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ベスト・フレンド(1)

「え……? なんでそういう事になってんのか知らないけど、別に付き合ってはいないよ?」


「エッ!? そ、そうだったの!?」


 部屋に戻ると、ニアは既に部屋でテレビを見ていました。その様子が余りにも普段通り過ぎて驚いていたわたしでしたが、兎に角サイ君が気に入らないのでボッコボコにしてきたのですが……ニアに問いただしてみれば、別に付き合っていないというではないですか。一体どういう事なのでしょうか。やたらと冷や汗が流れるわたしでしたが、とりあえず頷いて話を聞いていました。

 そういう風に見ているのはオルド君とリンレイ、そしてヴィレッタ先輩だけなんだとか。わたしが居ない所でも何時も仲良くしていたので、もうあれは付き合っているんだろうという早とちりなんだそうです。サイ君が話をあわせたのは……恐らく単なる悪ふざけだとか。

 とりあえずゆっくりと振り返り、サイ君に謝罪のメールを入れました。最新ゲーム機に包丁突き立てて帰ってきちゃったことが今更悔やまれます……。えっと、あれ、わたし弁償出来るのかなあ……。

 とにもかくにもそんなわけで、ニアは思っていたよりも落ち込んでいない様子でした。もう日付も変わり、新しい一日が始まろうとしていました。わたしたちは部屋の中で向かい合い、暫くお互いに言葉をなくしていました。色々あったわけです。多分ニアも色々考えた事でしょう。何から話せばいいのでしょうか。でも、話さなくても何となく判ってしまいました。ニアはきっと、ありのままのサイ君を受け入れる事が出来るでしょう。そうでなければ、こんなに晴れやかな顔はしていないだろうから。


「ねえ、マキナ」


「うん?」


「ちょっと出かけない?」


 そうして二人で向かった場所……。そこは懐かしい思い出の場所でした。喧騒のシティの中、ぽっかりと切り取られたかのような憩いの空間……。四月に入学した時、ニアと一緒に訪れた公園でした。あの頃は道に迷ったりであっちこっち遠回りしてしまったけれど、今は真っ直ぐに辿りつく事が出来ました。

 二人で一緒に夜空の下、ライトアップされた噴水を背に肩を並べていました。思えば沢山の事があって、沢山泣いたり、でもそれに負けないくらい沢山笑ったり……。全部、懐かしくてあったかい思い出でした。


「ボク、色々考えたんだ。今もまだ、カラーオブイエローを恨んでいるのか、とか……。お姉ちゃんの仇討ちをするべきなのか、とか……。でも結局最初から答えは判ってたんだと思う。ボクはもう、アナザーだとかノーマルだとか……そういう事で憎しみあったりしたくない。例え相手がネリーを殺したヤツでも……。飲み込んでいかなきゃいけないのかなって思う」


「……ニア」


「許す事は、きっと一生出来ないよ。それはただ誤魔化しているだけだから……。でも、許せない相手を認めて……。少しでも、憎しみではない気持ちで生きていけたらいいと思うんだ。一杯殺して殺されて、それでも毎日生きてる。ノーマルの全てが悪人じゃないし、アナザーの全てが善人でもない。自分の絆は、自分で選んで行きたいんだ」


「――うん! それでいいと思う。それがいいよ! わたしも色々考えたんだ。でも、やっぱり良く判んなかった。それはきっと全てを大局的に見ているからなんだと思う」


 世界という大きな循環の中で、わたしたちは生きています。ちっぽけで。一人では何も出来なくて。だから全ての罪の在り処とか、正義とか……。考えてもわからない事だらけなのだと思います。

 アテナさんに相談した時、彼女は言いました。“考えるな、動け”――と。何も判らなくなるくらい我武者羅になれば、嫌な事なんて考えない。思考の労力は全て前に進む為に使わねば無駄だと。多分、わたしを励ましてくれたのです。

 今の自分を否定も肯定もしません。でも、明日の自分は肯定したい――。肯定し続けたい。ずっとずっと、明日だけを見つめていく事……それが出来たらきっと、未来は素敵な方向へ転がっていくはずだから。


