オーバー・ドライブ(1)
機体全体にかかる負荷は通常戦闘の領域を遥かに超えていました。上下左右、めちゃくちゃな軌道で飛び回る未確認FA――。あんな化け物、本当にFAと呼んでいい物なのでしょうか。
わたしの周りをぐるぐると回りながら、それは付近のカナードを貫いていきます。巨大な槍か何かが飛来してくるようなイメージ……。ERSで研ぎ澄ました感覚を使っても、目で追うのがやっとでした。
『強いね、あいつ……! このままだと押し返されるぞぅ!』
「やらせないっ!! はああああああッ!!!!」
バーニアを全開に吹かし、一気に加速します。アレだけの巨体、こちらの方が小回りは効くのです。なんとか追いついて切断しなければ、戦況が変わってしまう。なんとしてもあれは撃墜しなければなりません。
突っ込んでいくのにあわせるように向こうも加速しました。正面からビームが雨のように降り注ぎ、わたしは一瞬死を覚悟しました。一発二発ならば切り払う事も可能ですが、数十発同時に四方八方から飛来しては避けることも防ぐ事も出来ません。
しかし、閃光はわたしの身体を貫く事はありませんでした。正面にはオレンジ色のカナードのシルエットが見えます。両腕のシールドを使ってわたしをかばい、焼け付いた装甲をパージしながら顔を上げるニアの姿がありました。
「ニアッ!?」
『マキナ、一人で無理しないで! ヴィレッタ先輩ッ!!!!』
『判っている! オルド、プレッシャーをかけるぞ!! ルートを限定する!!』
『了解! 下がってろ、へこたれコンビッ!!』
後方、オルド君のカナードが脚部、腰、肩から一斉にミサイルを放出します。その数は合計22発――。文字通り大挙として押し寄せるミサイルの津波に反応し、わたしの目の前まで接近していた黒い槍はスピンしながら方向転換、そのまま上へと吹っ飛んでいきます。それを追尾するミサイルの雨に付け加え、オルド君は両腕のガトリングで弾幕を張ります。
その動きにあわせてヴィレッタ先輩がビームライフルを構え、照準を合わせます。高速移動しながらミサイルをかわしている敵をロックし、放たれた眩い閃光――。ミサイルで追い込まれた敵機に、ライフルは直撃しました。しかし敵機に命中した瞬間、閃光は四方向に引き裂かれるようにして吹っ飛んでいきました。ビームに対する防御障壁……しかし大出力のロングレンジライフルはそのバリアを破り、本体にもダメージを与えたようでした。
同時にニアとわたしが移動を開始します。剣を構え、ニアの背中に続きました。ニアは片腕を低く構え、拳を繰り出すと同時に腕をワイヤーで飛ばします。敵機を捕らえたニアはワイヤーを引き戻しながら方向転換し、わたし目掛けて敵を投げつけました。
『マキナッ!!』
「うんっ!!」
両肩にマウントされた二対の剣を構え、加速します。ニアのカナードは巨体を引きずる過負荷で腕の巻き取り部分がスパークし、明らかに機体が軋んでいました。しかし雄たけびと共にあの黒槍を投げ飛ばし、槍は不恰好なままわたし目掛けて飛来します。
すかさず両手の剣をクロスした状態に振り下ろします。敵機に搭載されているのはフォゾン防御のみ――。実刀であるブレードならば、その障壁には関係なく攻撃できるはずでした。そしてその予想通り、刃は敵の装甲に食い込んだのです。しかし次の瞬間スピンする敵に巻き込まれ剣はへし折れ、わたしのカナードも吹き飛ばされてしまいます。
敵は即座に反転しわたし目掛けて突っ込んできました。がら空きになった両手で突撃を受け止めます。最初の交わりと同じ形になり、わたしは宇宙空間を引きずられて行くのです。激しい加速の中、わたしは何故か通信を開いていました。
「どうしてこんなことをするんですか!? コロニーを破壊するつもりですか!?」
『……ほう、驚いたな。エースかと思いきや、余りにも若すぎる。それに少女と来ている……』
