表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/83

Siegfried(2)

「広域探査レーダーに反応あり! エトランゼですっ!!」


 アルティールの管制室にどよめきが走った。他のプレートシティと違い、アルティールは地上から固定されている塔なのだ。カナルの上に浮いているのではない以上、もしもエトランゼが出現した場合はただ迎撃する事しか出来ない。

 しかし、レーダー上に出現しているエトランゼの反応は誰もが無言になってしまう程であった。沈黙する管制室の中、ジルは冷や汗を流しながら歯軋りする。


「数……五千――だと……?」


 カナルから溢れんばかりに密集し、ぞろぞろと移動する蟲の姿があった。それは文字通りの津波――。蠢くエーテルの肉塊である。無数に煌く目の光だけが闇の中で淡く輝き、より一層不気味さを演出している。

 五千の軍勢はまだ増え続けるだろう。やがてそれはアルティールに到達し、何もかもを根こそぎ剥ぎ取っていく……。進路は変わる様子も無く、絶望は足音と共に着実に接近を続けていた。アルティールを捨てて逃げ出す事は出来ない。住人の避難も間に合わず、迎撃するにも戦力が不足している。一体五千機もの数のFAを纏まって運用できる組織がどこにあるというのか。フェイス全ての機体を集めたとしてもそれほど行くかどうか判らない。


「警報を出せ……。スクランブルだ。急げ!! 私も現場で指揮を執る!」


「はっ、はいっ!!」


「うろたえてくれるなよ……! ただでさえ、戦力不足っていう時に……!」


 流れる大量のエトランゼを見下ろすいくつか上のカナルの上、アルティールへと向かって移動する輸送艇の姿があった。窓にへばりつくようにして眼下を見下ろす黒髪の少女は目をきらきらと輝かせながら側近に語りかける。


「あれ、エトランゼだよね!? あんなにいっぱい……。アルティールに向かってる」


「そのようですな」


「ジークフリート、出てくるかなっ!?」


「どうでしょうか」


「出てくるよ、きっと! 運転手さん急いで! パーティーに間に合わなくなっちゃうよ!!」


 アルティール全域に混乱が発生していた。戦う術を持たない人々はエトランゼの脅威に怯え、逃げ道を探した。しかしどこにも逃げられる場所などない。フェイスの隊員たちは一斉に行動を開始し、FAを乗せた輸送艇が次々に出撃していく。そんな中、シュトックハウゼンに戻ったリンレイは船を動かす準備を進めていた。


「すみません、遅れましたっ!! 艦長は!?」


「まだ戻りません! ついでに連絡もとれません!!」


「…………。艦長は必ず来ます。ローエングリン並びにシュトックハウゼン隊の出撃準備を!」


「リンレイ、艦長宛に通信が入ってる!」


「こちらに回してください!」


 自分の席に着き、インカムを装着するリンレイ。通信回線を開くとそこには見覚えのある顔が姿を現した。カラーオブイエロー、金髪の男カーネスト・ヴァルヴァイゼである。カーネストは通信に出たのがチャイナドレスの女性だったので一瞬呆気に取られ、それから苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。


『あのオッサン、変態だとは思ってたがいよいよ部下にチャイナドレス着せる職場にしやがったのか』


「あ……。いえ、これは違います、私の私服です」


『私服……ッ!?』


 逆にその方が驚きなのだが、まあこの国籍も人種も言語も関係のないご時世に外見云々を語る時点で場違いなのかもしれない。カーネストは直ぐに気持ちを切り替えて話を切り出した。


『アルティールの方がヤバいって聞きつけてな。援護するぜ。どうせシュトックハウゼン隊が前に出るんだろ? 最前線希望だ。座標を転送してくれ』


「え……? 随分と、タイミングがいいですね」


『ジークフリート拝みにそっちに行く途中だったんだよ。ブラックの爺さんもそっちに向かってる。月にいるナナルゥ以外は全員揃いそうだぜ』


 カラーズ六人中グリーン、イエローがアルティールに向かい、ブラックも遅れて到着する。更にアルティールには起動実験中のジークフリート、そして紅のブリュンヒルデが待機している。しかしそれでもまだ足りない。五千という絶対的戦力差を覆すには余りにも心許ない希望だと言えるだろう。