「わたし、カラーズにならないかって言われたんだ」


「えっ!?」


「でも、断った。うん。断るつもり……。判ったんだ。別に、カラーズじゃなくてもいいよ。わたしはきっと、そんな責任は背負えない。わたしが守りたいのはこの世界全てじゃない……。ただニアや、ヴィレッタ先輩や……。オルド君やリンレイ……。わたしを支えてくれる人たち。そこにサイ君を付け加えてあげてもいいよ。わたしは守りたい。その為に敵を殺して汚名を被る覚悟はまだ固まってないけど……でも、強くなる――。強く成り続ける。同じ事で悩んだり、苦しんだり、へこたれたり……。涙が堪えられない時もまたあると思う。でも、止まらないよ。強くなり続ける。それがわたしの出した答えだから――」


「…………うん。マキナはそれでいいよ。マキナがまた迷ったり辛い時には傍に居てあげる! ずっと一緒に居てあげる……。だからマキナもボクを支えて欲しい」


「勿論だよ! その為にわたしはここに居るんだよ。特別な地位も権力も要らない。ただニアが、傍に居てくれればいいんだ」


 わたしたちはお互いの手を握り締めました。ラグナ君がわたしにそうしたように、両手でお互いの手をそっと包み込みます。暖かくて、胸の中が奮えるようなこの感覚をなんと呼べばいいのでしょうか。強くなれる。もっと強くなれる。そう確信するのです。

 誰かを支えるということは、誰かに支えられているという事……。この半年でわたしたちはそれを学んだのです。大切な大切な仲間たち。そして最愛の親友、ニア・テッペルス――。また迷子になったり、躓いたりしながらでいい。友に歩める人が居る……。それはとても、幸せな事です。


「マキナ……」


「ニア……」


「マキナ……!」


「ニアー!」


 お互いわけのわからないテンションで抱き合いました。その場で踊るようにくるくると回りながら、ニアの体温に頬を埋めていました。暫くわたしたちはそうして抱き合い、そして手を硬く結んで一緒に帰りました。少しでもこの幸せな時間が長く続くようにと、ゆっくり歩きながら。

 もう、ちょっとやそっとの障害じゃ絶対にわたしたちの絆を断ち切る事など出来ないでしょう。ニアの手を強く握り締めると、彼女もわたしの手を強く握り返してくれます。それが嬉しくてつい頬が緩んでしまうのです。幸せでした。ただただ幸せでした。これからもそれが続くのだと思うと、暗闇なんて吹っ飛ばしてしまいそうでした。


「それは兎も角……ニアはサイ君の事をどう思ってるのかな?」


「え!? ど、どうって?」


「惚けても無駄だからねっ!? 伊達にニアをずっと見てないよ!! ちゃんと仲直りするんだよね!? ねっ!?」


「う、うん、するってば……! てか、別に喧嘩はしてないにゃー」


「それで、付き合うつもりなの……?」


「え、ええ!? そ、そこまでは考えてないよ……」


「わたしはいつでもニアの味方だからね! ニアがサイ君と付き合いたいって言うなら……言うなら……言うなら…………っ! うわあああん! にいいいあああああっ!!」


「うわっ!? 急にどしたの!?」


「えーんえーん! サイ君と付き合ってもマキナの事見捨てないでねーっ!!」


「いやいやいや」


「きっと肉欲におぼれてわたしのことなんか要らなくなっちゃうんだーっ!」


「にく…………。え…………?」


「あ、でもそうなったらわたしも肉欲で取り返すからってサイ君に言っといてね?」


「何で!? ていうかどういう事!?」


 サイ君とニアが付き合うのは正直微妙な気分です。まあ、もしもニアに何かあったら――サイ君、殺――。その晩は二人でベッドでずっとそんな話を繰り返していました。楽しくて嬉しい、幸せな時間でした。

 マキナ・レンブラント、憂鬱な日の日記改めニアを応援する日の日記より――――。




ベスト・フレンド(1)




