ファニー・ライトニング(2)
『結論から伝えよう。マキナ・レンブラント……君を無罪放免とする』
「へっ?」
『同時に、君はクラスアップ試験に合格。Bクラスの傭兵へとクラスアップを果たしたことになる。おめでとう』
「ちょ――っと、待ってください。それって一体……!?」
わたしが立っていたのは、薄暗い部屋の真ん中でした。周囲にはいくつかの立体映像が浮かび、四方八方から声が飛んできます。三つのフェイス、その重要人物が出席する会議の場でしたが、勿論全員が直ぐ直ぐ顔を合わせられるはずもなく。フェイスではこうした通信を使った議事会議を行うのだそうです。
その立体映像のえらい人たちの真ん中でわたしは目を丸くしていました。つい先程まで死刑宣告を待つだけの囚人のような状態だったのですが、今はもうそれどころではありません。わたしの命令違反、暴走行為、それらを咎める為の会議のはずでした。それなのに、会議が始まった直後にはこの結果……。納得行くはずもありません。
そんな不満の表情があからさまだったのか、立体映像のおじさんの一人が眼鏡を押し上げながら資料を提示します。わたしはそれをじっと見つめました。
『現存するカラーズ六名、その全員が君の釈放を願い出ている。これが証拠の資料だ』
「……え? な、なんでですか?」
『それは君の方が詳しいのではないかね? 特にイエローとホワイトが君にご執心のようだ。カラーズ全員が反対しているというのに君を裁ける程、我々に勇気はない』
何故、カラーズがわたしの事を擁護するのか……。事情は全く理解出来ませんでした。わたしは所詮、ただの一般人のはず。カラーズだって、面識があるのは紅のアテナさんと黄色の人だけのはず。だというのに、全員からの擁護……。わたしの頭は状況に追いつく気配がありません。
『それに、君ほどの逸材を手放すのは余りにも惜しい。君は、フェイスをどのような組織だと認識しているのかね?』
「え……? えっと……傭兵、ですよね?」
『そう、傭兵だ。我々は傭兵組織なのであって、軍隊ではないのだよ。確かに規律は必要だが、むしろその運用は個人個別であるべきなのだ。スタンドアローンはむしろ歓迎すべき所……。君は単騎で十分すぎる戦果を上げた。依頼も実際、忠実にこなしている。ただそこに付加事象として暴走、単独行動があっただけのことだ。それを重く見る事も時には必要だが、君はその限りではないのだよ』
「そ、そんなんでいいんですか……?」
『良かろう……? フェイスは君のような人材を育成する為に存在する。君は良い商品になるだろう。カラーズ全員からの嘆願など、理由に過ぎん。むしろありがたいほどだ。我々はこれで、貴重な人材を裁かずに済む』
『君には、早くカラーズになってもらわねば困ってしまう。カラーズ程の特権を持てば、君の行いは全て無理なく通るのだからね』
わたしはただただ唖然としていました。そんなこんなであれよあれよと会議は終わってしまい、わたしは釈放となりました。一切の追求を受けず、そのまま手錠がはずされます。呆然としたまま部屋を出ると、そこにはアンセムさんとジル先生が待っていました。
二人はわたしを見て、暫く怖い顔をしていました。おずおずと頭を下げ、謝ります。すると二人は顔を見合わせ、呆れたように息をついて微笑んだのです。
「……ばかたれが。これに懲りたら少しは自粛しろ、へこたれ」
「は、はい……。あのう……これで、良かったんでしょうか?」
わたしがした事は、悪い事です。褒められてはいけない事なのです。裁かれるべきを裁かれない――それは、わたしの心にだって釈然としない物を残すのです。
