シャドウ・ハーツ(1)
「あ、うかってる」
それがわたしの第一声でした。筆記試験から数日が経ち、掲示板に試験結果が張り出される事になって駆けつけたのがつい先ほど。合格ラインギリギリで何とか合格しているわたしの名前がそこにはありました。
思わずポカーンとするわたしの左右、リンレイとニアが同時に安堵のため息を漏らしました。それもそのはず、このおよそ半月程度の間わたしたちはずっと勉強に取り組んできたのです。特に二人はわたしのために時間を割いてくれて、これでもかというくらい勉強を教え込んでくれました。
おかげで三人ともなんだかぐったりしています。せっかく合格したというのに、特に歓声も上がりませんでした。三人同時に掲示板前から離れ、エントランス内で立ち止まります。
「よかった……。ボクとリンレイは兎も角、マキナはどうなる事かと思ったよ……」
「ええ……。昨日の夜になって“実は全然わかんないトコいっぱいあるんだけど”と告白されたあの時の絶望……なんとか乗り切りましたね」
「はう、二人ともごめんっ」
「「 そう思うなら、普段から勉強しなさい 」」
二人同時にわたしの頭を小突きます。べ、勉強してるよ? ただわかんないだけで……。
三人でビルの外に出て旅団のギルドルームに向かいます。ルームの中ではサイ君とオルド君がテレビを見ていて、余裕しゃくしゃくという様子です。ついでにみてきてくれ〜とか言っていたオルド君。なんか普通に高得点でなんか普通に嫌でした。
「お、帰ってきた帰ってきた。どうだった〜?」
「無事、マキナも合格したよ……。今回ばかりは本気でダメかと思ったけど……なんとかね」
「心が折れるかと思いました――」
あのう、その発言でわたしの心が折れそうなんですが――。
「ってことは、全員無事に筆記は合格って事だな。よかったじゃねえか、とりあえず」
オルド君は人事のようにそういいました。今回の試験は筆記と実技、二段階に分かれているのです。先に筆記試験が行われ、その後筆記試験合格者のみ実技試験――つまり実戦形式の試験を受ける事が出来るようになっているのです。
早い話、筆記で落ちればもうそれまで。FAに乗る前に駄目駄目さんの烙印を押されてしまうのです。なんとかそれはニアたちの協力により回避出来たので、残るは実技試験という事になります。
「それにしてもへこたれ……てめえ、目の下すげえぞ……」
「自慢じゃないけど、緊張して一睡も出来なかったんだよっ」
「胸を張って言わないでください」
「キミのその様子を見て朝ボクらがどれだけハラハラしたか……」
「す、すいません……」
しばらくこの二人には頭が上がらない事でしょう。
「何はともあれ、これでゆっくりねられる……」
男子二人が着いているテーブルにわたしも座り、テーブルに上半身を投げ出します。目を瞑るだけで、自然とすう〜っと意識は遠のいていきます。夢の世界に落ちそうになるわたし……その後頭部をニアが突きました。
「はぅぐっ!?」
「寝るな!! 勉強には散々付き合ってやったんだからね……。今度はボクらの戦闘訓練、手伝って貰うよ」
口元からよだれをたらしながらわたしは振り返ります。首筋に打撃を受け、なんだか脳がぷるぷる揺らされた気分です。睡眠不足も祟って吐きそうでしたが、そこは気合で我慢しました。
ゆっくりと振り返るとリンレイも同じ意見なのか、わたしをじっと見つめていました。二人の視線は若干怖いです。目が据わっているので……。
「べ、別にわたしが一緒じゃなくても良くない……?」
「何言ってんの。マキナ、一応この中じゃ最強なんだよ? 特訓くらい付き合ってよ」
「最強って……言い過ぎじゃない?」
「いえ、貴方は本当に強いんですよ? 何故だか判りませんが、壊滅的にその自覚が欠如しているようですが」
なんか今、物凄い言葉で馬鹿って言われた気がしました。
「FAの戦闘訓練なら、俺も付き合うぜ。マキナとは一度本気で手合わせしてみたいと思ってた所だ」
「オルド君、どうしたのその意味のない積極性……」
「意味のないってなんだテメエ……。生意気言ってんじゃねえぞ」
「はぅぅぅぅううっ!? いたいいたい! もっと馬鹿になっちゃう!!」
オルド君は大きな手でわたしの頭をむんずと掴み、ぎりぎり締め付けてきます。オルド君の握力は強すぎて耳とかから脳が出ちゃうんじゃないかと本気で恐ろしくなります。
