君、死に給う事なかれ(2)
「――それ、本気で言っているの?」
アテナさんの第一声はそれでした。生徒会室、集まったわたしたちを前にアテナさんは腕を組んだまま眉をひそめます。
キリュウさんからの説明があり、そして部屋の中に緊迫した空気が流れます。彼女はまっすぐにわたしを見つめ、それから呆れたように片目を瞑ります。
「どういうこと、キリュウ……? 貴方、まさかその子のくだらない話に本気で付き合うつもりなんじゃないでしょうね……?」
「ああ、本気だ」
アテナさんの鋭い眼差しが会長を射抜きます。わたしだったら即死しそうだったので、こっそりニアの背後に隠れました。しかし会長さんのすごいところは、それで全く怯まない所です。扇子を広げ、顔色一つ変えない冷静さで切り替えします。
「アテナ・ニルギース――つまりカラーオブレッドと一般生徒とのエキシビジョンマッチ。嫌だと言っても無駄だぞ。話は既に通してある」
「関係無いわ。私は自分の行動はすべて自分の意思で決める。上がどうとか、貴方たちの都合とかそんなのは知ったこっちゃないの。判ってるでしょう、キリュウ」
「ああ。だがこれだけは付き合ってもらうぞ。今回のエキシビジョンマッチは新入生に対する歓迎の意味も持ち合わせている。新入生の実機演習に合わせ、その口火を切る形での試合になる。学園のスケジュールには、もともと組み込まれていたことだ」
新入生の実機演習が始まる前には必ず毎年エキシビジョンマッチを催してきました。その場合、参戦するのは新入生側から優秀な生徒一名と、生徒会側から一名という構成だそうです。それはアテナさんも知っているし、体験したこともあるそうです。生徒会側としてではなく――優秀な新入生として。
「彼女、マキナ君は先日の模擬戦闘演習で君と同じく80点超え、ぶっちぎりの一位だ。“蒼の後継者”とも言われている程の実力者だよ」
「……マキナが?」
アテナの視線がわたしに向けられます。本気で怖い……。それに会長、後継者じゃなくて後継者候補、ですよう。そういう言い方したら、まるでわたしがものすごくすごい人みたいじゃないですか……。
うう、でもそうじゃないと試合にならないし、エキシビジョンの定義に収まらないからしょうがないと言えばしょうがないんですが、でも怖いぃぃぃ……。アテナさんの目は猛禽類みたいですう……。
「――――。そう。なら確かに彼女はエキシビジョンに参加する権利を持っているわね。でもだからって私がその相手をする道理も無いわ。例年通り、生徒会長の貴方がやればいいでしょう? キリュウ・オウセン」
「ああ、勿論そうするつもりだ。俺もエキシビジョンに参加する。俺“も”、な」
「……どういう事?」
「今回のエキシビジョンマッチは“2on2”――つまり、タッグ戦を行う。俺とお前の生徒会チームと……そしてマキナともう一人のチームとでな」
エキシビジョンマッチで2on2など、まさに史上初。勿論アテナさんはそれを引き受けるつもりはないでしょう。ブリュンヒルデと紅の存在はそうそう人々の見世物にするつもりはないし、勝利が確定している戦いになど興味も無い……それがキリュウさんから聞いた彼女の性格。馬鹿馬鹿しくてやっていられない――そう答えるのが当然でしょう。そう、その名前を聞くことがなければ。
「マキナと組むのは新入生ではなく――元カラーオブレッド、ヴィレッタ・ヘンドリクスだ」
その名前を聞いた途端、アテナさんの目の色が変わりました。ばかげている話であることはもはや疑いようも無いのです。新入生VS在校生という形がエキシビジョンで当然の構図――。その新入生側に在校生――しかも元カラーオブレッドが参戦するなんて、それはおかしいとしかいいようがないでしょう。
「理由は簡単だ。君はカラーオブレッド、紅き猟犬とも呼ばれるカラーズだ。実力は言うまでも無い。俺も君に匹敵するとまでは言わないが、フェイスのトップライダーの一人であると自負している。それを相手に新入生二人では瞬殺だろう? それではアリーナの観客に申し訳がないというものだ」
確かに、毎年ルールは会長の手によって巧妙に変えられてきました。特にキリュウさんが生徒会長に就任した四年前から、ルールは毎年変わって当然という勢いだとか。エキシビジョンマッチはフェイスの実力を証明する場でもあり、多くのマスコミと観客がアリーナに雪崩れ込みます。勿論入場料は取っているし、決められたスケジュールとして行われる以上、それなりに大規模なイベントであると言えるのです。
