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ルナティック・フロウ(3)


「うーん! やあっと帰ってきたぁ〜っ!!」


 部屋に入るなり真っ先にそう叫び、のびのびしながらニアはベッドの上に飛び込みました。両肩から提げた鞄を下ろし、わたしも一息つきます。およそ一週間の旅行も終わり、明日からはまたフェイスの訓練が始まります。

 頭の上に乗っていたアポロがぴょんこと降り立ち、ニア同様ベッドの上でごろごろし始めます。流石に長旅は疲れたのか、二人とも眠そうでした。

 ムーンシティ旅行は色々とありましたが、なんだかんだで楽しい連休にする事が出来ました。ナナルゥやラグナ君とも出会いもあり、ファントムとの戦いもあり……。色々とありましたが、全ていい思い出です。


「――――あのう、ラグナ君?」


 旅行最終日、港で連絡船の出港を待つ間、皆はお土産を買ったりしていました。そんな中にまぎれてキーホルダーを眺めているラグナ君に声をかけたのです。勿論理由は、あの事を確かめる為でした。


「ラグナ君、一ヶ月前にわたしの病室にいたよね?」


「そうだね」


「えっと、どうして? わたしたちって別に何も関係なかったよね?」


 ラグナ君とナナルゥはあの後ずっとわたしたちと行動を共にしていたのですが、結局一度もそれを訊ねる切欠が無くてのびのびになってしまった質問。ラグナ君はわたしの話を聞き、少しだけ考え込み、それからキーホルダーを片手に目を細めました。


「関係がないわけじゃないさ。色々と、君とは縁があるんだろうね、きっと」


「縁?」


「このムーンシティでも僕らはまた出会う事が出来た。運命、あるいは因果と言い換えても良いかも知れない。兎に角答えはそういう事なんだ。僕自身が意味を知るわけじゃない。世界の声が、そうしているだけさ」


 そうしてうさんくさい月のキーホルダーを購入しにレジへと向かうラグナ君。結局、彼には上手くはぐらされてしまって話を聞くことは出来ませんでした。でも何となくあまりしつこく訊ねても答えてはくれないのだろうなとわたしは思ったのです。その理由は……勘、としか言いようがないのですが。

 皆でお土産を購入した後は、それぞれ別の便にて帰る事になりました。アテナさんは用事があるとかでまだ月に滞在する事になり、わたしたちは予定通りの便でアルティールに。ナナルゥとラグナ君はなんでも専用便があるとかで、なんともVIPな待遇なのでした。


「ナナルゥ、元気でね」


「ナナルゥはずっと元気だぞー。それに、またマキナには直ぐ会えるっ」


「うん、きっとそうだね」


 ナナルゥと握手を交わし、そうしてわたしたちはそれぞれ挨拶をして連絡船に乗り込むのでした。そして――何とかアルティールまで無事に到着し、旅行は無事終了。疲れたわたしたちはそれぞれ港で解散し、そのままわたしとニアはここまで直帰したわけです。

 荷物の片づけを後回しにしてわたしもベッドの上に転がりました。ホテルのベッドと比べると硬いし狭いし……なのにどうしてでしょう? 何故かこっちのほうが安心します。帰ってきたんだって、そう実感するのです。アルティールにやってきて四ヶ月、ここはわたしの帰る場所になっていました。


「つかれたぁ……。でも、凄くたのしかったね、ニア?」


 ニアはわたしの呼びかけに応えません。見ればニアはベッドにうつぶせになったまま、すやすや寝息を立てていました。やっぱり疲れていたのでしょう。ニアのベッドの上からぴょこんと飛び降りたアポロがわたしの足元に座ります。その頭を撫で、抱き上げながらベッドの上に横になりました。


「アルティールに来てから、毎日楽しくて……。やっぱり、一人ぼっちじゃないって良いよね?」


「むっきゅ」


「明日からも頑張らなきゃ。もっともっと強くなる。それで……それで、どうしようかな」


 あんまり先のことは、わたしにはわかりませんでした。とりあえず今は一生懸命に頑張るしかないのです。未来は頑張ったその後に勝手についてくる物……わたしはそう考えていました。

 アポロを枕元に転がし、わたしも少し寝る事にします。明日からは、また頑張るのです。だから今日の所は早く寝ちゃってもしようがないのです。

 荷物もそのままほったらかしでわたしたちは寝てしまいました。結局翌日、荷物の片付けも終わっていなくてバタバタするのは目に見えていたのですが――。それはまた、明日のわたしが知る話。

