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ファニー・ライトニング(1)

「…………。また、医務室だ」


 目を覚ますと、わたしはまず身体を起こして周囲を見回しました。涼しい風が吹きぬけ、わたしはまだ眠い目をこすりながらぼんやりと思考を停止していました。

 少しずつ、自分がどうなったのかを思い出します。身体は……どこにも怪我はありませんでした。ひらりひらりと棚引く白いカーテンの向こう側、見慣れた町は今日も平和です。

 作り物の青空が覗く窓の元に立ち上がり歩めば身体は少しずつ覚醒していきます。汗ばんだ身体に風は心地よく、前髪を梳くそれらに目を細め、光の中に記憶を取り戻します。

 わたしは一人でクラスアップ試験に挑み、そしてそこで無謀な戦いを繰り広げました。襲ってきたのは何故かカラーオブイエローで……そう、わたしはカラーズと戦う事になったのです。それで――。


「――――マキナ!」


 背後からの声に振り返ると、入り口のところにニアが立っていました。ニアはつらそうな表情でわたしを見つめ、それから拳を握り締めました。向かい合う距離はいつもより遠く、でもわたしは悲しくはありませんでした。


「ボク……マキナに謝らなきゃ……」


「もういいよ。ニアは、来てくれたから」


「……でも」


 わたしはニアに駆け寄り、それからその場で何度か跳ねて見せます。わたしが何をやっているのか判らないのか、ニアは目を真ん丸くしていました。もしかしてどこか強く頭を打ったのではないか……そんな感じの目です。しかし残念ながらわたしは健康でした。


「こうして無事だったんだし。それでいいじゃない」


「……マキナ」


「ニアの話を聞かせてね。わたし、もっとニアと仲良くなりたいんだ。ニアを守る――騎士ナイトで居たいから。貴方がわたしを守ってくれるように、貴方をわたしも護るから」


 ニアは今にも泣き出しそうな表情で頷きました。そうしてわたしたちはお互いに抱きしめあい、暫くの間その温もりの狭間に酔いしれました。ニアの肩は思っていた以上に小さくて、わたしはこの人にどれだけ沢山無理をさせて、どれだけ護られていたのかを知るのです。

 そう、ニア一人に戦わせる事なんてしない。この世界にある正しい事がどんなことなのかはわからないしその答えを知る日は彼方なのでしょう。それでもわたしはかまわないと決めたのです。わたしは友達の為に――ニアの為にならば世界を敵に回せる。そう、ハッキリと言えるから。

 名残惜しいですが、ずっと抱き合っているわけにも行きません。どちらからともなく身体を離し、ニアの泣いている頬を撫でてわたしは微笑みます。ニアも無邪気に笑ってくれます。そう、だからわたしは戦えるのです。せめてそれだけは間違いではないのだと、このぐるぐる回り続ける世界の中で言えるのです。わたしが剣を手にする意味――それを知るのです。

 今は、何もかも未熟だけれど。いつかはこの両手で全てを護ってみせると心を奮わせるのです。FAという力、フェイスという権力。そしてカラーズという象徴さえ手にすれば、わたしは多くを護れるでしょう。FAの両腕はわたしの両腕では届かない場所を、護れない物を護ってくれるのです。人を殺す力――でも今はそれに感謝さえしていました。その力があれば、わたしは戦える。こんな子供の、非力な女でも――誰かを護り戦えるのだと。


「マキナ、すごくいい顔してるね」


「そうかな?」


「うん……。なんだか少し、大人っぽくなったかにゃ……」


「えへへ、ありがと〜。まあやった事は子供だけどね……」


 決して褒められた事ではない、あの戦い。わたしは深々と溜息をつきます。何かを護るために何かを護らなかった。それが、わたしの選択。人の生きていくうえで必要となる、裏切り。肩を落とし、目を伏せれば思い出せるのです。自分がどれだけおろかな事をしたのか。

 思えばカラーオブイエローが後方待機から現場に投入されたのも、明らかにわたしの所為でした。暴走行為を行う命令違反の新入り……でも、止められる人間はあの場にイエローさんしか居なかった。当たり前の判断です。全部、わたしが悪かったのです。

 その理由と、イエローさんの人格はまた別物なのです。彼は彼なりに任務を忠実に果たした――ただ、それだけの事。どちらが悪なのかは明確でした。わたしは裏切り、そしてイエローさんはそれを止めた。彼は悪くなかったのです。


