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ルナティック・フロウ(1)

 ナナルゥのライブ会場は沢山の人々でごったがえしていました。ステージに辿り着くには沢山の人を掻き分けねばならないようで、ちょっとわたしには無理な感じです。

 ステージの上に立っているのはやっぱり昨日会った女の子でした。黒いギターを片手にステージの上で右へ左へ大忙しに跳ね回りながら歌っています。その様子はとても楽しそうで、額に汗して輝く姿は見ているこっちまでなんだか楽しくなってくる感じです。

 周囲を見渡します。ナナルゥの事が気になるのもあったのですが、わたしがここに来た理由は例の少年にありました。昨日は夕飯がどうとかいって居なくなってしまいましたが、やっぱりわたしの事を知っていたようですし、気にならない方が無理という話でしょう。

 しかし、彼の姿はどこにも見当たりません。まあ、物凄い人込みの中で特定の人物を探す方が難しいのでしょうが。そんなことを考えていると、背後から誰かに首根っこを捕まれました。振り返るとそこにはアテナさんの姿が。


「ちょっと……! 勝手な行動しないでくれる?」


「あ、すいません……。でもすごい人ですね〜……」


「当たり前でしょ、歌手なんだから……。それよりこの子、ちゃんと持ってなさい」


「あ、はい」


 突き出されたのはアポロでした。その量耳をむんずと掴むと、アテナさんは青ざめた表情を浮かべ、それからわたしのほっぺたを強く引っ張ります。


「なんで耳を持つのよ、耳をっ!?」


「も、持ちやすいし……っ!? アポロの耳はよく伸びるから、別に平気ですよう!?」


「絵的にダメでしょう!!」


 な、なんでこの人はアポロのことになると妙に食いつきがいいのでしょうか……。アテナさんにほっぺたをひっぱられながら涙目になっていると、気づけば曲は終了していました。ナナルゥは観客席を眺め、手を振っています。


『ありがとうだぞー! 久しぶりのライブだから緊張してたけど、皆ノリがいいからすっかり元気になった! みんな、ほんとにありがとーっ!!』


「いいなあ……ナナルゥは一杯友達がいて」


「友達とは違うんじゃないかしら……ファンは」


 わたしたちがそんな話をしていた時でした。ナナルゥが次の曲へと移ろうとしていると、突然ステージ裏からスタッフらしき人々が飛び出してきます。その様子に会場は一瞬沈黙しました。スタッフたちはナナルゥに何かを耳打ちし、その手を引いて行きます。

 何事かと目をぱちくりさせていると、ナナルゥはヘッドマイクの音量を最大にして大声で叫びました。その言葉の意味も何も、わからないまま全ては始まったのです。


『皆、逃げてーっ!!』


 次の瞬間会場は騒然となりました。頭上で何か激しい音が聞こえてきたのです。アテナさんが顔を上げ、わたしも釣られて頭上を見上げました。頭上に浮かんだ半透明の空の向こう側、宇宙空間を無数のFAが通り抜けて行くのが見えます。FAが高速で傍を通り抜ける度、透明の空が震えて振動と音はここまで響いてくるようでした。


「FA……? ムーンガードの“ステイシス”ね……」


 宇宙空間で、何度か光が炸裂しました。瞬く閃光に怯えるように観客たちは一斉に避難を開始します。しかしそれは避難というよりは散り散りにただ逃げていくだけの行為……。文字通り、パニック状態は回避出来ないのです。

 アテナさんに手を引かれ、一度森の傍まで移動すると改めてわたしたちは空を見上げました。ムーンシティの空は特殊なフォゾン硝子の境界で区別され、しかし宇宙空間が丸見えなのです。天蓋が破られれば外は宇宙空間……勿論、シティがどうなるのかはわかりません。

 月の防衛部隊、ムーンガードが出撃しているところを見ると月が何者かの襲撃を受けているのは明らかでした。それも複数のFAによる作戦行動を取っている所を見ると、相手もFAを運用しているはずです。


「アテナ! マキナ!!」


「ヴィレッタ先輩!」


 背後から皆が駆け寄ってくると、やはり同様に空を見上げました。全員表情は険しく、これが非常事態であるのは最早疑いようもありません。


「どうなっているんだ? 月面付近で戦闘なんて聞いたことも無いぞ」


「……。キリュウから通信ね」


 アテナさんが通信端末を取り出します。通信端末は皆に聞こえるモードと自分にしか聞こえないモードの二種類があり、アテナさんは皆に聞こえるモードに設定してから通信をONにします。すると、キリュウさんの声がノイズ混じりに聞こえてきました。