 そう、未来のことなんて誰にもわからないのです。今日のわたしも、明日のわたしも……。

 マキナ・レンブラント、旅行最終日の日記より――――。




ルナティック・フロウ(3)




「――成る程、“ファントム”か……」


 ムーンシティ下層、ジェネシスの工業プラントの中で肩を並べるアンセムとアテナの姿があった。二人が立つ通路の下をファントムの残骸がワイヤーで吊り上げられ、移動を繰り返している。作業効率向上の為、重力はおよそ通常の半分程度にまで落とされており、超重量物が難なく行きかう倉庫の中、二人はじっと作業の流れを眺めていた。

 アンセムが月に到着したのはマキナたちが出て行ったのと丁度入れ違いであった。アンセム含む、アルティールから派遣されたフェイス調査団のメンバーは既にファントムの調査を大企業ジェネシスに依頼。アンセムはその様子を眺めているのに過ぎない。

 ファントムによる月襲撃事件から数日……。ようやく宙域に散らばったファントムの残骸を回収し、ジェネシスへの手続き、フェイスへの正式依頼が下り、いよいよ本格的なファントムへの対応が始まった。その第一陣にアンセムが紛れ込んだのも、故あっての事である。


「性能はヴォータンと同等、と言った所です」


「ヴォータン……。それがこれだけの数、か」


 襲撃してきたファントムの数はおよそ二十機――。FAを纏まった数運用するという事は、それなりの組織力を必要とする。金、人材、設備……。FAは軽々しく民間で運用できるレベルの兵器ではない。フェイスだけがそれを最高級の商売道具とするだけの権力を持つのだ。他のシティにとって、ヴォータン程の高性能機は一機すら配備するのも難しいだろう。

 ヴォータンはジェネシス製の最新鋭量産機である。次期量産期であるケルベロスには劣らないものの、現行の量産FAの中では最高ランクの性能を誇る。それと同等のFA、しかもオートパイロットの機体が二十機運用されている。それを危険でないと判断するのは難しい。


「それに、ファントムは宇宙空間用の装備ではなかったそうです」


「……そのようだな」


 本来、宇宙空間でのFA運用は主眼となるカナル上の運用とは方法が大きく異なる。FAの最大の能力、それはERS、そしてその認識領域とそれに纏わる神経接続にある。それだけでも十二分に戦略的効果はあるのだが、宇宙用装備と通常装備とでは宇宙空間における能力は雲泥の差である。

 まず第一に、宇宙空間にはエーテルがごくごく微少にしか存在していないという点。この一点において、宇宙空間用装備は必須なのである。宇宙用装備には機体に接続する各種増設ブースター、スラスター、スタビライザーのほかに、周囲にエーテルを撒き散らす散布装置が備え付けられている。放出されるエーテルは一定時間のみ周囲に展開され、そのエリアでのみERSの能力を使う事が可能なのである。

 ERSは周囲のエーテル環境に大きく左右され、それなくして効力を発揮することは出来ない。故に宇宙空間でFAを運用する為には無重力化で人形兵器を自在に泳がせる為の機能、そしてエーテル散布装置が必須なのである。

 例に、ブリュンヒルデの宇宙用装備、通称S型装備は背部に主に巨大なウィングブースターを装備する。それはブースターとしての役割を果たすだけではなく、翼のように屈折したり任意の方向に自在に方向転換させることで稼動範囲の広いバーニアとして運用出来る他、翼から放出される紅い光としてエーテルを周囲に散布し続けている。

 勿論それだけではないが、兎に角最低でもそれだけの装備が必要となるのである。散布するだけのエーテルを積み込む為にどこかに燃料パックが必要にもなる。しかし、ファントムにはそうした装備が一切見られなかったのである。


「しかし、戦闘エリアにはやはり一定量のエーテルが散布されていたそうです」


「つまり……連中には母艦があるのか」


 周囲一体にエーテルを撒き散らす事が出来る程の規模。かつ、二十機のファントムを積載可能……。さらに宙域からの単独離脱が可能な物。つまりそれは、航宙母艦。


「無人操縦というよりは、母艦からの遠隔操作と考えるのが素直だろうな」


「私もそう思います。AI制御でERSの稼動なんて、余りにも無謀です」


「遠隔操作も十分過ぎるほど御伽噺だがな。詳しい結果はジェネシスに任せるとして、私たちはアルティールに戻るぞ」


「フェイスはファントム狩りを正式に受理したんですか?」


「らしい、な」


 応えるアンセムの言葉はどうにも歯切りが悪い。男はそうして眼鏡をはずし、それをクリーナーで拭きながら視線を落とした。


「どうやら元々、ベガの連中はファントムの情報を掴んでいたらしい」


「ベガ……? ベガのフェイスですか?」


 アルティール、ベガ、デネヴ……。三つのリングタワーコロニーには同じく三つのフェイスが存在する。それらは一応同じ組織という扱いにはなっているものの、それぞれの学園にはそれぞれに理念、方針が存在し、それぞれ別々の指揮系統にて稼動している。