「――――目が覚めたか」


 声の聞こえた方へと視線を向けると廊下から数人の生徒と共にアンセム先生とジル先生が姿を見せました。生徒は銃で武装しており、わたしはその理由を問いただす事もありませんでした。ニアがあわてた様子でわたしをかばうように前に出ましたが、それを制するように彼女の肩に触れ、首を横に振りました。


「どういう事なのかは判っているな?」


「はい」


「先生、ちょっと待ってください!」


「ニアは黙ってて」


 わたしはニアを押しのけて前に出ます。そう、これはニアがどうとかそういう問題じゃない。わたしの生き方の問題なのです。

 人を殺さぬ殺戮者という矛盾した道を選択した以上、もう現実からは逃れられない。命令違反をし、他の受験生を攻撃した裏切り者……。フェイスという存在に反する存在。先生たちは規律を護るのも大事な役目の一つです。わたしは、彼らの手によって裁かれねばなりません。組織である以上、わたしを放置することは出来ないのです。

 そしてそれが当たり前の事であり、わたしはこうなる事を覚悟の上で戦いました。だからこれでどんな処罰を受けようとも仕方がなく。そして、それをわたしも願うのです。どうか愚かなわたしに見せて欲しいのです。理想論の為に剣を手にした人間が、どのような末路を辿るのか。その裁きを以って、この心に世界の現実を刻み付けたいのです。


「試験を滅茶苦茶にして、申し訳ありませんでした。連衡して下さい」


 両手を差し出すと、アンセムさんはわたしの両腕に手錠をかけました。その傍ら、ジル先生が腕を組んだままわたしに問いかけます。


「何故あんな事をした……? 普通に試験を受けていれば、お前は合格していたはずだ」


「自分の生き方を曲げない為です。わたしはわたしで在るが為に剣を欲しその結末に身を窶す覚悟を決めたんです」


「貴様のあの戦い方でも人は死んだぞ。それはただの欺瞞だ」


「それでも、救えた命はあるのだと信じています」


「…………。貴様はこれから職員会議にかけられる。少し、長くなるぞ。覚悟しておけ」


「……はい」


 先生たちに連れられて医務室を出て行くわたしをニアは追いかけようとしました。しかしわたしは首を横に振ったのです。それはしてはならないと。ニアがそうすることは、わたしに対する侮辱に過ぎないのです。

 己で選び決断し、掴み取ったこの未来を彼女に穢されたくはありませんでした。彼女を愛し続ける為に、自分を、世界を愛し続ける為に……。悪は裁かれねばならない。だから――。


「――皆によろしくね、ニア」


 彼女は何も言いませんでした。わたしは目を瞑り、廊下を歩きます。まるで全てが夢かなにかのようでした。いえ、そうであったのならば、どれだけよかったか――。

 マキナ・レンブラント、裏切りの日の日記より――――。




ファニー・ライトニング(1)




 雷を迸らせ、夜明けの光の中でヴァルベリヒは輝いていた。その様相はまさに雷神――。バーニア各所から噴出す炎は金色に輝き、周囲に霧のように立ち込めていく。周囲のエーテルが濃すぎる雷神の火に感化され、ゆっくりと染まっていくのだ。マキナとニアはそれを見つめ、静かに恐怖した。

 カラーズの戦いならば、見たことも体感した事もある。だがしかしこれはその時とは話が違いすぎるのだ。アテナは――そう、最初から本気で戦ってなどいなかった。

 七色のカラーズに与えられた専用機は一機一機が無類の強さを誇り、絶対的な力の象徴である。それは単騎で百の街を沈め、千の敵を打ち滅ぼす。絶対無敵といわれたその機体は、通常のFAと同じものだとは到底思えない。


「これが――“カラーズ”」


 マキナは冷や汗を流しながらダメージコントロールする。片腕は失われ武器はナイフが二本、腕に内蔵式ショットガンだけ。勝ち目は限りなくゼロに近い。だが、それでも少女は諦めてはいなかった。

 隣には彼女と同じく恐怖しながらもそれと懸命に戦っているもう一人の少女の姿がある。二人はお互いが隣に居る事を感じていた。だからこそ、逃げずに立ち向かえるのだ。恐怖も、絶望も、その闇の中で輝く灯火があれば立ち向かえる。巨大な龍に挑むのは小さな剣、しかしそれは闇の中でも決して輝きを衰えさせる事は無い。