「っ!?」
まさか返事がもらえるとは思っていなかったので、少し驚いてしまいます。格納していた頭部を開き、敵はわたしをじっと見つめていました。宙域を吹っ飛びながらわたしたちは互いに視線をぶつけます。
『しかし、戦闘中に敵とおしゃべりとは随分な余裕だな。ライダーにとって性別、年齢など関係のない瑣末な事だ。だが経験はそうは行くまい。君のその不用意な態度、死を招く』
猛スピードで吹っ飛び続ける敵機の先端部、鋭利なそれは確実にカナードに減り込みはじめていました。カナードの出力ではこれを受け止めるにはまるで足りないのです。両腕が軋み、次々に耐え切れなくなった外部装甲が剥がれ落ちて行きます。
あらゆる計器がアラートを鳴らし、警告していました。このままではカナードはバラバラに吹っ飛んでしまう……。最後の力を振り絞り、わたしは全力でカナードを加速させます。正面からこの化け物を受け止め、足を止めさせる……。早すぎて捕らえられないのならば、もう絶対に離さない。このまま確実に落として見せると――。
『止めるつもりかね、この神風を』
「かみかぜ――!?」
『ふん、“バンザイアタック”というわけさ。悪いがこのままコックピットを貫かせて貰う。だが、礼だけは言っておこう。君は――わたしの部下を殺さぬように戦っていたな。それは甘さに過ぎない。しかし、優しい事だ。礼は言わせてもらう。手を抜くつもりはないがな――!』
「く……ッ!?」
『最後に君の名を聞かせてもらいたい物だな』
「悪党に――名乗る名前はあああああッ!!!! ありませええええええええええんッ!!!!」
わたしは咄嗟に片腕を離します。しかしそれは受け止めるのを止める事を意味しました。勢いを殺しきれず、神風の槍はカナードの胴体に突き刺さったのです。しかし身をよじり、致命傷を避けるくらいの余裕はありました。すかさず離した片腕を敵のメインカメラに突きつけ、腕に内蔵されたショットガンを放ちます。この超至近距離――外れる心配なんて無用です。
連続で四発叩き込んだ瞬間、敵のカメラが爆発しました。それに伴いわたしは横に弾かれ、猛スピードで回転しながら近くの隕石に激突しました。今のダメージで完全に機体のバーニアが故障してしまい、カナードはもう動きません。しかしわたしは怯まず敵をにらみつけました。
『土壇場で目を奪ったか……。甘く見ていたようだな』
「引いて下さい!! これ以上人を殺すような事、しちゃいけないんですっ!!」
『それが君のプライド……。そういう事か』
神風は反転し、腕とカメラを収納すると急加速。そのまま宙域を離れていきました。流星のようなその鮮やかな引き際に続き、九十九たちもいつの間にか撤退を終えていました。つまりわたしたちはあの神風一機の所為で、敵の撤退を赦してしまったのです。
『覚えておこう、少女よ。出来ればもうお目にかかりたくないものだが、な』
去っていった流星を見送り、わたしは深く溜息を漏らしていました。謎のFA、神風――。わたしも出来れば二度と、お目にかかりたくはありませんでした。
マキナ・レンブラント、戦争の日の日記より――――。
オーバー・ドライブ(1)
カナルの上を直進する樂羅の放った一閃はその戦域全てを薙ぎ払い、飲み込んでいった……そのはずであった。しかし直後に巻き起こった嵐のようなエーテルの光によりフォゾンビームランチャーは弾かれ空に散っていった。残された光の上に立っていたのは二つのFAの姿である。だが、そのどちらも今までとは比べ物にならない様相を浮かべていた。
紅と黄のカラーズ機、ブリュンヒルデとヴァルベリヒ。その二機の胸部の装甲が開き、それぞれ紅と黄の宝石のような部品が表面に浮かび上がっていた。そこにはそれぞれのカラーズの紋章が浮かび上がり、眩いエーテルが常時放出され続けている。