 基本的に三つのフェイスはお互いに過度の干渉はせず、フェイスとして全体に奉仕すると同時にカラーズ戦などで各々が権力を誇示しあっている。仲間であり、ライバルであり、同一体でもあるフェイス三校の間にあるのは、非常に複雑な関係性なのだ。


「ベガは既に何度かファントムと交戦しているらしい。カラーオブブラック、カラーオブグリーン……二人のカラーズがファントムを倒している」


「デネヴは?」


「デネヴの方はこっちと同じ程度の情報しか掴んでいないようだが、連中も交戦履歴はあるようだ。カラーオブホワイトが何度かファントムを撃退している」


「となると、我々は完全に出遅れていますね」


「ファントムは世界中に現れているらしい。が、その目的はいまいちはっきりしない。だが連中の狙いはどうやらカラーズらしいという事だけが判っている」


「……。それで、他のフェイスも気を遣っているのですね」


 カラーズは看板商品であると同時に戦場における無敗のシンボルでもある。カラーズは絶対に負けてはならない、勝利を約束された存在でなければならないのだ。それらは常にあらゆる存在にとっての恐怖であり、金を持たない人間にとっては恐ろしい悪魔、そして金を持つ人間にとっては神々しい天使でもある。

 その七色の存在はそれぞれが賞賛と侮蔑を同時に背負う存在なのだ。フェイスの犬――。フェイスが頼り、故に世界が頼り、そして恐れるカラーズを今までどれだけの人間が狙ったか判らない。事実それで命を落とすカラーズも、少なくはないのだ。

 仮にファントムがカラーズだけを狙っているのだとすれば、それはフェイスへの明確な敵対行為である。同時にフェイスにとっても脅威となる存在なのだ。握りつぶす事は容易いだろう。だが、万が一にでもカラーズの名に傷をつける事などあってはならないのだ。


「出来ればベガもデネヴも自分たちの手で処理したかったのだろうが、そうも行かなくなってきたからな。これからは三校同時にファントム対策を進める事になった。お前にも近々学園会議に出席してもらう」


「……あんまり出たくありませんが、仕方ないですね」


「念の為、カラーズには護衛がつく事になった。お前の護衛はヴィレッタだ。不服はないだろう?」


「――――はあ。まあ、不足はないですが」


「アルティールに戻ったらヴィレッタと合流。それから警戒解除までの間、行動を共にしてくれ。だがあくまでも行動は普段どおりだ。ミッションにも進んで参加してもらう」


 ファントムの所為でカラーズが動けない……そんなことは絶対に赦されないのだ。フェイスはカラーズを通常通りに運用し、その威光を途切れさせるわけには行かない。あくまでも警戒し、しかし静かに。まるでなんともないような顔で、敵に見せ付けねばならないのだ。


「こっちが余裕で動いていれば向こうも痺れを切らすでしょう」


「その時はフェイスの、そしてカラーズの力を存分に味あわせてやればいい」


「……この話は内密にしたほうがいいですね、兄さん」


「そうしてくれると助かる」


 二人の足元、ファントムの残骸はゆっくりと流れていく。不気味なその黒いボディは光を鈍く弾き、二人はそれを少しの間黙って見下ろしていた……。




「えと、宇宙ではビーム兵器が強いの……?」


 アルティールのガーデンエリア、テーブルの上でテキストを広げるマキナの姿があった。テキストといっても小型端末から浮かび上がる平面の立体映像なのだが。

 眉を潜めるマキナの傍ら、リンレイとニアが立って付き添っている。その正面ではサイとオルドが昼食をほおばっていた。マキナがしているのは今までの授業のおさらいである。特に苦手な、宇宙戦闘についてだ。


