ファニー・ミュージック(3)
「うひゃ〜っ! 疲れたにゃー!」
ふっかふかのベッドにダイブしてニアはそう叫びました。エンビレオのホテルにわたしたちが予約したのは二部屋。女性四人で寝泊りしてもまったく狭さを感じない開放感あふれるスイートルームと、男子二名が宿泊している部屋です。
アテナさんはなんでも自分で部屋を予約してあるから一緒の部屋には泊まらないらしく、一人別の部屋に行ってしまいました。わたしたちの宿泊する部屋はエンビレオの中でも高級な一室で、一つの開けた部屋にドーンとあらゆるものが偏在し、なんかもう広すぎて眠れるのかどうか怪しいです。窓の向こうには広いコテージ、部屋の中にはガラスで仕切られた大きなお風呂が見えます。
ベッドの上でごろごろしているニアの気持ちはわからないでも在りません。ヴィレッタ先輩はソファの上で本を読みリンレイは荷物を整理していました。ニアは遊び疲れてクタクタらしく、眠たげな様子で大きな欠伸を浮かべています。
今日一日、色々なことがありました。アルティールを出て、ムーンシティまでの旅路。到着して直ぐにビーチで遊んで、夜はエンビレオ内のレストランで夕食……。結局今日は殆ど町を見て周る余裕もありませんでした。むしろエンビレオの中の物も殆ど見ていない状態です。
とはいえ、この旅行は五泊六日の旅……。まだまだ遊ぶ時間はたっぷりあるのです。明日から何をしようかなとか考えていると、わくわくして疲れもふっとんでしまいそうでした。
でもやっぱり疲れているのは事実なので、眠くて仕方がありません。時刻は既に午後十時を回っており、疲れもあってみんな眠そうです。ヴィレッタ先輩はいつも夜更かししているのか、それとも旅行に慣れているのか特に疲れた様子もなくパンフレットやら何やらを眺めています。リンレイは……眠いのか部屋の隅で欠伸をしていました。
既によだれをたらしながら寝ているニアの傍ら、わたしは窓の向こうに広がる摩天楼を見下ろします。この町に限っては多分、夜とかそういう概念はないのでしょう。ヴィレッタ先輩の居るソファまで向かい、その隣に腰掛けます。先輩はパンフレットを片手に優しく微笑みました。
「寝ないのか?」
「疲れたけど、なんだか寝たらもったいない気がして……。こんなに楽しかった日ってたぶん生まれて初めてです」
「はは、そんなにか? そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。マキナには、返しきれないくらい借りがあるからね」
「そんな……。先輩、ありがとうございます。明日からもよろしくお願いしますね」
先輩は頷き、それからわたしの頭をなでなでしてくれました。先輩も落ち着いていればかなり男前な人なのですが、時々おろおろしてしまうのがちょっとアレです。
「それにしても明日はどこに行こうか迷っていて……マキナは希望とかあるかい?」
「海以外ならどこでも」
「…………。ああ、海はもういいな、海は……」
何故かお互いに遠いところを眺めていました。なんだか、海にはいい思い出がない……そんな空気です。
「明日行く場所が決まっていないなら、地下施設でも見てみますか?」
リンレイが歩いてきて隣に座ります。テーブルの上に広げられていたパンフレットの一つを手に取り、ぺらぺらとめくり始めました。先輩が冷蔵庫からドリンクを取って来て、三人分グラスに注いでくれます。わたしたちはお礼を言ってそれを口にしました。
「少々、社会化見学寄りになってしまう気もしますが……。ムーンシティは、無数のFA企業の犇く土地でもあるんです。地下にはFAの装備やパーツのマーケット、大手開発会社の工場なんかもあるんですよ」
「ああ……。“ジェネシス”や“如月重工”もある。カナードを作っている“エンゼルクラフト”の本社も月にあるな」
「え、そうなんですか?」
「世界中のFAの八割は月にて製造されている……と、パンフレットには書いてありますね。我々も本分は学生、そして傭兵ですから。二日目は工場見学など如何でしょうか?」
「ああ、いいと思う。君たちはまだ関係ないかもしれないが、自分のFAを持つようになるとムーンシティに買い付けに来る事になるからな。下見するには丁度いいだろう」
