シャドウ・ハーツ(3)
『作戦目標はトゥートリア跡地に潜む、アナザーのテロリスト集団だ。貴様たちクラスアップ試験として挑むメンバーは、このトゥートリア攻略戦でその真価を試される事になる……。試験がはじめてのヤツも、何度目かのヤツもいるだろう。だがこれだけは毎回言っておく。駄目だと思ったらリタイヤしろ。死んだら次は、ないのだからな。兵士は貴重な資金源だ。直ぐに死んでくれるなよ』
カナードのコックピットの中、わたしはぼんやりとした気持ちでジル先生からの通信に耳を傾けていました。
結局、わたしは一人で試験会場――戦場へと向かう輸送機の中に座っていました。座席の上薄暗い闇の中で静かに呼吸を繰り返します。少しだけ寒く――静かすぎる夜でした。
試験を受ける生徒によって、戦場は異なります。オルド君とリンレイは別の戦場へと向かいました。わたしもまた、戦いに挑まねばなりません。単座に改造された蒼のカナードの中は広く、そして今まで以上に強く鋼を感じました。
ライダースーツに袖を通し、戦いを覚悟した時、わたしは殺戮者になったのです。戦う事で、力を示す事で、わたしは何かに近づいていく。それが自分の思い描いていたビジョンとは程遠いものだったとしても、この闇の中に立ち止まる恐怖と比べれば大したことはありません。
三機での小隊編成。仲間の顔は見もしませんでした。ジル先生の言葉も、いまいち聞いていません。正直、どうでもよかったのです。戦場に降り立つ上での決意を固める時間に全てを費やしたかったのです。
ニアは、結局わたしの前に現れませんでした。彼女がどうするのか、その答えは見えませんでした。悔しさや寂しさ……薄く展ばした痛みにも似た苦しみは心を苛み、息苦しさと共に世界を蝕んでいく……。
わたしは今、最低な事を考えていました。もう誰でも良かったのです。ニアとケンカした結果――。“八つ当たり”。“誰でもいいから、斬り捨てたい”――そう感じるのはわたしが歪んでいるからなのでしょうか。
『各小隊は指示に従い出撃! チームワークを維持しろ。仲間と連携して戦う事だ。敵も、何度かフェイスの面子と手合わせしている。腕の立つ者も居るだろう。貴様らが全滅したところで、任務は果たされるだろうが――死ぬなよ』
夜の闇の中、突き進む輸送機。カナルの上を吹き抜けていく冷たく切り裂くような風……。夜の闇は今、赤い炎にも似たカナルの輝きに照らされ、空は淡く光輝いていました。星は遠く、アルティールも遥か彼方……。わたしは何故、。ここに居るのか。その理由を――剣で確かめに来たのです。
『目標地点間近だ。各機出撃準備!』
瞳を開き、世界を見据えます。紅き光の上、わたしは戦場に立つ殺戮者となるのです。今はただ――握り締める剣の感覚だけを頼りに。
「I have control――! マキナ・レンブラント、行きますッ!!」
闇の中を吹き抜ける風――。夜を照らす闇に包まれ、蒼い機体を引っさげて、わたしは戦場に降り立った。その瞬間、戻れない世界から目を逸らして――。
シャドウ・ハーツ(3)
『……なんだ? 敵襲……!?』
プレートシティ、トゥートリアは既に滅んだ街である。既に人々は死に絶えるか移民を終えている。だというのにそこにまだ留まる影があった。
トゥートリアの残党の一部は、ノーマルに対する復讐を始めたのである。彼らはあえて廃墟となり浮遊し続ける幽霊都市となったその町に根付いていた。全ては楽園を滅ぼしたノーマルを殺す為に……。
テロリストたちは次々にFAを機動させていく。彼らは全員アナザーだった。故にノーマルより抜き出た操縦技術を持ち、今まで幾度となく戦場を駆け抜けてきた。戦いの先にあるものが滅びだけだったとしても、それでも争いをやめることは出来ない。
戦えば戦うほど仲間を失い憎しみは募りそれは連鎖していく。この世界の中で生きる権利を声高々に主張することも出来ない抑圧された彼らにとって、最早最後の瞬間まで戦う事こそ生きた証でもあったのかもしれない。
使用しているFAは如月重工製の“九十九”である。次々に立ち上がった九十九たち。武器を構える彼らが見たのは、水平線の彼方から迫り来る脅威の姿であった。