「全く――。味方ごと壊滅でもさせるつもりなのかしら、アレは」
「それだけカラーズが怖いんだろ? 惜しかったなあ、アナザー。あれで俺たちを殺せていれば――勝利は目前だったのになあ!!」
二機のFAは装甲と装甲の合間からそれぞれの色のエーテルを輝かせ、眩い光はその機体の見え方さえも変えてしまう。光に照らされた装甲は段差によって影を作り、その姿はまるで闇の中に浮かぶ化け物のようでさえある。戦場は静まり返っていた。敵も味方も、誰もそこには近づこうとしなかった。正真正銘、カラーズの本当の力がそこにあったから。
「「 封印装置開放――!! “オーバードライブ”発動ッ!! 」」
二人の声が重なり、空に再び光が立ち上る。二機のFAの装甲、顎部が開いて空に雄叫びが上がった。紅く燃え盛る炎の翼を広げ、ブリュンヒルデが加速する。悲鳴のような声を上げながら直進するその目指す先、樂羅はあらゆる砲撃、銃撃でそれを迎え撃つ。しかしブリュンヒルデの周囲には紅い結界が展開されており、傷一つつける事さえ敵わなかった。
両腕にハンドガンを構え、それを連射する。弾丸の一発一発はとても小さく、樂羅にとっては問題にもならないはずであった。しかし放たれた弾丸は奇妙な音を立てながら見る見る加速し、一筋の光を描きながら結界を一撃で貫通していく。そして本体に着弾した直後、巨大な炎を巻き上げながら爆発したのである。
連続で樂羅に爆発が起きた。立ち上る火柱を見つめ、ブリュンヒルデは両手の銃を投げ捨てる。両腕を広げ、カナルから周囲のエーテルを汲み取り、それを全て胸部に収束していく。エネルギーをチャージするブリュンヒルデの傍ら、ヴァルベリヒは光背を右腕に装着し、それを空へと伸ばしていた。頭上のカナルに突き刺さった腕から大量のエーテルが流れ込み、光背に収束していく。二機のFAは同時に収束させた光をエネルギーに変換し、咆哮した。巨大な光の津波が一瞬で樂羅を飲み込んでいく。それは樂羅が放った光の三倍はある巨大な光線だった。
ありえない出力のエネルギーの放出――。周囲のカナルは一瞬で紅と黄、二色に交互に点滅している。莫大なエーテルがFAの支配下に置かれ、その色さえも支配されているのだ。閃光の放出は止まず、見る見る内に樂羅の巨体の半分以上が焼けて落ちた。と、同時に足元のカナルが大量に消耗された事により樂羅の残された部分は落下。遥か下のカナルへと墜落していった。
戦闘の終了を見送り、二機のFAは胸部の装甲を閉じる。すると全身の光が消失し、普段のFAとしての姿に戻ったのである。しかしその後も周囲は暫くの間沈黙していた。誰もが放心状態だったのである。
「――逃げられたわね」
「ああ、逃げられたな……。まああの様子じゃあ相当ガタが来てるはずだ。つーか、オーバードライブ攻撃を受けて無事ってのがまたすげえわな」
「無断オーバードライブは色々と上が煩いわよ」
「しょうがねえだろ? あのままじゃ死んでただろが。それより、体制を立て直してトドメを刺しにこなきゃなあ」
眼下を見下ろしアテナは小さく溜息を漏らした。オーバードライブが終了し、ブリュンヒルデもヴァルベリヒもその出力は半分以下にまで落ち込んでいる。深追いするには少々危険な状況であった。何より最初のフォゾンランチャーを跳ね返すのにエネルギーを使いすぎたのだ。生きていただけでも御の字だと言えた。
「一度撤退するぜ。ここからだと近いのは――デネヴか」
「ええ。それにしてもまあ、よくも味方を殺しに殺したものよ……。最悪の戦場ね、全く――」
「はぅ……。わたしのカナード、直ぐ治りますかね……?」
メグレズ艦隊と合流したマキナたち蒼穹旅団は補給を受け、更に追撃戦に参加する事になった。敵勢力は現在ミザールにまで撤退。防衛ラインを整えている最中である。既に準備が出来たコロニーガード隊やフェイス部隊は追跡に向かっているが、蒼穹旅団は補給が済んでいない為出遅れていた。