なんでもヴィレッタ先輩がいうには、FAは基本的に自分で購入し、自分でハンガーをレンタルし、自分で部品や武装を取り寄せてカスタマイズするんだそうです。勿論そのお値段はとんでもないレベルなのだそうですが、最初はフェイス側が機体と設備を支給してくれるんだとか。
支給される機体は選択制で、様々な機体の中から選らぶ事が出来るんだそうです。一人前のフェイスのライダーは自分たちで機体を購入し、メカニックも自分でなんとかするので、この町に来るのはそう珍しくないんだとか。ヴィレッタ先輩がどこか旅慣れた様子なのもその所為なのでしょうか。
「まあ、今じゃわざわざ買いに来なくても取り寄せも可能だがな。やはり実物を見なければ判らない事も多いんだ」
「FA工場か〜……」
なんか、女の子の旅行にしては物騒な気がしますが、興味がないわけではありません。いやむしろかなり興味あるっていうか……。まあそもそも男の子も居るんですけどね。
「でも、リンレイはそれでいいの?」
「ええ、大丈夫ですよ?」
「オルド君とデートとかしなくていいの?」
わたしはごく普通にそんな質問をしたのですが、何故かその場が静まり返ります。初日は皆で行動したけど、二日目からはそういう周り方もあるんだろうなあと考えていただけに、二人の反応は意外でした。
「あれ……? ニアが、二人は恐らく付き合ってるって言ってたんですけどぅ」
「ち、違います! 何故そうなっているのか判りませんが……。私とオルドはそういう関係ではありませんよ。ただの幼馴染です」
リンレイとオルド君は、何でも昔からの知り合いなんだとか。オルド君は昔から喧嘩早い性格の不良さんで、なんだかそういう流れでフェイスに入ってしまったんだそうです。実際、彼は才能のあるライダーで、全体的な成績はわたしよりもずっと上なのですが、そんなオルド君がリンレイは心配だったんだとか。
「それで一緒にフェイスに?」
「はい。だって不安じゃないですか。オルドが何か悪さするんじゃないかって……。オルドはちょっとした事で直ぐ暴力に訴えますし、誰かが手綱を握っていなければ」
一人で頷くリンレイはなんというか……うん、お母さんみたいな感じでした。オルド君のお母さんという感じです。そういわれてみると、リンレイがいないとオルド君はかなりおっかなくて近寄るのも嫌かもしれません。目つき怖いし……直ぐへこたれそうになります。なるほど、リンレイはオルド君の面倒を見ていたのですね。
「…………。まあ、とりあえず個別行動は三日目からにしようか。明日は町を周って、迷子にならない程度に基礎知識をつけないとな」
そう言ってヴィレッタ先輩は優しく微笑みました。びみょ〜に気まずい空気になってしまったような気がしないでもありませんが、恐らく気のせいでしょう。何はともあれ明日からは旅行二日目……。今日よりも楽しい日になる事を祈りながら、皆で眠りに着くのでした。
マキナ・レンブラント、旅行初日の日記より――――。
ファニー・ミュージック(3)
FA生産工場の八割はムーンシティの地下工業エリアに存在する――。それは決して誇大広告でもなんでもなく、ただの事実に過ぎない。
マキナたち一行は地下の企業区域を流れるエスカレータに乗り、地下を移動していた。身を乗り出したマキナをニアが引っ張り戻し、冷や汗を流す。地下ホール内には新品のFAモデルがところどころに並んでおり、実物の迫力と美しさを見るものに誇示している。
地球の全てがエーテルの光に呑まれてから五十年以上が過ぎた今、かつての世界の名残を残しているのはこのムーンシティを置いて他にないだろう。五十年前、既にテラフォーミング計画進められており、人々は地下深くにではあったがそこで生きる事に成功していた。やがて時を重ね、地上に向けてゆっくりと活動可能範囲を広め、今や表層は観光地にもなっている。
だが、このムーンシティの本質は最初に作られた最下層の工業エリアであり、元々人々はその為にこの場所にテラフォーミングを行ったのである。地上では出来ない実験、ここでならば作れる兵器……環境の違いが人類に与える恩恵の為。そう、この最下層こそがムーンシティの中枢なのである。
初めてFAが生み出されたのがこの場所であり、紆余曲折があった今でも人々はここで兵器を作り続けている。歴史ある地下は地表に比べても見劣りしない清潔感に包まれ、ショッピングモールさながらに並ぶFAたちはマキナたちの目を奪って離さなかった。
「普通に地下に飾られているんですね、FAが」