 二人はハッキリと感じていた。お互いの間にある深い愛情と絆――。ERSを通して伝わってくる物。音も、匂いも、温度も……全ては心の傍にある。肉体という壁を越え、二人の意識の間にある摩擦は限りなくゼロに近づいていく。

 渦巻く黄金の光の中、ヴァルベリヒが動き出した。光背が瞬くと次の瞬間雷が迸る。大地を滅茶苦茶に破砕しながら突き進んでくる稲妻を前に二人は同時に左右に散開し、走り出した。

 もしも――。仮に、マキナとニアがアテナと戦った経験が無かったなら。この押し潰すような圧倒的なプレッシャーを前に身動き一つ取れなかったかもしれない。紅きカラーズが一瞬見せた化け物染みた恐怖の感触、それはただ力の片鱗に過ぎなかったのだ。

 カラーズと呼ばれる物たちは皆相応に化け物。羅刹の道を行き、人の身に無数の罪を宿した存在である。マキナは戦いの中、アテナの存在を感じていた。偉大なる紅のカラーズ。彼女は凛としていた。胸を張り、前へ――。実力で、機体でカラーズに劣るのならば。せめて、その意思で負けぬようにと。

 迎え撃つは黄金の騎士。雷を纏い、太い両足で大地を蹴る。上空から落下する嵐を前にマキナはビル郡の隙間を縫うように逃げていく。伸びた腕は一瞬でビルを薙ぎ払い、周囲を平らにしていく。


『久々だな、ヴァルベリヒの力を見せ付けられて怯まず迫ってくるのは!!』


「怖いよ……。でも、それに負けた自分で居る方が、何百倍も怖い!!」


 砕けたビルの陰から飛び出したカナードがナイフで襲い掛かる。しかし直後、光が迸った。ヴァルベリヒの周辺には目には見えない濃密なフォゾンの壁があり、その領域は障壁となって攻撃を防いでいたのだ。

 フォゾンコーティングが施されたウォーナイフの刃先が火花を散らす。バチバチと音を立て、光素が唸る。ヴァルベリヒの三つ目が輝き、ひときわ大きく結界が揺らいだ瞬間、蒼のカナードは遥か彼方に弾き飛ばされていた。


「く……ぉおおおおおおおッ!! のぉおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 転倒しながらも空中で姿勢を制御し、両足を踏ん張らせてアスファルトの道を捲りながらブレーキングを行う。追撃で伸びてきた腕と爪をナイフで弾き、しかし執拗に二方向から意思を持つかのように追ってくる腕にマキナの汗が散る。少女はその場で踊るように舞いながらナイフを振るう。周囲から遅い来る牙の嵐に抗いながら、前へ。


『“アギト”の動きが見えるのか? ほぉ……すげえ反射神経だな! そして――お前は見え見えなんだよォッ!!』


 ヴァルベリヒの背後、ビルの陰を飛び出してニアが迫っていた。低空を斬るように前方に跳び、蹴りを穿つ。光背目掛けて繰り出した一撃であったが、それもまたフォゾンの結界で弾かれてしまう。

 真後ろからならばダメージが通ると思っていたのだが、それは間違いだった。そして繰り出される反撃の波動に吹き飛ばされ、ニアは空中で回転しながら着地を果たす。


「――貰った!」


 マキナが一瞬の隙を見逃さずに走り出す。背後のニアに気を取られ、アギトアームの操作が緩んだのである。マキナは左右から降り注いで交差したアギトを跳躍してかわし、そのまま前へ。同時にニアも走り出し、二人は前後から同時に攻撃を仕掛けていた。


『無駄無駄! その程度の火力で我がリーメスを破れるわきゃねえだろ!!』


「それは――!」


「やってみないと!」


「「 判らないッ!! 」」


 二人は同時にナイフと拳を振るう。一撃で砕けないのならば、何度も執拗に攻撃を繰り返す。その猛攻を受け、しかし結界は解ける気配も見せない。

 戻ってきたアギトアームが接続され、ヴァルベリヒは身体を反転しながら再びそれを放った。左右に腕を伸ばし、マキナとニアのカナードを同時に掴んで見せる。そうして巨体で跳躍し、腕を振り回すようにして同時に大地へと叩き付けた。