自分の所為で他の試験に参加した生徒には迷惑をかけてしまったし、わたしのした事はジル先生の言うとおり欺瞞なのです。それは現実であり、決して変わることはありません。たとえわたしが裁かれずとも……変わらないのです。
「なんだ? フェイスをクビにでもなりたかったのか?」
「そ、そうじゃないですけど! でも、なんだか……」
「――なら、謝ればいい」
目を瞑ったまま腕を組み、アンセムさんが言いました。
「そして、礼を言うといい。君が納得していく為に……君の為に力を貸してくれた人々の為に。何かを犠牲にする事は時には必要だ。目的の為には見過ごす事もあるだろう。全てを全て手にする事など出来はしない。それを知り、受け入れていく事を決めたのだろう?」
「……はい」
「なら、その自分と向き合う為に……。その結末の犠牲の為に。君は感謝し、後悔し続けなければならない。そうすることで君が君を裁き、君が君を赦す事だ。誰かの裁きを待つのは簡単な事だ。だが本当に大切なのは、己の心を裁ける事……。君にはそれが出来るだろう」
なんというか、思いがけずびっくりしてしまいました。理由は勿論――アンセム先生の事です。この人がこんなに喋るのは初めてではないでしょうか。いえ、それ以前になんというか……とても先生っぽいというか、保護者っぽいというか……。なんだかお父さんに怒られたような気分で、少しだけくすぐったかったのです。嬉しいような、寂しいような……なんだかとても言葉に出来ない気持ちでした。
先生はそれだけわたしに告げるとさっさと歩いていってしまいました。遠ざかっていく背中を見つめていると、ジル先生がわたしの頭を小突きます。そうして肩を寄せ、小声で言いました。
「……貴様の釈放、アンセムのお陰だ」
「え?」
「カラーズに連絡を取ったのも、会議を説得したのもアンセムだ。全く、自分では何も言わんのだな、あの男は……」
わたしがカラーオブイエローさんに敗北して気を失ってから目覚めるまで、およそ半日の時間があったそうです。その間にアンセムさんは全ての手続きと資料集めを終え、全てのカラーズに連絡をつけてくれたのだそうです。中には自主的に無罪放免を望んだカラーズも居たようですが……。
「あいつはああいっていたが、貴様が何かをしでかせば責任を負うのは貴様ではなくあいつだ。勿論、あいつはそうは言わないつもりだろうがな。マキナ、貴様に関する事であいつはいつも貴様の事を護っているんだ。あんまり心配をかけてやるなよ」
「…………はい」
何にも喋らず、何にも言わないで去っていくアンセムさん。その背中が見えなくなり、わたしは少しだけ寂しい気持ちになりました。でも――彼はきっと陰ながらわたしのことを見守り、支えてくれているのだと思います。
思い返せば全ては唐突でした。でも、彼がいなければ今のわたしは――フェイスのわたしは居なかったのでしょう。そう考えるとやっぱり、感謝してもし切れないほどでした。こんな一般人のわたしをフェイスに編入させるのだって大変だったはずなのです。ギルドのことだって、先生のお陰でした。思えばいつも、あの人が居てくれたから……。
「兎に角、良かったな」
「はいっ! ジル先生、ありがとうございますっ!!」
「お、おい!? ひっつくな、ばかたれが!」
ジル先生にしがみ付くと、口では嫌がりながらも優しく頭をなでてくれました。ジル先生はやっぱりいい人です。見た目はものすんごいおっかないけど……。
しばらくすると先生は強引にわたしをひっぺがし、それから頭を小突きました。結構簡単にポカポカ叩いてくるので、わたしの脳がおばかにならないかがちょっと心配です。
「テッペルスが心配しているぞ。こんなところで油を売っている暇があったら、さっさと行ってやったらどうだ」
「はい。それじゃあ先生、また!」
