Phantom(3)
――幸せな日々を失ったのは、誰かの所為ではないのだと判っている。
戦うのはこの世界がそれを望むから。生きる為に何かを犠牲にしなければならないのは当然の理。漠然と連なる運命の因子の中、はじき出される結果は常に平等で狡猾で単純なのだ。
ニアの死さえもただの結果に過ぎない。マキナがそれを誰かの所為にするのはお門違いだし、それは勿論マキナの所為でもない。だがそれでも人間というのは何か理由を欲しがる生き物だ。IFというどうしようもない空想を止められないのならば、人はその架空に翻弄されて生きるのが性なのかもしれない。
理由。由来。根本――。必然、偶然、運命……。どれも関係のない事だ。この世界全体からしてみれば全ては成るべくして成り、在るべき形で在るに過ぎない。だが、人はそれに納得する事など出来ない。人は考える生き物だ。人は故に理由を求め、人は時に己を縛る。
言葉という概念を見失い、獣のように悲鳴を上げながら前進するジークフリート。そのコックピットの中、蒼い髪を揺らして少女は憎むべき相手を捕らえていた。レーヴァテインはそれと対峙し、構えを取る。尻尾をゆらりと揺らしながら悠然とした様子は余裕さえ感じられる。膨大なエーテルを放出しながら猛進してくるジークフリートは暴走する魔物そのものである。どちらも魔物――恐れる事は無かった。
飛び掛ってきたジークフリートを尻尾で薙ぎ払う。繰り出された尾の一撃、それを手で掴んで受け止め、ジークフリートは食らいついていた。四つの視線が交錯し、振り払われた蒼い光が空を舞う。フレユニットを開き、そこからロングソードを二本取り出しジークフリートは落下地点にあったビルを蹴り、再び跳躍する。
空中から飛来する影――。それに対峙するようにレーヴァテインは拳を構える。その挙動は以前マキナが対した時とは異なり、理性を感じさせた。あの時はただ暴力的に力を振るっていただけであった。しかし今のレーヴァテインは……人間にも匹敵する高度な知性で制御されているように見えたのだ。
繰り出される超スピードの剣。刃は蒼い軌跡を描き、周囲のビルを切り倒していく。繰り出される一撃一撃が必殺の威力を持ち、目にも留まらぬ速度で滅茶苦茶に繰り出される。一見闇雲に見える感情的な太刀筋、しかしそれは正確にレーヴァテインの防御の合間を縫うように繰り出される。
まるで未来がわかっているかのような攻撃にレーヴァテインは成す術も無い。両手と尻尾で剣をいなしながら徐々に後退しているのは、明らかに追い詰められていることを示している。あの時は傷一つつける事の出来なかった魔物の装甲、しかしジークフリートの刃はそこにくっきりと傷跡を刻み付ける。
マキナは口元に笑みを浮かべ、唇を舌で舐めた。これなら倒せる。これなら負けない。絶対的な力を手に入れた。ニアを殺し、自分を不幸の道へと叩き落した化け物――それを狩る事が出来る。これなら互角。性能で劣らないのならば勝算は大きい。勝敗を二分するはライダーの腕前のみ――ならば。
猛攻が続く。滅多斬りにされ、しかしそこは魔物の王である。如何に攻撃を加えられ続けたとしても、傷ついた傍から自己修復を完了してしまう。防御する事を諦め、剣の乱舞へと一歩踏み込む魔人。繰り出した拳は重ねた二対の剣を一撃で貫き、ジークフリートの顔面へと迫る。
衝撃が走った。ジークフリートの顔面に拳は鋭く減り込んだ――そのはずであった。しかし、ジークフリートは全く傷ついては居なかった。アスファルトの上に零れ落ちた大量の血液――それはジークフリートの物ではない。拳を繰り出した、レーヴァテインの物であった。
