ファニー・ライトニング(3)
「……なんか、この制服ちょっと馴れないね」
後日、わたしたちの元に黄色い制服が届きました。この色を見ていると何となく例のイエローさんを思い出すのですが、まあアルティールの色なので仕方が無いでしょう。
ちなみにこの制服の色というのは、元々は所属していたカラーズの色からきているそうです。アルティールには三人のカラーズ、つまりレッド、ブルー、イエローの三人がいたんだとか。
ちなみにベガの制服は黒、デネヴは翠一色だそうです。三色の制服が存在しているのはアルティールだけだそうで、そのクラス分けに関してもフェイスごとに違っているんだとかなんとか。
なにはともあれ、わたしたちは黄色い制服に袖を通してギルドに集まりました。個人的には蒼い制服のほうがよかったのですが、しかたありません。ちょっとだけ成長した証なのですから、ありがたく受け取っておきましょう。
「うん、似合っているよ皆。試験合格おめでとう」
「「「 ありがとうございます 」」」
「サイは試験を受けなかったらしいな。まあ、普通はこの時期にクラスアップ試験を受けるのは時期尚早というもので、合格率も高くない。サイの判断はそれはそれで賢明だ」
「俺はずっと蒼い制服でいいっすよ〜」
そんなことを言うサイ君にみんなは笑っていたのですが、さてさて。サイ君だけがCクラスのまま残留となりちょっと複雑な心境です。出来ればやっぱりみんな一緒に進みたかった……そう考えるのはわたしだけではないはずです。
なにはともあれ、これからは訓練生ではなく立派なフェイスの傭兵の一人。気を引き締めて臨まねばなりません。実戦を経験し腕を磨き、戦いの中で成長し続けなければならないのです。わたしもあのカラーズの座に着く為に――。
「そうだ。Bクラスになったという事は、お前たちにも専用の機体が支給される。これからは単座のカナードを操縦して貰うことになるわけだが――。皆に見せたいものがある。一緒に来てくれないか?」
ヴィレッタ先輩に連れられ、わたしたちは学園の内部にあるエレベータに乗り込みました。それは下層まで直通のエレベータで、わたしたち以外にも何人かの生徒が乗り込んでいました。
数分後、下層に到着したわたしたちの目の前に広がっていたのは巨大なFAハンガーでした。無数のヴォータンやカナードが並ぶ中、生徒やメカニックさんたちが行きかっています。以前にもここには来た事があったのですが――問題はその奥にありました。
いくつかの区画を移動した先、そこにわたしたち蒼穹旅団の為のハンガーが用意されていました。既にカナードの積み込みは終了し、わたしの蒼いカナード、オルド君の茶色のカナード、ニアのオレンジのカナード、そして奥にはヴィレッタ先輩の紫のヴォータン。四機仲良く並んでいました。
改めてこうして眺めると壮観です。それぞれが同じ機体のはずなのに、色や装備、パーツで個性が着いていてそれが面白くもあります。皆自分たちの機体とハンガーを手に入れた事が嬉しいのか、どこか浮かれた様子でした。
「旅団も一時期つぶれかけたりして大変だったが、こうしてまたハンガーを使える日が来るとはな……。皆のお陰で、先輩たちが残した設備を無駄にしないで済みそうだ。本当にありがとう」
「ほえ? このハンガー、元々あったんですか?」
「ああ。旅団のメンバーが使っていたものだ。設備はかなり充実しているし、装備や予備のパーツも揃っている。このままでは倉庫の肥しになってしまうからな。是非使ってやってくれ」
なんでも傭兵を始めて直ぐに直面するのが資金面の問題なんだそうです。まともに稼げるようになるまで、弾薬費や修理、補給代が物凄くかかるのだとか。FA一機を個人で運用するというのはそういう事で……。
多くの場合、フェイスにお金を借りるか、企業やシティにスポンサーについてもらい、なんとかやっていくのだそうです。しかしそれもこのご時世では大変なんだとか。せっかくライダーになっても資金繰りが上手くいかず、活躍する前に廃業してしまう人もいるのだそうです。
そういう意味ではわたしたちはとても恵まれていました。蒼穹旅団のハンガーだから無料だし、予備パーツや弾薬も無料なのです。これでなんとか、このままやっていければいいのですが……。ヴィレッタ先輩さまさまでした。
「とはいえ、お前たちはみんな腕利きの傭兵だ。若すぎて経験が不足しているが、十分すぎる才能と熱意がある。直ぐに大成していくさ」