 蒼穹旅団最後の出撃、そして壊滅……。全ては凡そ二年前に起きた。全ての発端は奇妙な依頼からであった。そしてその依頼こそ、蒼穹旅団を全滅へと追い込んだ最後のミッションだったのである。

 そもそも、当時の蒼穹旅団はどのようなギルドであったのか? 当時の旅団はAクラス傭兵のみで構成されたスペシャルチームであった。元々旅団とはカラーオブブルーが設立した最強の部隊の名を継承する、フェイス内でも特殊な立ち位置にあるギルドである。年々その勢力を衰えさせてはいたものの、フェイスが必要とする高度なミッション、そして影での暗躍が彼らの役割であった。

 先代ギルドマスターであるカリス・テラードはかつての蒼穹旅団関係者の息子である。しかし、彼が衰えていた旅団を立て直したのにはとある理由があった。

 カリスは元々優秀な男ではあったが、基本的にはその才能は後方支援、或いは指揮官としての役割に向いていた。そんな彼がわざわざライダーになり、旅団を再建した理由……そこには諸説諸々あるものの、学園からの要請であった、というのが通説である。

 そもそも蒼穹旅団は壊滅したとは言え、全滅であったわけではない。カリスは優秀な人材を何名も育成していた。カリスの実年齢は不明だが、少なくとも成人しており、フェイスのライダーとしてはそれなりの経験者であった事が伺える。彼の立場はフェイスの傭兵であり学生ではあったものの、その役職は教員に近いものがあった。実際彼が育てた優秀な人材の中にはかのカラーオブレッド、アテナ・ニルギース、そしてヴィレッタ・ヘンドリクスが含まれる。更に旅団にかかわりがあった人間としては、現生徒会長であるキリュウ・オウセンが上げられる。カニスは先代の生徒会長でもあり、キリュウは当時から生徒会の役職に関わっていた。

 旅団にはAクラスの中でも特に腕の立つライダーが揃っていた。彼らは様々なミッションをこなしていたが、あくまでも少人数に拘っていた。それは何故なのか? 危険な任務に出撃するのであれば、それなりに人数をそろえておく方が無難ではある。事実大規模なギルドであれば、百人を超えるメンバーを内包していることも珍しくはない。蒼穹旅団はあらゆる角度から検証しても異例のギルドであった事が伺える。

 さて、では何故彼らは学園の要請を受けたのだろうか。学園側が求めていたのはカラーズを管理出来る集団であった。カラーズに抗し得る部隊、とも言い換える事が出来るだろう。事実彼らの実力はカラーズに匹敵していた。

 当時、ソードガーディアンと呼ばれるカラーズ管理部隊は存在しなかった。SG計画が持ち上がったのは丁度旅団が壊滅する直前の事であり、当時の計画としては旅団メンバーもSGにそのまま移籍する事が予定されていたという。SGとは、本来あるべき学園側が望む旅団の完成形でもあるのだ。

 彼らは長く活躍する事を求められていた。カラーズに対抗し、それを制御する剣である事を求められていたのである。それを望んだのは学園上層部――。超巨大なフェイスという傭兵組織を運用する者達――。彼らの存在は実しやかに噂されてはいるものの、実際のフェイスの指揮系統、その仕組みなどは誰にも確かな所は知られていない。ただ、時に噂の上層組織はこう呼ばれる事がある。“セブンスクラウン”――と。

 SGはセブンスクラウンの直轄機関である事は教員レベルになれば知っている事である。なぜならば彼らの権限は教員のそれを遥かに凌駕しているからだ。必然、SGの行動には教員でさえ口出しする事は出来ない。

 セブンスクラウンとその直轄機関SG――。その二つの関係性は本題である“旅団壊滅の理由”へと繋がる糸口である。そう考え、アテナはずっと調査を続けてきた。あの日、納得の行かない旅団の全滅とヴィレッタから奪った紅の座――。その理由を知る為に、アテナはカラーズの権限を最大限に利用してフェイスを探り続けてきた。

