マキナ、地球へ行く!(1)
本当にすいません!!!!
まだ、この地球に大地と海があった頃――。この星に、“フォゾン”が存在しなかった頃。宇宙から星を見たとても偉大な人は言ったそうです。“地球はやっぱり青かった”、と。
その言葉の意味も、その人が見た景色も、今はもう全ては遠い遠い星の記憶の中に消えてしまいました。時は西暦2088年。宇宙から星を見下ろす事は全く珍しくもなんとも無い事になり、そのとても偉大な人が見下ろした地球の姿は今はもうどこにもありません。
宇宙に浮かぶ無数のスペースコロニーに人々が移り住み、生活居住区は今や宇宙にまで拡大、地球を取り囲むように浮かんでいる七つのスペースコロニーと月のルナ・シティからは結構普通に地球を見る事が出来るようになりました。
かくいうわたしも宇宙から何度も地球を眺めましたが、地球は毎日色が違ってとても大変です。地球は今、とても凄い事になっているのです。その凄い事になっている地球に、わたしマキナ・レンブラントはこれから向かう事になりました。
何故わたしが地球に行く事になったのか、それはまた色々とややこしいので端折る事にしますが、連絡船の中から眺める地球は今日は緑っぽく見えます。昨日は黄色っぽかったのに、気紛れな物です。
「アポロ、もう直ぐ地球だね」
「むきゅー」
座席のシートに固定されたまま、膝の上には旅のお供が一匹。名前はアポロ――宇宙うさぎの一種で、とってももこもこしていてふかふかしていて、ぐにぐにしていて可愛いのです。宇宙うさぎの寿命はおよそ三十年と言われていて、実はアポロはわたしより年上なのです。
膝の上でもぞもぞしているアポロの耳を引っ張って伸ばしたりしながら地球を眺めます。あんまりにも大きすぎて逆にスケール感がないです。地球はやっぱりまんまるくて、きらきらしていて、黄色だろうが緑だろうが、青だろうがやっぱり綺麗です。
『ご利用のお客様にお知らせ致します。本艦、連絡船“パーシヴァル”は間もなく第一リングタワーコロニー、“アルティール”にドッキングします。ドッキング予定開始予定時刻は1120、終了時刻は1130となっております。直、各種リングシティへの連絡船への乗り換え時刻は……』
アナウンスが聞こえる中、わたしは周囲を眺めます。周りには勿論、沢山の人が乗っていました。わたしの暮らしていたコロニー、“アリオト”から直接アルティールに運んでくれるこの連絡船は、まさに都会へ続く夢と希望がいっぱい詰め込まれた船なのです。
大丈夫、乗り換えはばっちりのはずです。昨日の夜何回も連絡船の時刻表とにらめっこしたのだから、これで間違っていたら泣くしかありません。やがてわたしたちを乗せた連絡船はアルティールへとドッキング。殆ど揺れもないまま、船内に少しだけ緩んだ空気が流れます。皆長旅お疲れ様でした。わたしも、お疲れ様です。
「アポロもお疲れ様」
「むきゅ」
「えへへ……。それじゃ、行こうか。“アルティール”に」
第一リングタワーコロニー、アルティール……。地球の大地から伸びているという巨大な塔。宇宙まで延びているその巨大な搭に、沢山の人々が暮らしています。
地上に人が住めなくなった今、リングタワーコロニー、そしてその搭の周囲に展開するリングシティこそが地上に最も近い人の生活エリアであり、遥か彼方コロニーからでは見る事の出来なかった地球の本当の姿をそこからならハッキリと見つめる事が出来るのです。
正直、不安が胸の中で渦巻いています。でもそれに負けないくらい、わくわくした気持ちが溢れそうなんです。こういうのを希望とか人は言うのでしょうか。たかが十五年しか生きていないわたしには、そんな事は良く判りません。
でも、アルティールの中に入ったわたしを待っていたのは仮想重力によって制限されたステーションを行き交う沢山の人々の姿や、頭上を飛び交う様々な電光メッセージや、とにかくわくわくするものだらけで、だからやっぱりわたしはここに来て良かったなあと、そんな事を思うのです。