「ありゃ? ねえねえ、リンレイの機体はどこ?」
ニアが首をかしげ、わたしもそれに気づきました。そういえば、並んでいる機体の中にリンレイの物はありませんでした。複座から単座になった以上、リンレイにも機体が存在するはずなのですが。
まるでその質問を待っていたかのようにリンレイは前に出て、こほんと咳払いを一つ。そうしてぺこりと頭を下げ、わたしたちにその理由を教えてくれました。
「すみません、黙っているつもりはなかったのですが……。私はBクラスに昇進後、転科申請を行いました。つまり今日から私はライダーではなくなった、という事ですね」
「えっ!? そ、そうだったの!?」
「なんでにゃ!?」
「理由は色々ありますが……。私が転科申請をしたのは、オペレーターなんです。これからは皆さんをサポートする側に回ろうと思いまして」
何でもリンレイは元々ライダーには興味がなかったのだとか。元々オペレーターになりたかったのですが、オルド君がライダー課であるということ。そして最初は複座に搭乗することを知り、オルド君を心配して一緒にライダー科に入ったのだそうです。
オルド君は既に一人前とまでは行かずともライダーとして一人でFAを操縦出来るようになり、リンレイも本来の目的に戻る事にしたのだとか。それに旅団にはオペレーターが一人も居ないので、このままではちょっと問題でもあります。
「皆さんを戦場に運ぶ輸送機の操縦とか、通信管制も私の仕事になります。武装や弾薬の調達、倉庫の管理とか、やらなきゃいけないことは多いですから」
「……それってオペレーターの仕事超えてない?」
「ですけど、皆さん自分で出来ますか? 自分の事だけなら兎も角、ギルド全体が部隊として運用されるようになれば様々なサポートが必要になるはずです」
そもそも自分のFAの管理さえも出来るかどうかわたしは不安です。確かにそういうサポーターが一人くらいいないと問題かもしれません。ヴィレッタ先輩も本格的に戦場に復帰する以上、わたしたちのサポートをいつまでも先輩に任せておくわけにもいきません。
「よーし! こうなったら、皆で頑張って旅団を盛り上げていこうーっ!! 目指せ! 最強ギルド!!」
「おーっ!」
ニアが声をあげ、わたしがそれに続きました。入学から既に六ヶ月、季節は既に秋。思い返せば長かったようで短かった月日の中、わたしたちはいよいよライダーとしての第一歩を踏み出したのでした。
マキナ・レンブラント、旅団再出発の日の日記より――――。
ファニー・ライトニング(3)
「そんなわけで、今日はお礼をしようと思いまして」
マキナとニアの部屋、そこには二人の姿はなかった。ニアが居ない代わりにそこにいたのはアンセムと――そしてアテナである。二人ともこの部屋にいるはずのない人物であり、当然二人も落ち着かない様子であった。
二人は顔を見合わせ、そして正面でニコニコしているマキナを見つめた。二人をここに呼んだのはマキナである。たまたま暇があり、たまたま二人とも来る事が出来たので断る事も出来ずにやってきてしまった。しかし、呼ばれた理由も良く判らない。
「お嬢さん、お礼って一体……?」
「はいっ! この間の一件で、助けて貰っちゃいましたから。それに、今まで色々ありましたし、全部お礼をひっくるめて今日はお夕飯をご馳走しようと思いまして」
「……ご馳走って。貴方、料理出来るの?」
「はいっ!! ばっちり任せてください!! そんなわけで、料理作ってくるのでくつろいでてくださいね!」
「あ、ちょっと……」
呼び止めるアテナも無視してマキナは飛び出していく。いつもは冷静なアンセムも冷や汗を流していた。二人は暫くの間黙り込み、どちらともなく同時に立ち上がった。
「あら、お兄様どこへ行くのかしら……」
「お前こそどうした……」
「私はちょっと、家に忘れ物を……」
「私も仕事がある」
二人は同時に見つめあい、笑ったまま冷や汗を流す。どちらともなく席に着き、腕を組んだ。マキナが料理が得意という話は聞いた事が無い。というより、見た目からしてヤバい雰囲気しかない。あのゆるゆるした表情で料理を作られては何が練成されるかわかったものではない。
二人とも逃げ出したい気持ちで一杯だったが、お互いにけん制する形で脱出は断念されていた。仕方がなくおとなしく料理を待つことにしたのだが、どうにも落ち着かない。ダイニングで待たされている二人であったが、振り返るとマキナがキッチンで包丁などを取り出しているのが見えた。