大型のフォゾンライフルを装備しているヴィレッタ機、ミサイルを撃ち尽くしてしまったオルド機、更には腹部と背部に大ダメージを負ってしまっているマキナ機と、作業が余りにも多いのである。勿論、撃墜されてしまっている味方も居る事、そしてあの神風を撃退したことを考えれば被害としては優しい程度ではあったが。
宇宙艇の中、バックパックを予備に付け替える作業が進められていた。作業用アームを操作しているリンレイの背後、マキナは不安そうな表情で修理されている愛機を見上げている。正直、腹部に負った傷は大きく、そう簡単に直せそうにはない。応急処置は可能だが、あくまで応急処置である。激しい衝撃には耐えられないし、流石に胴体パーツの予備など持ち歩いているわけもない。
「いや〜お譲ちゃん、あれはちょっと無理だなあ〜。補給部隊も、武器やバックパックは持ってきてるけどねえ」
「そ、そこをなんとか〜……」
「無理無理。悪いけど、他の部隊に言っても同じだと思うよ。それじゃあね」
「あ、お、おじさーんっ!!」
去っていく整備員たちを見送り、マキナはその場に膝を着いた。背後ではリンレイがバックパックの換装を終えたところであり、リンレイはへこたれているマキナの肩を叩いた。
「とりあえず戦闘には支障はないですが、あんまり無理をすると腰から下がボッキリいっちゃいますから気をつけてくださいね。敵機に取り付くなんて無茶はもうやめてくださいよ?」
「はぅ……。はい……」
へこたれながらリンレイのスカート下、素足にすがりつくマキナ。その頭をぐりぐり撫でながら苦笑するリンレイへと近づくナナルゥとラグナの姿があった。二人はへこたれているマキナの前に立ち、マキナを引っ張り起こす。
「マキナ、大丈夫かい?」
「うう……。うん、平気。がんばる……」
「マキナはがんばったぞ! あのでっかいの、強かったもんなぁ〜」
「うん。神風っていうらしいけど……滅茶苦茶なFAだったよ。あれってFAって呼べるのかな」
「何にせよ、あんなものは普通の反ノーマル組織が所持出来る代物じゃない。何か裏があるのか……それとも、反ノーマル勢力は僕たちが思っている以上に巨大化しているのか、だね。何にせよ次は僕も出撃するから、マキナたちはそんなに無理しなくても大丈夫だから」
ラグナの機体の搬入は遅れており、先ほどようやくデネヴより到着した所だったのである。交換学生では機体を持ってきていなかったというラグナの事情は特殊であり、その彼の愛機“トリスタン”もまた、マキナたちには見覚えのない代物だった。
純白の騎士を思わせるその風貌はカラーズ専用機、特にブリュンヒルデやタンホイザーに近い意表を感じる事が出来る。宇宙艇に搬入されたトリスタンは現在はマキナたちの機体の隣に並んでいる。それを見上げ、ラグナは優しく微笑みを浮かべた。
「そういえばラグナ君って、確か“ソードガーディアン”って名乗ってたよね? それとこの特別機、関係ある?」
「うん。ソードガーディアン――通称SGはぶっちゃけて言うとカラーズの監視役、そしてその護衛役なんだ。SGは僕だけじゃなくて何人かいて、普通は表に出る事は無い。ただ僕はSGとしてちょっと特別な立場でね」
カラーズがたった一機で圧倒的な戦闘力を保有する事実に最も敏感なのは敵ではなく味方、つまりそれを統括しているフェイスなのである。カラーズたちはそれぞれが絶対的な操縦センスを持ち、それに見合っただけの大きな力と権力を与えられている。単純にカラーズ専用機に搭乗しているカラーズ一人だけ見ても、その戦略的価値は計り知れないのだ。