『兎に角伝えたぜ。ザックスが出ねえって事はどうせ不在なんだろ? 到着までに二十分はかかる。そっちから連絡くれよ』


 通信が強制的に遮断され、カーネストの姿が消える。リンレイは暫く消えた男の面影を思っていた。旅団がゴタゴタに巻き込まれる原因を作ったのは彼であり、それに関して何も思わないわけではない。しかし今は一刻を争う事態であり、そして彼は優秀なライダー、カラーオブイエローなのだ。それが現実であり、それ以上も以下も無い。

 気持ちを割り切ってリンレイは立ち上がる。シュトックハウゼン隊は明らかに浮き足立っていた。既に何度も対エトランゼ戦の経験をつんできた彼らではあるが、元々はフェイス出の新人が殆どなのである。ザックスの的確な指揮とローエングリンの絶対的な切り込みがあって、ようやく彼らは何とか一人前として戦ってこられたのである。頼みの綱のザックスが不在なのでは落ち着かないのも無理はなかった。

 何とか気持ちを静めてやりたいものだが、自分が鼓舞したところで彼らを励ます事は出来ないだろう。結局リンレイは溜息を漏らし、ザックスの席に向かう。ローエングリンの出撃コードを打ち込み、ハンガーを動かしながら顔を上げた。


「全員FAにて待機してください! 艦長は必ず来ます! シュトックハウゼンは出撃準備状態のまま待機! 艦長が戻り次第、前線に突撃します――!」


「――“ネクスト”……?」


「そうだ。そう呼ばれている」


 格納庫、ブリュンヒルデの前でザックスとアテナは肩を並べていた。その正面には片手をポケットに突っ込んだアンセムの姿がある。三人は対峙する状態になり、アテナはただただ繰り広げられる話に唖然とする事しか出来なかった。

 いたるところでアラートが鳴り響き、スクランブルは確実。しかしそのあわただしい世界の中で三人だけは静かに停止していた。アンセムは眼鏡を外し、アテナを見やる。真紅の髪の少女は冷や汗を流し、生唾を飲み込んだ。


「ネクストアナザーヒューマン……。第三世代アナザー、とでも言うべきか。第二世代アナザーが第一世代の生き残りの子孫である事を考えると、完全に新規に生み出されている者を第三世代と呼ぶのは正しくないかも知れんがな。それ故のネクストアナザーという名称だ」


 かつて、エーテル環境に適合するために生み出された新人類、アナザー。その多くは実験途中で死亡し、生き残ったのはごく僅かであった。その時点でアナザー計画は一度頓挫し、そして生き残ったアナザーは子孫を作り、それが第二世代となった。だが第三世代はそれらとは全く異なるルーツから産み落とされた存在なのである。

 そう、その製造方法は第一世代と同じ――。人の手により存在を改変され生み出された人ならざる人――。アナザーを超える身体能力をエーテル適応能力を持ち、絶対的な力を誇る存在――。“ネクストアナザー”。それこそ、アテナの存在の正体であった。

 ネクストは秘密裏に産み落とされ、秘密裏にその存在を戦場で試されていた。世界はネクストのための実験場だったのかもしれない。秘密裏に産み落とされたそれぞれの“色”に適合する子供たち――。アテナもその中の一人なのだ。


「そんな……。それじゃあ私……私は、ブルーの子供じゃない……?」


「…………。いや、君は彼女の子供だ」


「だって作られた命じゃないっ!!!! カラーズになる為に産み落とされたって事!? 私たち、そのネクストっていうものが!!」


「アンセム……この事を話さないのはフェアじゃなかったんじゃないのか。何故お前は黙っていた……? ナナルゥもカーネストも、マキナ・レンブラントもまたブルーが計画した“オペレーションカラーズ”の為の布石。その事実を知らせぬ内に世界の命運を背負わせるのは不義理というものだろう」


 オペレーションカラーズ……それはカラーオブブルーと呼ばれた女が画策した計画。この世界にいずれ目覚めるエトランゼという脅威に立ち向かう事が出来る六人の人材を育て上げるという途方もない計画。その為に多くの犠牲と血の洗礼を繰り返し、祭壇の上に新しい命を築き上げたのである。それがカーネストであり、アテナであり、ナナルゥなのだ。

 この計画を知っているのはフェイスの中でもごく一部、そしてその上層組織であるセブンスクラウンのみである。ザックスはカラーズの一員としてこの計画に加担してはいるが、ネクストアナザーではない、いわゆるノーマルと呼ばれる人間である。彼はカラーズでありながら、他のカラーズの面倒を見る世話係でもあるのだ。そんな彼がネクストたちを我が子のように思い、案じているのは別段おかしな事ではなかった。