『また、フェイスの狗か……! いいぜ、やってやる!!』
『待て……! なんだ、あの機体……?』
紅いカナルの海を駆け抜けるシルエットが一つ、明らかに出すぎていた。まるで単騎特攻――。無数のカナードのシルエットを背中に引きつれ、その機体はまっすぐに近づいてくる。
『馬鹿か……? 迎撃するぞ』
『『 了解 』』
次々に九十九がカナルへと飛び込んでいく。着光し、水飛沫のように光を弾きながら無数の九十九は走り出す。後方、シティから遠距離砲を構えた九十九が攻撃を開始していた。放たれる大口径のカノン砲の弾幕――。それは集中し、先行する一機へと降り注ぐ。
シルエットは途端に反応し、きびきびとしたキレのある動きで軸をブラす事もなく左右に砲撃を回避して行く。出撃した九十九たちがライフルを発射する弾幕の中、低い姿勢から飛び込むようにして夜空にカナードは舞った。その機体色は海を切り取ったかのような蒼穹――。白銀のマントを空中で脱ぎ捨て、カナードは剣を抜く。
『はや……!?』
次の瞬間、落下と同時に一機の九十九がダウンしていた。転倒し、カナルの上を転がりながら滑っていく。見ればその胴体は袈裟に切り落とされていた。倒れた仲間に視線を向けるより早く、砲撃が降り注ぐ、砲弾がまっすぐにカナードに迫り――次の刹那、カナードは剣を揮い、砲弾を真っ二つに両断していた。
猛スピードで接近する、FAと比べれば小さな弾丸――。それを一瞬で正確に切り払い、蒼いカナードは瞳を輝かせる。背後での爆発にシルエットが浮かび、蒼い機体は両肩から剣を抜き、手の内でくるりと華麗にそれを揮い、構えて走り出した。
誰もが呆気に取られる刹那、近づいていた二機の九十九が両足を切断されて倒れていた。刃が光を浴び、闇夜の煌く。何かが起きていた。何か――とんでもないものが目の前に居る。熟練のライダーたちが息を呑んだ。そして本能的に、一斉に攻撃を開始したのだ。
蒼いカナードは即座に反応。大地を舐めるような低姿勢で飛翔するように駆け抜けていく。そして近づく全てを切り払い、薙ぎ払い、そして前へ――。揮う銀色の刃に映る全てが朽ちていく。紅き炎の海の上、それは凛と闇を帯び全てを駆逐して行く……。
『なんだ、こいつ……!? カナード……量産機のカナードだろ!? なんでこんな――うわああああっ!?』
首を切り落とし、カナードは前進する。止まらない。止まらない。止まらない――。誰にも止められなかった。何が起きているのか、状況を把握する事も出来ない。突破する蒼いカナードに翻弄されている間に、後続のカナードが一気に畳み掛けてくる。意図せぬ波状攻撃――しかし、一斉に襲ってくるカナードを前に九十九たちは防戦一方である。
防衛ラインを突き抜けていく槍衾――。先陣を切る刃の化身は全てを薙ぎ払い、ひたすらに前へと進んでいく。そうしてようやく気づいたのだ。彼らは――まだ、誰一人死んでは居なかった。
『うそ、だろ……。おい、あのカナード……』
『あ、ああ……。転倒、させてるだけだ……。ちくしょう……なめやがって……化け物……ッ!! “化け物”ッ!!!!』
シティで砲撃を行っていた機体の目の前に蒼いシルエットが迫っていた。跳躍してきた獣は縦に銀色を奔らせる。軌跡は砲台を破壊し、戦場は一変していく――。一方的な暴力が、ただそこに聳え立っていた。
「殺さずに戦う――?」
「はい。そのつもりです」
訓練中、マキナはジルにそう告げた。あまりにも馬鹿げた発想だった。しかし、マキナは真顔である。
「コックピットは破壊しません。そういうルールです。自分に枷を嵌めて戦います」
「正気か? そもそも、転倒した時点で機体はカナルの炎に焼かれる……。結局は死ぬ事になるんだぞ」
「でも、死なないかもしれません。わたしがコックピットを貫いてしまえば、死は確定した未来になります。でも――」
自らの手で命を奪ってしまう事がなければ、あるいは運良く生き延びてくれるかもしれない――。余りにも甘い、幻想に取り付かれた殺戮者。それでもマキナは本気でそれを願っていた。殺さない殺戮者――そんなものが成立するはずもない。全ては矛盾している。