「ああ。特に新型はまずここに飾り付けられるからな」
リンレイとヴィレッタは肩を並べてFAを眺めていた。銀色のカラーリングの機体はジェネシスの新型、“ヘイムダル”である。FA開発企業最大手であるジェネシスはフェイスと提携を結んでいる企業の一つであり、カナードやヴォータン、ブリュンヒルデまで作っているのは全てジェネシスなのである。
新型の前にかじりつくようにしてそれを見上げるマキナたちの中にはアテナの姿もあった。なんだかんだでFAに関しては興味があるのか、マキナたち同様じっくりとヘイムダルを見上げていた。
「ふおぉぉ……!? この新型、一機でいくらするんだろにゃー」
「ニア、そこに書いてあるよ……。多分、一生遊んで暮らせるよね……」
「やっぱり新型はいいな……。俺たちも早く、カナードなんか卒業したいぜ」
「あれ? オルドもやっぱこういうの興味あるタイプ? つか、興味ねーやつはいないか」
「そりゃそうだろ。フェイスだぞ、俺たちは」
四人が各々会話を交わす中、アテナだけは隣の機体へと視線を向けていた。そこに腰を下ろしていたのは、ブリュンヒルデに良く似たシルエットの機体である。
その機体の名前は“ケルベロス”――。ブリュンヒルデの機体運用データから開発された量産機であり、そのテストパイロットの話もアテナには飛び込んできていた。引き受けたはいいが、自分の愛機の量産型がこうして普通に開発されているのは少々複雑な気分であった。
ブリュンヒルデの現状には満足しているが、欲を出せばもっとチューンしたい部分は残っているし、新型の武装だって使ってみたい。ケルベロスに投入された新型のERSの内容も気になる……。アテナは一人、冷静な顔のままうずうずしていた。
「そういえば、サイ君ってどんな機体が好きなのかな?」
「ん? 俺〜?」
「うん。わたしとニアは、ツインスタンド……。オルド君はホバリングだよね?」
「ああ。そういや、サイのFAの好みって聞いたことも見たことも無かったな……。お前、そういう話も一切しないが」
注目が集まる中、サイは頭の後ろで両手を組んでヘイムダルを見上げていた。それから暫く思案し、首を横に振る。
「特に好みってのはねぇなぁ〜。正直、ライダーになるかどうかも微妙なんだよねぇ、俺ちゃん」
「は? ライダーにならないのか? フェイスなのに?」
「別にフェイスだからってライダーになんなきゃいけないわけじゃないだろー? 俺は俺で我が道を行くわけよ。あんま、戦争屋ってのはシックリこねーし」
確かにサイの言うとおり、自分たちが戦争屋――つまり傭兵になるというイメージをするのは難しいだろう。今は何とかフェイスの一人としてやっているものの、実際の戦場に立ってまでFAライダーで居られるのかどうかはまだわからない。
だが、いつかはライダーとして戦場に立たねばならないのだ。学生気分でこうして旅行なんてしていられるのも今のうちかもしれない……。誰もが何となくしんみりした気持ちで機体を見上げていると、アテナがこれ見よがしにため息を漏らした。
「ずいぶんくだらない事で悩むのね、貴方たちって」
「保守的かつ保身的な行動原理を持つもんさぁ、人間ってのはな」
「……。まあ、判らないでもないけど」
「じゃあ、サイは何でフェイスに入ったの? オルドとリンレイみたいなわけでもないし、マキナみたいに家無き子でもないんでしょ?」
「いえなき……!? へぅぅ、に、にあさん……!?」
涙目になるマキナの肩をオルドが叩く。マキナが横槍を入れられるような状態ではないのは明らかだった。ニアの問いかけにサイは少しの間また考え込み、それから苦笑した。
「さぁ〜、なんでだろなぁ〜! それがわかりゃ、俺も苦労しないんだよねぇ〜」
「はぁ〜? 何それ? どゆこと?」
「他人の事情を詮索するのは良くないぜ〜、ニア?」
「旅団の一員なんだから理由くらい知ってたっていいでしょ? マキナは友達も帰る家もないのに頑張ってるんだよ!」
「はぅぅ!? ニア、だからそれは……っ」
最早マキナの存在は眼中にないのか、ニアは片目を瞑ったままサイに話しかけている。二人のじゃれあいにも似た言い争いに参加する事が出来ず、膝を抱えるマキナの肩を再びオルドが叩いた。
二人はそのまま何かを話しながら歩いていく。その内容は一方的にニアが話しかけ、サイがそれを適当にスルーするというものだった。二人が次の機体の足元に移動するのを見送り、マキナは小首をかしげる。