 フェイスという組織は莫大かつ緻密な構造によって成立している。全容を知る事はカラーズとて不可能である。逆にそれがアテナに不信感を与え続けていた。ちょっとしたミッションならば内容も結果も知る事が出来る。カラーズは教員相当の権限を持っているのだから当然の事である。だがしかし、あの日の旅団のミッションだけはトップシークレット扱いであり、アテナの権限ではデータベースに潜入する事さえ敵わなかった。

 数日の休日を利用し、アテナはずっと部屋に篭って端末を操作していた。マキナと会って話した事が、彼女に新しい刺激を与えていた。旅団の真実を知りたい……諦めかけていたその気持ちが再びよみがえってきたのである。

 “何故”? ただその一言に尽きる。一晩中端末とにらめっこしていたアテナはカーテンから差し込んでいる明るい光に目を凝らしながら立ち上がった。世間はすっかり昼になっている。そういえば、ずっと何も口にしていない。そう意識すると腹も減ってきた。シャワーも浴びていないし、酷い生活だ……。一人で溜息を漏らしながら端末を閉じ、部屋を出た。

 

「あの頃の旅団は、今の旅団とは比べ物にならないほど強力だった……。一部隊でも敵わない敵なんてなかったはず」


 ダイニングでコーヒーを淹れながら考える。そう、どう考えたっておかしいのだ。だからこそ、納得がいかなかった。あの当時の旅団を倒せるような勢力がいったいどこに存在しているというのか。

 旅団を倒すのならばそれこそカラーズを、しかも数名投入しなければならない。SGの前身でもある旅団である。その実力は折り紙つきである。更に当時にはカラーオブレッド、ブリュンヒルデの担い手であるヴィレッタまで居たのだ。カラーズ一名では相手にならない。最低でも二名――欲を言えば三名はカラーズが欲しい。そんな化け物のような戦闘力を持つ集団を壊滅に追いやった物――それは一体なんなのか?


「カラーズに匹敵する何か……。ブリュンヒルデがあそこまで壊されるくらいの何か……。ヴィレッタがわたしに話が出来ない理由……」


 ヴィレッタは隠し事をするような人間ではない。当時は嘘をつかれたショックからヴィレッタに食って掛かってしまったが、今は年数が入って冷静に考える余裕がある。ヴィレッタは嘘をついた。それは事実だ。何も言わなかった。それも事実だ。だからこそ、そこが堅いからこそ、考えられる。“その理由は何”か――。


「話せない理由……。口に出来ない訳……。嘘をつく意味……。教えないっていうなら、自力で辿り着いてやるわよ。あの日、何が起こったのか――」




『“レーヴァテイン”の起動には失敗した……。やはり、適合者でなければあれは動かせんらしい』


「まあ、そうだろうね。あれは人間にどうこう出来る代物じゃないよ」


 フェイスの校庭に立ち、街を見下ろしながら電話をするラグナの姿があった。SGとしての任務でアルティールに滞在してすでに一週間以上……。ナナルゥは既に次の任務に取り掛かっているが、彼だけはまだここに残っていた。


