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Jihad(1)

「マキナ、急いでっ!!」


 市街地を走るマキナとアテナ。二人は息を切らしてシティの真ん中を駆け抜けていた。

 オペレーションカラーズ発動通告より凡そ十三時間後――。シティ中心部では今まで絶対に見る事の出来なかった異常な光景が繰り広げられていた。

 ビルの合間から除くのは無数のFAの姿である。激しい銃撃戦が繰り広げられ、爆発と悲鳴がシティに轟いていた。そして何よりも異常なのが、戦っている彼ら全員がフェイスの紋章を掲げている事なのである。

 数時間前、シティ中心部での僅かな闘争が切欠で、シティ各所にてオペレーションカラーズ支持派と否定派とで小競り合いが勃発した。そしてそれは見る見る内に規模を拡大し、ついにはフェイスのギルド同士の大規模な戦闘へと発展したのである。

 フェイスアルティール校を襲撃しようとする否定派とそれを迎撃する支持派、そしてお互いの戦闘を阻止しようとする仲裁派に分かれ戦闘は規模を増していく。地球と宇宙、ありとあらゆる場所で同様の混乱が始まっていた。守ると誓ったシティ、しかしそこで暮らす人々の意思のぶつかり合いがマキナの目の前で世界を破壊して行く――。


「まずいわね……! かなり強い上位のランカーも前線に出てるわ……! もう生徒会やSGの勢力だけじゃ阻止出来なくなってる!」


 無数のミサイルがシティに降り注ぎ、ビルを薙ぎ倒していく。崩れてくる瓦礫の破片の中、マキナは砂を被りながら人々の争いを遠巻きに眺めていた。まるで戦争――。いや、まるでではない。文字通りの戦争である。人間同士がお互いに相反する意思を否定し、引き金を引き続けているのだ。


「皆、どうして……」


「アルティールに居るフェイスの人間は、コロニーの人間も地球の人間も色々居るのよ……! 地球出身者にとってはオペレーションカラーズは望ましくないものだから……」


「だからって武力で抗議したって何にもならないのに――!!」


「どちらも引けないのよ……! 無責任な希望は人の世の中に混乱を齎すだけ……。セブンスクラウンはこうなる事にも気づかなかったっていうの……?」


 二人の頭上を一機のFAが跳躍していく。それに続き、数機のFAが駆け抜けていく。市街地にはまだ市民が残っているというのに、戦闘が止まる気配はない。二人はそのままフェイスのビルへと急ぎ、門の前に辿り着いて我が目を疑った。

 フェイスの周囲は当然、特に激戦区である。生身の人間やFAが銃撃戦を行っており、爆風が熱を帯びて道路を吹きぬけていく。モノレール輸送用のレールに吊るされた否定派のFAがフェイスへと頭上から降り注ぎ、それを迎撃する支持派が一斉に砲撃を開始する。その激しさはアルティールそのものを破壊しつくしかねない程であった。


「ああもうっ! フェイスには近づけないわね……!」


「街が……。街が壊れちゃうよ……!」


 二人が頭上を見上げていると、フェイスを取り囲んでいるカナードの一機が二人の存在に気づいた。当然二人はオペレーションカラーズに関わる人間、カラーオブブルーそしてカラーオブレッドとして認識されている。否定派にしてみれば優先的に抹殺すべき目標でもある。FAに乗っていればカラーズは無敵の強さを発揮するが、生身ならば所詮は人間である。振り返ったカナードがアサルトライフルを構え、それに気づいたアテナがマキナを抱いて建造物の隙間に飛び込んだ。

 つい先ほどまでマキナが立っていた人工金属の大地を無数の巨大な弾丸が削り、轟音が鳴り響く。アテナは振り返らず、倒れたマキナの手を引いて走り出した。兎に角今は否定派に殺されてはならないのだ。元々仲間だった人間に対して容赦なく引き金を引くことが出来る――傭兵としては当然の事である。それを理解しているだけにアテナは脅威を肌で感じ取っていた。


「走って! 狭い通路を走ればFAなら追いつけないわ!」


「お、お姉ちゃん……っ!」


「貴方は死なせないわ……! 何があっても必ず……私が守るから――!」


 二人が市街地を移動する中、二人を追いかけるノエルとラグナの姿があった。市街地で戦闘が勃発した時、四人は元々同じ場所――つまりマキナの部屋に居たのである。オペレーションカラーズ始動の発表があり、結局直ぐには指示が出なかったので一度自宅待機という事になったのである。しかし何があるかわからないという事で、アテナ、ノエル、ラグナがマキナの護衛としてつくことになったのである。