『聞こえるか? 月面に居ると聞いていたのでな、直接通信させて貰った』


「どうなってるの?」


『月政府より発表があった。月面に向かって謎のFA部隊が進攻中……。防衛ライン上で始末するはずが、今はかなり月面近くまで侵入されているらしい』


「肉眼で確認してるわよ。ムーンガードは何してるの?」


『ムーンガードの戦力では排除不能だそうだ。現在ムーンシティは防衛モードに移行中、完全避難まではまだ数十分かかる。訓練された月住民は兎も角、観光客の避難にはかなりの時間がかかるだろうな。月政府より正式に入電があり、現在フェイスに迎撃要請が出ている。一番近いカラーズはお前だ、アテナ』


 なんでも話によると、謎のFA部隊が出現したのは十数分前なんだとか。最初はムーンガードだけで対応できると月政府は高をくくっていたのですが、襲撃してきた戦力はムーンガードだけでは対処不能と判断。月面付近に進行が及び、同時にフェイスに迎撃依頼……それがこれまでの流れ。

 現場に一番近いカラーズはアテナさんで、ムーンガードは観光客の安全確保のために迅速かつ確実な対応を要請しているので、カラーズが出撃する予定なんだとか。そしてキリュウさんはアテナさんがここにいる事を知っていた、と。


『目的はわからんが、天蓋に攻撃を仕掛けていないところを見ると月の破壊というわけではなさそうだな。だが港にまで侵入されれば市街地にも踏み込まれる。そうなる前に宇宙空間でケリをつけたいそうだ』


「ここまでやられてから言われても困るわよねえ……。ま、いいわ。ブリュンヒルデの準備よろしく」


 通信を遮断するとアテナさんは瞬く空を見上げ、それから小さくため息を漏らしました。そうして何故かちらりとわたしの方に目を向けます。


「ちょっと、付き合って貰っていいかしら?」


「ほえ?」


 アテナさんが何故わたしにそんなことをいうのかわからず、わたしはただただ目を丸くするばかりです。しかしこの時わたしは、まさかあんなことをさせられるとは思いもよらなかったわけで……。ほいほい着いていってしまったのも、仕方がないわけで……。

 ムーンシティの旅行は思いがけない形でのトラブルに巻き込まれる事になってしまいました。そしてこれが、月に新しい状況を齎す切欠にもなってしまう事を、その時はわたしはまだ知らなかったのです。

 マキナ・レンブラント、月旅行二日目の日記より――――。




ルナティック・フロウ(1)




『アルティール軌道エレベータ稼動確認! ブリュンヒルデはS型装備に換装! フォゾンカタパルトに固定、射出まで残り四十秒!』


 声が響く中、コンテナの中に立っていたブリュンヒルデの両腕と背中の装備が換装される。ハンガーそのものが稼動し、宇宙戦闘用のフォゾンブースターを装着し、ブリュンヒルデに真紅の翼が装着される。

 同時に武装が小型のコンテナに格納され、ブリュンヒルデは膝を着いた状態で大型の突撃用ポッドに格納されていく。まるで銃弾のような形をしたポッドはコンベアで運ばれ、宇宙空間へと続くカタパルトに装填されるのである。


「アル、アテナの位置情報は記憶したか?」


「勿論ですよ。アテナさんの端末に合わせて0.2秒サイクルで軌道修正します。S型装備ブリュンヒルデ射出後、続けてフォゾンビームライフルを射出します」


「聞こえたなアテナ! ブリュンヒルデをそっちに送る! 到着予定エリアまで急いでくれ!!」


 通信機から聞こえてくるキリュウの声を聞きながらアテナは狭いコックピットの中に座っていた。その傍ら、服を脱いでいるマキナの姿があった。」

 二人が居るのは地下三階、展示されていたヘイムダルのコックピットの中である。既に避難により隔壁が封鎖され、港に行く事は出来なかった。結局アテナはマキナの手を引っ張り、ここまで連れてきたのである。