蒼き騎士は顔の形が変形するまで口と思しき部位を開き、拳を丸々口の中に収めてしまっていたのである。無数の歪な牙が魔人の肉に食い込み、装甲を砕いている。白い吐息を無数に上げながらジークフリートは目を細め、顎で噛み砕いた拳を首を使って引っ張り寄せる。体勢を崩したレーヴァテインの胸を一瞬で六本の剣が貫き、再び血飛沫が街に舞った。
空から紅い雨が降ってくる――。人々が逃げ去り静けさに侵食されていく景色の中、マキナはコックピットで高笑いしながら機体を反転させ、鋭く蹴りを繰り出していた。剣の上から加えられた打撃はレーヴァテインの内側に響き渡り、巨躯が吹っ飛んでいく。市街地を滅茶苦茶にしながら吹っ飛んでいったレーヴァテインが肩膝を着いたのを見て少女は新たな剣を手に握り締めた。
“倒せる”――! 確信する現実。あの日は手も足も出せなかった化け物が今ではどうだ? まるで他愛の無い赤子のようではないか。殺せる。首を落とすことなど容易いだろう。不死身の魔龍とて狩りとって見せよう。この新しい力があるのなら――。
『――むっきゅう』
その時であった。止めを誘うと前に一歩踏み出したジークフリートの足が止まる。機体は口からダラダラと唾液を零しながら、瞳の光を点滅させていた。コックピットの中、マキナはようやく意識をはっきりと取り戻した。熱に浮かされるように憎しみに取り付かれ、ただ爆発する感情のままにジークフリートを操ってしまった。まるで憑き物が落ちたかのようにすっと冷静さを取り戻したマキナは自分が自分の汗に溺れそうな状態になっていた事に気づく。
体力は限界まで衰え、視界は霞んでいた。もうこれ以上少しでも機体を動かせば、マキナの命をがりがりと音を立てて削り取っていく所であった。おぞましいほどの激痛が全身に走り、ようやく認識する。自分がどれだけ無理をしていたか。どれだけ肉体を酷使し――命を削って戦っていたのか。
ジークフリートはそれでも前に進もうともがいていた。まるで機体はマキナの憎しみそのもので、マキナという存在を食らいながら必死にただ復讐だけを追いかけるように。機体が勝手に一歩、また一歩を歩みを進める。しかしやがてジークフリートの足は止まり――その場で震えながら静かに力を失った。
停止した動力。静まり返ったコックピットの中、マキナの熱が篭った吐息だけが響き渡っていた。痛みが徐々に和らぎ――そして周囲を眺める。先ほど、アポロの声が聞こえた気がした。常にマキナと共に在った白いうさぎ――それはもう、消えてしまったのだ。どこにもいない。何故今まで気づかなかったのだろう? アポロは先ほど消えてしまったのに。
「アポロ……?」
霞んだ声で名前を呼んだ。しかしその柔らかい感触も暖かな体温も今はもう感じ取れない。周囲に広がるのは自分があれだけ守りたいと願っていた街の変わり果てた姿……。全ては切り刻まれ、叩き壊され、思い出は自らの手で砕かれてしまった。
「嘘……。違う……。ぼく、こんな事がしたかったわけじゃないのに……っ」
しかしそれは紛れも無い現実である。両手で顔を覆い、苦しむマキナの正面でレーヴァテインは立ち上がり、自己修復を完了していた。剣で貫かれた傷も今は完全に癒えてしまっている。憎むべき相手がゆっくりと足音を響かせ行軍してくる。戦わねばならない。戦わねばならない……。心の中で何かがずっとそう叫んでいた。
だがしかし、戦えば大切なものを壊してしまう。戦えばこの命さえ失ってしまう。マキナは初めてジークフリートの力に恐怖した。力はただ力だ。故に真に恐ろしいのは――己の身の中にある憎悪である。