 護衛というよりは一箇所に待機していたほうがいいという考えであったが、結局マキナが飛び出していくのを止める事が出来なかった。ラグナは困った様子で苦笑いを浮かべ、隣を走るノエルは眉を潜めていた。


「お姉様、何もこんな状態の街に飛び出さなくたっていいのに……ッ!」


「しょうがないよ。マキナはこの街が好きだし、フェイス同士でやりあうなんて耐えられないだろうしね」


「優しいんだね~、お姉様……♪ そこにシビれる憧れるぅ!」


 身体をくねらせながら器用に走るノエル。その正面、銃を構えている否定派の生徒の姿があった。彼らはノエルの姿に気づき、銃を向ける。


「おい! お前たちは否定派か!? それとも肯定派かっ!?」


「知らんッ!!」


 直後、ノエルは携えていた日本刀を抜き、猛スピードで前進する。突然近づいてきた正体不明の生徒に発砲する否定派であったが、ノエルは左右に素早く動き、避けきれない銃弾は刀で両断してしまう。そしてすれ違うと同時に四人の銃を切払い、そのまま走り抜けていく。


「またつまらぬ物を切ってしまったでござる……」


「いいの? 武器を壊すだけで」


「んー、あんまり人殺しするとお姉様方がうるさいのさぁ……。それよりいい加減、この状況は何とかしないとね。せめてFAがあればなあ~……。格納庫に回りこむ?」


「……うーん、そうしようか。それじゃあ二手に分かれよう。君はマキナを追って、僕はFAを取ってくる……どう?」


「おっけー! それじゃそゆことで!」


 二人は頷きあい、十字路を左右に曲がって分かれた。二人が分かれた道の先、フェイスビル内部の管制室ではシティの様子を眺めるアンセムとジルの姿があった。


「フェイス正門前での被害が増大中!! 否定派の数が多すぎますっ!!」


「否定派は上空の輸送用レールを占拠している模様! セントラルタワー周辺を拠点とし、フェイスへの攻撃を継続しています!」


「くそっ! アンセム、どうする……!? 敵にも指揮官がいるぞ!」


「優秀な生徒が多いのが仇になったか……。フェイスはそれぞれが複数の役割に特化した傭兵組織だ。現地で部隊編成するなど造作もないだろう」


「ったく、生徒同士で戦うなんて馬鹿げた事を……! うおっ!?」


 管制室を揺れが襲ったのは、放たれたミサイルを撃ち落し切れなかった為である。ビルは頑丈な作りになっているし管制室は地下にあるので直接的な被害は皆無であったが、何発もミサイルを打ち込まれればビルは倒壊し、事実上アルティール校は崩れ去る事になる。


「……生徒会勢力が正門前の防衛に当たりました! しかし、支持派のギルド、“オーベルフィナ”“スティンバイト”“フレイムギア”が壊滅状態!! SG勢力はセントラルタワーで戦闘中! 囲まれています!!」


「支持派より否定派の方が圧倒的に多い作戦というのも考え物だな」


「そんな暢気な事言ってる場合か!? このままでは確実に全カラーズに危害が及ぶぞ! オペレーションカラーズなんて遂行するどころの騒ぎじゃないッ!!」


「ジル、お前はどうなんだ? この作戦を支持するのか? それとも否定するのか――?」


 両手をポケットに突っ込んだまま、アンセムが問いかける。二人の正面に浮かんだ無数のモニターの中では今でも生徒たちがお互いに銃を向け合い、次々に磨耗して行っている。その景色を背景にジルは目を閉じ、それから真っ直ぐにアンセムを見つめた。


「私はフェイスの教官だ。オペレーションカラーズに参加する義務がある。セブンスクラウンの提案も魅力的だ。だが――今は目の前で起きている生徒同士の戦いを止める事が最優先だ。支持するとかどうとか、そんな事は関係ない!!」


「……では、お前はどちらにもつかないんだな?」


「私はセブンスクラウンの味方でも、フェイスの味方でもないっ!! 私は“生徒たちの味方”だっ!!」


 力強くそういいきったジルを見つめ、アンセムは一人で納得するように頷いた。その様子に首をかしげるジルであったが、アンセムは笑顔を作り眼鏡を外して上着を脱いだ。そしてそれをジルに託し、背を向ける。