毎年なんらか在校生側にハンディキャップを課す事で試合のバランスを調整してきたキリュウさん。そのキリュウさんがうま〜くそういうルールに設定してくれたのです。勿論わたしたちの目的は、エキシビジョンマッチというカラーズが参戦してもおかしくない状況の調整と、そしてヴィレッタ先輩とアテナさんとの再戦……。流石生徒会長、頭がいいです。
「つまり、ヴィレッタが新入生側に入る事がハンディキャップだと言うのね」
「そうだ。が、それでも差がありすぎる。よって今回は模擬戦闘試験一位、二位の新入生――つまり二人と、それからヴィレッタを参戦させる。つまり2on2のルールではあるが、新入生二人で一人分という扱いだ」
「それでも話にならないわよ、きっと」
「まあエキシビジョンマッチだからそういうもんだろう。兎に角、受けてもらうぞアテナ。エキシビジョンマッチ開催は一ヵ月後……。勿論、俺とお前なら訓練を改めてする必要も無い。報酬もきちんと用意する」
アテナさんはしばらくの間考え込み、それからちらりとわたしへと目を向けました。思わず怖くて縮こまってしまいます。彼女は一瞬、わたしをなにやら鋭い目で見つめ、それから視線をはずしました。
「――――それが、そこのお嬢さんの策略ってわけね。いいわよ、乗るわ。乗ってあげる。それで満足なんでしょう?」
「アテナさん……っ! ありがとうございますっ!!」
「はあ……。お礼を言うなんて、貴方何も判ってないみたいね」
アテナさんはまっすぐにわたしへと歩み寄り、そしてニアを押しのけてわたしの頬に手を触れました。燃え滾る炎のようなきれいな髪とは対照的に、彼女の掌はとても冷たくて、ぞっとするくらい鋭い視線が目の前にあります。
「カラーズに挑むなんて百年早いわ。フェイス最強を争う私たちを、ただの人間と同列に考えない事ね。勿論殺しはしないわ。エキシビジョンマッチだもの。でもね、覚えておきなさい。貴方の身体の隅々……。肉に、血に、骨に……。カラーズという存在の重さを刻み付けてあげる。一生忘れられないように――焦がしてあげるわ」
そうしてアテナさんは身を離し、そのまま生徒会室から去っていきました。扉が閉まる音でようやくわたしは停止していた呼吸に気づき、深く息を吸い込みます。あの人の目……仕草……。何もかもがわたしの身体にずぶずぶと染み込んでまるで痛みのように感じるのです。これが怖いっていうことなんでしょうか。あの人から感じる物――それは……殺意……?
「マキナ、大丈夫?」
「あ……。うん、平気……」
「――気をしっかりな、マキナ君。アテナは“殺しの天才”でもある……。彼女がその気になれば、事故を装ってエキシビジョンの場で君を殺すことも容易いだろう。あらかじめ説明したが、これはとても危険な賭けだ。アテナは一見すると冷静だが、その実本質は燃え盛る炎のような女だよ。君も触れれば只では済まない」
「……判ってます。勿論、カラーズに勝てるとも思ってません。でも……それで誰かが救えるなら。もう一度、チャンスを作ってあげられるなら……」
「約束は覚えているね? このエキシビジョンマッチに勝利した時、旅団の復活を約束しよう。ただし勝利できなかったその時は……」
「そ、その時は……?」
「その時はメイド服、黒ニーソ、眼鏡を装着し、ドジっ子萌え萌えメイドさん永遠の十五歳、親は実は女王で、実は魔王でもある勇者で妹で実はクローンで、昔結晶機に乗っていてミスリル化しちゃったりしたお姉ちゃんがロリ化した、異世界からやってきたライダーという設定で俺に半年ご奉仕ポロリもあるよ♪ という事にしてもらおう」
いったい、わたしはどうなってしまうんでしょうか――。そんな罰があるなら、死んだほうがマシなのでは……というかどういう設定――。
「気に病むことは無い、マキナ君。勝てばいいのだよ、勝てば」
「…………手加減してくれたり……?」
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハ! すると思うかねーっ!?」
絶対手加減してくれないでしょう、この人は。既に泣きそうです。へんたいさんです……。
「それでは早速校内にエキシビジョンマッチの内容が決定した事を公開するぞ。君たちと組む事になる序列二位のチームとは後日作戦会議と行こうではないか。さあ盛り上がってきたぞ! アル君、生徒会は総力を挙げてこの企画をプロデュースする! 見出しはこうだ。“紅き猟犬VS蒼の継承者”……空席と呼ばれていた蒼の座に収まる器が見つかった、とな」
「あ、あのう……誇大広告もいいところでは……?」