しばらくそうしてオルド君にいじめられた後、わたしは再びテーブルの上に突っ伏していました。今度は寝るためではなく、しくしく泣くためです。皆は勝手にギルドルームの中でシミュレータを起動し、訓練の準備をしていました。サイ君はわたしの隣に座ったままあわただしいみんなの様子を眺めています。
「オルド君、怖いよう……っ」
「お前最近色々なやつにいじめられてんな〜」
「むっきゅう」
何故か最近、アポロはサイ君と仲がいいです。サイ君の頭の上に載っていたアポロがぴょこんと飛び降り、テーブルの上で丸くなります。わたしはそんなアポロのもこもこした頭を撫で、少し傷心を癒すのでした。
アポロはもこもこでふかふかで、すべすべでむにむにで、触っていると心が癒されるのです。昔からつらい事があった時はアポロをこねくり回して癒されていました。そうしてアポロの耳を編みこんで居たその時、事件は起きたのです。
「――ごめんあそばせ。蒼穹旅団のギルドルームはここで合っているかしら?」
突然ギルドルームの扉が開き、紅い制服の女の子が部屋に入ってきました。その傍らには何故かメイド服の女の子……。そしてその二人にはわたしは見覚えがありました。
綺麗な金髪の女の子……。紅い制服という事は、クラスはA。隣の女の子はメイドさんなのでよくわかりませんが、兎に角Aクラスの傭兵さんであることは間違いありません。確か、彼女は――。
思い出していると、女の子はメンバーの中からわたしを見つけ、にっこりと微笑みました。それは優しい笑顔なのですが、目が笑っていないというか……。背筋がぞくりとするような、そんな笑顔でした。
「……ここが蒼穹旅団であってるが、そういうてめえらは何だ? ノックくらい出来ねえのかよ」
「それは失礼……。わたくしは“ナイツ・オブ・テスタメント”――。契約の騎士団のギルドマスター、エミリア・L・ヴァーミリオン……。以後、お見知りおきを」
「テスタメントの、ギルドマスター……?」
リンレイが眉を潜めるのも無理はありません。ナイツ・オブ・テスタメントは学内でも最大規模のギルドの一つ。そのギルドマスターがわざわざこんな弱小ギルドのルームまで押しかけてくるのですから、普通に妙な状況です。
エミリアと名乗った女の子はそのままわたしの元まで歩み寄り、それから周囲を見渡しました。エミリアさんはわたしをじっと見つめ、それから小さく笑みを浮かべます。
「あ、あのう……? 以前お会いしましたよね?」
「ええ、覚えていてくれたのね。光栄だわ。今日はまた、貴方を勧誘しに来ましてよ。マキナ・ザ・スラッシュエッジ」
その言葉にわたしも含め、全員が驚きました。今までカラーオブブルーの再来とか言われた事はあれど、その名でわたしを呼ぶ人は一人もいませんでした。わたしは今の所カラーズには程遠く。ザ・スラッシュエッジと呼ばれたその人ほど強くもありません。ただのCクラスの一般生徒に過ぎないわたしに、彼女は告げたのです。“ザ・スラッシュエッジ”――と。
まるで何かの宣告のようでした。何となく気持ちが落ち着かず、眠気はどこかに吹っ飛んでしまいます。立ち上がりエミリアさんを見つめ返すと、彼女は優しい声色で言いました。
「貴方は間違いなく大成する器……。こんな狭い鳥籠の中に居ては高く舞う事は叶わないでしょう。マキナ・レンブラント……単刀直入に貴方をテスタメントに勧誘します」
「テスタメントに……?」
皆は何も言いませんでした。わたしはただ驚くばかりで、何も口に出来ません。彼女には以前勧誘されましたが、その時は一発で蹴ってしまったのです。しかしここまで乗り込んできて、また勧誘してくる……それが彼女の行動力と本気さを示しているかのようでした。しかし、解せない事もあります。
「――あの、どうして今、なんですか?」
別に誘う瞬間なら他にもいくらでもあったはず。試験で浮き足立っている今、わざわざ勧誘してくる理由が良く判りません。しかし、彼女はだからこそここに来たのだと切り返します。
「貴方がクラスアップ試験の筆記に合格したのは先程確認しましたわ。つまり次は実技試験……。実際の戦場に向かうのでしょう? だからこそ、誘いに来たのです」
「だから、こそ?」
「我々テスタメントは、将来カラーズになる可能性のある生徒を強力にバックアップしています。貴方もそのケースに漏れていません。むしろ貴方は今、最もカラーズに近い新人……。我々は貴方を良い待遇で迎え入れるだけの準備があります」
「え、えーと……? すいません、やっぱりいいです」