 近場で入手したライダースーツに着替えるマキナの傍ら、アテナは座標情報を登録する。それからムーンシティ内の地図を展開させ、出撃ルートを探っていた。


「そんなに大声出さなくても聞こえてるわよ。宇宙空間で直接受け取るから、指定した座標にちゃんとよろしくね」


『アテナさん、本当にそこでいいんですか? 戦場の真っ只中になりますけど……』


「ええ。問題ないわよね? お嬢さん」


 視線の先、マキナはなんともいえない表情をしていた。着替えを終了し、ERSに神経を接続する。ヘイムダルの瞳に灯が点り、銀色の巨人はゆっくりと動き出した。


「あのぅ、本当に行くんですか……?」


「本気よ。貴方なら行けるでしょう?」


「む、無茶ですよう……。初めて乗る機体で、武器も無いのに……」


「戦いは望まないわ。ただ送り届けてくれればいいの。コンテナのキャッチさえしてくれれば、ね。それとも月がやられるのを黙ってみてる方がいい?」


「そ、そういうわけじゃないですけどう」


「だったら黙って手伝って。指定したルートから出撃するわよ。アル! 作戦開始!」


『……はあ。どうなっても知りませんよ?』


 アルティールのカタパルトからブリュンヒルデが射出される。青白い稲妻とエーテルの竜巻を纏い、空を光のように駆け抜けていく。続けてカタパルトから武装が射出され、先行するブリュンヒルデを追いかけていった。


『ブリュンヒルデ射出完了! 到着予定ポイントまで残り百二十秒!』


「ひゃくにじゅう!? い、急がなきゃ通り過ぎちゃうようっ!!」


 ヘイムダルが腰を落とし、そしてバーニアをふかしながら跳躍する。硝子の天井を突き破り一気に吹き抜けから地上へでたヘイムダルは市街地の中心部に着地し、アテナの出したビーコンに従い向きを帰る。

 銀色の機体は大通りの中心でクラウチングスタートの姿勢をとり、マキナは歯を食いしばって一気に走り出した。路面がめくれ上がり、ビルの硝子が一瞬で全て砕けてく中、ヘイムダルは猛スピードでムーンシティを駆け抜けていく……。

 宇宙空間では戦闘が続いていた。ムーンガード部隊の量産機、ステイシスは小型のフォゾンビームガンを連射し、侵入者の迎撃に勤める。しかし接近する金と黒のカラーリングの謎のFAたちはそれをかわし、ビームガンで反撃する。最初は三十機以上が展開していたステイシスも、残すところは十機程度になっていた。

 謎の侵入者たちの機体は、開発犇くムーンシティで暮らす警備部隊も見たことがないタイプであった。細く、ふらふらと動く特殊な軌道制御はビーム攻撃を次々に回避してしまう。


「ダメだ、性能が違いすぎる!」


「このままだと防衛ラインが……! ムーンシティに進入されるぞ!?」


「隊長、左翼が落とされました!! 南の港から進入されます!!」


 黒い機体が二機、港へ移動して行く。停泊していた宇宙船をビームガンで破壊し、強引に開いたスペースから進入を試みる。レーザーブレードで隔壁を切り開き、扉の向こうに歩み寄ろうとしたその時であった。

 真正面から何かが猛進してくるのが見えたと思った刹那、先行していた黒い機体は宇宙に弾き飛ばされていた。突進してきたのは銀色の機体――。それは、隔壁の切断に使用したレーザーブレードを手に取り、ブースターを展開させて一気に後続部隊に近づいてくる。

 反応出来ないまま、黒い機体の胴体は両断されていた。キラキラとシルバーのボディが光を浴びて輝き、再びバーニアが瞬く。両断した機体の下半身を掴み、ムーンガードに迫っていた部隊へと思い切り投げつけ、再び高速移動。


「なんだ!? ヘイムダル!? 展覧用のか!? 誰が動かしてるっ!? 武装もないのに!!」


 飛来した下半身を撃ちぬき、爆発が起こる。その最中ヘイムダルはレーザーブレード一振りだけを片手に大部隊へと突っ込んでいく。謎の機体の数、六機。FA二個小隊に突撃していくマキナ。コックピットの中、少女は剣を握る手に意識を収束させていた。

 次々と飛来するビームガンの攻撃をバーニアをこまめに吹かして回避し、よけきれないものはブレードでなぎ払う。光と光が衝突し、暗闇の中で閃光していく。次の瞬間、六機の合間を縫ってヘイムダルは戦域を突破していた。


「し、心臓に悪すぎますよう!?」


「よく突破したわね。まさか無傷で行けるとは思わなかったわ。それと前、来るわよ」


 彼方、何かが太陽の光を弾いて瞬いた。次の瞬間眼前にはコンテナが迫っていた。それは指定の宙域に到達したことによりブレーキをかけ、マキナは剣を投げ捨てて両手でそれを受け止める。衝撃がコックピットに走り、アテナは勝手にヘイムダルのコックピットを空けてしまった。