「兄さん……! ネクストって何なんですか……!? カラーズって何なんですかっ!! 私に――マキナに何をしたのっ!?」


 少女の叫びを遮るように鳴り響く警報。黙り込むアンセムにザックスは溜息を漏らし、アテナの両肩をに背後から手を載せた。


「さて、この話はまた今度だ。緊急事態もいいところのようだからな」


「離してザックス!! 兄さん!! 兄さぁああんっ!!!!」


「アンセム……この子たちと誠実に向き合ってやれ。昔のお前にマリアがそうしたようにな」


 アンセムはやはり応えなかった。ただ背を向け、去っていく。その後姿を見送り、アテナはあの日自分を捨てて去っていった母の事を思い出していた。二人の背中が重なり、アテナの中で何かがぶつりと音を立てて切れてしまった。少女の絶叫が格納庫に響き渡り――その悲しい叫びさえも全ては警報の音にかき消されていく――。




Siegfried(2)




「警報……? 何か、あったのかな……」


 けたたましい音に眠っていられなくなったマキナが病室で顔を上げる。夜の闇の中、響く喧騒はマキナにとって遠いものでしかなかった。それでもゆっくりと立ち上がり、窓の外に広がる世界を見下ろす。混沌とした狂気が見え隠れする闇の中、深くついた息はどこか熱に浮かされているかのようだった。

 行かなければならない――。何となく、そう思った。街に起きている異常はきっと緊急事態なのだろう。その場で服を脱ぎ、壁に吊るしてあった蒼いライダースーツに袖を通す。長い髪を結び、マキナはゆっくりと歩き出した。激しく行き来する人々の中、逆走するかのように人気のない格納庫に辿り着く。蒼い装甲は光を弾き、ジークフリートはライトアップされマキナの到着を待っていた。そこには普段の研究員の姿は一人も見当たらない。ただ一人だけ、ジークフリートの前に立ち尽くす一人の男を除いて。

 男――アンセムは振り返り、マキナを見つめた。二人の間に沈黙が流れる。マキナは蒼い瞳を細め、アンセムへとゆっくりと歩み寄った。アンセムは近づいてきた少女と向き合い、思い悩みながら目を閉じた。この緊急事態に置いてまだ迷っているのは――何故なのか。それは恐らくはマキナの事を思うからなのだろう。ザックスの言う事は、いちいち胸に突き刺さった。アテナの叫び声はそれよりもっと深く鋭く彼の心を貫いていた。それでも騙し続けなければならなかった。たった一人、あの人と交わした約束を守る為に――。

 蒼い髪と蒼い目の女は少年だったアンセムに笑いかけ、よく大切な話をしてくれた。街を見下ろす墓地に立ち、彼女は常に世界を憂い、そして希望にすがりつく事を決して止めなかった。美しく、聡明で。そして太陽のように底抜けに明るく、世界を導く天使のような存在――。今は消え去ってしまってどこにもない面影、しかしそれが今目の前にある。

 マリアの背を縮め、子供に戻したような面影をアンセムは直視する事が出来なかった。だから目を閉じた。それでもいつまでもそうしているわけにはいかないから。そっと目を開き、マキナの姿を見つめる。マキナは凛々しい表情でアンセムの前に立ち、言葉を待っていた。


「…………。ジークフリートの出撃準備は出来ている」


「ありがとうございます」


「…………本当に、行くのか?」


「――――はい。もう、決めた事ですから」


 マキナの答えに迷いは一切なかった。ぼろぼろに傷つき、それでもこうして戦う為に戻ってきた。その理由は綱渡りのように危なっかしく、あやふやなものかもしれない。それでもここにいる――。それは、彼女の強さだ。絶望の中だろうとも、きっとまた何度でも立ち上がるのだろう。彼女を立たせるのだろう。運命という二文字だけでは表現できない絶対的な輝き――。マリアと同じものを彼女に感じる。

 そっと、手を伸ばして見た。今までずっとそうする事を恐れていた。触れた頬は柔らかく暖かい。指先で梳く髪は滑らかでくすぐったく、優しいにおいを感じられる。そう、それは幻影ではない。過去でもなく未来でさえもない。ただただ今ここにある、現実なのだ。