「……理由を聞いても?」
わたしは頷きました。あんまりにもわたしがあっけらかんと答えたので、エミリアさんも腑に落ちない様子だったからです。とりあえず、背後を振り返ります。皆は緊張した面持ちでわたしを見ていました。
「わたし、この小さいギルドが気に入ってるんです。それにわたし、エミリアさんが言うような凄い人じゃないんです。筆記試験も、ギリギリ合格だったくらいで……それが出来たのも友達のお陰でした」
「お友達がいるから、旅団を離れないと?」
「それも理由の一つだと思います。でも、それだけじゃないんです。旅団にはまだやり残した事、これからやりたい事、沢山残ってるんです。それにわたし、テスタメントさんの事も良く判っていないし……」
腕を組み、目を閉じてエミリアさんはわたしの話を聞いていました。そうしておもむろに指を弾くと、背後のメイドさんがアタッシュケースをテーブルの上に載せます。一体何事かと思い目を丸くしていると、開かれたアタッシュケースの中にはびっちりとお金が詰まっていました。
「お友達がいるから離れたくないというのならば、お友達ごと移籍すれば良いのですわ。その上で絶対的な訓練環境、熟練者による保護、指導……。更に学費面やFAの資金繰りもサポートしますわ」
「…………ほえー」
「マキナ・ザ・スラッシュエッジ。何度も言わせないで下さい。貴方は素晴らしい逸材なのです。口説く為ならばこちらは何でも用意しますわ。さあ、条件を仰ってくださいませ? 貴方の所望する物は……?」
お金の山を見下ろしながら、しかしわたしはどこかポカーンとした気持ちでした。なんというか、そんなにお金あってもしょうがないですし……。それに何より現実味が無さすぎます。スラッシュエッジって呼ばれるのもあんまり実は好きじゃないし、わたしは首を横に振ります。
「ありがたいお話ですけど……お断りします」
「貴方の力が必要なのです。テスタメントの至上目的の為に……」
「もくてき?」
「ええ。“アナザーを排除したフェイス”、という未来の為」
思わず眉を潜めてしまいました。あっさりと、今この人は何を言ったのか……。場の空気が張り詰めるのがわたしにも判りました。それでもエミリアさんは全く怯むことも無く、微笑を湛えています。
「わたし、その目的には賛同出来ません。金輪際わたしは貴方には関わりたくありません」
「……。目の色が変わりましてよ、スラッシュエッジ」
「わたしをその名前で呼ばないで下さい。わたしをそう呼ぶのならば、わたしもその役割に徹しさせて貰います」
鋭く睨み付けると彼女は一瞬気圧されたように後退します。自分が今どんな顔をしているのか……それはよくわかりませんが、多分あまりいい顔はしていないのでしょう。
「そう……。だからこそ、貴方を早くここから引き離したかったのですが……しようのない人だわ」
メイドさんがアタッシュケースを片付け、主の背後に下がります。エミリアさんは凍てつくような視線でわたしを見つめていました。わたしもただ、彼女の視線に応じます。そこにあるのは視線の応酬……ただそれだけでした。
「貴方もいずれ気がつきますわ。このギルドでお友達ゴッコをしている限り、貴方は高みへは登りつめられない」
「やってみなければ判らないと思います」
「“やってみて駄目でした”で通る世界ではなくってよ、スラッシュエッジ。その時貴方のか弱い命が原型を保てていればいいのだけれど」
きつく睨み返すと、彼女は微笑みながら背を向けました。そうしてルームから去っていく途中、足を止めて振り返ります。
「――そうそう。実技試験の攻撃目標……実は既に班分けは終わっているの。貴方たちが襲撃するのは――プレートシティ、“トゥートリア”ですわ」
そう言い残し、嵐は去っていきました。内心ドキドキだったわたしはその場で深くため息を漏らし、振り返ります。そこに皆の笑顔がある――それが当たり前だと信じて。
しかし皆はなんともいえない表情を浮かべていました。誰もわたしと視線を合わせようとはしません。少し寂しい気持ちでニアを見やると、ニアは震えながら愕然とした様子でその場に膝を突きました。
「……トゥー……トリア……?」
「ニア……?」
「シティ、トゥートリア……。どうして、よりによってあそこ……っ」
ニアは肩を震わせながら俯いていました。誰もその理由は判らず、かけるべき言葉も見当たりません。歩み寄り立ち尽くすわたしは、彼女の呟いた言葉を聴きました。