「ああ。おい、そんなにあわてると転ぶぞ!」
「へぶうっ!?」
そんなやりとりを後に、わたしは走りました。これでよかったんだろうか――それは確かに思うのです。でも、アンセムさんの言う事にわたしは強く共感しました。
そう、誰かに何かをして貰うのを待つのはラクです。でも、裁く事も赦す事も、与えられる事ではないのかもしれません。わたしが選び、わたしが選ばなかった全ての物の為に、わたしはわたしで在り、そしてその罪と罰を背負い、忘れない義務があるのでしょう。
走りながら考えました。わたしはもっともっと、もっと強くならねばなりません。そして力がいつかわたしの願いをかなえてくれる日まで、走り続けるのです。
ニアや、ヴィレッタ先輩。リンレイやオルド君。サイにアテナさん。ジル先生、生徒会長さん。アルくんに――アンセムさん。みんなみんな、大事な人です。大事な大事な、わたしの宝物なのです。
護りたいとこんなにも強く願うのなら、わたしは罪を犯しても、それを心の中に抱えても、裁かれようとも生きていけるのでしょう。立ち止まる必要も、悩む必要も無かったのです。わたしは胸を張って戦える。喜んで殺戮者になれる。そう、気づけたから。
「ニアッ!!」
彼女は医務室を出た廊下で膝を抱えていました。わたしが駆け寄りながら叫ぶと、ニアは驚きながら立ち上がり、駆け寄ってきます。二人で同時に近づき、抱き合いながらその場でくるくると回りました。勢い余って二人して壁に衝突し、よろけます。
「マキナ……! ど、どうして? 早すぎない、いくらなんでも?」
「うん。なんとかなったみたい」
「本当に!? ウソじゃないよね!?」
「うんっ! わたし、ニアにウソなんかつかないよ」
「…………。マキナ……。マキナ、ごめん! うわああああんっ!!」
ニアはわたしにすがりつきながら泣いていました。いつもはわたしが慰められる側だけど、今回はわたしがニアを受け止めて上げる側です。でも、それでいいのでしょう。
わたしたちはお互いにお互いを支え、守り、そして一緒に歩いていく――それが一番幸せなことなのです。ニアにだけ全てを押し付けたりしません。わたしは彼女を受け入れる。どんな彼女の、気持ちだって。
「ボク、ボク……っ! マキナが居なくなっちゃうのが怖かったんだ……! マキナに嫌われたくないよ……!」
「ばかだなぁ、ニアは。嫌いになんてなるわけないよ」
「初めての友達だったんだ……。だから、居なくならないで……。お姉ちゃんみたいに、死なないで……」
「うん、死なない。絶対死なない。死んでも死なない。わたしは生きるよ。生きて自分の選んだ世界を見届ける。そして死ぬって決めたんだ。だからわたしは死なない。こんな所で死ねない」
「……うん。ボクも、もう昔みたいに怯えるばかりの自分じゃない。キミは死なせない。ボクが死なせない。ボクがキミを護る。ボクに出来る全てを賭して」
二人で見つめあい、そして握手を交わしました。握り締めたニアの手の柔らかい感触……。そして力強い指先。彼女の眼差し。きっと忘れません。多分死ぬまで忘れません。
この世界でたった一人、わたしの大事な大事な親友。ニア・テッペルス――。彼女の事を護り、そして死に、忘れえぬ記憶としましょう。わたしは心に誓ったのです。願わくば、永久に貴方の騎士でありたいと――。
マキナ・レンブラント、無罪釈放の日の日記より――――。
ファニー・ライトニング(2)
「――貴方の言うとおり、マキナは釈放するように手配したわ。勿論、理由はそれだけじゃないけど」
アルティールのFAハンガー。そこに肩を並べる二つのカラーズ専用機の姿があった。黄金の色をしたヴァリベリヒ、そして紅のブリュンヒルデである。