「なんかあの二人って仲いいのかわるいのか、よくわかんないよね? オルド君?」
「俺に振るなよ……。ま、俺が入る前の旅団の事はよくわかんねえし、あの二人のことについちゃノーコメントだ。てめえのほうが事情に明るいんじゃねえのか?」
「そうだけど……むむ? なんか、あれ? ねえねえ、わたし取り残されてないよね? 仲間はずれになってないよね?」
「…………」
「な、なんで黙り込むのかな!? オルド君!?」
オルドの襟首を掴んで振り回しながら涙を流すマキナの傍ら、アテナは一人でまたため息を漏らしていた。
そうして旅団のショッピングモール見学は続く。地下マーケットには機体だけではなく装備やパーツなど、細かなショップも展開している。ジェネシスや如月重工のような大手の開発会社以外にも、いくつもの下請け会社や技術者たちがそこには暮らしているのだ。
あちこちを周りながら新型の機体を眺めたり、ヴィレッタやアテナがパーツを購入するのを後ろから眺めて勉強したり、FAの模型を購入してはしゃいで見たり……見学というよりはしっかりと遊びに遊び、彼らの休日は過ぎていく……。
その間、ニアは主にサイと行動を共にしていた。例の会話が引っかかっているのか、ニアはやけにサイに突っかかっているように見えた。考えてみれば、元々ニアはサイによく突っかかっていたような気もするのだが、マキナがそれを冷静に思い出す事はない。
背の高いオルドの影に隠れ、マキナはずっとアポロの耳を齧っていた。何となくニアを取られたような気になり、気が気ではなかった。その様子にオルドは諦めて壁の役に徹し、ヴィレッタたちはそんな様子を笑って眺めていた。
やがて昼時を過ぎ、マキナたちは地上に出て昼食を取る事になった。向かったのはホテルが密集した区域からは離れた場所にある緑溢れるガーデンスペースで、彼らはアルティールで過ごす昼時と同じように、公園の中でテーブルを囲みホットドックなどを口にしていた。
「はむはむ……っ。はむはむ……っ」
「おい……。へこたれ、それソーセージじゃなくてテメエの飼ってるウサギの耳だぞ……」
「はむはむはむ……っ。はむはむ……っ」
「むっきゅう……」
マキナは全く聞いていなかった。人数が多かったのでテーブルが二つに分かれてしまい、マキナとニアの距離は若干開いてしまっていた。ホットドックを食べ終えたマキナはアポロの耳をひたすらはむはむし続け、アポロは耳を甘噛みされる感触とマキナの口に付着したケチャップで耳が汚れる感触にただ静かに青ざめていた。
「しょうがないですね、マキナは……。まあ、ニアは大親友のようですから、ようやくやきもちという気持ちが芽生えたという事でしょうか?」
「飼育動物みてえにいうなよ、リンレイ……。まあ、そんなようなもんか……」
「ちょっと、うさぎさんがかわいそうでしょ……! せめて口を拭きなさい! 唾液とケチャップでベッタベタなのよ!!」
「むにゃ!? あ、あてなさん!?」
「いいからじっとしてて!! もう、貴方のそういうだらしがないところ見てて本当にイライラするわ!!」
アテナがナプキンを片手にマキナの頭を掴んで口元をごしごしふき取るのを見てオルドとリンレイは冷や汗を流していた。何となく、こっちもこっちで妙な組み合わせである。
「むむー……。ニアが取られた……っ」
「…………そういう問題なのか?」
「オルド君だって、リンレイが他の男の子といちゃいちゃしてたらいい気はしないでしょーっ!!」
「いや、別に……」
即答するオルドにリンレイが立ち上がる。何故か満面の笑みなのだが、両手の拳をゴキゴキと鳴らしていた。それを見てオルドはさわやかな笑顔を浮かべ、機械的にマキナに返答した。
「……とても寂しいなー」
「でしょーっ!?」
「もう少し、心を込めてしゃべれないんですか……? オルド……」
「とても、寂しいなあー!」
「だよね、だよねっ!?」
黒いオーラを発しながらオルドの背後に立ち、両肩に手を乗せるリンレイ。その手を強く握り締めると、オルドの肩はみしりと音を立て悲鳴を上げた。おしとやかな外見からは想像も出来ない握力が今、オルドの身に危険を齎していた。勿論マキナはそれに気づいていない。アテナとヴィレッタは気づいていたが……視線を逸らしていた。
