表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/83

Etranger(2)

「…………。私を笑いに来たの?」


 更衣室の前で汗まみれの顔を僅かに擡げ、皮肉を込めた笑みを浮かべるアテナ。その正面には両手をポケットに突っ込んだまま笑みを浮かべるラグナの姿があった。

 二人は暫くそうして何も言わずに時を過ごしていた。夜の事であった。闇の中、ラグナは窓から差し込む灯りに顔を半分照らされている。ジークフリートの起動実験は一向に成功する気配もなく、アテナに対する周囲の期待は既に失せかけていた。

 最早誰もアテナに期待などしていなかった。やはりジークフリートを動かせる人間はマキナをおいて他に無いのだと……。ジークフリートという母の遺産に拒絶され、アテナの精神は限界まで疲弊していた。母親に捨てられたというトラウマは常に彼女の心を蝕み、母に酷似したアテナに否定されるという現実は頭の中を掻き乱すのに十分すぎる要素であった。

 日々、彼女の技術は衰えていた。ERSに対する適合能力は落ち続けているし、体力も限界まで衰えている。ジークフリートに乗り込んだ後は吐き気が収まらず、頭痛に苛まれながら一人で悶えた。丁度それが何とか収まって更衣室を出た所だったのだ。待ち伏せとしか思えないようなラグナの行動に自虐的になるのも無理はない。


「ジークフリートは動かないよ……。あれは、動かないように出来ているんだ」


「…………」


「ジークフリートは普通じゃない。それは乗り込んでいる君が一番良く判っているはずだ」


「だから何だって言うの……。私はブルーを超えるだけの実力を身につけたのよ……。子供の頃からずっと訓練してきた。いつかはあの人を超えるってね……。私の十九年間が全て無駄だったって言うの……? ふざけないで……!」


「そうじゃない。でも確かにある意味では無駄なんだろうね。君がブルーの後を追うことに何の意味もないのだから」


 瞳を見開き、ラグナの胸倉に掴みかかるアテナ。しかしラグナは全く動じる気配も無い。ただそっと手を重ね、静かに目を細める。


「もうジークフリートに乗るのは止めるんだ。死んでしまうよ、アテナ」


「偉そうに説教なんかしないでくれる……?」


「君に死なれては困るんだ。ただそれだけだよ。説教をしているつもりはない」


「…………っ」


 ラグナを突き放し、ふらつく足取りでアテナは壁に背を預けた。呼吸が上手く出来なかった。肩で息をしながら顎を上げ、桃色の唇を開け閉めしながら必死で酸素を取り込む。疲労は既に限界を超えていた。ラグナの言う事は決して大げさなどではない。


「どうしてなの……? なんであんなにも似ているのよ……」


「…………彼女がブルーの継承者だからさ」


「答えになってないわ。どいつもこいつもマキナマキナって煩いのよ……。あの子がどれだけ特別だっていうの……? 私と何が違うっていうのよっ!!!!」


「彼女は特別だよ。そう望まれて生まれてきた」


「私はそうじゃないっていうの……!? だったらどうしてママは私を産んだのよ!! 何の為にこれまで戦ってきたっていうのよっ!!!!」


「それは君が自分で見つけ出さなければならない」


「……何なのよ……。どうして誰も私を認めないのよ……。マキナマキナって……。マキナがなんなの……? どうしてあの子なの……? 何で誰も理由を教えてくれないのよ……」


 その場に膝を着き、アテナは頭を抱えて震えた。マキナ・レンブラント――ザ・スラッシュエッジ。何故一年間も眠っていたマキナが重要視されるのか。何故自分ではないのか。悔しくて仕方が無かった。自分の存在を全て否定されたかのようだった。

 ラグナは何も言わなかった。ただアテナを見下ろし、悲しげに目を閉じていた。アテナはその視線から逃げるようにその場を後にし、ラグナは夜の街を見上げて静かに肩を落とした。


「――アテナはきっと、君に母親の姿と自分の姿……両方を重ねているのだろう」


 マキナの病室、夜の闇の中に立つアンセムの姿があった。マキナはベッドの上に腰掛け、アポロを膝の上に載せながら黙り込んでいる。会話は成立していなかった。マキナはアンセムの言葉に一切反応を表さなかったし、アンセムもただマキナに語りかけているだけで返事を求めることは無かった。壁に話しかけているほうがまだ有意義という程マキナはまるで外部に対して反応を示さなかった。アンセムはそれでもマキナに声をかけ続けた。