 トゥートリアの大地が陥没し、二つのカナードが軋む。悲鳴と衝撃の中、ニアは泣いていた。怖くて仕方がなかった。あの金色の悪魔が、姉を殺してしまった。皆を護ろうとする姉を――。心の中で思った。やはり自分は逃げる事しか出来ないのだろうか、と。

 あの時、もしも自分に大切な姉と共に戦う力があったなら……そう夜毎に考えてしまう。アルティールに来る前のニアは、いつも悪夢にうなされていた。しかしマキナと出会い、夜が怖くなくなった。いつの間にかベッドにもぐりこんでくるマキナを抱きしめ、自分もまた救われていたのだ。

 大切な人を護る力が欲しかった。戦う力が欲しかった。でも、大切な人が敵わなかった化け物を前に、出来ることなどないのだろうか。ただ、逃げる事しか出来ないのだろうか。恐怖で腕が震えるのは本能だ。恐ろしい、絶対的なものを前にした、生き物としての本能――。闇の中、ヴァルベリヒの瞳と口が熱を帯びて輝いていた。ニアはそれをじっと見つめながら震えていた。全てを投げ出したかった。だが――。


『――ほお。まだ諦めねぇのか、蒼いの』


「……マキナ?」


「待っててね、ニア……! こんな、ヤツに……っ!! こんな所で!! 殺されて、堪るかッ!!!!」


 蒼いカナードは片腕で立ち上がる。火花を散らし、片目は既に使い物にならない。腕を失い、両足は立っているのでやっとだった。たった一つのナイフは既に刃こぼれし、絶望的。それでも立ち上がる。立ち向かう。何故――? 理由は、すぐそこにあった。

 ニアの脳裏にあの日の景色がフラッシュバックする。あの日、トゥートリアが滅んだ夜。姉はボロボロの機体でそれでも立ち上がったのだ。もうやめてと、もう逃げてと、もう諦めてと叫んだ。それでも彼女は――ネリーは聞かなかった。

 何故? 死んでしまっては元も子もないのに。勝ち目なんて最初からなかったのに……。理解できなかった。でも今、再びその大きな背中を見る思いだった。夜明けの太陽の光が目に飛び込み、世界が瞬く。ニアはそこで見た。確かに見たのだ。

 マキナの姿。マキナの背中。そこに、ネリーの後姿が重なっていた。二人は立ち向かっている。戦う必要はなかった? 勝ち目はなかった……? “本当に”――?

 ただ、諦めていただけだ。誰にも可能性なんてわからないのだ。奇跡は願い、信じた者にだけ気まぐれを働かせてくれる。それで女神に見放されようと、諦めて死んでいくよりは数倍マシなのではないか?


「「 お前なんかに…… 」」


 ニアには聞こえた。姉の背中と共に、姉の声も。そう、彼女は言っていた。最後の最後、肢体を引きちぎられても諦めては居なかった。


「「 お前なんかに……! 大切な――! 」」


「友達を――!」 「妹を――!」


「「 殺させて、堪るものかッ!! 」」




「――お姉ちゃんは、どうして戦うの?」


 幼き日、ニアは姉にそう問いかけた。トゥートリアにはまだ光があった。港、自らの愛機を傍らに風を受け、ネリーは金髪を揺らしながら小さなニアの頭を撫でて微笑んだ。


「理由はいつだってシンプルだよ、ニア。ボクはね、キミを護る為に戦うんだ」


「……ボクの為に、人を殺すの?」


「ああ。ボクの手は、人殺しの手なんだ。だからキミの頭を撫でる資格は無いのかもしれない」


 ネリーは両手をズボンのポケットに突っ込み、そして夕日を眺めていた。その横顔を今でもハッキリと思い出す事が出来る。少しだけ寂しげな、しかし誇らしげな瞳。

 姉が何故戦い、何故死んで行ったのか。その理由は、その気持ちは、わからないままだった。自分を護る為――? それで、本当に正しかったの?