「でも……だって……。ニアが死んじゃったんだもん……しょうがないじゃないか……!!」
明るく微笑んでいた少女の幻影が脳裏を過ぎる。自分をいつも見守ってくれた。時には助け合い。喧嘩もしたけれど。それでも大切な友達だった。一番の友達だった。優しさを教えてくれた。絶対に守りたかった人――。
ジークフリートが再起動する。止まっていた歩みをゆっくりと、ゆっくりと再会していく。ニアの事を思えばその暖かい気持ちは全て憎しみに変わってしまう。大切だったからこそ、大切であれば大切であるほど、その反動で心の闇は増して行く。
顔を両手で覆いながら、マキナは己の心の闇と必死に葛藤を繰り返していた。仇を討つべきだと叫ぶ心。戦っても意味はないのだと囁く心。暴れ狂う二律背反する意識の中、ジークフリートはそれでも前へと進んでいく。
二つの巨人がゆっくりと、ゆっくりと迫り来る。あの日、ニアは自分を救う為に全ての事をしてくれた。ニアは自分を救い、守り、そして死んで行ったのだ。その時どんな気持ちだったのだろう……? ニアは満足して死んで行ったのだろうか? マキナを救って、だから死んでも満足だったのだろうか?
『…………むきゅ……』
また、どこからとも無くアポロの声が聞こえた気がした。ふと、マキナは本当の自分の気持ちに気づいた。マキナが憎んでいるのは――レーヴァテインなのだろうか?
違う。それは違うのだ。ずっと誤魔化していた。こうして相対してみて初めて気づいた事が在る。そうだ。怒っていたのは――。憎んでいたのは、この理不尽な世界などではなかった。
「どうして……っ」
涙を流しながらマキナは肩を縮こまらせる。そうだ。だからこんなにもあの子の笑顔を思うと胸が苦しいのだ。
「どうして……勝手に死んじゃったんだよう……っ! ニア……! ニア……!! ニアのばか……!! ばかあああああああああっ!!!!」
そんな事をしても、誰も喜ばない――。マキナがニアの立場だったならば、恐らく全く同じ事をしたのだろう。相手を救う為に全ての手段を尽くしたのだろう。だが、それで彼女は満足するのだろうか。それを本当に望むのだろうか。
そうだ、マキナはニアを憎んでいたのだ。どうしてどんなに可能性が僅かでも、二人とも生き残る手段を選んでくれなかったのだろうか――? 一緒に頑張って。奇跡を信じて……。それで死ぬのならば本望ではないか。残されたり、残したり、そんな事にはならないではないか。
ずっとずっと手を繋いだままで居られるのならば、あのまま死んだとしても一向に構わなかった。それなのにニアは“裏切った”のだ。マキナの気持ちを裏切ったのだ。一緒に居ようという約束を破ったのだ。そうだ、だからマキナはこんなにも憎しみを抱えていた。こんなにも世界を憎んでいた。それは大切な人に裏切られたと感じているから。だからそれを誤魔化す為に――この悪魔を憎んだ。
レーヴァテインはマキナの心の中に巣食う悪夢の象徴なのだ。だからこそそれを憎んだ。しかし本当はそんな事は些細な事だったのかもしれない……。ジークフリートの歩みが完全に停止し、もう動く事は無い。それを見届けるのを待つようにレーヴァテインは暫くの間ジークフリートを見下ろし、翼を広げて作り物の空へと舞い上がった。
何故か、レーヴァテインはジークフリートを倒す事はなかった。自らが空けた穴から脱出し、そのまま遥か彼方へと飛んでいく……。空の彼方に蒼く消えたシルエットを見送り、マキナは放心状態に陥っていた。何を憎み、何の為に戦ったのだろう……? 生きる意味は? 理由は?