「――――“お姉ちゃん”」
その言葉の意味……。そしてこの実技試験を境に、わたしたちは新しい壁に直面する事になるのです。
現実はいつも、わたしたちの気持ちを裏切るように、ただ傷を押し広げていく……。出来ることは、それに耐える事だけなのでしょうか。
マキナ・レンブラント、筆記試験合格の日の日記より――――。
シャドウ・ハーツ(1)
「トゥートリアは――。アナザーのみによって統治されている、アナザー自治区の一つです」
ギルドルームの中、マキナたちはリンレイが調べた結果を聞いていた。ニアはあの直後、ギルドルームから飛び出していってしまったのである。追いかけようとしたマキナを止めたのはサイであった。何も事情を知らないまま追いかけた所で出来ることは何もない……。サイの正論にマキナは噛み付いたが、リンレイに諭されておとなしく席に着いた。
プレートシティ、トゥートリアは数少ないアナザーの楽園の一つである。大多数に差別され、迫害を受ける彼らアナザーの中にはノーマルを嫌う者も多い。そうしたアナザーたちはノーマルを排除したシティに閉じこもり、外界を拒絶して生きる事も少なくはない。
この広い世界の中で誰もが争い、奪い合う事が当たり前の世の中で彼らもまた何かに追われ、何かと戦って生きている。そんなアナザーたちがひっそりと暮らす小さなプレートシティは各地に存在する。トゥートリアもその一つだった。
「そこが、攻撃目標……? ど、どうして……」
「どうしてもこうしてもないだろ〜? 俺たちは、傭兵なんだ。戦いに理由は必要ない」
サイの言葉にマキナは打ちのめされたように瞳を揺らす。そう、判りきっていた事だ。フェイスで戦うライダーになるということは、己が望まぬ戦いを強いられるという事。金を対価に己の命を投げ打ち、手綱を引く人間の為に敵を駆逐する兵器――。それがフェイスのライダーなのだから。
それでもマキナはその現実からどこか目をそむけていた。こんな事になるとは思っても見なかったのである。少し考えれば予想できたはずの未来を、そこから判ってしまう悲しい現実を、目を逸らし、逃げ回り、ただ今日まで平穏を延長してきた。そんな麻痺した日常……。少女は拳を握り締めた。
「フェイスのライダー……。そうだよね。わたしたちは、人殺しで生きていくんだ。判ってたはずなのに……判ってたはずなのに」
肩を震わせるマキナの傍ら、リンレイは更に言葉を続ける。
「トゥートリアは……ニアの出身地です」
「え……」
「彼女は近年アルティールに転居してきたのですが、そうなる前はトゥートリアに住んでいたそうです。マキナ……知らなかったんですか?」
「だって、ニアの故郷の話なんて、わたし……しなかったから」
「プロフィールに載ってますよ。見ますか……?」
頷き、マキナは確かに見た。そこが彼女の思い出の場所であるという事……。そして打ちのめされる思いだった。自分は一体どれだけ、ニアの気持ちをわかっていたのだろう、と。
ニアと出会い、今日まで共に過ごしてきた。その時間の中で彼女は間違いなくマキナの支えであり、そして親友であった。いつでも笑顔を絶やさなかったニア……しかしマキナは知っていたはずなのだ。彼女が本当は、ノーマルに迫害され苦しんできた過去を持つ事を。
それが判っていたのに。一緒にいれば、いつかは解決するのだと。時間が全てを溶かしていくのだと、そう信じていた。余りにも浅く、甘い考え……。マキナは泣き出しそうだった。自分が情けなく、とても嫌いだった。
「そんな、じゃあ……。じゃあ、Bクラスに昇進する為には、ニアの故郷を攻撃しなきゃいけないって事……?」
「まだ、正式な通達はないのでなんともいえませんが……。彼女の情報が確かなら、そういう事になります」
「そんなっ!! そんなの出来るわけないよッ!!!!」
テーブルを叩くマキナの拳がじくりと痛んだ。大きな音、しかしそれとは真逆に降り注ぐのは静寂……。少女は眉を潜め、二律背反する自分の心と向き合っていた。親友の故郷を攻撃したくない、そんな事はあってはならないという願い。そしてあの紅き猟犬、アテナ・ニルギースに追いつきたいという願い……。せっかくここで見つけた夢。しかしそれはニアなくしては成立しなかった。彼女が与えてくれた夢……それがニアの世界を壊そうとしている。
「出来ないって……それじゃあ、何の為にフェイスに来たんだ?」
問いかけたのはサイだった。しかし、サイだけではない。リンレイも、オルドも、気持ちは同じだった。