頭の上にアポロを乗せて歩き出しました。アポロはあんまり自分では動きたがらないので、昔からこうして運んでいます。ズボンのポケットに突っ込んで何度も確認したからたった一日でしわくちゃになってしまったメモ書きを手に目的地へ。
「――――えーと、学園行きのエレベータって、どれだろう」
聞いた話によると、まだ宇宙空間であるステーション内部の人工重力はおよそ0.8G。コロニー生まれのコロニー育ちなわたしにはへっちゃらですが、中には足取りがおぼつかない人も居ます。アポロが顔を挙げ、地球を見下ろしながら耳をぱたぱたと上下させました。アポロも地球が大好きみたいです。
「…………お母さん、マキナは無事に地球に着いたよ」
「むっきゅー!」
今日からこの搭がわたしの暮らす街――。全てはそう、ここから始まるのです。
マキナ・レンブラント、引越し初日の日記より――――。
マキナ、地球へ行く!(1)
西暦2088年、4月6日――。遠い未来の世界、宇宙に浮かんだ地球は毎日色を変える気紛れな存在へと姿を変えていた。
凡そ50年前、地球を大きな異変が襲った。宇宙空間より飛来した隕石が地表に落下し、人類はその数を大きく減らされる事となった。当然、そうなる過程には様々な戦いがあり、人の努力があった。隕石が地球に飛来する事が判明してからというもの、人々は宇宙に人を逃がし、当時まだ完成直後であった一番コロニー“ドゥーベ”への移民を進め、宇宙空間に隕石迎撃の為の衛星兵器を設置した。
その努力のお陰で二分された隕石は地球の二箇所に落下し、星は大きな打撃を受ける事となった。沢山の命が失われ、星そのものが駄目になってしまうのではないかという人々の危惧の中、それは突然地球上に溢れ始めた。
未知のエネルギー、“エーテル”の発見である。地表を多い尽くして行くエーテルの発生源は謎の隕石であり、隕石が落下した二箇所のポイントを中心にエーテルは世界中に満ち溢れて行った。
そのエネルギーが、人体に悪影響を及ぼし命を奪いかねない代物であると気づいた時、人々は地上を捨て宇宙へと逃げ出す事を余儀なくされた。エーテルの光は地球全土を包み込み――今は地上の姿を知る物はごく限られた世代のみとなってしまった。
エーテルは光の靄のような形状のエネルギー体であり、人々は必死にエーテルについての研究を行った。やがてその無限に湧き出すエネルギーを人が扱える形、“フォゾン”とすることで科学力を飛躍的に進歩させ、奇しくも人は大地を失い、代わりに広大な宇宙を生き抜く力をその手にしたのである。
一番から七番までのコロニーは、現在六番、七番が建造中ではあるものの、全人類をその中に抱き生きながらえさせるに充分な規模を誇り、月面のルナ・シティや地上から伸びた塔、リングタワーシティを中心に人々は空での生活に少しずつ文明を慣らし始めていた。
マキナ・レンブラントがその日訪れたのもリングタワーシティの一つ、第一番搭都市アルティールである。まだ地上の全てが光に覆われていなかった頃、地上から巨大な搭を建造して空に生きる計画が存在した。その計画は途中で頓挫したが、フォゾン技術の進歩により今はこうして人々が無事に暮らせる一大都市となっている。
「わー! アポロ、リングシティっていっぱいあるんだね〜」
「むっきゅう」
リングシティの中心部、搭のシャフトを抜ける無数のエレベータの中の一つ。座席に座って流れて行く景色を眺めるマキナの姿があった。見る見る内に地上へと吸い込まれ、宇宙空間が遠ざかっていく。リングシティとは、中心部に存在するセントラルタワーの周囲に展開するように作られたドーナツ型の居住区であり、いくつかのリングが大小折り重なるようにして街の様相を生み出している。アルティールには10のリングシティが存在し、マキナがこれから向かう学園都市エリアは地上にも程近い第三階層に存在した。
エレベータで地上へ下り続ける事およそ二十分。第三階層に到着し、マキナは他の乗客たちと共にエレベータを降りた。幾つかの鋼鉄の扉が開き、ステーションへと通じて行く。その先、マキナの前には悠然と広がる巨大な都市が姿を現していた。