「アテナは母親に捨てられた事を強く引きずっている。彼女は常に誰かに必要とされ、誰かに求められる存在である為に努力してきた。だが全ては表立った話に過ぎない。彼女はずっと、母親と同じ物になりたかった。ジークフリートがブルーの代名詞ならば、それが自分の物になる事をずっと願っていた。カラーオブレッドという位置は、ただの手段に過ぎなかった」


 幼い頃、母親は姿を消してそのまま戻ってこなかった。親代わりになってくれたアンセムの為に、そして自分の為にいつも胸を張って戦ってきた。だがそれは全て自分に対するごまかしに過ぎなかったのかもしれない。結局の所、アテナ・ニルギースという人間の本質は母親が居なくなった幼少の日から一歩も進んでいないのだ。ただ今でも母を求め、要らない子という現実を払拭したかっただけ――。


「君はブルーに良く似ている。髪や目の色も顔立ちも、その力も……。アテナはきっと君に母親の姿を重ねていたのだろう。だから君を受け入れられなかった。君を受け入れるという事は自分を捨てた母を認めるという事だからな。母に対する想いは複雑だ。肯定と否定という二色だけでは色分けできない感情がそこにはあるのだろう。だが同時に君はアテナにとって自分の鏡でもあった」


 二人は境遇的に良く似ていた。親を失いアンセムを頼ってアルティールに来た事。ライダーとしての才能……。アテナにとってマキナはとても複雑な存在だったのだ。距離感を推し量ることは難しく、心の壁も分厚いだろう。だが彼女が面影を求めている限り、その距離も壁も零に等しい。


「アテナは君が眠っていた一年間、毎日のように見舞いに来ていた。君の身の回りの世話を何でもしたがった。君への哀れみ……それもあったのだろうが、恐らくは君が居なくなるかもしれないと感じてようやく気づいたのだろう。母親への愛情が君への愛情に摩り替わっていた、ということに」


「…………」


「愚かしい事だな。だが、彼女はそれでも懸命だった。君にそれに応えろとは言えないが……気持ちを汲んでやって欲しい。勿論これは、大人の我侭だが」


 眼鏡を指先で押し上げ、アンセムは小さく呟いた。するとマキナがゆっくりと顔を上げ、それから口元を歪ませるように笑みを浮かべた。それはかつて少女が浮かべていた天真爛漫な笑顔とは似て非なる物……。何もかもを見下すような、侮蔑するような嫌悪感に塗れた物だった。


「だからわたしに優しくしろって言うんですか……?」


「…………」


「ふざけないで下さい……っ! わたしがブルーに似てるとか、そんな事はどうでもいいんですよっ!!!! カラーズとかFAとか……っ! もう聞きたくもありませんっ!!!!」


「…………そうか」


「皆自分勝手なんですよ……。自分の事ばっかり……っ! それで誰が傷つくとも考えないっ!! 一杯一杯苦しんでいる人がいるのに誰も戦いを止めようとしないっ!!!! 何でそうなんですか、人間って! わたしに関わらないで下さい……! わたしに近づかないでっ!!」


 頭を抱え、泣きながらマキナは震えていた。アンセムはそれを見下ろし、ただ静かに踵を返す。


「きらいきらい、みんなきらい……っ!」


「…………すまないな」


 最後に小さく呟いたアンセムの言葉はマキナに届いたのであろうか。部屋を男が出て行くとマキナはまた静寂の中に一人になった。アポロが心配そうに泣き声を上げ、マキナに擦り寄った。その優しさが胸に突き刺さり、マキナはまた泣いた。

 薄暗い廊下を歩きながらアンセムはただ前を向いて歩いていた。マキナはもう、再起不能にも見える。だがアンセムだけは――。この世界でただ一人彼だけはマキナはまた立ち上がるという確固たる確信を持っていた。

 そう、あのマキナ・レンブラントがこのまま駄目になってしまうはずがない。そんな歴史はありえないのだ。アンセムだけは知っている。彼女が抱えている闇も光も全て本質は同一に過ぎない。それを彼女が飲み込んで力に変えた時、全ての約束が果たされるのだ。


「――そう、ここで終わるはずがない。そうでしょう、先生」


 廊下で立ち止まり、アンセムは窓から夜空を見上げた。涼しい秋の風が吹き込み、男の髪を優しく揺らしていた。




Etranger(2)