「アテナさん、ここ宇宙ですよ!?」


「ヘルメットつけてるでしょ、お嬢さん……。空気抜けるからどこかに捕まってなさい」


 コックピットのエアが一気に吐き出され、その衝撃でアテナも外部へと放出された。外側からヘイムダルのコックピットを閉じ、アテナはコンテナの中に姿を消していく。マキナは再びエアが充満するまでの間、ひたすら呼吸を我慢していた。勿論その必要はなかったのだが。


「む、無茶すぎですようぅぅぅ! さ、さむいぃ……」


 と、ぼやきながら振り返って剣を振るう。飛来していたビームガンの閃光を切り払いながらマキナは目を細めた。ムーンガードよりも謎のヘイムダルを攻撃対象としたのか、謎の部隊は次々にこちらに迫ってくる。しかしマキナは慣れない宇宙戦闘で、しかもヘイムダルは宇宙用装備ではない。泣き出しそうな様子でおろおろとしていると、次の瞬間背後のコンテナが音を立てて爆ぜた。

 コンテナの装甲を払い、翼を広げたブリュンヒルデが姿を現す。真紅の機体はヘイムダルを押しのけながら拳銃を抜き、敵機を迎撃しながら空を翔る。


「下がってなさい、お嬢さん! ここから先はカラーズの仕事よ――ッ!!」


 バーニアから紅いエーテルの光を放ちながらブリュンヒルデは上昇する。遅れて飛来してきたコンテナが開き、フォゾンビームライフルが姿を現した。それを見事に受け取り、身体を反転させながら両手で構える。

 頭上から降り注ぐ紅い閃光の雨に一瞬で三機の機体が射抜かれ爆ぜた。あわてて方向を変換するのだが、既に遅い。ブリュンヒルデの放つ光の矢が胴体を射抜き、そして背後からマキナのヘイムダルがレーザーブレードで両断する。一気に全てを殲滅した二人は同時に反転し、月に向かって加速した。


「下がっていなさいと言ったでしょう?」


「黙ってみてるわけには行きませんから……」


「物好きね、貴方も」


 ブリュンヒルデは翼の出力を上げ、一気にヘイムダルを置き去りにして行く。高速移動中にビームライフルを連射し、次々にムーンガードを襲う部隊を駆逐していく。その勢いに乗り、ムーンガードも一斉に反撃に乗り出した。

 宇宙空間を無数の光が飛び交う中、マキナはひたすら歯を食いしばってヘイムダルの操縦に従事していた。宇宙空間故に上手く身動きが取れず、結局は泳ぎ舞うように戦うブリュンヒルデの活躍を眺めているだけだったが。

 閃光が最後の一機を貫き、爆発することで戦闘は終了した。真紅の翼を畳み、肩にライフルを載せて佇むブリュンヒルデ。マキナは横からその雄雄しい姿をじっと見つめていた。


「まずったわね……。一機くらい捕獲して目的を吐かせれば良かったかしら。まあ、依頼内容は駆逐なんだし……機体の残骸で判るでしょう」


「……アテナさんって、やっぱりカラーズなんですよね」


「何を今更……?」


「いや、なんか……うん、すごくかっこいいなあって……」


 マキナの間抜けな声にアテナは少しだけ照れくさそうに苦笑を浮かべた。そうして二人はムーンガードと共に港へと向かったのである……。




「結果的に丸く収まったんだから、別にそれでいいじゃない」


 というのは、戻ってきてアテナが旅団メンバーに言ったセリフである。当然、ニアをはじめとするメンバーはマキナを巻き込んだことを良く思ってはいなかった。しかしアテナはしれっとした様子でそんなことを言うのである。緊迫した空気の中、マキナは仲間たちをなだめた。


「ま、まあ無事だったからいいよもう……」


「……まあ、まきにゃがそう言うならいいけどさー」


「ところでへこたれ、お前なんでまだライダースーツのままなんだ?」


 港は既に非常用隔壁が封鎖され、エアが充満している。ライダースーツでいる必要性は全くないのだが、マキナは身体のラインがくっきりと出てしまうライダースーツのままである。道行く人々は時々ちらりとマキナの事を横目で眺めていた。

 事件は一応決着し、今は街にも静けさが戻っている。ヘイムダルが駆け抜けた周辺は立ち入り禁止になっているが、それ以外は平穏そのものである。マキナの背後、ヘイムダルが運び出されていくのを背景にマキナは恥ずかしそうに身をよじった。