「ジークフリートを動かす為にはお前の適正以外にもう一つの鍵が必要になる」


「鍵……?」


「それを知れば、お前はもう後戻り出来なくなる……。それでも往くのか?」


「はい。往きます。往かなきゃならないから」


「そうか……。それがお前の出した、答えなんだな……」


 もしも――。もしも、奇跡というものがあったのならば。彼女をこの蒼き呪縛から解き放って欲しかった。彼女をこの鎧の中に幽閉する事が己の役目だったとしても、それを出来れば回避したかった。未来は決まっていないのだと。運命は打ち破れるのだと。子供の頃はあんなに叫んだのに。大人になった今、絶対に変わらないものに懐かしくなり、絶望している。

 守るという言葉の意味を考える時が来たのだ。彼女に剣を与える事で世界は恐ろしい運命の中に突入していくだろう。もう誰も引き返せなくなる。それでも――彼女との約束がある限り。そして今目の前の彼女がそれを望む限り。そうする事に意味はあるのかもしれない。


「…………先生……」


「……ん?」


「…………泣いてるんですか?」


 言われてアンセムは己の頬に手を当てた。頬を伝う熱さは久しく感じていない感触だった。全ての感情は廃したつもりだった。何もかも捨て去ったつもりだった。だが目の前の恩師にも良く似た少女を目の当たりにして全てが狂ってしまったのかもしれない。


「ごめんなさい……。男の人でも、その……泣くんですね」


「――――。ふ……っ。そうだな。どうやら、そうらしいな」


 何故か笑ってしまう。優しく微笑むアンセムの姿にマキナは何とも言えない気持ちになっていた。直ぐに笑顔は消え去り、アンセムはマキナの手を握り締めてジークフリートを見上げた。そしてまるでおまじないのように語るのだ。それは歌うようでさえあった。


「“見返りを求めない”――。闘いは常に失い続けるだけの物だ。そう、マリアは言っていた」


「…………マリア」


「そうだ、マキナ・レンブラント。君の母親――マリア・レンブラントはジークフリートに乗る時必ず己にそう言い聞かせていた。“見返りを求めない”――。“闘いはただ、闘いなのだ”と」


 二重の意味で驚くマキナに畳み掛けるように語るアンセム。しかしマキナの中で何かがハッキリと動き出していた。母親の名前を知った時、魂のどこかで歯車がカキンと音を立てて回り出す。全ての仕組みが覚醒し、少女の心の中で溢れ出す。母が自分に向けていたあの優しくも寂しげな笑顔が蘇り――そして少女は涙を流しながら蒼い機体を見上げた。


「お母さんが……スラッシュエッジだったんですね」


「……驚かないんだな」


「驚いてますよ……。でも、別にいいんです。そんな事はどうでも。わたしにはその力があるんですよね? だからここに居る……。母の言う言葉の意味が今ならわかります。闘いはただ闘いです。凄惨で残酷で、何もかもを奪い去っていく。失うばかりで得られるものなんて一つも無いそんな悲しい場所だという事を忘れずにただ命を奪う事を覚悟するという意思――それが、ジークフリートに乗る為に必要な心、なんですよね」


 寂しげに語りながらマキナは知った。そこには母の面影が鎮座している。暖かく、柔らかく――。ただ兵器としてしか見ていなかったジークフリートが今は揺り篭のようにさえ見える。蒼き剣を前に少女は胸に手を当てた。

 絶望も失望も憎しみも、何もかも消す事なんて出来ない。きっとそれは自分の心を蝕み、これから多くを壊していくのだろう。また歩き出すには難しすぎて、余りにも鋭すぎる切り傷……。それでも、自分はまだ生きている。

 友は生きていてくれてありがとうと言った。仲間たちは立ち上がる事を待っている。誰もがジークフリートの降臨を望んでいるのだ。ラグナが自分に声をかけてくれたように。アテナが自分を必要としてくれたように。ニアの家族が自分に笑いかけてくれるように。ニアが自分の命を引き換えにマキナを救ったように。

 争いの中で生きる事は失い続ける事に他ならない。絶望を絶望で上塗りするような血塗られた道なのだ。それでも――。戦う事でしか今は前に進めないのだ。憎しみが背中を押してくれるのならばこの重い両足で歩き出そう。やがて助走をつけてまた空に羽ばたける日が来る事を信じるのだ。そして想いは全て剣に乗せる。過去も未来も今は判らない。でも――ただ目の前には現実だけがある。


「死は誰にでも等価、か――」


 そう、それは真理だ。誰にでも平等なもの。志半ばで倒れる事もあるだろう。この命は既に捨てたものと思え――。理想も幻想も全てはここで捨て去るのだ。甘き夢物語は終わりを告げた。剣を手に取り行軍するのは死神――。戦場で死を与える一振りの剣でいい。それだけで十分身に余る。だから――。