逆に言えば、たった一人でもフェイスを裏切った瞬間カラーズは絶大な脅威ともなる。彼らは定期的にフェイスへ近況を報告、フェイスの任務には一つ返事で応えるなど、様々な制限を課せられている。それでもカラーズに対する策としては余りにもおろそかである。よって、フェイスが秘密裏に運営しているのがSG部隊――。カラーズがフェイスの表の顔だとすれば、その丁度裏に立つ存在である。
つまり、ラグナはSGの一人である以上通常ではこうして学園の生徒として振舞う必要も、更にはマキナたちに名乗る必要もない。むしろそれは命令違反にも近い行いとなるだろう。しかし彼に課せられているSG任務は特殊であり、あえてそれを公開する方針で立場を進めている。
「じゃあ、ナナルゥのお目付け役って事? そういえば月でもナナルゥの護衛してたもんね」
「そんなところかな。尤も――目をつけているのは彼女だけではないんだけど、ね」
微笑むラグナの眼光が一瞬鋭く光る。その視線の先に居るのはマキナなのだが、本人は鈍くて気づいていなかった。
「兎に角、対カラーズ用の粛清専用機を与えられているんだ。それなりに戦力としてアテにしてくれて構わないよ。僕らとしては、マキナに死なれるほうが大きな損失なんだ。くれぐれも無理はしないで」
「あ、うん……。ありがとう?」
戸惑うマキナの頭をなでこくりラグナはニコニコしていた。そのラグナを突き飛ばし、ナナルゥがマキナに飛びつく。うさ耳の少女はマキナの胸に顔を埋め、耳をぱたぱた上下させていた。
「ラグナの話はいっつも長いぞう! マキナなら大丈夫! 次もきっと大活躍間違いなしっ!」
「あ、あはは……。そ、そうかな」
「マキナ! あれ、ラグナたちも一緒だったんだ」
走ってきたのはニアとヴィレッタ、そしてオルドであった。三人がマキナたちに駆け寄る途中、艦内の重力制御が解かれて全員の身体が宙に浮かぶ。補給作業が完了し、次の戦場に向かって動き出した証拠であった。
「敵の正体がわかったって! ていうか、向こうが名乗ってるらしいよ!」
「え、ほんと?」
「敵は“七星”と名乗る反ノーマル組織だ。この戦い……少々長引くかもしれんな」
「“七星”……。聞いたことの無い組織ね」
リングタワーコロニー“デネヴ”内に存在するフェイスデネヴ校のFA格納庫でドリンクを口にしながら汗を拭くアテナの姿があった。傍らには同じくドリンクを口にしているカーネストの姿がある。二人はフェイス内に流れる情報を映し出すモニターから七星の情報を読み取っていた。背後では二機のカラーズ機が冷却中であり、出撃までにはまだ時間がかかる。
七星を名乗る武装組織の要求、そして闘争理由は開戦直後より比較的明確になってきていた。彼らの要求は七つ存在するコロニーのうち、一つをアナザー自治区として専有する事。それに伴うコロニーガードとフェイス勢力の撤退、更に月との交流ルートの確保などなど、つまり彼らは宇宙で暮らしたいと、そういう趣旨なのである。
しかもその要求は開戦直後には既に発表されていたのだ。しかしコロニー理事会はそれを却下。全く話を聞く事もなく即座にフェイスに殲滅依頼を通達したのである。
「別にコロニー一つくらいあげればいいのに。どうせ余ってるんだから」
「それを握りつぶそうとする理事会のやり口がまた最高だな。そういう態度とってるからアナザーが粋がるんじゃねえの?」
「あら、意外ね? 貴方、アナザーの不遇に対する理解を示すなんて事が出来るのね」
「あ? そりゃ出来んだろ。俺もアナザーだぞ?」
何を当たり前の事を言っているんだこの馬鹿は、とでも言いたげなカーネストの視線にアテナは凍りついた笑みを浮かべた。それが判っているのならば何故アナザー殺しなど進んで行うのか……。矛盾した思考にイライラしていると、カーネストは口元だけを歪めるような冷たい笑顔で言葉を続けた。
「連中は過酷な状況を押し付けられ、生きることに躍起だ。コロニーだの月だのでのうのうと暮らしてる連中にはアナザーの事なんざなんもわかんねえし、アナザーだって理解してもらえるとは考えちゃいないのさ」
