。その腕には巨大なロングレンジフォゾンビームライフルが握り締められている。

 オルトリンデの中、ヴィレッタは紫色の髪を揺らしながら複雑な表情でエリュシオンを見つめていた。黒金と紫とが対峙する――。それは、運命に引き寄せられたかのような邂逅であった。

 かつては同じギルドに所属し、生き死にと生活を共にした仲間である。そして今ではオペレーションカラーズというラインの上、敵対者として互いにFAのライダーとしての役割を果たそうとしている。それはお互いの夢や目的、生きる意味が運んできた決闘――。故に逃げ場はなく、逃げる理由もない。


「――先輩……。この一年間、私はずっと貴方を探していました。貴方を倒す為に……」


「……ふっ、成る程。君たちを騙した僕に対する復讐ってわけだ。確かに僕さ。あの日、レーヴァテインの戦闘実験に旅団メンバーを提唱したのは」


 かつて、蒼穹旅団をカリスが率いていた時代があった。そしてその時旅団は壊滅し、たった一人ヴィレッタだけが生き残った。彼女は妹分であったアテナにも真実を語らず、かたくなに一人で答えを見つけ出そうともがき続けてきた。

 そして一年前、レーヴァテインとの再戦、そしてそこでカリスに告げられた事実……。カリスがあの日、旅団を壊滅させた張本人だったという事。未調整だったレーヴァテインの戦闘能力を推し量る為の実験台として、自分もまたあの場に投入されたという事。

 そう、結果的にヴィレッタは生き残った。しかし別に死んだところでどうでもよかったのである。オペレーションカラーズを遂行するネクストカラーズ以前のカラーズ、ノーマルのカラーズたちなど生きていようが死んでいようがどうでもいい間に合わせの存在に過ぎなかった。あの日、ヴィレッタは死ぬはずだったのである。カリスが“逃げろ”といわなければ。

 そのたった一つの言葉が。ヴィレッタの中に残っていたカリスの優しい面影を支えていた。自分に戦い方を、生き方を教えてくれた大切な人――。だからその人が裏切ったという事実を認めたくなかった。真実を知る事を恐れ、しかしそれだけではたまらなく不安だった。

 生きているのか死んでいるのかわからないような日々、しかしそれをマキナたちとの出会いが変えてくれた。一年前のあの日、再びカリスの手によって同じ事が繰り返されてしまうまでは――。


「先輩……。何故ですか? 何故あんな事を……」


「どうやらその様子では既にレーヴァテインの真実にも僕たちの存在にも気づいているんだろう? 答えはもう判りきっているはずだ」


「貴方の口から直接聞きたかった……。貴方はあの日最後に私に逃げろと言った。生きろと言った!! 何故なのですかっ!? 何故、殺す予定だったはずの私を!!」


「ただの気まぐれさ。君だって気づいているんだろう? 僕は君が思うような男じゃない……。君の幼い憧れの中に生きたカリス・テラードはもう居ない。君も一人のライダーならば、言葉ではなく力で語らないか」


 エリュシオンが翼を広げ、剣を構える。ヴィレッタはコックピットの中で静かに唇を噛み締め、そして静かに瞳を開いた。脳裏を思い出が過ぎっていく。優しい笑顔が過ぎっていく。しかしその笑顔を壊したのも――目の前のカリスなのだ。

 戦わなければならない。蒼穹旅団の死んでいった仲間たちの為にも。仇を討たねばならない。死んでしまったニアの為にも。過酷な世界へと追い詰めてしまったマキナの為にも。そして何よりも――彼は敵なのだと、少女の自分に言い聞かせる為にも。


「カリス・テラードッ!! “ファントム”ッ!! 貴方の存在は歪んでいる!!」


「そう、僕は歪みだ!! ネクストとノーマルの狭間、カラーズでもただのライダーでもなくッ!!!! 君たちの為に犠牲として産み落とされた歪だっ!!!! ならば君はどうする!! 蒼穹の騎士よ!!」


「最早語るに及ばずッ!! カリス……テラアアアアドッ!!!!」


 叫びと共にオルトリンデが前進を開始する。それにあわせるようにカリスは笑みを作り、エリュシオンの翼を広げた――。




Jihad(2)




 何の為に生まれ、何の為に生きるのだろう――?