「――カナルに断続的な転移反応確認! “エトランゼ”ですっ!!」


 シュトックハウゼンにどよめきが走った。オペレーターたちは一様に緊張感を表情に滲ませ、固唾を呑んで状況を見守っている。カナル上がら連続で莫大なエーテル反応が検出されていた。まるでカナルの流れが結晶化して浮かんでいるかのような印象を受ける。

 指揮官であるザックスは顔を挙げ、神妙な面持ちでモニターを見つめていた。予想していたよりも遥かに数が多い――。しかも急速に、反応は全て同一の方向に向かって動き出している。


「目的地は判るかね?」


「……。プレートシティの反応があります。“レインティア”です」


「目的地はそこか……。リンレイ君、フェイスに出撃要請! これより本艦は大気圏突入形態に変形後、レインティアに突入する!」


「単騎で、ですか……!?」


「時間が無い。手遅れになる前に出撃する。ローエングリンの出撃準備を! 全員腹を括った方がいいぞ。対エトランゼ戦用意!」


 地球上のカナルを流れるプレートシティ、レインティア。そこへなだれ込むように移動する何かの姿があった。それはFAでもなく、船でさえない。レインティアの周囲に展開していた防衛部隊がそれに気づき、カメラを向ける。カナルの上を流れているのは輝く宝石の粒のように見えた。大挙として押し寄せるその姿はうねりのようにも見える。


『何だありゃ……』


『FA反応が……に、二百以上……? お、おい……冗談だろ……』


『あれがFAに見えるのかよ! ありゃバケモンだぞ!!』


『だけど確かにフォゾンドライブの反応が……く、来る……!』


 流れてくるのは巨大な光の塊たちであった。宝石のような外見をした怪物たちは高く鳴り響く音と共に雪崩れてくる。一匹一匹がフォゾンドライブに酷似した機関を内包する、謎のエーテル生命体――。

 レインティアの警備部隊もその噂を耳にした事はあった。ここ最近、突然周囲のプレートシティが跡形も無く消滅する事件が多発していたのである。一体何が起きているのかと思ってはいたのだが――実際に対峙してみて理由がわかった。押し寄せてくるのはつまり大量のFAと同じなのである。フォゾンドライブを搭載し、カナルの上を疾走する魔物――。


『じょ、冗談じゃねえっ!! なんなんだこいつらっ!!』


『と、兎に角迎撃するんだよ! 撃ちまくれ!! 撃って撃って撃ちまくれええええっ!!』


 警備部隊が一斉に攻撃を開始する。しかし数が多すぎて倒しても倒してもキリがない。エトランゼは一切回避や防御の行動をとる事は無いが、文字通り雪崩れて襲ってくる。大群による突撃という余りにも愚直だが非常に効果的な攻撃は一瞬で無数の防衛部隊を飲み込んでいく。

 レーダー上から警備部隊の姿が消えていった。しかしそれはシグナルが消えていくというよりも、敵の反応が大量に押し寄せてどこにいるのかわからなくなってしまったというのが正しい。エトランゼによる攻撃は既に以前から始まっていた。しかしシティごとに閉ざされ独立した今の世界においてその情報が駆け巡るのは非常に遅く、近隣のカナルと同盟を結んでいなかったレインティアにとってそれは未知との遭遇であった。


『うわああああっ!? な、なんなんだよこいつらっ!? 人間じゃない……! ひ、光が……光があああっ!!』


 エトランゼに取り付かれたFAは全身のエーテル濃度が一瞬で限界を突破し、光となって爆発する。ライダーも当然、全身がエーテルによる付加に耐え切れず内側から破裂するように死に至る。次々にまとわりついてくるエトランゼは虫のようでもある。防衛ラインは既に完全に崩壊していた。

 防衛戦力を失ってシティの住人たちはただ呆然としながら突撃してくるエトランゼを眺めていた。立ち尽くしている者もいれば逃げようと走り出す者も居た。だがシティに乗り上げたエトランゼは等しく全てを踏み潰していく。レインティアの街の各所で火の手が上がり、人々の悲鳴が響き渡った。

 そんなシティの頭上、宇宙空間から落下してくる一つの戦艦の姿があった。大気圏突入形態に変形したシュトックハウゼンは船体を鋭く纏め、まるでミサイルのような形状に変化していた。十分に突入が終了した時点でエーテルブースターによる減速を行い、光のパラシュートで風を受けながら形状を戦闘形態に戻す。両翼から一斉にミサイルが発射され、遅れて艦橋の下から主砲が発射される。巨大な光線は一撃で着地点を確保し、船はカナルの上に着水する。エーテルの飛沫が高々と上がり、波はエトランゼたちを押し返していく。