「また、理由か……」
小さく呟く言葉。理由、意味……。もしかしたらそれはエミリアの言うとおり、とても些細な事なのかもしれない。コックピットの中、マキナは静かに目を閉じ――そして意識は闇の中に呑まれて行った。
Phantom(3)
銃声が轟き、血の雫が零れ落ちる――。ベガの格納庫の中、分の悪すぎる賭けは一つの結末へと辿り着いていた。血の雫が銀色のプレートを濡らし――片手を押さえ、カリスは苦悶の表情を浮かべた。
「――お、生きてる」
あっけらかんと意外そうに呟くカーネスト。その正面、何故か銃を落とし手から血を流しているカリスの姿がある。つい先ほどまでは絶体絶命であったはずのカーネスト。男は笑みを浮かべ、背後を振り返る。視線の遥か彼方――格納庫の隅の隅。一機のFAの上に布をかけた狙撃銃を構える一人の女の姿があった。黒い所属に紫の長髪――。ゴーグルを装着し、ライフルを抱え込むようにして構えるスナイパーは連続で攻撃を開始する。
周囲を取り囲んでいた者たちの銃だけを撃ち抜き、スナイパーは淡々と攻撃を続ける。一頻り包囲網を崩したのを見計らい、ライフルを包んでいた布を剥ぎ取りゴーグルを投げ捨てて立ち上がる。凛々しい瞳が彼方からカニスを射抜いていた。忘れるはずも無い。男は冷や汗を流しながら彼女の名前を呼んだ。
「――君か、ヴィレッタ……!」
額に大きな傷を作ったヴィレッタはライフルを抱えたままFAからFAへと飛び移り、通路へと向かってくる。一気に逆転した状況にカリスは走り出し、余裕の笑みを浮かべるカーネストの脇を抜けていった。追いついてきた女はライフルを肩にかけたままカーネストへと歩み寄り、静かに溜息を漏らす。
「ナイスタイミングじゃねえか、ヴィレッタ」
「……お前はいつまで経っても他力本願だな」
「どこがだよ? 俺が頼ってるのは俺という死神だぜ? 自力本願だろが」
余りにも変わらないカーネストの様子にヴィレッタは優しく笑みを作る。しかし直ぐに状況は豹変する。ベガの格納庫の中に激しい振動が走ったのだ。直ぐにカーネストは走り出し、ヴァルベリヒへと飛び込んでいく。
「カリスのヤツが逃げる前に追うぜ! 今回の件はツケとけ!」
「……せわしないな、全く」
一年ぶりに会ったというのに、何一つ行方を眩ましていた事に関しても言及されなかった。カーネストにしてみればそんな事は興味の外なのだろう。今はただ追いかけていく獲物の事だけを考えている。
格納庫の外壁を突き破り、外に飛び出したカーネストが見たのはカナルの上を移動するファントムの隊列であった。中心部には隊長機でもあるエリュシオンの姿がある。しかしカーネストにとっては諸々の事がどうでもよかった。獲物を見つけ、黄金の機体はカナルを走り出す。
部下を先に進ませ、エリュシオンはその場で反転した。紅い光を帯びた瞳が輝き、エリュシオンは背後に装備していた巨大な剣を手に取る。エリュシオンの主武装、ビームソードライフルである。
光の刃を展開する大剣を右腕に、左腕にはビームシールドを展開する。騎士の様相のエリュシオンの中、片手に包帯を巻いて応急処置を済ませたカリスが待ち構えていた。
「全く、ヴィレッタはいつも肝心な所で僕の邪魔をしてくれるよ……。どうやら幸運の女神は僕ではなく君に微笑んだらしいね――カーネスト」
「ああっ!? 何言ってんのかよく聞こえねえんだよ、馬鹿がっ!!」
カナルの上を猛進しながら両腕のアギトアームを放出するヴァルベリヒ。左右から襲い掛かる二対のアームを剣とシールドで受け流し、エリュシオンの光の翼が瞬く。急加速し、剣を振り上げて迫るエリュシオンを前にアギトアームはまだ戻らない。しかしカーネストは焦らず、笑いながら脚部ブースターの出力を最大にまで引き上げた。