 世界はこんなにも悲しみに満ちていて、全ての人が幸せになる事なんて出来ないのかもしれない。

 それでもこの世界に産み落とされ、そしてこの世界で生きる事を決めた。戦い、守り、そしてその両手を血に染める事を決めた――。

 ジークフリートがアルティールを駆け抜けていく。蒼き龍は剣を振るう。近づく全てを、目に留まる全てを、己の障害となる全てを切り払う。ジークフリートは力だ。ただ、力なのだ。その膨大な力を手にし、そしてそれを何の為に行使するというのか――?

 蒼の座が語りかけてくる。マキナの瞳に、脳に、魂に流れ込む。この世界が悲しみで満ちている。しかしだからなんだというのだ。その程度の事で、歩みを止めろとでも言うのか? 友の命も、世界の命も、見ず知らずの数々の命も犠牲にし、ただ今日まで生き延びてきたというのに。

 マキナは全てのフロアを駆け抜けていく。叩くFAは片っ端から両断した。戦いなど二度としかけようと思えない程、圧倒的かつ無慈悲に力を誇示してみせる。比類なき強さでなければ世界は守れない。かつてマリア・ザ・スラッシュエッジがそうであったように。この世界を守れるのは圧倒的な力――そしてそれを振りかざす人間の存在なのだ。

 十二のフロア全てを殲滅し、大穴から蒼い機体が飛び出しフェイスビルの前に落下してくる。戸惑うFA全てを両断し、少女は振り返った。フェイスビル――マキナは無言で無数の刃を大地に突き刺し、ジークフリートが両手を広げる。


『――ぼくの話を聞いてくださいっ!!!!』


 アポロがマキナの意思を汲み取り、フェイスの管制室の制御を奪い取る。通信は全てのライダーのコックピットに響き渡っていた。真っ直ぐな眼差しでマキナはただ思いを伝える為だけに声を張り上げた。


『戦いを、止めて下さい!! これ以上、自分たちを傷つけないで!! 仲間同士で争う事なんて本当は誰も望んで居ない!! 貴方たちだってそうでしょう!? 大切な人が――! 一緒に時間を過ごしてきた人が――! 愛する人が目の前で死んでいくのなんて、そんなのそれでいいって思う人がいるはずがないからっ!!』


 エリュシオンとオルトリンデの戦いはアルティールへと迫りながらも続いていた。ミサイルを乱射し、弾幕を張るローエングリン。そのローエングリンを壁に、オルトリンデはロングレンジライフルを連射していた。次々に繰り出される遠距離からの絶え間ない弾幕に晒されエリュシオンはカナルの中を駆け巡る。


『目の前の事実に惑わされないで!! 誰かがああしろだとかこうしろだとか、そんな事を言ったからってそれに従う必要なんかない!! 自分の頭で考えて! どうしたらいいのか……どうすることが正しいのか!! 世界の善悪なんて関係ない!! 正しい事は!! 信じる事はっ!! 貴方たち自分自身の頭で考えなさいッ!!』


「ヴィレッタアアアアアッ!!」


 ひとたまりもない弾幕の中、逃れる為にあえてエリュシオンは落ちていく。カナルの上から飛び降りて。はるか彼方のゼロカナルまで。オルトリンデは変形し、飛び降りるローエングリンを追い抜いて落ちていく。見る見る内に無数のカナルを突き抜けて。シルエットは星の海へと落ちていく――。

 空中で銃撃戦が繰り広げられた。オルトリンデが発射するビームライフルとエリュシオンが放つソードライフルの光が交錯する。猛スピードで加速したオルトリンデは人型に変形すると同時にライフルの砲身でエリュシオンに殴りかかった。盾で防ぎつつも吹き飛ばされたエリュシオンへ、腰にマウントした二丁拳銃を装備してオルトリンデは迫っていく。

 星の上で繰り広げられる流星のロンド――。至近距離で銃弾が飛び交い、オルトリンデの繰り出した蹴りをエリュシオンは盾で払い、反撃で繰り出されるソードをオルトリンデは変形して形を変え、回避する。

 戦闘機状になったオルトリンデが舞い、バーニアを瞬かせて視界から消える。次の瞬間その背後から斧を振り上げたローエングリンが姿を現し、盾ごとエリュシオンの片腕を両断する。