「それでいい。それならばお前にここを任せても大丈夫だな」


「アンセム……?」


「私も――いや、俺も出よう。これ以上目の前で生徒たちが死んでいくのを黙ってみているわけには行かないだろう?」


 管制室を立ち去るアンセム。その背中を見送り、ジルは不安げに目を細めた。そして直ぐに気持ちを切り替え、管制室を見渡す。


「お前たちも今は作戦がどうとかは考えるな! 一人でも多くの仲間を救うんだ! その為だけに行動しろ! いいな!?」


「「「 了解!! 」」」


 そう、この学園で教師となったのは決してこの世界を救うためなどではない。ただ、身近な人を守りたい――。そして戦場に赴く生徒たちを守りたい。それだけだった。今こそ義務を果たす時なのだ。この、大いなる戦場の中で――。




Jihad(1)




「……なんとか撒いたみたいね」


 路地裏のゴミ箱に隠れ、身を乗り出して様子を伺っていたアテナが安堵の息を漏らした。その影に覆われマキナは座り込み、膝を抱えていた。ずっと考え続けていたのはオペレーションカラーズ、そしてこの戦いのことであった。


「お姉ちゃん……」


「何?」


「オペレーションカラーズ……ぼく、やりたくないよ」


 顔を上げ、揺れる瞳でじっとアテナを見つめるマキナ。紅の座に着くカラーズとして、その蒼の言葉を看過する事は許されなかった。しかしマキナの言葉はアテナの本音でもあった。たとえ自分たちがこの作戦の為に産み落とされた命なのだとしても――。この世界に蔓延る現実を前に、迷いを消し去る事は出来ない。

 出来るならば誰も戦わない世界が欲しい。しかしそれは叶わないのだ。だから誰もが生きる為に戦っている。それでもある一定のバランスは保たれてきた。しかしオペレーションカラーズが始まってしまえば世界は大きくその姿を変えてしまう。生きていくことが出来なくなってしまう。だから誰もが必死なのだ。今この瞬間に全ての命を投げ打っているのだ。だから誰も後には引けない。

 勿論、判っている。カラーズとして何をしなければならないのか……それはわかっているのだ。少女が生きた人生は今この瞬間の為にあったのだと言っても過言ではない。しかし、それでも――。


「オペレーションカラーズは、本当に人に幸せを与えるのかな……? お姉ちゃんはどう思う……? これでいいの……?」


「…………それは! でも、地球を取り戻す事が出来ればこの世界は救われるのも事実なのよ……? エトランゼに怯え、それで人と人とが殺しあう世界……その問題を解決出来るかもしれない」


「…………うん。それは、判るよ。判るけど……じゃあ、地球の人はどうなっちゃうの……!? ここの人は? アルティールは!?」


 詰め寄るマキナを前にアテナは何も答える事が出来なかった。マキナはじっと押し黙るアテナを見つめ、それからすっと立ち上がった。


「ぼく、行かなきゃ――」


「待ちなさい! まだ外は危険よ! 貴方はカラーオブブルーとして命を狙われているのよ!?」


「それでも守らなきゃいけないものがあるから……。お姉ちゃん、一緒に来てくれるよね……?」


 マキナはそっと、小さな手をアテナへと差し出した。しかしアテナはそれを取る事が出来ずに居た。マキナはオペレーションカラーズに参加しないつもりなのだろうか? 仮に参加しなかったとして、彼女はどうする? 世界は?

 世界を救うことこそ母マリアが望んだ事なのではないか? 恒久的に続く人の幸せの為には何かを犠牲にしなければならない……それも一つの事実なのだ。無限の未来を手にするために、目の前の一瞬から目を逸らす……。それが大人の選択なのではないか?

 手を取る事をためらうアテナを見つめ、マキナは優しく、しかし寂しげに微笑んだ。そして伸ばした手を引っ込め――慌ててそれを取ろうとしたアテナに背を向ける。


「無理を言っちゃってごめんなさい……。ぼく、行きますね」


「あ……っ! 待ってマキナ!! 私はっ!!」


 制止する声も聞かず、マキナは走り出した。伸ばしかけた手が愛しい人から離れていく――。慌ててその背中を追いかけようと動き出したアテナだったが、路地から飛び出した時に見たのは大地を貫き伸びる蒼い光であった。

 大地を貫き、姿を現したのは蒼の座であるジークフリートである。ライダーであるマキナはここに居るというのに、ジークフリートはまるで主の意思を感じ取ったかのように姿を現したのだ。その蒼い瞳がマキナを見下ろし、コックピットが一人でに開く。