『オペレーションメテオストライクの遺産……。ザ・スラッシュエッジが与えてくれた物だ。資源は有効活用せねばならない。それが故人の意思を継ぐ事でもある』


「彼女はそんなつもりでレーヴァテインを壊したわけじゃないと思うけどね」


『だが、急がねばなるまい。全てはこの星の希望の為……未来の為だ。“ジュデッカ”が目覚めてからでは遅すぎるのだぞ』


「判っているよ。でも、彼女にはフられちゃったからね。多分暫く時間がかかるよ」


『そうせざるを得ない状況を作ってしまえばいい。必要なのは適合者による干渉、そして打倒だ。服従さえさせてしまえばどうということはない』


「マキナを呼び水にするつもりか」


『かつてのヴィレッタ・ヘンドリクスでは不可能だったがな。マキナ・レンブラントは間違いなく適合者だ。レーヴァテインは必ず応えるだろう』


「そうすればまた、オペレーションメテオストライクの時と同じ事が起こる」


『一つの試練に過ぎまい。人は争い、消耗し、穏やかに滅び続けている。この確定した未来をひっくり返す為には、少々乱暴な手段も厭わない』


「まさにチェックメイト状態だからね。チェス盤をひっくり返すのはマナー違反もいい所だけど」


『それも致し方あるまい』


「それが君たちの選択なら僕は何も言わないよ」


『では』


 通話が終了し、しわがれた声は聞こえなくなった。ラグナは端末を閉じ、小さく溜息を漏らして空を見上げた。人工の空は今日も快晴である。だが、ラグナは知っている。この世界の空は、もっともっと美しい事を。

 あの蒼く澄み渡った空を……。あの深く恐怖さえ抱くほど愛しい海を。風を。大地を。全てを取り戻す為ならば……。人の選択が試される時が迫っている。ラグナはその悲しい運命を悲観し、しかしそれを受け入れていた。


「君はどうする……? マキナ・ザ・スラッシュエッジ――」




「え? うーん、言われてみると知らないかも……」


 ギルドルームの中、普段のように明るく振舞うメンバーの姿があった。マキナとニアがテーブル越しに話す傍ら、オルドとリンレイがそんな二人の様子を眺めていた。サイはまだ顔を出していないが、色々と心の準備もあるのだろう。とりあえずいざサイと会った時に上手に対応出来るようにと、そんな下らない相談事が今の話の種であった。

 何がどう転がってか、そんな話をしているうちにクリスマスの話題になった。クリスマスまではまだ二ヶ月ほどあるのだが、早く予定を決めるに越した事はないだろうという事である。しかし何故かそこから話がずれ込み、誕生日の話になった。そういえば既に半年、誕生日を迎えている人もいるのではないかという話である。

 オルドは先月誕生日だった事や、リンレイが二月生まれであるという事。ニアは十二月生まれで、それじゃあクリスマスと纏めてやられちゃってかわいそうだとかそんな話をしていた。そしてマキナの誕生日はいつだろうという話になり、最初に戻るのである。


「とりあえず十五歳だけど、誕生日はわかんないなあ」


「いやいや、誕生日迎えたら十六になってるかもしんないじゃん……。てかその十五歳ってどこからの情報なんだにゃ」


「え? そういう設定?」


「……。まあ、マキナらしいといえばらしいですけど……」


「自分の誕生日忘れんなよ……」


「うーん……でもそういわれると十五歳っていうのもなんか不安になってきたなあ。ここに来るまでわたし、ろくなことしてなかったし……。十五歳っていうのは、お母さんがわたしに言った事であって……うーん」


 腕を組んで考え込むマキナ。その傍ら、ニアが思いついたように人差し指を立てて笑った。


「あ、じゃあ誕生日勝手に作っちゃえば?」


「ほえ?」


「ないなら作ればいいにゃす!」


「――それはもう誕生日ですらねえんじゃ……」


「うっさいなあ。誕生日がわかんないなんて可愛そうだもん。せっかくだから、ボクと同じにすれば? 十二月十二日! 覚えやすいし、一緒なら纏めて祝えるし」


「うん、そうしよっかな。あんまり誕生日とか興味ないけど……。どうせ、誰も祝ってくれなかったし……。いつも一人ぼっちだったしね……ふふふ」


 マキナがどんよりとした空気を放ちながら膝を抱える。その漆黒のトラウマムードを前にどん引きするオルドとリンレイであったが、ニアだけは何とか踏みとどまってマキナの頭をくしゃくしゃに撫で回した。