「カラーオブグリーン……ッ!?」


「君に足りない物は協調性だな!」


「二対一か……くそっ!!」


「一ついい事を教えてやろう! 戦争は――勝てばいいのだよっ!!!! ふははは~~っ!!」


「この、ド外道がああああっ!!」


 隻腕となったエリュシオンが繰り出した剣はローエングリンにやすやすと受け止められてしまう。そして周囲に張り巡らされた結界がローエングリンではなくエリュシオンを囲み、檻を作り出す。自分が捕縛された事に気づいたエリュシオンが頭上を見上げると――そこにはライフルを構えたオルトリンデの姿があった。

 エネルギーをフルにチャージし、収束した力は放出の時を待つ決壊寸前の濁流のように光を放っている。ライフルの銃身からオルトリンデの瞳の奥、ERSで通じたヴィレッタの眼差しまで全ては一直線であった。ぶれる事のない決意の一撃――! 引き金を引き、ヴィレッタは思い出を振り切るかのように瞳を見開いた。

 放たれる光の矢――。命中する直前でローエングリンは結界を解除する。盾を失い、光の直撃を剣だけで受けるエリュシオン。無数のカナルを貫通し、光に押されながらゼロカナル目掛けて一直線に落下して行く。


「……おぉおおおおおおおおおおおッ!? ヴィレッタああああああああああっ!!!!」


 星を覆う巨大すぎる結界に押しつぶされ、大爆発が巻き起こった。それを眼下に見下ろし、ヴィレッタは静かに溜息を漏らしていた。全身から力を抜き、肩を落として星の海を見やる。美しき蒼海――星を取り囲む零の光の中、ヴィレッタは静かに目を閉じた。


「……カリス……先輩……っ」


「やれやれ……。辛勝、だな――」


『ぼくの声を聞いてください! ぼくは皆の為にこんな事を言っているのではありません! これはぼくのエゴです! 気に入らないものは認めるつもりはないし、優しく接するつもりもありません!! 戦いを即座に中断しなさい!! でなければ、カラーオブブルーの名において貴方たちを斬り捨てます――ッ!!!!』


 マキナの声が響き渡り、マキナが剣を振り下ろし光に翳す。美しき刃の輝き――それに導かれるように下層からリフトでラグナの乗ったトリスタン、ノエルの斑鳩が姿を現した。ジークフリートを守るように左右に立ち、マキナの意思を尊重するかのように頷く。美しく迷いの無い、洗礼された自己中心的な言葉――。それは決して偽善ではない。泥まみれの願い――。真なる善意である。


『戦いを止めて考えなさい! 争う事で思考を放棄しないで!! 貴方たちはまだ生きているのだから! 生きているのならその頭で考え、両足で進みなさい――!!』


 言葉に全て納得したわけではなかった。しかし少なからず戦士たちの中には迷いが生まれた。何よりこうしてマキナが実際に暴れてしまっては誰も抵抗出来ないのだ。圧倒的な存在であるカラーズが出て来てしまった以上、その力を一番思い知っているフェイスであるからこそ誰もが戦いを中断せざるを得なかった。

 戦闘が収まっていく静かな余波を見届けながらマキナはコックピットの中で静かに優しく微笑みを作っていた。コックピットを開き、人々にその身を晒して。蒼い風の中、少女は崩れかけた世界を愛しげに見つめていた。穏やかで力強く、圧倒的な存在――。神にも似た少女は子供のような無邪気な笑顔で人々に告げた。


「――いい子だね。ありがとう、戦わないでくれて。ありがとう――殺させないでくれて……」


 戦いが収まっていく。そんなマキナの姿を足元から見上げ、アテナは瞳を揺らしていた。その姿は神々しく、その言葉には魔力が宿っている。その力は悪魔も恐れず、異形さえも屠ってしまうだろう。文字通り、この世界のバランサー足り得る存在……。かつて世界のボーダーラインそのものであったマリア・ザ・スラッシュエッジ。その姿に今のマキナはとてもよく似ていた。

 町中で歓声が沸きあがり、それが感染拡大するように広がっていく。人から人へと伝わるマキナの優しい気持ちと願い、そして無慈悲な力が人々を包み込んでいく。その濁流の中、マキナは人々に笑顔で手を振って応えていた。たった一人の少女が止めた戦争――。短い間の、僅かな混乱にも似た戦争。それを見届け、アテナは困ったように笑顔を浮かべた。


「敵わないわね……本当に……」


 蒼い髪の少女が空を仰ぐ。その輝く髪を風に晒して、少女は強い眼差しで世界の行く末を見極めようと必死に目を凝らし続けていた――。


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