「……えーと、マキナ? 別にニアの友達はマキナだけじゃないし、マキナだってそうだろう? 別に心配するような事じゃあないんだ」
「でも、ヴィレッタ先輩だってアテナさんに見捨てられて凄く寂しかったんですよね!?」
「…………それは、そうだけど……今それを言わないで欲しかった……っ」
その場に膝を着き、うな垂れるヴィレッタ。落ち込んだ様子で一人ぶつぶつと何かを呟いているが、マキナはそれにも気づいていなかった。これ以上マキナを放置すると状況が悪い方向へと転がり続けるだけだと判断したのか、アテナがマキナの頭を小突く。
「貴方の友達が誰と付き合おうと勝手でしょ? 我侭言ってんじゃないわよ、馬鹿」
「はうぅぅぅ……。でも、ニアが〜……ニアがぁぁぁああ〜……」
「お嬢さんがニアの事が好きなのはわかったけど、ニアにだって幸せを選ぶ権利はあるのよ」
「わたしと居ると幸せじゃないってことですか!?」
「…………」
「何で黙るんですかあああああっ!? わぁああああああんっ!!!! にぃいいいいあぁぁぁああああっ!!」
マキナが泣き出し、リンレイが黒いオーラを発し、オルドがさわやかな笑顔を浮かべ、ヴィレッタが大地に膝を着く混沌とした状況の中、ニアとサイは普通に話し続けていた。アテナは紅茶を口にしながら何度目かわからないため息を漏らす。そんな時だった。
どこからか、歌が聞こえてきたのである。それに呼応するように大勢の観客の声があがる。ガーデンエリアの奥、ライブステージから聞こえてくる声にマキナたちは正気を取り戻す。
「騒がしいわね……」
「あれ? なんかこの歌、どっかで聞いた事があるような」
目をぱちくりさせるマキナ。そんなマキナの傍ら、リンレイが正気に戻って席に着く。
「マキナが知っているのも、別におかしな事じゃないですよ? この曲、確か有名なヒットソングですよ。少し古いですが……物凄く流行った歌ですね」
「え、そうなの?」
「知らないんですか? 街頭とかでも結構流れてましたけど……って、マキナはアルティール出身じゃなかったんですよね、ごめんなさい」
「うん。わたし、全然出歩かなかったしテレビも見てなかったからね。なんかそうじゃなくて、ごく最近この歌を聞いたような気が……あっ!?」
突然マキナが立ち上がった勢いで膝の上に乗っていたアポロが吹っ飛ばされて宙を舞う。その耳へ素早く手を伸ばし、アテナが回収した。マキナはうさぎを吹っ飛ばした事にも気づかないまま、振り返った。
「ナナルゥ! ナナルゥだよ!」
「ああ、そうですね。歌手のナナルゥ……あれ? 知ってるんですか?」
「うん、ちょっと……。ねえ、見てきてもいいかな? ちょっと気になってる事があって」
返事も聞かないまま、マキナは走り出してしまった。マキナが遠ざかっていくのを見送り、ヴィレッタたちも仕方なく立ち上がった。
「しょうがないな……。まあ、せっかくだから行って見るか」
「待ちなさいお嬢さん!! うさぎさんを吹っ飛ばすなんて赦せないわ!! 貴方のそういうところ、凄くイライラするのよーッ!!」
「……おい、なんか一人別の理由で追いかけてったぞ」
こうして一向はライブステージに向かって行くのである。先頭を行くマキナは木々の合間を抜け、ステージに辿り着いていた。そこではギターを手にして壇上で歌い踊るナナルゥの姿があった――。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*追加キャラたちの紹介*
マキナ「そういえばやってなかったので、ついでに」
ニア「うん」
マキナ・レンブラント(二部)
年齢:15 性別:女 身長:155 ランク:C 所属:アルティール(旅団)
本編主人公、二部仕様。
一部と比べると友達も増え、戦いをや訓練を経て外部に対する恐怖も少しずつ薄れてきている。
大親友になったニアをはじめに旅団メンバー全員に対して心を開いており、エキシビジョンマッチ以後腕を磨き、FA操縦能力も向上している。
ザ・スラッシュエッジの再来と呼ばれるその能力は刀剣を所持する事により発揮される。ツインスタンド以外はうまく操縦出来ず、射撃武器も絶望的に苦手だが刀剣の扱いになると人が変わる。
一部では明らかになっていなかった無駄な手先の器用さは親に封印されていたほど。体力も向上し、生身でも刀剣を装備すればかなりの戦闘能力を発揮する。