「宇宙にはエーテルがすごく少ないんです。だから、フォゾンビーム兵器はその効力を十二分に発揮するんですよ」


 フォゾンによるエネルギー兵器、一般的にはビーム兵器と呼ばれる物だが、それらは地上ではあまり意味を成さない。勿論ビームの技術そのものは飛躍的に進歩し、FAが携行出来るほどに小型化かつ高威力になってきている。しかし、地上には人間が住めない程過密なエーテルが充満しているのである。

 エーテルを圧縮し打ち出すフォゾンビームは、高密度のエーテル下を通過する時極端に減衰してしまう。よって、ビームの威力は半分以下にまで押さえ込まれてしまい、結果その威力は微妙になってしまうのだ。


「だからFAの武装は殆どが実弾なんですよ」


「ほえー、そうだったんだ?」


「フォゾンビーム兵器は運用が難しく、コストも高いんです。威力は十二分なのですが、エーテル環境下での性能は微妙なんですね。だから、地上では実弾。しかし宇宙にはエーテルがないので……」


「ビームがつよい?」


「そういう事です」


 宇宙空間にはエーテルは充満しておらず、威力は減衰しない。放たれたビームはそれこそ一撃でFAを貫通し、そのまま星の彼方まで吹っ飛んでいくほどの威力を持つだろう。

 故に宇宙空間用の装備、フェイスにおいてS型と呼ばれる装備類にはビーム兵器がセットになることが多い。実弾では中々貫けないFAの装甲も、フォゾンビームならば一撃で貫通可能なのである。


「そういえばアテナさん、この間ビームライフルつかってたかも……」


「まあ、ビーム兵器に関してはマキナには余り関係ないかもしれませんけどね。とりあえず復習は中断して、お昼にしましょう」


「う、うん。ありがとね、二人とも」


「……ボクは見てただけだにゃー」


 三人がテーブルに着き、各々料理に手を伸ばし始める。その間もマキナは端末を眺めていた。それには勿論、理由があった。

 夏の連休終了後、Cクラスの傭兵たちには一年に二度しかないチャンスが到来する。それはBクラス傭兵への昇進試験――。クラスアップ試験と呼ばれるものである。

 Cクラスは見習い、Bクラスは一般的なフェイスの傭兵であり、Aクラスはその中でも腕利きという事になる。それぞれのクラスの間にある壁は数字以上に大きな物で、フェイスに入学したはいいがBに上がれない生徒も決して少なくはない。

 試験内容は筆記試験と実技試験の二種類になる。筆記試験は言わずもがな、基本的知識から戦略応用知識まで、様々な範囲から非常に実践的な問題が繰り出される。そして実技試験では、実際の戦場へと出撃し、そこで依頼を無事にこなす事が試験目的となる。

 マキナにとって問題の大部分は筆記のほうにあった。筆記の成績はマキナはCクラスの中でもかなり低く、ほぼ最下位であると言えた。そういう部分は相変わらず進歩せず、頭が悪いのは中々直らない。


「マキナ、あんなに強くなったのにおつむは弱いままなんだね……」


「うっ!? で、でも一生懸命勉強するもん……」


「連休明けからずっと勉強漬けですね。少し疲れていませんか?」


「大丈夫だよ! 兎に角今は勉強しなきゃ……試験に合格しなきゃね」


「そんなに試験を急がなくても良いのではないですか? 冬にはまた、試験があるわけですし」


 試験を受けるかどうかは生徒の意思に委ねられている。試験不合格になったところでそのままCクラスに残る事になるだけで、特にデメリットはない。逆に試験を受けなくても特にデメリットはないのである。

 この八月の試験を受ける生徒は腕に自身がある者だけであり、普通の生徒は十分な訓練と経験をつみ、冬に備えるのだ。しかしマキナは八月末の試験に向けて既に準備を開始し、鼻息荒く意気込んでいる。


「冬までなんて待ってられないよう。急がなきゃ、どんどん置いていかれちゃう」


「はい?」


「……えと、アテナさん。追いつきたいんだ、アテナさんに」


 少し照れくさそうにそう告白するマキナ。その言葉にその場に居たメンバーは全員目を丸くした。目標はあのカラーオブレッド、アテナ・ニルギースであると口にしたのである。普通の生徒ならば余りにも恐れ多いが、マキナなら何となく無理もないような気もする。

 しかし驚くべき部分はそこではなく、マキナがアテナを追いたいと思った事である。マキナは比較的とろい性格なのは言うまでも無く、根性も基本的には無いのである。しかし今マキナはハッキリと目的を口にした。それが驚きだったのだ。