感嘆の声を上げながら瞳を輝かせるマキナ。何もかもが珍しい物であり、ステーションを飛び出した後マキナはアポロを抱えたままその場で何度かくるくる回って見せた。アポロが目を回している最中、マキナは思い切り深呼吸する。
「……うーん、いい空気……! 流石地球だなあ」
と一人で頷くマキナであったが、別に地球にあるからといって外部から空気を取り込んでいるわけではない。シティ内は完全な空調で管理されており、コロニー内のそれと大差はないと言えた。マキナが感じている地球らしさというものは、所謂思い込みであった。
周囲を見渡し、アポロと一緒に首を動かす。頭の上に乗ったアポロは当然、マキナが右を向けば右を。左を向けば左を向く。
「んと……。確か、ここで待っていればいいんだよね……?」
メモに記された行動予定を再確認する。第三階層についたら、ステーション前で“待ち合わせ”をする事――。予定通りの展開である。マキナはとりあえず人々の邪魔にならないようにステーション前の電光掲示板の脇に移動した。
ステーションで待ち合わせをすることは別段珍しいケースではない。事実周囲にはマキナと同じように待ち合わせをする人々の姿があった。しかし隅っこに自ら移動してしまうあたり、マキナの内向的な性格を現しているとも言えるだろう。
マキナはあまり人付き合いが得意な方ではない。地元のコロニーでは友達も居なかったし、スクールでは“おちこぼれ”といわれていた。それを気にしているわけではないが、いつしか他人に対する消極的な態度が身体の芯まで染み込み、それが当たり前になってしまったのだ。
待ち人が現れ、待ち合わせする人々は笑顔で去っていく。そんな姿を眺めていると、胸内に寂しい気持ちが沸き起こってくる。目を伏せ、マキナは頭の上のアポロの耳を引っ張った。
「お母さん……」
彼女は大のお母さん子であった。友達も作れず、よくいじめられて帰ってくるマキナを母はあきれたように叱り、それからそっと頭を撫でてくれた。母の事が大好きだったし、父親が既に死去し、居なかった事も母親に甘えすぎる理由の一つとなっていたのだろう。
母にいつもべったりで、どこに行くにも一緒だった。母が居なくなると寂しくなり、幼子のようにその姿を探してしまう。マキナが愛した母親はつい先日、二週間ほど前に亡くなった。死因は心臓の持病だった。
この二週間、マキナは母の事ばかり考えていた。母がもういないのだと考えると急に涙が込み上げてくる。悲しくて悲しくて、自分も死んでしまいたいとまで思った。そんなマキナをこの地に導いたのもまた、母の言葉だった。
『もしも何か困った事があったり、私がマキナの傍に居られなくなったら……。アルティールに居る、私の古い友人を訪ねなさい。彼はきっと貴方の力になってくれるから――』
死んでしまった母。身寄りの無いマキナ。哀しみの余り、そんな母の言葉さえも忘れてしまっていた時だった。どこで話を聞きつけたのか、一通のメールが届いた。出し人の名は、“アンセム・クラーク”――。マキナには全く見覚えの無い名前だった。
メールには簡潔な内容だけが記されていた。アルティールに来るようにとのメッセージ。第三階層にいたるまでに必要な連絡船の時刻表や詳しい地図、更には連絡船のチケットまでが封入されていた。
途方に暮れ、これからどうやって生活していけばいいのかも判らない十五歳のマキナにとってそのメールに縋る以外、他に方法は思いつかなかった。アンセム・クラークという人物がどのような人間なのか、まるで判らない。だがそのメールの内容は簡潔ながら、マキナに対する思い遣りのような物を感じ取る事が出来たから。
母の遺言となってしまった言葉を思い出す。アルティールに住む、古い友人――。アンセムがその人なのだという確信は勿論得られない。だが、マキナは信じて向かう事にした。
とはいえコロニーから一歩も出た事が無いマキナにとってアルティールまでの旅路は一種の大冒険であった。道中は感動の連続でそんな事は忘れていたのだが、一人ぼっちになって急に不安になってくる。ここに居てもアンセムが来なかったらどうしよう――。そう考えると泣きそうだった。
「……大丈夫だよね? アポロ」