普段はおっちょこちょいのへこたれ娘だが、刃物を手にしている間は冷静さを得ることで本来持っている抜群の反応速度と判断能力を発揮する、二重人格のような少女。
ランクCでのシミュレーションバトル無敗を誇る無双だが、本人はその事実に気づいていない。現在のCランク傭兵の中では最強――だが本人はそんなつもりはない。
二部に入り明るさが増し、しかし相変わらずへこたれている。更に周囲に迷惑を拡散させつつ、彼女の物語は続く。
オルド・ストラス
年齢:16 性別:男 身長:180 ランク:C 所属:アルティール(旅団)
旅団に所属する数少ない男性メンバーの一人。
現在のCランク傭兵ではマキナに続き序列二位。重火器を扱った戦闘を得意とし、パワーで圧倒するのを好む。
元々はプレートシティ出身の少年で、手っ取り早く儲かるためにフェイスに入隊した。それ以上も以下もなく、特にライダーという役職に悩みは持っていない。
ひねくれた性格をしており、クールな一面もある。しかし周囲がマキナを中心にへこたれメンバーで構成されているため、主に彼は面倒を見たりツッコんだりする役回りになる。しかし周囲からは不良というレッテルを張られており、実際見た目が怖い。
リンレイとはプレートシティの時からの幼馴染であり、彼が唯一頭の上がらない人物でもある。その理由はあまり彼も語りたがらない。
サイとは二人しか居ない男性メンバーのためか、意外と仲がいい。よく一緒にゲームをしたりしている。が、基本的にゲームではサイには勝てないらしく、サイに勝つためにやっている。
元々はちょい役のつもりで出したのに気づけばレギュラーになっていた人。元々しゃべんない上に無個性なので、扱いに困る。でも周囲が皆個性的なのでいいか。
リンレイ・F・アルカル
年齢:16 性別:女 身長:165 ランク:C 所属:アルティール(旅団)
旅団に所属する女性メンバー。黒髪長髪やまとなでしこ。
オルドのパートナーであり、サブパイロットを担当する。特に得意なことはないが何でもそつなくこなす優秀なサブパイロットで、不良+優等生という組み合わせのために考えられた。
オルドの幼馴染であり、フェイスに入学すると勉強を始めたオルドに付き合ってそのまま入学してしまった。その後もオルドは彼女の尻に敷かれている。
真面目な性格の優等生だが、融通は利くタイプ。自分をしっかり持っている、礼儀正しい少女。メンバーの中ではもしかしたら一番のしっかりものなのかもしれない。
オルド同様ちょい役のはずだったが、旅団が存続するためにレギュラーになってもらわねばならなかった。個性といえるほど個性はないが、敬語でなんとか判断してほしいところ。
ちなみにオルドもそうだが、彼女はあからさまなアジア系。二人の私服はチャイナっぽいのを想像してください。
よく淹れているお茶は紅茶とかコーヒーではなく、烏龍茶である。烏龍茶おいしいです。
ナナルゥ
年齢:14 性別:女 身長:135 ランク:なし 所属:不明
マキナが出会った謎の少女。その正体は宇宙規模の歌手である。
ピンクのツインテールに謎のうさみみを持つアナザーで、非常にアニメっぽい外見。ピンクの髪とか普通ありえないけど、アナザー設定で突貫。
憎たらしいしゃべり方と奇行が特徴的なちびっこで、楽器は一通り演奏出来るというくらい演奏出来る。聞くのが好きなのはシンフォニックメタル。それっぽい格好もしている。
この作品で重要なはずのアナザーだが、ニアに続き二人目である。マキナとはうさぎさんごっこでシンクロした仲で、友達認定されている。
世界的に活躍している歌手だが、ムーンシティにやってきた理由は……。
ラグナ・レクイエム
年齢:15 性別:男 身長:170 ランク:なし 所属:不明
マキナの病室に登場した謎の美少年。基本的に言動はどこかズレている。
常に笑顔を絶やさず、それが逆に胡散臭いイケメン。ナナルゥとは関係があるらしいが、何故マキナの病室に現れたのかは謎。
本当はもう少し早く出てくるはずだったメインキャラクターの一人。ナナルゥと共にムーンシティにやってきた理由は……。
マキナ「しかし、三話使ってほのぼのしちゃったね」
ニア「次からは展開が変わってく予定だけど、この三話は書くの疲れたね……」
マキナ「ずっとボケてて欝にならないからね」
ニア「……その発言もどうなのかな」