「マキナッ!!!!」


 ジークフリートのコックピットから顔を出したのはアポロであった。マキナをせかすように鳴き声を上げ、ジークフリートは手をそっと差し伸べる。その手の上に乗り込み、コックピットへと姿を消すマキナ……。そして蒼き機体は背を向け、自らが開けた穴へと飛び込んでいく。大穴の傍に駆け寄り、マキナが落ちていくのをアテナは見送る事しか出来なかった。


「くっ!」


 何故あの時手を取る事をためらってしまったのだろうか――? マキナを守りたい。マキナと共に在りたい……。しかし、二人の間には大きな壁があることにまだ二人は気づいていないのだ。

 マリアの遺志を守る事に忠実なアテナと、マリアの遺志よりも己の意思を優先し今を生きるマキナ……。二人の間にあるものはほんの僅かな薄氷一枚。しかし、それは絶望的に二人の意識を隔絶させる――。

 下のシティへと降り立ったジークフリートは戦場の真っ只中に居た。左右には銃撃戦を行っていたFAたちがずらりと並んでいる。突然現れたジークフリートの姿に一瞬停止し、そして次の瞬間ジークフリートはまるで翼のようにフレアユニットを広げ、そこから剣を取り出して告げた。


「邪魔をしないで下さい。近づかなければ決して危害は加えません。戦闘を中断して下さい。これはお願いではなく――命令です」


「カラーオブブルー……!? マキナ・ザ・スラッシュエッジか!?」


 一斉に動き出す否定派の機体。ソードを手にマキナへと駆け寄っていく。少女は蒼い瞳を開き、ERSをフル稼働させる。ジークフリートの周囲に蒼い光が迸り、そして時が制止する。

 否、実際には時が止まっているわけではない。マキナにだけ見える、未来のビジョン――。周囲を取り囲む十機以上のFAの動き全てをその刹那で見切り、ジークフリートは行動を開始した。

 近づくFA全てを見る見る内に撃退して行く。足を、腕を――。決して命は奪わぬように切り付けていく。その動作は完璧である、精密機械を思わせる程であった。冷静にジークフリートを制御し、剣の乱舞で戦場を制する――。ジークフリートのバージョンアップ、そしてアンセムとの訓練でマキナは確実に機体を制御出来るようになりつつあった。

 一瞬で十機を越えるFAが切り刻まれ、後には無傷の蒼が残る――。誰もがもう手を出そうとはしなかった。場を包んでいるのはただただ戦慄のみである。ジークフリートは瞳だけを動かし、未だに武器を構えているFAをにらみつけた。


「寄らば斬りますよ。余計な事はしないで下さい。こんな所で喧嘩している暇があるなら、貴方たちも大事な人の所に向かったほうがいいよ。わかった?」


 次の瞬間光の線が迸り、大地に四角く穴が開く。プレートの大地ごと下へと落下していくジークフリートを見送り、戦闘中だったFAたちはただただ沈黙していた。




「――まさかこんなに早く僕らの動きが見抜かれるとは思っていませんでしたよ、カラーオブグリーン」


 地上を走る巨大な軍用艦、シュトックハウゼン。その甲板に立ち、巨大な戦斧を肩に乗せたローエングリンは隣を走るもう一つの軍用艦の上に立つエリュシオンを見つめていた。

 二つの戦艦は全く同じフォルムをしており、異なる部位といえばカラーリングくらいである。そう、エリュシオンが立っているのはシュトックハウゼンの同型艦、“ヘルムヴィーゲ”なのである。エリュシオンは剣と盾を手に、並走するもう一つの戦艦を見つめていた。ザックスはコックピットの中、眉を潜める。


「当然、お前たちも動くだろうと考えていたからな。勿論自力で発見したわけではないさ。君はカーネストとやりあっただろう? 彼に教えてもらったんだ」


 それはカリスがベガを脱出する際の戦闘の事である。ヘルムヴィーケの主砲の直撃を受け、吹っ飛ばされたヴァルベリヒであったが、その時カーネストはアギトアームを伸ばし先端からアギトアームの爪をヘルムヴィーケに飛ばしていたのである。


「知っていたか? アギトアームに限らず、カラーズ機には己の一部がどこにあるのか何となくわかるような力があるのさ」


「当然でしょう? 僕のエリュシオンも貴方たちと同じ力を持った存在……。“エトランゼ”の力を持っているのですから」


 エリュシオンが剣を正面に構え、そして遠く離れたローエングリンへと向ける。ザックスは溜息を漏らし、そして最悪の予想が的中した事を恨めしく思いながら煙草に火をつける。