「むっきゅう」
アポロを頭から降ろし、胸に抱きしめる。柔らかくへこみ、もちもちとした触感のアポロに笑いかける。そんな時だった。突然マキナの目前に車が停車する。黒塗りの高級車である。急に飛び出してきたのでマキナは目を丸くしてしまった。少女の前、運転席の扉が開き、一人の男が姿を現した。
黒いスーツに身を包み、ネクタイをきっちりと締めたいかにも真面目で堅苦しそうな男――。銀髪に銀色の眼、非常に整った顔立ちとスタイルの良い体型は一見すれば芸能人やモデルだと言われても疑わない程である。しかし、鋭く冷淡な切れ長の目とそれを覆い隠す眼鏡が非常に近寄り難い雰囲気を発していた。
歩み寄って来る男を前にマキナは直立不動であった。何故こんなにかっこいい人がわたしに近づいてくるのだろう――? 疑念が頭を支配する。もしや人違い? 別の人と待ち合わせ……? しかし、男はマキナの前で足を止める。長身故にマキナは上を見上げ、男をじっと見詰めた。
「――マキナ・レンブラントだな?」
「ひゃいっ!?」
「私はアンセム・クラーク……。君の身元引受人だ。今後とも宜しく」
「身元引受人……?」
「今日から私が君の保護者という事になる。質問は追々受け付けるので、先ずは荷物を積む事だ。それが終わったら助手席に――。迅速にな」
「は、はいっ!!」
慌てて小さなトランクを担ぎ、後部座席に詰め込んだ。余りにも少ない荷物にアンセムは眉を潜めた。年頃の少女の荷物といえば、もう少し大量でもおかしくはないだろう。ましてや一応、これは引越しなのだ。トランク一つで一人旅というのとはまたわけが違う。
「荷物はそれだけなのか?」
「え? そうですけど……」
「…………」
少ないな、とは言わなかった。無言で目を瞑り、考える。何か理由があるのかもしれない。アンセムとてティーンズの少女について詳しい訳でもない。一人で納得し、運転席に座る。それに続いてマキナも助手席に乗り込んだ。
二人を乗せた車が走り出す。マキナはずっと緊張した様子で肩を縮こまらせていた。車内は非常に整理整頓されており、アンセムの几帳面な性格を物語っている。ふと、アンセムの横顔を見詰めてみる。やはりとんでもなく美形であり、思わず見惚れてしまう程であった。
「何か?」
「す、すいませんごめんなさい! すごくかっこいいから、つい…………あっ」
思わず本音を口走ってしまい、マキナの顔が真っ赤に染まる。アポロが耳をぱたつかせ、アンセムは別段気にした様子もなく淡々と頷いた。
「よく言われる」
「そ、そうですよね」
そのリアクションはそれはそれでどうかと思うマキナであったが、流石に初対面の男にツッコむ勇気は持ち合わせていない。
「あのう……?」
「何か?」
「アンセムさ……クラークさんは……」
「アンセムでいい」
「は、はい。えっと、アンセムさんは……母とどのようなご関係で……」
「自分の死後、私に君を託すと君のお母さんは言っていた。古い友人でね。約束を果たしただけの事だ」
「古い友人……ですか」
勿論、納得が行ったわけではない。興味も尽きなかった。だが、行き成り初対面の人に質問攻めするだけの度胸はマキナには備わっていなかったのである。
二人を乗せた車は第三階層都市の北に移動する。街には高層ビルが立ち並び、人々が自由自在に歩き回っている。天井からぶら下がったモノレールがあちこちに行き交い、マキナの目を奪った。窓の向こうに流れて行く景色を眺めているだけでマキナの体感時間は加速し、あっという間に移動が終了してしまう。
到着したのは巨大な一際巨大なビルの駐車場だった。車から降りたマキナはトランクを片手にビルを見上げた。巨大すぎて首が妙な方向にまで捻れてしまいそうなくらい見上げてしまう。そうしているマキナに歩み寄り、突然その頭を掴んで首の角度を正常な位置に戻し、アンセムは腕を組んだ。
「それ以上上を向いたら首がとれるぞ」
「はう……。ごめんなさい……。それで、ここは……?」
「アルティール内に存在する、第一傭兵養成学校、“フェイス”――そのアルティール校だ」
「フェイス……?」