アテナはつい先程、アルティールに帰還したばかりであった。ベガ主催で行われた会議に出席し、ここまで戻ってきたのだ。マキナの尋問はその間に行われた事であり、イエローの方は試験を終え、ヴァルベリヒのメンテナンスと修理の最中であった。
故に二人がこうしてこのハンガーで出会ったのは全くの偶然である。アテナの正面、黄色いシャツの男が立っていた。服装はベガの制服なのだが、カラーズ専用の黄色いロングコート風の上着を着用している。コートの前は開けっ放しであり、下にシャツが覗いていた。
金髪の男であった。長身に痩躯、そして――猫のような耳を頭に生やしている。爪は長く伸び、目つきは鋭くかなり猫のイメージを色濃く残している。そう、彼はアナザーであった。アテナは勿論彼とは何度か面識があり、特に驚く事もない。アテナは足を止め、イエローの前で腕を組んだ。
「ベガの貴方が、どうしてマキナの釈放に尽力を注いだのかしら? カーネスト・ヴァルヴァイゼ」
カーネスト・ヴァルヴァイゼ――。カラーズは当然の事、フェイスの上層部ならば聞いた事が無い物は居ないほどの有名人である。カラーオブイエローであると同時に、契約の騎士団ベガ校の団長であり、反アナザー勢力の筆頭。同時にジェネシスの重鎮でもあるヴァルヴァイゼ家の子息でもあるのだ。彼は各方面に顔が利き、そして何よりも強かった。
「おいおい、どういう目つきだよ、そりゃあ? てめえんトコの生徒を助けてやったっつーのに、まるで文句があるみたいな言い方だぜ? なあ、“紅き猟犬”?」
「そういうわけじゃないわ。ただ、貴方とも言う人がどういう風の吹き回しかと思って。“見敵必殺”の“笑う閃光”さん」
カーネストは頬を歪ませるようにして低く笑い声を上げる。そうして振り返り、両手を腰に当て、前のめりにアテナを下から上まで舐めるように見回した。不快感を露にするアテナであったが、カーネストは片目を瞑ったまま肩を竦めた。
「久しぶりに会うって言うのに、つれないねぇ〜! 同じ戦場を何度も駆け抜けた仲間じゃないか、アテナ君」
「はあ……。そういう認識、ないのに口にするのは馬鹿げてるわよ」
「ひゃははははははっ!! 遠慮のねえ女は嫌いじゃないぜ、アテナ! つーかそれとは別にあれだ、お前俺は年上だぞ。もうちょっと敬おうぜ」
「私、自分以外は敬えない人間なの」
「だよな〜。ハッ! まあいいぜ。話してやる。理由が知りたかったんだ? カラーズ二人がこんな所で立ち話ってのもあんまり面白くねえ話だ。さっさと答えてやっから、さっさと行きな、お嬢さん」
カーネストは鉄柵に腰を下ろし、腕を組んだまま顔を上げた。アテナは眉を潜める。実を言うと、うすうすその理由には気づいていたのだ。ただ、それを言葉にしたくなかっただけ。あるいは認めたくなかったのかもしれない。否定の声を求めていたのかもしれない。だが、カーネストはそんな少女の気持ちを汲み取る程紳士な男ではない。
「マキナ・レンブラントとか言ったか。あいつ、間違いなく蒼の席に座る器だぜ。ここで潰しちまうにゃあ……ちと惜しい」
「――そう。つまりいつもの戦闘狂ってわけ」
「殺す為なら生かす事も辞さないぜ、俺は。何せ今の世界には俺たちより弱いやつしかいねーんだ。育ててやらにゃあ、殺し甲斐のある敵が現れねえだろが」
「……馬鹿でしょ、貴方」
「ひゃははっ!! ズバっとくるねえ、オイ! ま、褒め言葉として受け取っておくぜ」
もう一度低く笑った後、カーネストは立ち上がる。そしてアテナに歩み寄ると、笑いながら少女を見下ろした。
「そういう割りには、お前も俺と同じ段階で直訴してたな。お前もあいつには思い入れがあるってか? ん?」
「ただの仕事よ。アルティールの人材を失うわけにはいかないの」