「それくらいしなければヴィレッタの目には届かないぞ。全く承認もなしにやっているんだ、広告をみて彼女がお前たちのところに顔を出すかどうか、これは一種の賭けだな」
そう、実はヴィレッタ先輩にはな〜〜んにも説明していないのです。何も説明せず、彼女を巻き込んだのです。これで先輩がわたしたちのところに戻ってきてくれるかどうか、それですべてが決まります。
なんにせよ一ヵ月後のエキシビジョンマッチ、絶対に負けられない戦いなのです。そう、たとえ相手がカラーズだろうとなんだろうと、わたしは勝たなければならない。大切な先輩の為に――。
「まあ、一緒にがんばろうよマキナ。罰ゲーム大変だけどさ」
「何言ってるの……? ニアも一緒に罰ゲームだからね……」
「にゃにゃーっ!? そ、そんなあ!?」
いろいろな意味で負けられない戦い……。それが今、わたしの目の前にある現実でした。
マキナ・レンブラント、エキシビジョン参戦決定の日記より――――。
君、死に給う事なかれ(2)
「エンゲージリングシステムの本当の力……?」
ガーデンエリアのカフェ、テーブルについている人数は今日は4であった。マキナ、ニア、サイ……そしてキリュウである。
エキシビジョンマッチの開催日時とその内容が大々的に告知され、いよいよ戦いは避けられない物になった。しかし今の所ヴィレッタが動く気配は無い。だが、ヴィレッタのことは信じて待つ以外マキナに出来ることもないのである。つまり今やるべきことは、僅かほどしかない勝利への可能性を模索する事。
その可能性を模索するのにあたり、真っ先にキリュウが提案したのがその言葉だった。エンゲージリングシステム――。通称ERSと呼ばれるそれは、FAを操る上で重要なシステムの一つである。
ERSによってFAと感覚を接続することにより、FAを自らの感覚の延長線として動かすことが可能になる。思考によりシステムを操作し、演算し、機体とパイロットを繋ぎ、一つの自立兵器として成す為に必要な物である。それについてはマキナたちも既に授業で習っていたし、経験もしていた。だがキリュウのいうところのERSの本質とはそういう事ではないのである。
「新入生のシミュレータでは意図的にその機能を封印している。理由は簡単、それがあるとFAに慣れていない人間は間違いなく混乱するし、そしてその機能はシミュレータでは再現し辛いという問題もある。兎に角、実機でのみ発生する力だ」
「実機でのみ……」
「つまり君たちにとっては未体験の領域だ。エンゲージリングシステム――その“感覚領域拡大機能”」
人の五感には限界がある。それが五感という、五つの感覚でしか物事を知覚出来ない時点で大きな制約を受けているとも言えるだろう。
たとえば第六の器官が存在し、それが第六の存在を感知する機能を有していたとしたら……? 例は簡単である。頭部などにエーテルを知覚する器官を持っているアナザーという存在がこの世界には存在しているのだ。ニアの耳、それもまた第六器官の一つの形である。
人は自らが感じる事の出来る事だけを感じ、認識し、理解することが出来る。例えばと、キリュウはその場にあったケーキ用の小さなナイフを手にとって見せた。
「マキナ君、これがなんだかわかるかね?」
「え? ナイフですけど……」
「そう、正解だ。ではこの切れ味は? 温度は? 判るかね?」
「……えと、触らせてもらえれば」
「そう、その通り。触れる――。つまり触覚を使う事で君はこのナイフの冷たさと鋭さを知ることが出来る。だが逆に言えば、触れなければ判らないという事。これがナイフであるという事も、君は目を閉じたら判断できなかっただろう」
マキナは少しの間考え、それからうなずいた。とても当たり前の事である。だがここでキリュウは仮定する。
「では、君にこういう感覚があったとしたらどうだ? 目で見る事無く対象の存在を知覚し、触れる事無くその感触を理解する……そういう感覚があったら」
「……えと、そしたら目を瞑っていても、触らなくても、ナイフがナイフだと判る……? ううん、それだけじゃなくて、それを握っているのが会長だって事も、その隣にスプーンがあるってことも……わかる?」
「素晴らしい回答だ。最も、そんなものは人間にはない力だからね、実感もないし説明も出来ないだろう。だが、それを得る事が出来るとしたらどうかね?」
この世界には、エーテルという光を帯びた粒子が満ち満ちている。それは既に大気の全てを多い尽くし、埋まっていない場所など存在しない程である。シティの外にあるのは人の住めないエーテルに満ちた世界……。それが逆にFAに新しい力を齎した。