「地上での紛争地域に派遣する傭兵戦力を育成する機関だ。地球上の様々な組織、勢力がスポンサーにつき、その依頼をこなし報酬を得るという形で成立している組織であり――」
「ちょ、ちょっと待ってもらえます……? それじゃあ、えっと、あれですか? もしかしてここは――」
「そうだ。“フロウディングアーマー”のパイロット養成機関でもある」
「フロウディング、アーマー……」
地上では今、様々な勢力、企業、国家、民族による紛争が絶えず行われている。人々の地球上での生活区域は酷く限定されており、地球の覇権をかけた戦いとも呼べる物はこの世界で渦巻いていた。
コロニー育ちのマキナにとってそれは余りにも現実離れした事実である。しかし、確かに今地球では数え切れない戦争が繰り返されているのだ。“フロウディングアーマー”、通称“FA”はエーテルが満ちた世界での新たな主戦力として運用されている、所謂巨大人型機動兵器の総称である。それくらいの事は、世間知らずなマキナとて流石に知っている。だが――。
「そのフェイスって学校がわたしと何か関係在るんですか?」
「当然だ。今日から君はフェイスに入学し、その寮で暮らしてもらう」
「な、なんでそうなっちゃうんですかあっ!? 聞いてないですよう!!」
マキナが慌てるのも無理はない。FAの学校など、入りたいと思ったことは一度もなかった。FA乗り――“ライダー”とは、文字通りの戦争屋である。そんな危なっかしくて粗暴な雰囲気の職業に尽きたいなどと温厚な性格のマキナが願うはずもない。理由を知りたがるマキナであったが、真実は実にシンプルだった。
「私がこの学園の教師をしているからだ。私はこの学園を行動拠点としている。君も近くに居てくれた方が効率がいい」
「……フェイスの教師……? アンセムさんは、じゃあ……」
「ああ。ライダーだ」
腕を組み、当たり前のように告げられる事実。マキナは途端に顔色を変え、まるで何か恐ろしい物を見るような目でアンセムを見上げた。その視線には恐怖だけが込められているわけではなかった。戸惑い、侮蔑……。その思いを浴びて直、アンセムは顔色一つ変える事はなかった。
「ライダーは嫌いか?」
「…………それは」
視線を反らすその態度だけで答えは明白だった。男は頷き、理解する。“成る程。母親そっくりだ”、と――。
「あのう……? どうしても、入学するんでしょうか?」
「ああ」
「でもわたし、そういうの向いてないっていうか……」
「そのようだな」
「で、ですよね? それにわたし、普通の学校でさえおちこぼれとか言われてて、正直FAの操縦とか出来るはずもないっていうか……」
「それを教えるのがフェイスだ」
「で、でも……」
「入学手続きは済んでいる。これが君の生徒手帳だ。あとで顔写真を入れておく事。それからこれが君の制服と教材一式が入った通学用鞄、それとこれが学生寮の鍵になる」
後部座席から一気に荷物を取り出し、淡々と畳み掛けるアンセム。マキナは言葉を合間に割り込ませる事が出来ず、結局一気に押し切られてしまった。
「では、私は用事があるので後でまた会おう。寮の場所はここからでも見えるだろう? 判らなかったら学生に訊くといい。制服でわかるはずだ」
「えっ!? あっ、あのうっ!?」
アンセムは呼び止めるマキナの声を無視して車に乗り込んで走り去っていってしまう。固まったままマキナは死んだ魚のような目で巨大なビルを見上げた。
「え……? えっ? あれ――? えっ?」
なんでこうなっちゃうの――? 心の中で呟いた言葉。それに反応するように、頭上のアポロが欠伸を浮かべた……。
〜ねっけつ! アルティール劇場〜
*もう思いつかなかった*
マキナ「え? あれ? なんですかここ? 何するところなんですか? あれ?」
アポロ「むっきゅう」
マキナ「えっと……。あの、またロボットです……。今回は、女の子が主人公です……」
アポロ「むきゅ〜」
マキナ「えーと? 学園モノです。よろしくおねがいします……」
アポロ「むっきゅう!」
マキナ「えへへ、ちゃんと挨拶出来たね」
アンセム「……君は、うさぎの言葉がわかるのか――?」