「……やはり間に合わんか。これよりレインティアの防衛――いや、救助作戦を開始する! 全機出撃! 私もローエングリンで出る!! リンレイ君、あとは任せる」


「了解です」


 左右に開いたハッチから次々にヴォータンが射出され、カナルの上に着水していく。シュトックハウゼンのエンブレム、盾のシンボルが刻まれたグリーンのヴォータンたちは一斉に砲を構え、規則正しく攻撃を開始する。近づいてくるエトランゼをシュトックハウゼンと共に高火力で制圧しつつ、シティに侵入したエトランゼ排除の為にランスを装備した部隊を向かわせる。

 シュトックハウゼンは対エトランゼ戦闘用に開発された最新鋭の戦闘艦である。フォゾンバーストミサイル合計三十二機搭載、エーテル主砲は樂羅のそれにも匹敵する威力を持っている。カナルからエネルギーを吸い取り、大出力のビーム攻撃を連発する。そうしてようやくエトランゼの侵攻を辛くも阻止できるのである。

 遅れて中央のハッチが開き、カラーオブグリーンの機体、ローエングリンが姿を現す。巨大なタンク型の脚部ユニット、腕には巨大な戦斧を持ち、全身の至る場所に高火力の実弾兵器を装備している。ザックスの戦闘スタイルを色濃く反映したローエングリンはキャタピラを凄まじい勢いで回転させながらシュトックハウゼンを離れた。カナルの上で水をかき、凄まじい出力で猛進しながら全身からミサイルを放つ。


「前線を切開く! 死にたくない子は私の後ろから来る事!! 行くぞッ!!!!」


 機体そのものより巨大な斧は一撃で強固なエトランゼの身体を両断していく、下半身はそのままに、上半身のみを高速回転させ斧を振り回す一つの装置となってエトランゼの群れの中に切り込んでいく。続いてヴォータン隊が砲撃をしながらローエングリンを援護。出来る限りノーマルのFAではエトランゼに近づかない方が得策なのだ。故にローエングリンが戦線をこじ開け、それをヴォータン隊がサポートするのが基本戦術となっていた。

 前線へ突撃するローエングリンは次々にエトランゼをねじ伏せていく。ローエングリンに接触しようとするエトランゼたちが一斉に襲い掛かるが、機体に接触する直前で巨大な光の壁により拒絶されてしまう。ローエングリンの周囲には常に高圧のフォゾンフィールドが展開されている。それはエーテル兵器だけではなく、物理攻撃さえも拒絶するほどの威力を持っているのだ。故にローエングリンのみがこの戦場においてエトランゼに対して有効な白兵戦闘を挑む事が出来る。

 エトランゼに接触したFAは例外なくエーテルドライブを暴走させられ自壊する。ライダーもその凄まじいエーテル付加に耐え切れず内側から破裂してしまうのだ。そうならない為の遠距離砲撃戦闘、そしてシュトックハウゼンである。


「化け物退治は正義の味方の仕事だ――! 諸君、張り切りたまえ! 命を捨てるにはまだ早いぞッ!!」


 “エトランゼ”――。それが姿を現し始めたのは丁度一年ほど前の事である。最初はその存在を誰も知らず。そして知ったところで太刀打ちする手段が存在しなかった。

 判っている事はカナルの下――。つまり長い歴史の間ずっと封じられてきた地上という場所からやってくるという事。彼らがエーテル生命体であるという事。突然現れ、人を襲うという事――。判っている事は余りにも少ない。正体不明の怪物――。コードネーム、エトランゼ。

 一年の間に世界は様変わりを始めていた。シティは人類同士の戦争ではなくエトランゼに怯え、人々は更に滅びへの道を加速させていた。世界全体が暗澹とした空気に呑まれ、やつれた心の人々はただ絶望し、失意の中で死を待つしかなかった。

 地上の人々は宇宙へ逃れる事を切望した。いつ沈むか判らぬ獣の住処に残りたがる者など居ない。月政府はコロニーの開発を最加速させた。以前は需要の少なかったコロニーへの居住権が飛ぶように売れ、月やプレートシティの人々は大量の金に歓喜した。