エーテルは様々な性質を持ち合わせた全く新しいエネルギー体である。外の世界にはそれが満ちているし、目で認識出来るほど濃度の濃いカナル以外の大気でも、エーテルは存在しているのだ。そのエーテル非常に特殊な性質として、“記憶媒体”としての力も持ち合わせている。
「既に授業で習ったかもしれないが、この記憶媒体としてのエーテルという存在が重要でな。エーテルは、その“場”で起きた“事象”を“記憶”するという非常に奇妙な性質を持っている。その空間のエーテルを調べる事により、その場で何が起きたのかを非常に鮮明に再現する事が可能なのだ。最近の記憶媒体はほとんどエーテルを加工したフォゾンでまかなわれている。エネルギーとしても非常に優秀で、一定の機能を記憶させればフォゾンはその形を永遠に再現し続ける。早い話が永久機関だ」
「…………?」
ぽかーんとした様子で目を丸くするマキナ。ここまでくると最早フェイスの学生が学ばなくてもいい領域に差し掛かっている。キリュウは苦笑し、扇子を広げた。
「エンゲージリングシステムによる機体への神経接続もエーテル技術によって実現されている。機体に接続することにより、君たちの神経はフォゾンで模造され、機体の中に存在するフォゾン神経と融合する。君たちの腕の先に腕を継ぎ足したかのように、しかし第一間接と第二間接を別々に動かせるように、機体を思うがままに動かせるわけだ」
「じゃあ、ERSを使った時のあの感覚っていうのは……本当に自分の神経がつながってるんですね」
「そういう事だ。エーテルは持たせた役割を固定化する事でフォゾンと呼ばれる状態になる。フォゾン神経――つまり固定化されたエーテルにより模造された神経という事になる。覚えておいて損はないぞ」
「は、はい……」
「さてここからが本題だ。通常、シミュレータを用いた訓練ではERSを使ってもせいぜい自分の感覚を機体につなげるだけが限界だろう。だが、FAとERSにはもっと上の使い方がある。つまり……。目で見ずとも見て、触れずとも確かめる……そういう本来ありえない感覚を模造し、それを人間にフィードバックする能力だ」
それはパイロットの感覚に依存する物であり、パイロットによってその在り方、力の形は大きく変化してくる。はっきり言って、シミュレータ訓練だけではライダーとしての資質を図ることは出来ないのだ。ライダーとしての資質――それはエーテルにいかに適合し、人間を超えた感覚を得ることが出来るかにかかっている。
ERSに接続した瞬間、機体の周囲には不可視のフォゾンフィールドが形成される。これはその場に存在しているエーテルを取り込み、機体の周囲に結界のように展開させる事で固定される。この領域ことがライダーの真の感覚、そして素質の象徴。“エンゲージリング”と呼ばれる球状の領域である。
このエンゲージリング内に存在する物は、目で見る事無く認識し、触れる事無くその存在を確かめることが出来る。五感の全てが空間に延長されるという非常に奇妙な現象であり、そして人知を超えた力の源でもある。
「例えば俺のERの展開距離は半径13メートル……。勿論FAに乗り、ERを展開させている間のみだが、この13メートル内にあるものならば全て文字通り手に取るように認識することが出来る。全くの死角から打ち込まれた弾丸も、この半径13メートルの領域に接触した瞬間知覚し、速度、危険性、質感、その全てを一瞬で理解出来る。反射的に、な」
「す、すごい……」
「つまり、ERを展開している限り、その領域内に関しては人間では不可能な事も感じ取り、そして行動につなげることが出来る。このERの展開距離を通常“FA適正”と呼び、一般的にこの距離が長ければ長いほどFAの才能があると言う訳だ。勿論それだけではなく操縦技術、判断能力、理解力などライダーの能力も関係してくるが、ER領域が広いほうが有利ではあるな」
「ち、ちなみに普通はどれくらいなんですか……?」
「10メートルもあればまあそこそこといったところか。ちなみにアテナは25メートル、ヴィレッタに関しては脅威の40メートルだ」
カラーオブレッド二名の数字にマキナはただただ沈黙するしかなかった。そんなマキナにキリュウは微笑み説明を続ける。
「勿論、ただ距離が長ければいいというものでもない。感覚的な説明になるので言葉にするのは難しいが、ERにもいろいろある。様々な応用も可能だからな。まあ兎に角、今はERというものがどういうものなのか、それだけ理解していればかまわない」