「と、とにかく誕生日はボクと一緒ね! 十二月十二日はプレゼント交換だ!」


「プレゼント交換……。うん、いいかも!」


「誕生日会でもするつもりかよ、めんどくせえ……。もうそんな歳じゃねえだろ」


「オルド君はどうしてそういう事を言うのかな? この間はあんなに熱い事言ってたのに――いたたたたたっ!? なんで頭つかむのーっ!?」


「うるせえ! 余計な事口走ってんじゃねえっ!!」


「あにゃあああっ!? 頭が! 頭からなんか出ちゃう〜っ!?」


 涙目になりながらじたばたもがくマキナ。その頭を掴むオルドに左右からニアとリンレイの鉄拳が減り込んだ。怯んで倒れるオルドの手から逃れ、マキナはとことこ歩いてニアとリンレイの間に擦り寄った。女子二名に睨まれながらおびえるオルド……。テーブルの上ではアポロが欠伸を浮かべていた。

 そんな賑やかなギルドルームの扉が開いた。全員同時にそちらへと視線を向けた。そこにはヴィレッタの姿があった。声をかけようとして、誰もがそれをためらった。ヴィレッタは今まで見たこともないような険しい表情を浮かべていたからである。否、マキナとリンレイには見覚えがあった。ヴィレッタの表情――それはムーンシティに旅行に言った時、時折見せていた表情である。優しい先輩としての顔ではなく、戦士としての顔――。


「ヴィレッタ先輩……何か、あったんですか?」


「……マキナか。すまないが少しギルドを留守にする。皆、留守番を頼むぞ」


「えっ?」


 勝手に端的に伝え、ヴィレッタは支度をしてさっさと立ち去ろうとする。マキナはヴィレッタに駆け寄り、そのコートの裾をちょこんと掴んだ。ヴィレッタは一瞬恐ろしい表情を浮かべ、それからマキナのゆるい顔を見て少しだけ普段の優しいヴィレッタに表情を戻した。


「先輩、何かあったんですよね?」


「…………」


「どこに行くんですか?」


「………………。ごめん、マキナ。それは言えない」


「どうしてですか?」


「どうしてもだよ……。全部終わったら説明する。だから今は黙って待っててくれ」


「やです」


 マキナは瞳を揺らしながら首を横に振った。ヴィレッタは困ったように息をつき、それから振り返ってマキナを見下ろした。


「先輩、どうしちゃったんですか……? なんだか今日の先輩……少し変ですよ? 一人になんて出来ません」


「…………マキナ」


「何かあったなら話してください。皆で聞きますから」


「それが駄目なんだよ、マキナ――」


 ヴィレッタは心苦しい表情でマキナの手を振り解いた。そして背を向け、靴音を高らかに鳴らしながら踵を返す。


「これは私の問題だ。だから君たちには関係ない――。すまない……」


「ヴィレッタ先輩!?」


 走り去っていくヴィレッタを追いかけようとするマキナであったが、余りにも強い拒絶の背中に追う事をためらってしまう。しかし背後では既にニアたちが動き出していた。


「リンレイ、先輩のヴォータンの行き先が判るでしょ?」


「勿論です」


「おい、まさか追っかけるつもりか?」


「ほっとけないでしょ! 仲間なんだから! そうだよね、マキナ?」


「ニア……。うん、そうだよ。追いかけよう! 後で後悔するのなんて絶対嫌だから!」


 すっかりそんな空気になってしまい、オルドは仕方がなく頷いた。四人が同時に走り出し、ギルドから飛び出していく。校庭を過ぎってハンガーに向かう四人の姿をサイは遠巻きに眺めていた。これからギルドに向かおうとしていたのだが――入れ違いになってしまったようである。


「何あんなに急いでんだ、あいつら……? まあ、別にいいけど」


 サイは手にしていた紙袋の重みを確かめながらギルドへと向かった。とりあえず暫くみんなの帰りを待ってみる事にしたのである。色々と話さなければならない事は残っているし、けじめはつけねばならないだろう。

 辞めると言った手前、堂々と登場するのは流石に根性が必要だった。ここはこっそり忍び込んでみんなの帰りを待たせてもらおう。そういう魂胆であった――。

 エレベータに乗り込んだマキナたちは急いでヴィレッタを追いかけた。ざわざわと、胸騒ぎがした。少し嫌な予感がする――。その不安が現実にならない事を祈りながら、マキナはしっかりと顔を上げて瞳を開いていた。


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