「ほら、先月のエキシビジョン。あの時ぼろっぼろにやられちゃったでしょ? 悔しかったんだ、ちょっぴりね」


「だから、アテナさんを追うんですか?」


「ムーンシティでファントムを追い払った時、真横で見ていてハッキリわかった。アテナさんの実力はわたしなんかじゃ全然追いつけないような高みにあるんだよ。凄くかっこよくて……でも、追いかけるだけの価値がある人だと思った。だから、夢を見ようと思うんだ」


 まっすぐな瞳でそう語るマキナはどこか男前ですらあった。それから直ぐにほにゃっとゆるい笑顔を浮かべ、口の周りをケチャップだらけにしながらハンバーガーをほおばる。それで全て台無しになってしまい、全員が肩を落とした。


「……マキナ、本当に変わったよね」


 ふと、ニアが呟いた。しみじみと呟きながらニアはマキナの頭を撫でる。その表情はどこか寂しげだった。


「本当に強くなったよ。ここに来たばっかりの時は、いつもオロオロしててオドオドしてて……。しかも根性無しで言い訳ばっかりしてた。でも、今はもう違うんだね」


「そ、そんな事は無いよ……? 今でも怖いし、不安だし……」


「そういう風に自分の弱さを素直に受け入れられる純粋な所がマキナの強さなんだよ。だからどこまでも強くなれる……ボクはそう思うな」


「ニア……」


 二人は見詰め合う。照れた様子のマキナの頭をくしゃくしゃ撫で回し、それからニアも立ち上がった。


「よしっ! ボクも受けるよ、クラスアップ試験!!」


「ほんと!?」


「うん! マキナには負けてられないからね! まだまだボクがマキナの面倒をみてやるんだって教えてやろう!」


「えー……? ほんとにー?」


「ほんとほんと。なんだよー、なんか文句あるのかよー」


 二人は組合い、じゃれあうようにして笑っていた。それを傍らから眺めながらリンレイはお茶を飲んでいる。しかしふと、思い出したようにサイが告げた。


「お前らさ〜、そんな気軽に言っちゃうけど、実際に戦場にも出るんだぜ? 筆記試験だけじゃないんだからさぁ」


「試験は実際にフェイスに来る依頼の中から、受験者にランダムで振り分けられるらしい。試験失敗は、つまりイコール死って事だ。危険は承知なんだろうな?」


「判ってるよ、うっさいなあ〜。てか、他の皆は試験受けないの?」


「俺とリンレイは既に申し込んである」


 あっけらかんと告げるオルドにニアは鋭くツッコミを入れた。しかしこうなってくると、結局旅団のメンバーは全員受験という事になるのだろうか。そう誰もが思った時――視線はサイに収束した。


「そういえば、サイは試験を受けないんですか?」


「俺はいいよ〜……。めんどくさいし、そういうのはパスパス」


「でもでも、皆で上を目指そうとか〜……」


「俺はそういう暑苦しいのはヤなの。マキナもさぁ、大概暑苦しいやっちゃなー」


「はう……」


 暑苦しいという言葉にショックを受けるマキナ。その傍ら、ニアは腕を組んでため息を漏らしていた。


「ま、自由といえば自由だからいいんだけどね」


「そういえば、皆さんご存知ですか? クラスアップ試験は他のフェイス――つまり、ベガ校とデネヴ校、両方との合同になるそうです。試験は小隊編成――FA三機を基本に運用するそうですから、同じ部隊にはならないでしょうね」


「ってことは、三校からそれぞれ一機ずつで部隊編成かにゃ?」


「恐らくはそうなるでしょうね。勿論、まだ決まったわけではありませんが」


 そんな話の中、マキナはふと考えていた。そういえば――サイのパートナーはどこにいるのだろう? と。

 Cクラスのカナードは全て複座式……。つまりサイも一人でカナードを動かしているわけではないのである。となれば、サイにもパートナーはいるはずなのだ。しかしそれを見た事も聞いた事も、そんな影をにおわせるような事もない。何となくそんな疑問に到達し、しかし口には出さなかった。既に話は筆記試験の予習の話に移っていたからである。

 マキナは特に勉強が出来ない落ちこぼれである。あわてて思考を切り替え、勉強のことに集中した。その時サイの件については忘れてしまったのだが――。あるいはそれを覚えていれば、また未来は違ったのかもしれない。

 何はともあれクラスアップ試験まで残り一ヶ月。マキナたちの特訓と勉強が始まろうとしていた。

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