「わたしは見返りを求めません。ジークフリートに乗る為にジークフリートに乗る……ただそれだけです」


「……そうか」


 アンセムは深々と溜息をついた。強がって。残酷な現実を受け入れようとして。それでもマキナは震えていた。真っ直ぐな目をするのは今は辛すぎるから。恐怖と不安に押しつぶされそうになりながら、それでもまた戦う事を決めたのだ。自虐的な勇気――だがそれでも構わない。

 男は少女の頭をそっと撫でた。優しく、思いを込めて丁寧に撫でた。娘を愛でる父親のように……。或いは恋人に愛を語らうケモノのように。少女はその手の下、目を細めて微笑んだ。アンセムもそれに釣られ、笑みを浮かべる。二人はよく似ていた。絆は悲壮、だがそれでいい。それ以上など、求めないのだから。


「ジークフリートの出撃準備をする。マキナ、こいつを連れて行け」


「むきゅっ!?」


 マキナの足元でおとなしくしていたアポロの耳を鷲掴みにし、徐に引っ張り上げるアンセム。じたばたと暴れまくるアポロを目を真ん丸くして見つめるマキナ……。アンセムはマキナにうさぎを押し付け、背を向ける。


「急げ! 時間はないぞ!」


「はい――じゃなかった、了解!」


 コックピットへと乗り込み、マキナはERSへと神経を接続する。最早馴れてしまった過負荷の中、視界が蒼く染まっていく。何もかもがただただ蒼かった。吐き出す呼吸さえも輝きを放つかのようだ。満ち満ちたコックピット内部のエーテル濃度は人間の身体を侵食する。だが蒼いその光の中、マキナの神経は限界まで研ぎ澄まされる。

 刹那が何秒にも感じられる鼓動の中、少女は目を閉じて息をしていた。コックピット全体に、機体の四肢に神経を通していく。しかしその苦しみは想像を絶する程であり、マキナは苦痛に耐えかねて呼吸を乱し脂汗を流していた。


『無理にジークフリートを支配しようとしなくていい。受け入れるんだ、蒼を』


「受け入れる……?」


『力を従えるな。力に従うんだ。お前にならば出来るはずだ。心を解き放て!』


「心を……解き放つ――」


 今、この瞬間だけでいい――。全ての事を忘れてしまおう。忘れてはいけないもの、忘れられないもの……どうでもいい。全てを、マキナ・レンブラントという存在の全身全霊を機体の鼓動に傾ける。

 森羅万象を感じよう。無限に広がるこの宇宙の中、沢山の嘆きも悲しみも力も全てを受け入れよう。ジークフリートは何も拒絶してはいなかった。拒絶していたのは自分たちの方。ジークフリートが囁く声に耳を傾ける。ねじ伏せて従わせるのではない。この蒼の力に従い、鼓動を重ねるのみ――。

 一気にERSが完全に接続され、フォゾンドライブの出力が上がっていく。今までに無い手応えに目を見開いたマキナであったが、次の瞬間動力が停止した事によって喜びは一気に暗転した。操縦を焦るマキナの正面、暗闇の中でコンソールの上によじ登るアポロの姿があった。


「えと……アポロさん? そこで何をしてるのかな……?」


「むっきゅ!」


「……“任せろ”?」


「むきゅ! むっきゅううううう〜〜〜〜っ!!」


 アポロはコンソールの上で丸くなり、ぐねぐねと動き出す。既に原型を留めなくなったアポロの形状に青ざめるマキナであったが、その白い光がにゅるりと動き、マキナの首の周りに絡みついた時その意味を知った。白く柔らかかったアポロの身体は変形し、光が収まった瞬間そこにはライダースーツのインジェクションパーツとなったアポロの姿があった。文字通り、それは“首輪”――。自らの首に巻かれたそれに冷や汗を流すマキナであったが、アポロの存在を認識したジークフリートが魂を再び鼓動させる。


 ―Ring des Nibelungen―


 コンソールに点滅するシグナル。首輪が輝き、再びコックピットが蒼に染まっていく。ジークフリートを動かす為の最後のキー。禁断のシステム、“ニーベルング”が発動する。

 一気に全てのコントロールがマキナに流れ込み、その膨大な情報量に一瞬意識が飛んでしまった。しかし直ぐにマキナは自我を取り戻す。直ぐに気づいた。首に巻きついたアポロが変形した首輪が情報の処理を手伝ってくれているのだ。これがなければ一撃で情報に耐え切れず廃人になっていたかもしれない。それほどまでにジークフリートはただただ膨大だった。