爆発にも酷似した勢いで噴出した炎がカナルを巻き上げる。エーテルの霧と滝の中、それでもエリュシオンは冷静に剣を振るった。しかし影は低く姿勢を変形させ、剣の一閃を回避する。ヴァルベリヒは脚部を変形させ、鈍重な機体で見事に剣をかわしてみせたのだ。
「早えーな!!」
「君の方こそ、そんな重装備でよくやる――!」
戻ってきたアギトアームを変形させ、拳の部分に牙を作る。鋭く鋭利な形状の腕を揮い、ヴァルベリヒは持ち前のパワーでエリュシオンに襲い掛かる。黒騎士はそれを剣と盾で防ぎ、カラーズ相手に見事に攻防を成立させていた。
突きつけた剣をアームで防ぐヴァルベリヒ。しかし剣の先端が開き、電撃が迸る。次の瞬間圧縮されたビーム弾が射出され、ヴァルベリヒを吹き飛ばした。黒煙を巻き上げながら後退するヴァルベリヒへと手を緩める事無くビームを連射して畳みかけるエリュシオン。ライフルモードの剣を揮い、カナルの上をすべるように横回転しながらすれ違う瞬間一閃――ヴァルベリヒの脇腹を切払って行く。
「そんなものかい、カラーオブイエロー」
「ちょこまかうざってえんだよ!!」
両腕を伸ばし、その場で豪快に回転するヴァルベリヒ。そのままリーメスより電撃を迸らせ、周囲全体を巻き込む巨大な竜巻を生み出した。滅茶苦茶に降り注ぐ予測不能な雷撃の嵐の中、エリュシオンはシールドでそれを防ぎながら何とか後退していく。
「滅茶苦茶だね……!」
「お褒めの言葉ありがとよ!! そこだッ!!」
アームが伸び、エリュシオンの剣を払い落とす。一瞬無防備になったその腕へとアームが食らいつき、右腕を引きちぎる。続いて繰り出された雷撃をシールドでかろうじて防ぎ、エリュシオンは下のカナルへと自ら飛び降りていく。
「逃げんのかよ、失敗作!!」
「君は本当に口が減らないな――」
下のカナルへと落ちていくエリュシオン。次の瞬間何も存在していなかったはずのカナルの上に突然巨大な戦艦が姿を現した。強力なフォゾン迷彩――。追撃の為にカナルから飛び降りようとしていた無防備なヴァルベリヒへと向けられていた砲台が一斉に光を放ち、ヴァルベリヒの全身を包み込んでいった――。
意識を失い、動かなくなるジークフリート。しかしその周囲には今だ次々とファントムが姿を現し続けていた。突然のレーヴァテインという予想不能な横槍によって攻撃は中断されてしまったが、彼らの目標はジークフリートの奪取、或いはライダーであるマキナの抹殺である。
じりじりと迫るファントムたち。ジークフリートはまるで反応する気配がない。先ほどの壮絶な戦いを目の当たりにしているだけに慎重さを求められたものの、動かないのであれば問題ない。
ソードを片手ににじりよる影……しかし次の瞬間、下層からリフトを使って新たなFAが地上へとせりあがってきたのである。リフトの上に肩膝を着いて上がってきたFA――。その色は漆黒。闇を切り取ったかのように完全なる黒。そしてその機体のシルエットは――どこかジークフリートに良く似ている。
機体の足元に駆け寄る一つの小さな陰があった。少女は黒い制服と黒い髪を風に棚引かせ、機体のリフトワイヤーに足をかけて昇っていく。突然現れた機体――しかし格納庫はロックされているはずである。ファントム側もそれが何者なのか見覚えがない……。無理も無い事であった。その機体は格納庫から来たのではない。その更に地下、港から直接ここまで直通のリフトを使ってやってきたのだから。