「俺たちは生きる為に戦ってる。俺たちがこうして平穏に生きている影で、沢山の人間が殺しあってる。街と街が、企業と企業が、人と人が……。どうしてだと思う? 必要だからだ。生きるために、必要だから戦ってる。自分の身を守る事も、自分の大切なものを守る事も、それは戦う事でしか不可能なんだ」
「…………判ってるよ」
「いや、てめえは判ってねえ。親友の故郷だから攻撃しない……出来ない。それはてめえの中で序列をつけているだけだ。俺たちは元々“そういうもの”なんだぜ、へこたれ」
「私たちは、フェイスに入った時点でどんな汚名も背負う事を覚悟しています。全ては生き、そして守る為です。マキナ……貴方は違うのですか? 貴方は何を守る為に、この学園へやってきたのですか?」
三人の真剣な表情にマキナは何も言い返すことが出来なかった。そう、マキナ・レンブラントに絶対的に欠如しているもの――。それは決意、そして覚悟なのだ。
平和な世界など仮初に過ぎない。誰もが血に染まった現実の上に両足をついて生きている以上、誰もがその血で手を汚さねばならない。母なる大地は失われ、世界は絶望に満ちている。その中でまだ生きようと、抗おうと、希望を捨てないようにと誰もが銃を手にした。それは本能的かつ、純粋な闘争本能。
「わ、わたしは……っ」
「……マキナ、貴方の優しい気持ちはみんなわかってます。でも、今の貴方の表情で……そんな中途半端な気持ちで戦場に出て欲しくないから言っているんです。わかってくれますか……?」
「今のてめえじゃ、出ても殺されるのがオチだ。それくらいわかんだろ?」
「…………っ!」
俯き、そのまま歯を食いしばってマキナは椅子に座った。その様子をリンレイとオルドは悲しげに見つめていたが、サイだけはそうではなかった。むしろ怒りを堪えるような、そんな瞳でマキナを射抜く。
「ま、試験はこれで最後じゃねえんだ。どうしても嫌なら、後回しにすればいい。でもさぁ、お前はいつ戦うんだ? だったらお前、“誰なら殺せる”んだよ」
サイの物言いは冷静かつ的確だった。それは深くマキナの胸に突き刺さり――しかしリンレイもオルドも口を挟もうとはしなかった。マキナは瞳に涙を溢れんばかりに溜め込み、震える声で呟いた。
「判んないよ……」
マキナの答えに失望するかのようにため息を漏らし、サイはそのままギルドルームを出て行ってしまった。リンレイがマキナに歩み寄り、その肩を叩く。マキナはぽろりぽろり、大粒の涙を零しながら迷っていた。その表情にリンレイはかける言葉を持ち合わせない。
「わたし……わたしだって、フェイスのライダーだよぅ……。でも……でも……じゃあ、どうしたらいいの……? 誰か教えてよ……リンレイ……教えてよ……」
「…………」
リンレイは首を横に振る。その答えは、マキナ自身が見つけ出さねばならない。そう、ここよりも更に上の、目指すべき場所へと進む為に……。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*二部メインに突入*
マキナ「ほえー」
ニア「どしたの?」
マキナ「急にシリアスになると、あたまが追いつかないんだよ」
ニア「そ、そうなんだ……」
マキナ「というわけで、これから二部のメインである昇進試験なわけですが」
ニア「どんどんペースアップしないといつまで経っても終わんないからね……」
マキナ「ここからは旅団メンバーの過去や人間関係にスポットを当てていく予定です」
ニア「そんなわけで、今後とも応援よろしくおねがいします」
ニア「あれ? 終わりじゃないの?」
マキナ「うん。作者は〜、ニコニコ動画をBGM代わりにしてるんだけど〜」
ニア「きゅ、急だね」
マキナ「うん。で、作者がわたしたち二人の事を書きながら聞いてたBGMがあってですね」
ニア「うん?」
マキナ「eufoniusのベルーカって曲です。興味があったら聞いてみると、作者と同じ気分で読めるかもしれません」
ニア「……つまり宣伝じゃん」
マキナ「宣伝でしたーっ!!」
ニア「で、空想科学祭が締め切ったわけですが」
マキナ「作者は参加してませんが、応援はしています! みなさーん、SFをどんどん盛り上げていきましょーっ!!」
ニア「興味がある方は是非検索を〜」
マキナ「リンクはらないの?」
ニア「勝手にリンクして怒られたらどうするのさ。参加もしてないのに」
マキナ「あ、うん……そうだね――」