「アテナさんが……。急にエアロック開放するから、下着も服も全部外に飛び出しちゃって、どっかに消えちゃったんだよう……」


「…………。ホテルに戻る?」


「うん……」


 照れながら頷くマキナ。一行がホテルへ戻ろうと歩き出した時、丁度港に入ってきた人影と目があった。港に入ってきたのはナナルゥと、例の少年ラグナであった。

 二人はヘイムダルを動かしたのがマキナであるという話を聞いて港に駆けつけたのである。マキナはナナルゥを見つけると手を振り、少女が駆け寄るのを待っていた。


「マキナ! また会ったな!」


「うんっ! あれ? でもどうしたの?」


「展示品のヘイムダルが持ち出されたって言うんで、ジェネシスは大騒ぎになってたよ」


 微笑ながらラグナはポケットに片手を突っ込んだままそう告げる。展示用を持ち出したという理由以外にも、そもそも天井を二枚ぶち抜き街中を走り抜けたのである。必要な事であったとは言え、被害も少なくはない。

 青ざめた表情で震えるマキナの肩を叩いたのはヴィレッタだった。作戦行動はアテナの意思によるものなので、勿論その任務遂行に関わる費用は担当ライダーの給与から差し引かれる事になる。この場合、アテナ・ニルギースの責任に成るのである。


「アテナはカラーズだから、町の一つや二つ直すのは苦じゃないさ。そうだろう?」


「全く問題なしよ。なんならあのヘイムダルも買い取ろうかしら」


「にゃんというセレブ発言……」


「でも、すごかったぞマキナ! マキナがライダーだとは知らなかったぞ!」


「わたしもナナルゥが歌手だとは知らなかったよ」


「う? 昨日言ったぞ? ミュージシャンだって」


 そう言われてみれば言われたような気もするが、まさかこんなに小さな少女なのだ。本気にはしないだろう。マキナは苦笑を浮かべながらとりあえず頷いておいた。


「皆さんにはお礼を言わないとね。彼らの狙いは、ムーンシティではなく僕らだったから」


「え?」


「ナナルゥは有名人だからね。色々と大変なんだ。兎に角マキナとアテナのおかげだよ。ありがとう」


「ありがとな、マキナ!」


 二人がぺこりと頭を下げる中、マキナは目をぱちくりさせていた。人にこうしてお礼を言われる経験があまりにも少ないマキナにとって、あのライダーとして戦う事で頭を下げられるというのは不思議な感覚であった。


「良ければお礼とお詫びを込めて夕食に招待したいんだけど、いいかな? 勿論、皆さん全員で」


「私は遠慮しておくわ」


 手を挙げ、アテナが言った。遠慮しておく、というよりは今回の作戦行動の報告で時間が取れないのである。それは皆わかっていたので、特に誰も異を唱える事はなかった。


「それじゃあエンビレオで待ってるぞ、マキナ!」


「うん、また後でね」


「うんっ!! それにしてもマキナ、そんな格好でうろうろしてたらみんなおっぱいみちゃうぞ。ちゃんと着替えてこるんだぞーう」


 最後に手を振りながらナナルゥが笑顔で告げた言葉にマキナは青ざめた表情でそそくさと胸を腕で覆った。周囲のメンバーたちは恥ずかしそうに視線を逸らし、マキナから少しだけ距離を置いていた……。

〜ねっけつ! アルティール劇場〜


*恐らく同一人物か生まれ変わり*


ニア「というわけで、マキナ! この聖剣をキミにあげよう!」


マキナ「唐突だね……。なに、これ?」


ニア「勇者の家に代々伝わる伝説の剣だよ。ちなみに中身は神剣」


マキナ「……聖剣の中に神剣入ってるんだ」


〜小休止〜


マキナ「装備してみたけど……」


ニア「リインフォースって! リインフォースって叫ぶの!」


マキナ「こう……?」


ニア「違う、こう! こうっ!!」


マキナ「リインフォース!!」


ニア「せっかくだからアーマークロークも用意してみました」


マキナ「着るの……?」


〜小休止〜


マキナ「なんかこの服、動きづらい……」


ニア「……うん。似ている……」


マキナ「ただのコスプレなんじゃ……」


ニア「声も同じような気がしてきた……」


マキナ「それは中の人が同じだとかそういう事なんじゃ……」


ニア「よし、その格好のままちょっと出歩こうか!」


マキナ「な、なんで――?」


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