「だったらやってみろ。ただし、相手はヴォータンだ。ヴォータン十機……殺さずに倒してみろ」
無理難題を押し付けるジルに、マキナは嬉しそうに笑って頷いた。まるでそう、当たり前のように――。少女は殺さない戦い方を学んだ。“カナードの扱いなど、今更学ぶ必要もなかった”。彼女が欲した技術、それは“殺さない殺戮者”の技術だった。
優しく、幼い妄想。正義にも悪にも染まれず、決断を先延ばしにするような行為。それでもマキナはそうすることで前へと進もうとした。“他の生徒が戦えばきっと殺してしまう”だろう。だから、“そうなる前”に――――。
後続のカナードのライダーたちは皆、戸惑いを隠せなかった。輸送機の中、ジルは舌打ちと同時にコンソールに拳をたたきつけた。こうなるような気はしていた。勿論わかっていた。しかしその選択は――無謀の一言に尽きる。
「馬鹿が……ッ! 死ぬつもりか、レンブラント……!?」
「――――ッ!! 誰も、殺させない……ッ! 誰も――誰一人死なせない!! わたしが守ってみせる!! 答えはまだ見つからないけど――それでもッ!!」
市街地を駆け抜ける蒼いシルエット。カナードは無数の銃弾を浴びながらも前進を続ける。次々に身体をひねり、刃で九十九を薙ぎ払う。シティに踏み込む必要性、それは殺さぬ為。カナルの上での戦いになれば、必ず死者は出てしまう。だったらどうすればいい? 答えは簡単だった。シティの上で倒せばいい。ここならば。誰も住んでいない、ここならば。存分に暴れる事が出来る――。
「このぉおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
雄たけびと共にマキナが戦場を駆け抜けていく。次々に腕を、足を、首を殺ぎ、鋭い刃の嵐が拭きぬけていく。世界中の情報が瞳に流れ込んでいく。敵も、自分も、今は全てが一つに解け合っている。ERの光の結界の中、揮う刃は全てを一撃の下に下していく。傷だらけになりながらも刃を揮う騎士は矛盾した美しい巨人であった。
『そんな戦い方で……!! ナメるのも大概にしろ、ノーマルッ!!』
「っ!?」
下半身を切断され、倒れていた九十九がカナードの足を掴む。身動きが取れなくなった瞬間、銃撃が降り注いだ。蒼い装甲が砕け、マキナは悲鳴をあげる。怖かった。怖くないわけがなかった。涙だって流れそうだった。でも――。
心の中に、やはりニアの姿があった。彼女の故郷を守る為には戦うしかない。守るために殺す。殺すというのに殺さない。それは矛盾だらけの子供の選択だった。しかしそれは穢れなく、純粋な願いで出来ている。彼女の身体は光で動いていた。希望の輝き――。無垢な刃は彼女に応える。そう、全ては彼女の為の舞台。月明かりの下、少女は銀を背負う。
「止まったら落とされる……! 奔らなきゃ……!! 奔らなきゃ――ッ!!!!」
足元の九十九の腕に剣を投擲し、それを切断する。一瞬屈伸した後、空へと跳躍する。空中をくるくると回転しながらビルの上に着地したカナードは再び跳躍し、ビルからビルへと飛び移りながら左右の肩のブレードホルダーをパージした。
一振りとなったソードを両手で構え、ビルの壁を蹴って跳躍する。斜め上空から切り込んできた風は一息に密集していた三機の九十九をねじ伏せた。しかし敵も気づいている。そのカナードが、剣しか使わない事に。
『距離を開いて迎撃するんだ! 固まったら纏めてやられるぞ! 散開して仕留めろ!!』
「そう来るよね……。でも、遅い――!」
ブースターを吹かし、一気に加速する。一瞬で音速を突き抜けた衝撃がビルの硝子を一気に砕き、直進する通路に点在する敵を切り裂いていく。
『滅茶苦茶だ!? 何であの速度で正確に攻撃出来る!!』
「アテナさんは――こんなもんじゃなかったっ!!」
Uターンし、再び攻撃を仕掛けようとするマキナ。しかしその視界に飛び込んできたのは、自分へ攻撃しようとしている九十九に背後から襲いかかろうとするカナードの姿だった。