マキナがゆっくりと頷く。勿論実機に乗った事がない以上、その感覚を理解する事は彼女たちには不可能だ。実際に機体に乗り込み、そして戦場で戦った人間にしか判らない感触……。その経験の差は非常に大きい。
「勿論、エキシビジョンマッチは実機で行われる。機体は新入生側は複座式カナード、俺とヴィレッタはヴォータン、そしてアテナはブリュンヒルデだ。そして――君たちは残り一ヶ月の間、実機訓練を行うことは禁じられている」
「え、えぇっ!?」
「実機による訓練が始まるのはエキシビジョンマッチの後だからな。お気の毒だが、実機訓練の許可は俺にも出せないんだ。俺が今こうしてわざわざやればすぐ理解出来るERについてクドクド説明しているのはそれが理由だ。君たちはぶっつけ本番、エーテルの満ちたアリーナという戦場で実機に乗る事になる。感覚を頭で理解しておくこと、それが勝利の必須条件だ」
「そ、そんなこと言われても……」
マキナが弱気になるのも無理はない。本番になったら手足が伸びて、目がすごく良くなり、周囲360度全て見渡せるようになりますといわれても想像することも出来ない。新入生の訓練でいきなりやらされない理由がなんとなくわかった気がした。いきなりそんなことになれば――混乱は必至である。
「ちょっと待ってください! じゃあ、マキナとボクはシミュレータでしか訓練できない、ぶっつけ本番って事ですか!?」
「そういう事になるな。まあこればっかりはしょうがない」
「しょ、しょうがないって……!?」
「まあそう悲観するな。勿論不利な状況であることに変わりはない。だがエンゲージリングシステムの機能を勉強することで、本番の混乱を和らげることが出来るはずだ。シミュレータでの制限もある程度解消しよう。泣いても笑っても、それで挑むしかない」
確かにそれが事実である。誰が何を言っても、そうせざるを得ないのである。だからこそキリュウがわざわざ説明したのだ。納得はいかなかったが、ニアはおとなしく席に着くことにした。
「時間は一ヶ月……。訓練期間としてはあまりにも短すぎる。だが、やらなければならない。それが君たちの選んだ事だ。誰も助けられないし、代わってやる事も出来ない。いいね、マキナ君」
「……はい! わたし、やります!」
頷くマキナの目は力強く、前向きな気持ちに満ちていた。その瞳を見て納得し、キリュウは扇子を閉じて立ち上がる。
「では、もう一組の方にも説明しに行かなければならないので俺はここで失礼するよ。がんばってくれたまえ、諸君」
「はいっ!!」
キリュウが去り、テーブルにはまた三人だけが残った。しばらくの間沈黙していたが、それをサイが破る。
「なあ、この戦いの勝率って一体何パーセントよ?」
その質問に二人は答えなかった。答えられるはずもなかった。三人が頭の中に浮かべた結論は重なっていたのだ。思わず息を呑む。勝率はきっと――“限りなく0に近い1”。
「それでもやるしかない……。やるよ。やらなきゃ。やるんだ」
自分に言い聞かせるようにして立ち上がるマキナ。ニアもそれに続いて立ち上がる。最後にしぶしぶと言った様子でサイも。戦いはもう始まっている。未知の領域への準備期間――。一ヶ月の特訓が今幕を開けた。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*説明だけだった*
ニア「この小説始まって以来、一番詰まんなかった一話じゃない?」
マキナ「そういう事いわないでよ……。説明しなきゃならないことは山積みなんだから……」
ニア「流石に説明だけで一話使うとは思わなかったよね」
マキナ「うん……。で、でもここで説明しておけば後々楽だし……」
ニア「ていうか、作者は説明が本当に下手だと思う」
マキナ「…………それは、しょうがないと思う!」
ニア「ねえねえ、そういえばさあ」
マキナ「うん?」
ニア「“マキナ”と“アテナ”ってなんか響きも字も似てない? 時々見分けつかなくなりそうで怖いんだけど」
マキナ「そっくりだよね〜」
ニア「アテナさんってさぁ、メインキャラの予定だったのに今のところ全然出番ないよね」
マキナ「そだね」
ニア「……なんかさ、説明だけじゃつまんないからここでネタでもやろうと思ったけど、何も思いつかないね」
マキナ「あ、じゃあわたし物まねやります!」
ニア「え? そんな事出来るの?」
マキナ「出来るよう? じゃあまずは、三人目の干渉者の真似から……」
ニア「ストップストップ!! それ誰もわかんないから!!」
マキナ「じゃあ、白の勇者の真似……」
ニア「……キャラがいろいろとかぶってるから……」
マキナ「6th?」
ニア「ま、また来週!」