「……そうか。やはりその機体は私たちの機体と同じく……」


「そう。マリアの遺産――始まりのフロウディングアーマー。言わば第七のカラーズという事ですよ、僕は」


「……その機体はやはり、セブンスクラウンか」


「今では僕のものですけどね。どうせネクストにしか動かせない仕様なんだ、彼らには宝の持ち腐れですよ。それより、どうするんですか? 僕のエリュシオンとやりあいますか?」


 そう、カラーズ機とはネクストが動かす事を前提とした機体である。その真の力は封じられ、普段はその本当の姿が露になることはない。しかしその封印を解き放ち、オーバードライブと呼ばれる状態に回帰した時、カラーズ機はそれまでとは比べ物にならないほどの力を発揮するのである。

 しかし、ザックスはノーマルのライダー。つまり真の力であるオーバードライブは発動出来ないのである。必然、オーバードライブを発動出来るエリュシオンと発動出来ないザックスとでは有利不利は明確になる。増してやカラーズ機同士の戦いにおいて一般のFAの数など話にならない。一対一で対峙している今、ローエングリンの勝ち目は薄いと言わざるを得なかった。


「僕らの目的はもう判っているんでしょう? 別に貴方には興味はないんです。どうせ貴方にはカラーズとしての資質もないのだから」


「確かにな。私はカラーズとしては相応しくないのかも知れん……。だが、だからといって君たちを行かせるわけにもいかんな!」


「“大人しくしていれば見逃してやる”と言ったつもりですが……聞こえなかったんですか?」


「機体の性能が戦闘の全てではないのだよ、カリス君ッ!! 勝負はやってみるまでは判らんさ!!」


「――――命を無駄にするような真似を……。いいですよ。だったらその翠の座――ここで星の光に埋めてあげましょうッ!!」


 二機が同時に戦艦の上から跳躍し、空中で刃を交える。火花が散り、エーテルが迸る……! 二機を置き去りに過ぎ去った戦艦を横目に二人はカナルの上へと着光し、同時に間合いを広げた。


「オペレーションカラーズを遂行する……それで世界が平和になるとでも本気で考えているんですか!?」


「そうは思ってないさ!! しかし君たちのような亡霊を放置する事も出来まい!! 産み落としたのが我々ならば――せめて餞ようではないか!!」


「ノーマル風情が……!! ネクストを舐めるなよッ!!」


 ビームソードライフルを連射しながら移動するエリュシオン。しかしその攻撃はローエングリンの周囲に展開された光の結界に弾かれてしまう。アンチフォゾンフィールドを盾に斧を構え、脚部からミサイルを乱射しながらスピンしエリュシオンへと近づいていく。

 降り注ぐミサイルの雨の中、エリュシオンは翼を広げて猛スピードで駆け回りそれを回避していく。剣を後ろ、盾を前に構え、正面から突っ込んでくるローエングリンへとこちらも向かっていく。

 二機の持つそれぞれの盾が激突し、カナルが揺れる。続けて同時に繰り出された互いの刃が中空で高鳴っていた。パワーで押し切られ、後退するエリュシオン。下がりながらカナルへと手を突っ込み、それを思い切り引き上げる。


「なんと!?」


 エーテルの光が波となり、ザックスの足場を揺らがせる。その大地ギリギリを波に乗って駆け抜け、エリュシオンがすれ違い様に一閃。刃はフィールドを貫通し、ローエングリンの装甲に傷をつけていた。


「その盾もカラーズ機相手では完全とは行かないようですね!」


「なんのなんの! まだまだこれからよ!! ぬうッ!!」


 ミサイルを放出し、肩、腰、腕に装備した無数の重機関銃を一斉に発射する。弾丸の嵐を前にエリュシオンは盾でカナルの光を掬い、回転しながらそれを周囲に放出する。固形化された光が壁と成り、銃弾の嵐を防いでいた。


「カナルの支配か……!」


「時代の違いを見せてあげましょう。カラーオブグリーンッ!!!!」


「若い者にはまだまだ!! 負けんよぉおおおおおおおおッ!!!!」


 再び刃が交わる。甲高い音が何度も空に響き渡り、カナルは猛り、叫びが木霊する。二つの機体は同時に離れ、己が宿敵を捕らえた。二人の視線が交錯し、そして再び激しい攻防が始まる――。

 

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