「でも、リングタワーコロニーや月にだってアナザーはいるわ」
「差別は生まれ出でた瞬間から付きまとい、死と共に開放される物だ。生きてさえ居ればそれで共存か? 笑わせるぜノーマル」
「でもだからって武力行使とは浅はかね……。ま、今のご時世は荒っぽい交渉で活路を切り開く以外に道はないんだけど」
それはアナザーに限った話ではない。ノーマルもアナザーも同じ事だ。地球では毎日生き残りをかけた明日も知れぬ戦争が続いている。問題はそれを月やリングタワーコロニー、そして宇宙に暮らす人々が全く認識していないという事なのかもしれない。
アナザーや世界の境遇に対する戸惑いにアテナは気が重くなった。誰だって大量殺戮などやりたくはないのだ。その落ち込んだアテナの気分を察してか、カーネストが立ち上がりその肩を叩いた。
「まあ、俺たちにとっちゃ稼ぎ時ってわけだ。せいぜい派手に暴れて殺しまくろうじゃねえの、なあ猟犬さんよ」
睨み返すアテナを一瞥し、カーネストは去っていく。その後姿を恨めしげに見送りアテナは目を閉じた。そんな風に割り切れれば誰も苦労はしない。しかし、自分もまた現金なものだと思う。普段から人を殺しに殺しているというのに、アナザーだのノーマルだの、主義だの主張、立場や正義なんて言葉が絡んでくるだけで迷いが生じるのだから。
やっている事は人殺し一辺倒で他の事などありはしないのだ。引き金を引く理由は様々だろうが、その結果として撃ちだされる弾丸はたった一つのシンプルな真実でもある。心を冷静にしてアテナは迷いを振り切った。ナイーブな気持ちに浸っている資格など、紅の女王にはありはしないのだ。
「楽園を空に求めたアナザーの一団、か……。悲しいものね。無力という事は、こんなにも悲劇だわ――」
呟き、アテナもまた休憩を取るために歩き出した。戦いは長引くだろう。無理は禁物だ。焦らず、気持ちをリセットする。大量虐殺の引き金、それをただ無心に引く為に――。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*早く地球に帰りたい*
マキナ「ちゃんと絵のリンクが張れてほっとしたよう〜」
ニア「みてみんって親切だよね。リンク張るのちょー簡単だった」
マキナ「そうだ! ニア、ニア! 聞いて聞いて!」
ニア「な、なに? どうしたの?」
マキナ「俺の嫁って言われたーっ!!!!」
ニア「…………」
マキナ「え? なに、この空気」
ニア「まさかニコニコ以外でそんなセリフを聞く日が来ようとはね……」
マキナ「お嫁にいきまあああああす!!」
ニア「ま、マジで!?」
マキナ「だって不人気だもん♪」
ニア「…………(なんかリリアに似てきた)」
〜小休止〜
マキナ「というわけで、二部も後半に入ってきたので、特別企画! ショートシナリオを書いてみよう!」
ニア「ストーリー進行に合わせてちょっとずつ番外編を書いていく予定です」
マキナ「優先されるのはアンケートで人気の順番です〜。アンケート、感想、メッセージなどでこんなシチュエーションの番外編が読みたい! と送ってくれたらそれやります!」
ニア「というか、ネタが思いつかないだけなんだよね……。ここ続けるの苦しくなってきた」
マキナ「作者を助けると思ってー、よろしくおねがいしまーす!」
ニア「具体的には以前やった“マキナ観察日記”くらいの内容になるかと思います。本編番外編としてちょこっとやるくらいで」
マキナ「というわけで、頑張りますのでよろしくおねがいします!」
ニア「全くこなかったらどうする?」
マキナ「泣く」
ニア「リリアが一位になったらどうする?」
マキナ「え……? そういう事言うと、本当に投票してくる人居ると思うよ――」