「とかなんとかういっちゃって、本当はてめえがあいつと闘りたいってか? 横取りは駄目だぜ〜、クリムゾン」
「煩い人。余計な事を喋っている暇があったら一秒でも早くヴァルベリヒの補給を済ませて帰って欲しいものね。それじゃ」
カーネストの脇を抜け、アテナは去っていく。その後姿を見送り、それからカーネストはブリュンヒルデとアルヴェリヒ、二機の機体を見上げた。
「マキナ・レンブラントか……。ザ・スラッシュエッジと闘れる日が来るたぁな。それまでお前は生かしてやる。そして強くなって俺を殺しに来い……。ザ・スラッシュエッジ……」
「「「 試験終了、おつかれーっ!! 」」」
蒼穹旅団のギルドルームの中、メンバーの声が響き渡っていた。試験結果はマキナ、ニア、オルド、リンレイ、四名全員が合格。数日後にはクラスBの黄色い制服とIDカードが発行される。それまでの間、マキナたちは制服姿のまま、この蒼い制服との別れを惜しむように打ち上げを行っていた。
ギルドルームの中はカラフルにデコレーションされており、それぞれが思い思いに料理を楽しんでいる。マキナは頭の上にアポロを載せたまま、テーブルの上のお肉にかぶりついていた。
「しかし、ちゃんとてめえも合格するたあ根性みせたな、へこたれ」
「たいしたものですよ、マキナ。あれだけ思い悩んで、それでもきちんと答えを出したのですね」
「はむはむ?」
「……いい。食ってから話せ」
「はむぅっ♪」
そんなやり取りをする三人の傍ら、ヴィレッタは腕を組んで後輩たちを見守っていた。アテナの護衛の任につき、しばらく彼女はアルティールを離れていたのである。その所為で今回の件を感知することは出来ず、関与する事も出来なかった。だがしかし彼らは自分たちでその苦難を乗り越えたのである。ヴィレッタはそれを知った時安心し、しかし同時に少しだけ寂しい気持ちになった。マキナをはじめ、皆どんどん強く立派になっていく……。
料理を注文し、どんちゃん騒ぎにしようと言い出したのもヴィレッタであった。そこには自分の寂しさを紛らわせる意味もあったのかもしれない。マキナは口の周りをベタベタにしながら料理を食べ、リンレイがその口元をナプキンで拭っていた。ふと、視線を向ける先、離れたテーブルにサイとニアの姿があった。二人は心なしか以前よりも仲良くなったようにも見える。勿論ヴィレッタは詳しく事情を知らないのだが。
「ヴィレッタ先輩も一緒に食べましょうよう! おいしいですよう、このお肉〜」
「ああ。それにしてもよく頑張ったな、マキナ。聞いたぞ? カラーオブイエローと一戦交えたらしいな」
「はい。カラーズってみんなとんでもないんですね。イエローさん化け物みたいに強かったです。でも少し楽しかった」
「楽しい?」
「はい! わたし、まだまだ強くなれる! あの人たちみたいになれるんだって思うと、なんだかワクワクしませんか?」
オルドもリンレイもヴィレッタも、何も言わなかった。圧倒的な、絶望的な力の差を見せ付けられて尚、それを楽しいといえるマキナ。その強さの根本にあるのは彼女の純粋かつ少々ズレた思考なのかもしれない。
「マキナには負けますね……。結局全部力ずくでどうにかしてしまったんですから」
「う……。ご、ごめん」
「いいんだよ。それがてめえの出した答えなら……それを大事にしろ」
「……オルド君って、優しい事が言える人だったんだね。いたたたたたっ!? な、なんでぶつのーっ!?」
「ところで……私だけが気になっているんだろうか? サイとニア、なんだか仲良くなってないか?」
ヴィレッタの声に反応し、三者三様の反応を見せる。マキナは突然泣き出し、アポロの耳を一生懸命甘噛みしていた。オルドは遠くを眺め、リンレイは気まずそうに眉を潜めている。