「……兄さん、どうしましょうか」
「…………。フェイス足るもの、死を恐れはしない。常に渾身のつもりで生きているからな」
「そういう問題じゃないでしょう……!? あの子の料理なんて、何が出てくるか――うっ!?」
突然アテナが凍りつき、青ざめた表情を浮かべた。その視線の先を見つめ、アンセムも言葉を失う。部屋の隅に、なんとあの白いうさぎが転がっていたのである。身体を小刻みに痙攣させ、口からは泡を吹いていた。一体なにが起きたのか……。アポロの前にはえさ箱、そしてそこには茶色い不気味な軟体がこんもりと盛られていた。
ぷるんぷるんとしている謎の物体……。そこにスプーンがあるところをみると、どうやらうさぎは強引にそれを口に捻じ込まれたらしい。銀色のスプーンは何故か腐食が始まっており、先端部分は見るに耐えない状態になっている。二人の表情は一層青ざめた。ま、まさか――。
「ふんふふんふふ〜ん♪ もう、ニアも食べていけばいいのに遠慮してわざわざリンレイのところに泊まって来るなんて。家族水入らずにしようとしてくれたのかな〜」
それは絶対に違うと二人は思った。成る程、あのアナザーの少女が姿を見せないのはそういう理由だったか――。納得しながら二人は肩を震わせた。逃げ出したくて仕方が無いが――。
「二人にはいつもお世話になってるし……頑張ってお料理しなきゃ♪」
と、無邪気に張り切っているマキナを目にしてしまった手前、逃げる事も出来ない。ごくりと生唾を飲み込んだ。勿論食欲がわいたからではないが、一応念を押しておく。
「ク……ッ! 人類に逃げ場なし、か……!」
「に、に、兄さん……? こんな所でこんな死に方、絶対に私嫌よ……?」
「私だってそうだ……。ふ、これもあの子から目を逸らしてきた報いという事か……」
「今そんな事言ってる場合!?」
物音に二人が同時に振り返る。マキナは巨大な肉塊を冷蔵庫から取り出し、包丁を逆手に構えた。そして瞳をキラリと輝かせると、なにやら猛々しい声を上げながら包丁を振るっていた。銀色の軌跡を残しながら刻まれる肉……。
「やっぱり、力をつけるにはお肉だよね♪ アポロもお肉食べさせたら大暴れしてよろこんでたし」
「……うさぎというのは、肉を食えるのか?」
「…………」
「おいしいお茶もリンレイにもらったし〜。二人とも喜んでくれるといいなあ〜」
二人は最早限界だった。アテナは泣き出しそうな表情を浮かべ、アンセムは窓の向こうを眺めながら微笑んでいる。二人とも死を覚悟していた。しかし、こんな所で死ぬわけには行かない。同時に立ち上がり、頷きあう。そして二人は台所へと駆け込んでいった。
突然飛び込んできた二人に目を向けながらマキナは物凄い勢いで野菜を切断していた。余所見をしながらも確実に料理を細切りにしているその技術にも驚かされたが、何よりも驚異的なのはマキナの前に並んでいる食材の協調性のなさである。一体何を練成するつもりなのか……。
「そんなにはらぺこさんだったんですか? お料理全然まだ出来てないですよう」
「おっ! お嬢さん!!」
「私たちにも、手伝わせてくれ」
「ほぇ?」
二人の言葉にマキナは目を丸くする。あんまりにも驚いたのか、包丁の手が止まった。
「な、なんでですか?」
「な、なんでって……ねえ?」
「あ、ああ……」
「「 家族だから 」」
こうしてアテナとアンセムは予備のエプロンを装着し、台所に立つことになった。三人して並ぶのだが、どうにも身動きが取れない。そもそも一人用のキッチンである、三人並んで動き回れるほど広くはない。
必然的に三人の作業は手渡し、協力的に行わねばならなくなったのだが……問題が一つ、しかも重要な欠点があった。それは――三人とも料理が出来ない、という事である。
アンセムは基本的に外食で済ませているし、アテナも同じである。多忙な二人が家でわざわざ料理を作る事など滅多にないのだ。それでも一応、作れる料理という事を考え、三人はカレーを作る事になった。カレーならばとりあえず食べられないものは出来ないはずである。
勿論、二人はマキナをお手伝いというポジションに甘んじる。マキナの料理を食いたくないなどとは絶対にいえないのだ。そんなことを言えばこの少女はどんな表情を浮かべるか、想像もしたくない。兎に角誘導的に彼女の料理を成功させ、かつその事実に気づかれてはならないのだ。圧倒的難易度を誇る、Aクラスのミッションだといえるだろう。