 

「アポロ……あ、ありがとう?」


『むっきゅ』


「“気にするな”って……アレ!? アポロの言ってる事がなんか判るようになってる!? あ、そっか……ERSに仲介してるから――わたしの脳に直接語りかけてくるんだ」


『むきゅきゅう』


「そっか……アポロはジークフリートの一部だったんだね」


『むきゅうう!!』


「――うん。行こう。一緒に往こう!」


 拘束具をぶち破り、ジークフリートが動き出す。ハンガーがリフトで下降し、カタパルトへと到達する。突然現れたジークフリートの姿に出撃準備中だったフェイスの隊員たちが一気にどよめく中、マキナは容赦なく順番待ちしていたヴォータンを押しのけてカタパルトを横取りする。


「ごめん、先に行かせて!」


「え、あ、ちょっ!? どわーっ!?」


 軽く突き飛ばしたつもりだったのだが、吹っ飛ばされたヴォータンは並んでいたほかのヴォータンに激突し、ドミノ倒しになって次々に倒れていく。冷や汗を流すマキナであったが、後で謝る事にして今は放置する。


『ルートはそちらに送ってある。扱い方はわかるな?』


「はい。マニュアルみたいなのが頭に流れ込んできましたから、大体は。それにアポロが教えてくれます」


『詳しい事はニーベルング……アポロに訊くといい。進路はクリアだ。出撃許可は出してある。いつでもいいぞ』


「はい――。えと、行くよ……ニーベルング」


『むっきゅー』


「あ……。アポロでいいんだ。えと、じゃあ行こうアポロ」


「ちょっと待てーっ!! お前、どこの部隊だ!? 識別番号を言えっ!!」


 先ほどの騒ぎの所為で周囲のヴォータンが寄ってきてしまっていた。当然である。ジークフリートの存在を知っているのは一部の隊員だけなのだから。

 厄介な状況下に置いてマキナは全く焦っていなかった。ジークフリートの脚部に装備されたフレアソードブースターを展開し、低い姿勢でカタパルトを起動する。そして静かに息を吸い、それから微笑を浮かべて宣言した。


「わたし――ううん。“ぼく”の名前はマキナ・ザ・スラッシュエッジ――! I have control――! “ジークフリート”行きますッ!!」


 大切な友達が居なくなってしまった。

 それでも彼女から受け継いだ命と、彼女が守ろうとした物と、そして彼女の志が共にあるから――。

 蒼い翼を広げ、古の伝説が射出される。カナルの上に着水し、ソニックブームを巻き起こしながら一気に加速するジークフリート。蒼き剣のカラーズが、混沌とした世界の中に復活を遂げた瞬間であった――。


〜ねっけつ! アルティール劇場〜


改め


〜ひとりごと! マキナ劇場〜



マキナ「………………。えぇえぇええええええええっ!?」



〜小休止〜



マキナ「不吉な事しないでくださいよ! すたっふううう!(あの芸人風に)」


マキナ「えーと。ジークフリート復活しました」


マキナ「そんでもって、マキナもちょっと復活です!」


マキナ「アポロの本当の名前はニーベルングでした」


マキナ「マキナの母親はマリア・レンブラントでした」


マキナ「なんかネクストとか色々出てきましたね」


マキナ「色々で過ぎて読者さんがついてきてくれるのか激しく不安です」


マキナ「一応ここで盛り上がって貰わないともう盛り上がる所ないですよ、お客さん!」


マキナ「あと、今日からわたし、ぼくっ子になりました」


マキナ「ニアを真似してぼくっ子になりました」


マキナ「……不評な気がしてなりません」


マキナ「それでもぼく、がんばります!」


マキナ「…………。なんか、本当に男の子みたいですね」


マキナ「そんなわけで、ジークフリート(3)が終わったらアンケート統計とキャラ紹介と機体紹介と同時に例のリクエストのやつやります! 一気に!」


マキナ「や、なんか鬱々としてたから、その間は何もしないで読者をハラハラさせてみようかなという策略だったんですけど」


マキナ「え? はやくやれって」


マキナ「そういうのいいから?」


マキナ「え……?」


マキナ「それではまた来週!!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おなじみのアンケート設置しました。
蒼海のアンケート
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