その多彩な反応にヴィレッタはどうリアクションをとればいいのか判らず、目をぱちくりさせていた。やがてマキナがアポロの耳を完全に口の中に入れそうになり、うさぎが必死の形相でもがいていたのでそれを阻止する形で残り三人がマキナの頭をひっぱたいた。
三方向からの同時攻撃で正気を取り戻したのか、マキナはうさぎを開放。しかしその耳はよだれでデロデロになっていた。
「大丈夫ですか、マキナ?」
「はぅぅぅ……。ニアが……ニアがとられたーっ!! わああああん!」
「とまあ、未だにこんな感じなんスよ」
「そ、そうだったのか……。よしよしマキナ、おいでおいで」
「ヴィレッタせんぱーい!」
マキナは泣きながらヴィレッタの胸の中に飛び込んだ。その瞬間、ヴィレッタは顔を紅くしながら口元を緩め、危ない表情でマキナをひしと抱きしめる。
「か、かわいい……っ!?」
「わーんわーん!」
「ああ……っ!? よ、よーしよし、泣くなマキナ……くぅ、か、かわいすぎる……死にそうだ……」
「……大丈夫なのか、あの先輩」
マキナとヴィレッタがコントをしている傍ら、サイとニアはその様子を眺めていた。料理を食べていた二人であったが、ニアが咳払いをしてから顔を上げる。サイは指先についたケチャップを舐めながら同時にニアへと視線を向けた。
「あのさ……。今回の件、サイのお陰でなんとかなったよ。あ、ありがと……にゃ」
「俺は何もしてないじゃん。結局、お前らが勝手に仲直りしただけだろ〜」
「でも、サイのお陰だよ。サイがあの時応援してくれたから頑張れたし、サイが特訓に付き合ってくれたから……って、あれ? サイ、なんで操縦出来たの?」
「それはヒミツ」
「えー……。ま、まあ、なにはともあれ、アリガト……」
俯き、顔を紅くしながらニアは呟いた。照れ隠しの為か、直ぐにドリンクを一気飲みする。その隠し方はオッサンのようだったが、サイは笑いながらそれに付き合った。
「今回の件で、大事なものを見直す事が出来たよ。マキナの事も、自分の事も……皆の事も」
「じゃあ得るものも大きかったわけだな〜」
「うん。だからほんと、サイには感謝してる。FAも用意してもらって……ほんと、感謝してるんだ」
「そんな何度も言うなよ」
「ほんとなんだよ! お陰でマキナを失わないで済んだ。ボクもまた前に進める。サイの、お陰だから……」
少し離れたところで、ヴィレッタがマキナをぎゅううっと抱きしめて顔をでろでろに緩めているのを見ながらサイは笑っていた。相変わらず話を聞いているのか聞いていないのか判らないヤツである。しかしニアは別にそれでよかった。二人は少しだけ距離を縮め、そして喧騒を共に眺めていた。そんな、ある日の午後の事。マキナたちは、Bクラスへと昇進したのであった――。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*祝30部*
マキナ「30部だよ!!!!」
ニア「30部だにゃ!!!!」
マキナ「やっとこさここまで来たね……。ほぼ毎日更新して一ヶ月、長かったようで短かったね」
ニア「まだ一ヶ月なんだ……。となると、まあ、大体あと二ヶ月くらいで終われるかな」
マキナ「うーん、それにしても本当に話がすすまないよね」
ニア「んだね」
マキナ「何はともあれ、これも全ては読者様の応援のお陰です!」
ニア「感想、メッセージ、投票など作者の活力になっております! 本当にありがとうございます!」
マキナ「これからもどうぞ、蒼海のアルティールをよろしくお願いします」
ニア「おねがいしまーす!」
マキナ「そして、リリアに投票するくらいならマキナにおねがいしまーす!」
ニア「おねがいしまー……え?」