「とは言え……。お嬢さん、物凄い勢いで野菜とか切れるのね」
「なんかこれだけは得意なんです。桂剥きとかも出来ますよ」
「アテナ、カレーってどう作るんだ?」
「兄さん……そんな事も知らないんですか? お湯にルゥを入れるだけですよ」
「それだけでカレーになるのか……ん? じゃあ野菜はどこで使うんだ?」
「野菜先に入れるんでしたっけ?」
「後じゃないの?」
「……アテナ、どうして牛乳を取り出しているんだ?」
「牛乳入れたらおいしいんじゃないかと思って」
「その、素人に良くありがちな○○入れたらおいしそう的な発想はやめないか? 堅実に行こう」
「あのう、二人とも手を動かしてもらえます?」
こうして三人はああだこうだ言いながら料理を進めていった。結局、カレールゥの箱の裏に作り方が書いてあることをアンセムが発見し、三人でその通りに作る事で一応完成にこぎつける事が出来た。
三人は何とかカレーを作成し、ほっと一息。更にカレーを盛り付け、付け合せにサラダ――これはマキナのお陰でかなりおいしそうだった――を手にテーブルに着く。最後にリンレイにもらったお茶――消化を強力に助ける効果がある――を汲み、無事に夕食の場が完成した。
「わぁ〜! おいしそうですね!」
「……ああ。食べられる物が出来てよかった」
「う? 何か言いましたか?」
「なんでもないわよ! それより早く食べましょう……。バタバタしてたらお腹すいちゃった」
「はい!」
三人同時にスプーンを手にし、三者三様の面持ちでカレーを口に運ぶ。味は――あまりおいしいとはいえなかった。だが、無難にカレーの味である。特別な作り方はしていないのだ、当然の事だった。
「おいしいですねえ!」
マキナが一番にそう言った。二人は普段、もっとおいしい料理を毎日のように食べている。舌が肥えているだけに、そんなにおいしくは感じなかった。しかし明るい笑顔でそう言うマキナを見ていると、なんとなくそんな気がしてくるのだ。
「やれやれ、まだまだね〜お嬢さんも」
「ああ。だが、ありがとう」
「――! はいっ!! はむはむ♪」
マキナは本当に幸せそうだった。三人は笑いながらスプーンを手にしていた。カレーを作る為だけに、大分時間を使ってしまった。夕飯と呼ぶには遅すぎる時間だった。僅かな時間を照らし合わせ、三人が使った無駄すぎる時間。けれども大切な、儚いひと時だった。
「でも、結局お二人に手伝ってもらって……。お礼をしたかったのに、なんかすいません」
「別に、貴方にお礼を言われるような謂れはないわよ。ただ、自分たちのやりたいようにやっているだけだもの」
「でも、感謝してるんです! わたし、アテナさんの事大好きですから!」
「だ……っ!?」
突然のマキナの言葉にアテナは顔を紅くした。しかしマキナは全くそれに気づいていない。にこにこしながら言葉を続ける。
「わたし、アテナさんに追いつける日まで頑張ります。だから待っててください。絶対貴方の立っている場所まで、追いついてみせますから」
それは野心的な、しかし真っ直ぐな目だった。アテナはそれに微笑みで返した。二人の様子を横で眺め、アンセムも微笑む。静かな食卓だった。会話は少なかった。だが、静かな暖かさがあった。
「こんなに賑やかに皆で一緒にお料理したの、初めてです。なんだか家族が出来たみたいで凄く楽しかったです」
「一応、私は君の保護者だ。あまりかまってやる事は出来ないがな」
「でも、いつも助けてくれてるんですよね? ジル先生に聞いたんですよ?」
「…………。あのおしゃべりめ」
「先生、ありがとうございます。いつも、わたしの為に頑張ってくれて……。先生、言いましたよね? ありがとうとごめんなさい……お礼と謝罪。二つをきちんとすれば、己と向き合って前に進めるって。わたし、凄くそれいいなあって思って……。な、なんか上手く喋れてないですよね。ごめんなさい」
「構わない。続けなさい」
「は、はい! それで、先生のいう事すごくいいなあって。なんか、お父さんがいたらこんな感じなのかな、とか……勝手に思ったりして……あ、でもお父さんって歳でもないですもんね。こんなでっかい娘がいたら、ちょっとあれですもんね」
マキナは取り留めの無い話を続けた。それはどうでもいいことだったり、まとまりのない話だったり……それでもアンセムとアテナはちゃんと話を聞いていた。二人が話を聞いてくれるからマキナはずっと話をし続けた。友達のこと。戦いのこと。今まであったこと……。全部大切な思い出だった。幸せそうに語るマキナを見て、アンセムも珍しく笑っていた。