「間に合って良かったよ〜! 初披露が早まっちゃったのは困り物だけど――でもやれるよね? ね、“斑鳩”――!」
コックピットへと乗り込んだノエルが制服を脱ぎ去ると、その下に着用されていた黒いライダースーツが露になった。コックピットの中は機体に相応しく闇に彩られている。その構造、そしてデザインはまるっきりジークフリートに酷似していた。
少女がコックピットに乗り込むと同時にスーツの背中についたソケットへと無数のケーブルが接続される。降りてきたリング状のユニットが少女の顔を覆い、ノエルはその両手を指輪の中へと差し込んでいく。
「行くよ斑鳩――! “ニーベルングシステム”作動……! I have control! いっくぞぉおおお! たーりほおおおおぅうっ!!」
黒い機体の瞳に光が宿り、黒いフレアスカートが展開する。ユニットからせり出した刃は西洋剣ではなく、明らかに和系のデザインをしている。見たままに表現すればそれは巨大な刀――。九十九などが装備している刀、それが両刃になった物であった。
両手に刀を構える二刀流――。黒い影、斑鳩はシティの中を走り出した。超スピードで一気にファントム隊へと接近し、刀剣の乱舞にてそれを駆逐する。切り刻まれたファントムが流す血の飛沫の向こう、黒い影は陽炎のようにゆらゆらとシルエットを揺らしていた。
反応し、ファントムが攻撃を開始する。一気に放たれた弾丸の嵐を跳躍にて回避し、空中から刀を投擲する。それで二機の機体の頭部を貫き、そのうち一機の上に飛び乗り、再び跳躍する。今度は上ではなく正面へ――。空中で刀を抜きながら回転し、すり抜けると同時に両断する。美しく無駄の無い乱舞――それはジークフリートの動きを彷彿とさせた。
動きだけではない。デザインも、戦略も、装備も、あらゆる面においてジークフリートと酷似しているのだ。余りにも似すぎている二つの機体――。それが背中合わせに並び、斑鳩は刀を軽く空中に放り、それをキャッチして目を細める。余りにも圧倒的な戦闘力にファントムが背を向けた瞬間、一気に両手に構えた剣を投げまくり全ての機体のコックピットを正確に射抜いた。
「これで幕引き――なんてね」
ファントムが爆発し、シティが炎上する。その炎の中、黒い機体はジークフリートを抱き上げて立ち尽くしていた。蒼い機体の中、コックピットにはマキナがまだ眠り続けている。
「ようやく会えたね……マキナ・ザ・スラッシュエッジ。ううん――あたしの“おねえちゃん”――」
炎に照らされ笑みを浮かべる少女。闇の中に浮かぶ恍惚の声。ジークフリートを抱き上げ、斑鳩は空を仰いでいた。まるで何かが始まるような――そんな予感が世界を包んでいた。
〜ねっけつ! アルティール劇場Z〜
*復活の劇場*
ノエル「はーい♪ 今日から劇場はパワーアップ! 名づけて! アルティール劇場Zです!!」
マキナ「…………。うん、誰?」
ノエル「やだなあお姉様ったら♪ 貴方のシスター、ノエルですよう♪」
マキナ「やあああん、だから誰ええええええっ!?」
ノエル「それは次のお話でやるとして……。アンケートの後半戦が開始されたのですよ!! 痒い所に手が届くラインナップになってるはずです!!」
マキナ「あ、もうキャラふえないんだ?」
ノエル「増えないですよ〜!! もう出るキャラは全部出しましたから!!」
マキナ「もう後半か〜。思えば遠くにきたもんだ〜」
ノエル「まだまだこれからですよ! ガンガンいっちゃいますからねーっ!! ふおおおおおっ!!」
マキナ「……。えと、そんなわけなのでアンケート後半戦もよろしくお願いしまーす」
ノエル「ふおおおおおおっ!!!!」