マキナは更に加速する。そして背後から九十九のコックピットに剣を突き刺そうとしているカナードの間に割り込み、その剣を剣で弾き飛ばす。同時にカナードと九十九、その両方を足払いし、両方の足を薙ぎ払う。信じられない状況が起きていた。
『レンブラントッ!! 貴様、何をしている!?』
「先生……」
『敵と味方の区別もつかんのか馬鹿者ッ!!!!』
「すいません――後で怒られます!」
『そういう問題か――!?』
左右から刀を構えた九十九が襲い掛かる。その一撃を身をかがめて回避し、左右を薙ぎ払う。既に撃墜した数は30を超えていた。コックピットの中、汗だくになってマキナは息を乱していた。疲れていないはずがない。だがそれでも、立ち止まることは出来ない。
ここで足を止めてしまえば狙い撃ちになる。マキナは駆け抜け続けた。戦場にゆっくりと、日が昇っていく。マキナはただ息を切らし、その朝焼けの中を走り続ける……。
「何の為に戦うのか……その理由は、まだわかんないよ。でも、わたしは自分の為に戦う。自分の愛する者の為に戦う……それが間違っていても、どんなに甘ったれた理想論でも、それでもいい」
出撃前、マキナは同じく出撃の準備に追われるリンレイとオルドに言った。二人はマキナの答えに何も口を挟まなかった。ライダースーツのまま、マキナはカナードを見つめ、それから強い瞳で微笑んだ。
「強くなるって決めたんだ。力がなければ守れないから……。だから、誰よりも強くなる。誰よりも早く遠くに行く。間違いでも、怒られてへこたれてもいい。それでも――やると決めた事をやりたいんだ――」
何もなかった世界から、マキナは一歩を踏み出した。孤独しかなかった世界。苦しみも悲しみも、喜びもなかった世界。今生きているこの世界は、憎しみと争いに満ち満ちている。世界は悲しい程に残酷で、生き方を選ぶ暇さえ与えてくれない。滅びを前に人は無力であり、人を前に人は無慈悲だ。
だが、その世界の中で生きていく事を決めたのならば。それでもこの身体で生きていく事を決めたのならば。過ちを受け入れ、それでも強くなる事を決めたのならば。
一つしか選べない二択に別の答えが欲しいのならば。新たな道を切り開き、そこに新たな希望を植えよう。いつかその過ちが、希望の華を咲かせるその時まで――。
少女の瞳に迷いはなかった。無慈悲かつ無垢な刃――。少女は駆け抜ける、戦場を。人の命を奪い合いその身でも、何かを守る事が出来るのだろうか。例えばそう、たった一人のかけがえのない親友の笑顔、とか――。
風の中、蒼いカナードは傷だらけで立っていた。その背後、戦場は沈黙していた。傷だらけのカナードの中、マキナは深く息をつく。戦場に最早動いている九十九の姿は一つも残されては居なかった。戦場はたった一人の。FAライダーになって半年程度の少女の手によって、制圧されていた――。
「……そんな、甘さでもいいかな。正しいことは判らないけど……それでもまだ、歩き続けたいから……」
誰に言うでもない言葉。そして少女は振り返った。まだ、戦いは終わっていない。背後に並ぶのはフェイスのカナードたちである。そこから感じ取れるもの――それはマキナに対する敵愾心である。
当然の事である。そうされて当然の事をマキナはしたのだ。少女は握り締めた剣を降ろした。何を言われても仕方ない。どんな処罰も甘んじて受けるつもりだった。選ばないという事は同時に何かを選ぶ事でもある。彼女が選ばなかった選択、それは裏切りを選ぶという意味でもある。
次の瞬間、何かがマキナのカナードに襲い掛かった。それは長く伸びた腕であった。蒼いカナードの頭を掴み、引きずり手繰り寄せる影……。倒れたマキナが顔を上げると、そこには見覚えのない機体の姿があった。
『――よぉ。随分イキがいいな、お前。最近に新入りにしちゃあ、面白いぜ』
そこに居たのは、黄金の機体だった。全体を金色に塗装した、見覚えのない機体……。マキナのカナードの頭を掴んだまま持ち上げ、蛇のようにしなる腕でカナードを放り投げる。マキナはそのままビルに叩きつけられ、街と共に崩落していく。