 しかしその態度は地上の人々の怒りに触れた。世界情勢はアナザーとノーマルの対立を超え、今や宇宙と地上とで切羽詰った状況が続いている。地上に住む人間は宇宙への移民を希望し、時に強硬手段に及ぶ。宇宙の人間は地上の惨状にリアリティを感じることはなかったが、俺の身にまで及ぶようになった星の牙に自衛を迫られる事となった。

 金と権力だけを持ち合わせた人間では既に生き残ることは難しくなり、世界の秩序は更に悪化の一途を辿る。世界は正に混沌の時代を迎えようとしていた。そう、力を持つ存在だけが生き残る事が出来る……。地球は既に閉ざされた処刑場へと成り果てていた。

 この状況にフェイスは三校別々の方針を打ち出す。共通してエトランゼに対する対策を取るのは勿論の事だが、その対応の方向性は異なっている。シティ市民を救助すべきだというアルティール校、宇宙へと逃亡し地球を離れるべきだと考えるデネヴ校。そして膨大な力を持つエトランゼを武力を以って制するべきだと考えるベガ校……。

 学校によるくくりは今や意味を成さなくなった。ライダーたちは己の信念に従い出身校ではなく方針に合わせた所属学校の移動を開始していた。中には独立して行動を開始する勢力やギルドも少なくはない。グリーン率いる戦闘艦、シュトックハウゼン隊もその中の一つである。

 世界はフェイスによる秩序の手を離れ、新たな法則により動き出していた。かつて世界を救った蒼のカラーズの再臨が求められるのは必然であったのかもしれない。フェイスは最後の英雄の剣であるジークフリートにこの状況を打開する希望を委ねていた……。




「ジークフリートのライダーって、ブルーにそっくりなんすよね?」


 宇宙空間を進むカラーズ専用の輸送機の中、窓から地球を眺めている一人の少女の姿があった。傍らには黒装束の男たちが立っている。それはSGの証であり、少女は振り返ってにっこりと微笑を浮かべた。


「楽しみだなぁ〜! どんな人なんだろう……。早く会いたいっすよ、マキナ・ザ・スラッシュエッジ――」




『マリアの予言通り、世界は改変の時を迎えた……。今こそジークフリートの封印を解き放ち、在りし日の蒼の輝きを取り戻す時』


『しかし、スラッシュエッジの器は未だに目覚める気配もない。不確定要素と納得するには少々危険な賭けではないか?』


『問題は無い。マキナは確実にジークフリートを目覚めさせる。ジュデッカが動き出すまで時間がない……。ジークフリートを手にしなければ人類に未来はないだろう』


『これだけ時間を費やしてマキナが目覚めなかったらどうするつもりですか?』


『心配は無かろう……。ジークフリートを動かせる人間は一人ではない。そうじゃろう? アンセム――』


 薄暗い会議室の中、アンセムは眼鏡を輝かせて立ち尽くしていた。周囲に浮かび上がった立体映像が揺らぎ、アンセムへと視線を向ける。


『マリアの弟子か……。確か、貴様がそうだったな』


『うむ。マリアが育て上げた正式なザ・スラッシュエッジの二代目――。アンセム・ザ・スラッシュエッジ。現カラーオブブルーよ』


「その名は捨てました。私に相応しい名ではありません」


『だが、いざとなればヤツが責任を取る。ギリギリまで踏みとどまり、マキナの覚醒を試みる……』


『なるほど、保険はかかっているわけですね。だったら話は早い。多少無茶をしてでもスラッシュエッジを覚醒させるべきでしょう。どちらにせよもう時間はないのです、手段を選んでいる場合ではありませんよ』


 会議の中、アンセムは黙ってその話を聞いていた。アンセム・ザ・スラッシュエッジ――。彼がその名を継承して既に久しい。確かにかつてジークフリートを操ったマリア・ザ・スラッシュエッジの一人弟子であり、その技術の全てを継承したアンセムは限りなくマリアに近い実力者であると言える。だが彼はジークフリートを操る資質を持ちながらそれを受け入れなかった。

 全ては予定調和なのだ。アンセムだけが知っている事――。セブンスクラウンも知らぬ、マキナの本当の力……。アンセムはそれを思うと憂鬱だった。これからは辛く厳しいことだけが待ち受けている。そんな彼女の事を思うと、ただただ胸が痛むのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おなじみのアンケート設置しました。
蒼海のアンケート
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