 ずっと考えるのが怖かった。姉が死んだのは、自分の所為なのではないかと思っていた。自分が弱かったから、足を引っ張ったから、姉は死んでしまったのではないかと。

 しかしニアは燃えるような赤い空の下、微笑んだ姉の顔と言葉を思い出した。血に染まっているという両手。それでも彼女は、大切なものに触れようと一生懸命に手を伸ばしていたではないか。

 小さな、無垢な妹の頭を撫で、ネリーは笑っていた。幸せだったのだ。その一生に悔いなどなかった。そういう生き方をしていたのだ。彼女の死の理由の一端、それは自分にあったのかもしれない。でも――。ネリーは。姉は。その為だけに死んでいく程、愚かな人間ではなかった。

 彼女は自分を護る為に死んだ。しかしそれだけではない。彼女はその死さえも受け入れたのだ。抗ったのだ。そう出来るだけの人生を送ってきたのだ。胸を張って、死ぬために戦えるほど、その人生は輝いていたのだ。今ならばそう、信じられる。


「……お姉ちゃんの手、好きだよ? ボク、撫でられるの好き」


「ははっ! そうかい?」


「うん。お姉ちゃん、大好きだもん。人殺しでも……いいよ。血に染まってても、いい。ボクが、洗ってあげる」


「……洗う。洗う、か。はは、そうか。そうだな……。ニアは手、ちゃあんと一人で洗えるもんなぁ」


「うんっ! それでね、おっきくなったらお姉ちゃんみたいに戦う!」


「……そっか。じゃあ、もしもその時が着たら――。ニア、覚えておいて。とっても大切な、素敵な話をするからね――」


「――自分の目で、確かめてみるしかないじゃねえの?」


 FAハンガーの中、ニアはサイと共にカナードを見上げていた。サイはカナードの前に立ち、ニアに微笑みかける。


「自分の心、願い……マキナの本当の気持ち。お前らはさ〜、いっつもどっちかが前で、どっちかが後ろだと思ってるんだよ」


「前……、後ろ? 席が?」


「それもあるけどさ〜。でもさ、たまには並んでみたらどうだ?」


「並ぶ……」


「一緒に肩並べてみてさ。それで判る事、気づく事……。そうしてやっと願う事って、あるんじゃねえのかな。大切ならやっぱり、そういう事もあるんだよ」


 そう語るサイの横顔はどこか寂しげだった。しかしニアは強く頷き、カナードを見上げる。サイが用意してくれた、単座のカナード。操縦訓練は、サイが付き合ってくれるという。

 しかし何故彼がカナードを持っていて、何故単座カナードの操縦が出来るのか……それは確かに疑問だった。それでも今はそんなことを気にしている場合ではないと言い聞かせた。そう、今やらなければ。今マキナを追わなければ、その背中がまた消えてしまうから。あの日の姉のように、その背中を見失ってしまうから。

 繋ぎとめる為に、維持する為に、護る為に力が欲しかった。サイとの訓練は毎日昼夜を問わずに続いた。そして――ニアはマキナを追いかけ、追いついた。


「行って来いよ。自分の気持ちを知る為に。マキナの気持ちを知る為に――」




 マキナとの日々は、全てが輝いていた。マキナにとってそうであったように、ニアは最高の友達だった。

 その親友がぼろぼろの状態で立ち上がった時、ニアはまるで鈍器で殴られたような衝撃に襲われた。実際に傷を負ったわけではない。だが――胸の奥が熱い。熱は恐怖や絶望を吹き飛ばしていく。ニアは気づけば立ち上がっていた。何故――? “理由を考えるより早く、身体は動いていた”。


「そうか……。そうだったんだ……」


 ニアはゆっくりと立ち上がる。マキナを支えるように寄り添う。そこに在ったのは、肩を並べて抗おうとする二人の姿だった。傷だらけでもみっともなくてもいい。絶望しかなくともかまわない。

 あの日、姉が恐怖に立ち向かったように。マキナが大切なものの為に、自分の尊厳の為に立ち上がったように。自分もまた、後悔をしない生き方をしなければならない。それがたとえこの世界の中で異端だと言われようとも。

 涙は拭おう。恐怖なら耐えよう。絶望なら立ち向かおう。隣に大切な人がいる。もうあの時とは違う。護られるだけではないのなら。力と夢を求めてライダーになる事を思い出したのならば。今は全てが違って見える。世界はもう、苦しみから解き放たれた。


「戦おう、マキナ……! 一緒に!!」


「……うんっ! 一緒に!」


「「 二人でッ!! 」」


 対の翼が羽ばたいた。雷神はそれを迎え撃つ。雷の雨の中、二人は微笑みさえ浮かべていた。何も怖くはなかった。二人、一緒なら――!


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