瓦礫の山が降り注ぐ中、金色の機体は伸びた腕を戻し、マキナを見下ろしていた。金色の機体――。ブリュンヒルデを彷彿とさせるデザイン。太い足と細長い腕、そして背中には巨大なバックパックを装備している。三つ目の機体――その名は、“ヴァルベリヒ”。カラーズ七人の為に存在する最強の機体、黄金の名を冠する玉座の一角である。
「カラーオブ……イエロー……?」
『そういう事だな。おい、ザコ連中は下がってろ。俺の興味はコイツにしかねえからな……』
ヴァルベリヒが前進する中、マキナはカナードを立ち上がらせる。カナードよりも大柄なヴァルベリヒは三つの瞳を輝かせながら長く鋭利な指を伸ばし、握り締める。
「どうしてカラーズが、こんな所に……」
『しらねーのか? テメエらザコの試験ってのは、全滅する可能性もあるからな。任務でヘマした時の為、つえ〜のが一緒に来てんだよ』
「…………貴方が、この街を滅ぼした」
『ああ。今回は志願させてもらった。この街には、色々と縁があってね……って、その様子じゃ知ってるみたいだな。どこで聞いた? 知ってるやつはそう多くはねえはずだが……なあッ!!』
ヴァルベリヒが腕を振り下ろす。長く鋭利な切り裂く爪を剣で受け止めるカナード。二機は鍔迫り合いの状況になり、マキナは戸惑いながら眉を潜める。
「な、何を――!?」
『テメエ、強いだろ?』
「え……?」
『強いヤツと闘りたいだろッ!? ジャミングを張らせてもらったぜ小娘よぉッ!!!! さぁあああ!! 殺し合いを楽しもうぜえええええッ!!!!』
「この人――何――!? 何を言ってるの!?」
『ひゃっははははははは――――ッ!!!!』
蹴り飛ばされたカナードが宙を舞う。すさまじい出力の差がそこにはあった。只でさえぼろぼろのカナードで、カラーオブイエローとの戦闘……。マキナは完全に混乱していた。わけがわからない。
「どうしてわたしを攻撃するんですか!? 同じフェイスでしょう!?」
『俺はベガのフェイス! テメエはアルティールだろ? フェイスはフェイスでも、俺たちは潰しあう関係にあるんだよ!』
地上から腕を伸ばし、追撃するヴァルベリヒ。マキナは空中で剣を構えそれを受けるが、剣は一発でへし折られてしまった。銀色の光を弾く欠片が宙を舞い、次の瞬間放たれたヴァルベリヒのもう一つの腕がカナードの腕を切断していた。
『クソつまんね〜試験の監督役なんて飽き飽きしてた所だ!! ちょっとくらい遊んでいいだろ〜? なあ、兄弟!!』
「だれが貴方なんかと!」
『同じだろ!? 上手な人殺しだ!!』
着地と同時にナイフを装備するカナード。正面、ヴァルベリヒは更に腕を伸ばして攻撃を仕掛けてくる。その合間を縫うように駆け抜け、マキナは歯を食いしばる。
『あとはこの街を壊せば任務終了だからな! 昔の食い残しだ、綺麗さっぱり壊してやるよ!』
「……っ!! そんな事する必要はないでしょう!?」
『ハッハア!!』
両腕を鞭のようにしならせたまま、その場で回転するアルベリヒ。周囲のビル郡が両断され、街が均されて行く。ぐるりと舞うおぞましい死の嵐へ、マキナはナイフ一本で駆け寄っていく。
「貴方みたいな人がいるからっ!!」
『ちょっと遊ぶだけだろ? なあ――ッ!!』
次の瞬間、アルベリヒはバックパックを展開する。巨大な箱のような形をしていたユニットが開き、背中に円形のリングを構築していく。それは光を収束し、輝く光輪――。まるで、“光背”である。
次の瞬間、周囲に稲妻が迸った。電撃は大地を一撃で砕き、近づいていたマキナのカナードを襲う。落雷の直撃を受けたマキナは一瞬意識が飛び、カナードは転倒する。ヴァルベリヒの周囲、雷が消え去った後には黒く焦がれた街の姿があった。
『前々からテメエには興味があったんだよ。なあ――マキナ・ザ・スラッシュエッジ』
「……う……っ」
カナードを踏みつけるヴァルベリヒの巨大な足。みしみしと軋む機体の中、マキナはゆっくりと顔を上げる。目の前にあるのは黄金の化身――。文字通り、怪物である。
『カラーオブブルーが復帰すりゃあ、カラーズ戦も盛り上がるってもんだ。そうだろ? あ?』
「こんな、事を、して……。何の意味が……」