「あ、すいませんなんかわたしばっかりしゃべって」
「別に構わないわよ」
「ほんとですか? じゃあアテナさんのこと、お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「えほっ!!」
水を口にしていたアテナはその一言で水を噴出し、それがマキナの笑顔に直撃する。びっしょりになったマキナはそれでもにこにこしたままだった。
「お、お、おねえちゃん!? この私が!?」
「は、はい……。駄目ですか? お姉ちゃん」
「はうっ!」
アテナは顔を真っ赤にして頭を抱えていた。その時彼女の思考の中にはすさまじい苦悩があったのだが、それは数秒間の事。冷静さを取り戻したアテナは首をぶんぶん振りまくり、それから答えた。
「駄目に決まってるでしょ!」
「そ、そうですよね」
「で、でもまあ、貴方がどうしてもっていうなら、呼んでも……」
「いきなり迷惑でしたよね……。アテナさん程の人ですから、しょうがないですよね」
「いや、あの……そうね。顔を洗って出直してきなさい!!」
我ながら意味のわからない発言だった。アテナは顔を紅くしながら再び水を口にする。マキナはタオルを取ってきて顔をごしごし拭いていた。その時だった。
「ふふ……っ! 面白いな、お前たちは」
二人同時に仰天していた。目を真ん丸くして、一歩身を引く。
「ア、アンセムさんが……」
「笑ってる……」
「何だ? 私が笑ってはいけないみたいな言い方だな」
「「 そ、そういうわけじゃなけど 」」
「ははは! お前たち、本当にいいコンビだよ」
少しの間アンセムはそうして笑っていた。それから思い出すように遠くを眺めながら眼鏡をはずした。深々と息をつき、静かに微笑む。その様子はどこか寂しげだった。
「君は、君の母親に本当に良く似ているな……」
「え?」
「さて、後片付けを済ませようか。私たちは明日も早い。早い所おいとましよう。予想以上に時間をかけすぎた」
そう言ってアンセムは皿を手に立ち上がった。キッチンに向かっていくアンセムの背中を見送り、マキナはなんともいえない表情を浮かべていた。アテナも彼に続いて立ち上がり、それから残った皿を手にする。
「私たちも片付けましょう」
「あ、はい……。あの、アテナさん」
「ん?」
「来てくれて、ありがとうございました」
「…………。ホント、変な子よね」
こうして夜中の夕食会は三人肩を並べ、後片付けをして終了となった。去っていく二人を寮の出入り口までついていって見送り、二人を乗せた車が遠ざかっていくのを見届け、マキナは夜空を見上げた。
秋になり、アルティールの空も寒くなってきた。マキナは人工の夜空を見上げ、静かに息をついた。二人は喜んでくれただろうか? それとも――。どちらにせよ、良かったと思った。暖かさを感じた。家族というものが自分にもあるのならば――こんな感じなのだろう。掌をじっとみつめ、そう思った。
だが、それよりも気になる言葉があった。母親に良く似ている――。アンセムのその言葉である。その時アンセムは本当に寂しげな表情を浮かべていた。その横顔が、どうにも忘れられなかった。
部屋に戻り、一人で薄暗い部屋の中を歩く。テーブルの上、街の明かりを弾いて煌く何かがあった。手にとって見ると、それはアンセムの眼鏡である。しかしアンセムはそのまま車を運転していったはず……。疑問に思い眼鏡をかけてみた。それもそのはず――眼鏡には度が入っていなかった。
「だて、めがね?」
マキナは眼鏡を手に取り、そっと握り締めた。その表情はどこか照れくさそうで、嬉しそうだった。再び眼鏡をかけて窓から街を見下ろした。この眼鏡をかければ――彼の見ている世界も、見えるのだろうか? そんなことを、考えながら……。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*ふと、思った事*
ニア「そんなわけで、今日は歴代の主人公たちを並べてみました」
マキナ「え……? な、なんで?」
ニア「え? なんか面白そうだったから。題して、あの主人公はどのへんグラフです」
マキナ「え……?」
【欝】>香澄>アイリス>夏流>リイド>マキナ>響>【熱血】
ニア「まあ、大体こんなもんかな?」
マキナ「……うん。まあ、大体こんなもんだね」
ニア「だから何って話なんだけどね」
マキナ「うん――」