『意味なんかねえだろ。闘いたいから闘う……。腹が減ったから食う、眠いから寝るのと同じだ。闘いたいから闘う……テメエも楽しそうに剣振るってたじゃねえか』
「違う!」
『違わないんだよ……テメエは……同類だ――ッ!!』
マキナのカナードが押しつぶされる。火花を上げながら機体が悲鳴を上げていた。装甲は砕け、マキナのコックピットにも亀裂が入る。しかし次の瞬間、側面から飛来した何かがヴァルベリヒの巨体を蹴り飛ばした。
降り立ったのは、カナードだった。特別仕様でもなんでもない、ただのカナード……。ゆっくりと立ち上がったカナードは倒れていたマキナのカナードを助け起こす。
『ごめん、マキナ……遅くなった』
「え……? その声……ニア?」
よろめいていたヴァルベリヒが体勢を立て直す。振り返る黄金の機体を前に二つのカナードは肩を並べた。灰色のカナードのコックピットの中――ニアはまっすぐな目で仇を見つめていた。勿論、復讐の為などではない――。理由なら――最初から決まっていた。
ニアのカナードが拳を構える。その姿勢は武器を使うものとは程遠く、マキナは思わず目を丸くした。ニアのカナードはまるで――武術家のように、鋭く腕を正面に構えている。それを見て黄金の化身は笑い、そして両腕を広げて歩き出した。
『おもしれーなオイ!! 素手で戦うのか、テメエッ!! いいぜ、相手してやるよ……!! このヴァルベリヒでなあっ!!』
光背に光を灯し、巨体が迫る。そんな最中、ニアはつい数日前の事を思い返していた。そう、彼女がこのカナードに乗り、闘うことになった理由を――。
二人は何も言わずに同時に動き出した。二機のカナードが迫る中、ヴァルベリヒは腕を広げてそれを待ち構えていた……。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*第一回、アルティールクラスアップ試験*
マキナ「なにこれ」
ニア「え? クラスアップ試験!」
マキナ「え、うん……。え?」
ニア「まあ、そういう趣旨のクイズ番組だよ! というわけで、メモかなんかにテキトーに答えを書きながら楽しんでね!」
マキナ「えーと、後半に行くに連れて難しくなります。それではどうぞー」
〜初級問題〜
【問1】 蒼海のアルティールの主人公は?
A:マキナ B:リリア C:香澄 D:リイド
【問2】 マキナが所属しているギルドの名前は?
A:契約の騎士団 B:ジェネシス C:蒼穹旅団 D:勇者部隊
【問3】 伝説の蒼のカラーズの愛機の名前は?
A:レーヴァテイン B:ブリュンヒルデ C:ジークフリート D:ノブリス・オブリージュ
【問4】 マキナとアテナの保護者、フェイス教員でもある人物の名前は?
A:スヴィア B:カロード C:アンセム D:ルーファウス
【問5】 マキナが連れているペット、アポロは何の動物?
A:猫のアナザー B:うさぎのアナザー C:犬リリア D:宇宙うさぎ
〜中級問題〜
【問6】 元カラーオブレッド、ヴィレッタ・ヘンドリクスがアテナ・ニルギースと戦ったカラーズ決定戦。ヴィレッタの敗因は?
A:前戦闘による負傷 B:緊張による硬直 C:やる気なしによる降参 D:妹愛による自滅
【問7】 ブリュンヒルデに装備されているツインハンドガン。それに備わっている特殊な用途とは?
A:投擲して使用する B:お手投げして使用する C:打撃攻撃に使用する D:エアリオを撃つのに使用する
【問8】 蒼の後継者と言われるマキナ。そのマキナが蒼の力に目覚めた理由は?
A:エキシビジョンで幻影を見たから B:エルブルスに負けそうになったから C:エアリオが死んだから D:聖剣の鎖が解けたから
【問9】 マキナが母親に封印されていたとあるすごい能力とは?
A:何にでも噛み付く力 B:主に女子から好かれる力 C:うさぎさんごっこ D:刃物を扱う力
【問10】 この中で一番胸が小さいのは?
A:マキナ B:ニア C:ヴィレッタ D:アテナ
マキナ「…………」
ニア「答えと上級問題はまた後ほど〜」
マキナ「これ、色々な意味で難易度高いね」
ニア「色々な意味でね」