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第四話 ユウとアルフィーの出会い3



レッドウルフの爪の毒は遅効性だが、一度食らうと中々に厄介なものだ。

高熱により体力を急速に奪い、徐々にその傷口から肉が腐り始める。


ベッドに寝かされたユウは高熱によってうなされていた。


「っはぁ・・・はぁ・・・・」


彼はユウの額や頬の汗を濡らしたタオルで拭い、透明な薄水色の液体が入った白い器を手に取る。


「毒消しだよ。熱を下げる効果もある。体、起こせそうかい?」


ユウは虚ろ気に目を開ける。

だが力が入らず体を起こす事ができなかった。

声を出すのも辛そうだ。

彼は少し考え込むと、器の中の薬を自ら口に含んだ。

そしてユウの顎に指を添え軽く上向かせる。


「・・・・っんん・・・!」


唇が重なった感触にユウはびくりと震えた。

とろりとした感触と少しの苦みが口の中に広がる。


「ふぅ・・っ・・・ん・・・ん・・・・」


ユウの喉が動き、薬を飲み込んだのを見てから彼は唇を離した。

ぼおっとユウは呆けた顔をしている。

彼は濡れた口元を舐め、ユウの頬を撫でた。


「これでもう大丈夫。足の傷も回復魔法で治したし、あとはゆっくり眠ればすぐに元気になるよ」

「(回復、魔法・・・この人、魔法使い?)」


瞼が段々重くなってきた。

睡眠薬も入っていたのだろうか、ユウは眠気を感じた。

だが体は先ほどと比べて楽になってきた。


「おやすみ、ユウ・・・」

「(あれ・・私、名前・・・言いましたっけ・・・・?)」


ユウの意識は深い眠りの底に落ちた。

彼はそれを見届けて、シーツの上に散らばるユウの長い髪の一房を手に取り愛し気に口付けた。


「これはもはや運命としか言えないね・・ユウ」




二日後、ユウの熱は完全に下がった。

足の傷も跡形もなく、本当に怪我をしたのかというくらい綺麗に治っていた。

最初は彼、アルフィーと名乗った彼の姿に驚いたユウだけれど、この数日の間、手厚く看病してくれたアルフィーにユウはすっかり心を開いていた。

自分の身の上を話すほどに。

彼はユウに心から同情し、慰めてくれた。


「もしよければ、完全に回復するまでここにいてもいいよ。僕は一人暮らしで部屋は余ってるし」


ユウは何度もお礼を言って、体調が戻るまでお言葉に甘える事にした。


彼はユウの思った通り、魔法使いだった。

しかし人間かそうでないかは、失礼な気がして聞けなかったけど。

だけど彼はやはりただの魔法使いではなかった。


「えっ!?【フォルトナ】って、あの噂の何でも屋さん・・本当にあったんですね・・。てっきりただの噂だと思ってました」


何でも屋【フォルトナ】。

旅人から聞いたどんな難しい依頼でも確実に達成してくれるという謎に包まれたお店。

そのお店が本当にあって、その店主がアルフィーだという事にユウは心底驚いた。


「まあここは本当にここに来たい者しか来れない場所だから」


ウッドデッキでユウとアルフィーはお茶を飲んでいた。

テーブルには可愛らしい小さなプチケーキが並んでいる。

彼の手作りらしい。


「ここに来たい人しか来れない場所・・それって・・・っ!美味しい!」


喋る途中でケーキを口に入れたユウはあまりの美味しさに頬を紅潮させた。

目を輝かせ、ぱくぱくとケーキを頬張る。

そんな様子をアルフィーは微笑ましく見つめた。


「あ・・・ごめんなさい・・はしたない真似を・・」

「いやいや。製作者としてとても嬉しいよ。それに」

「え・・・」


彼はユウの口元についた生クリームを指で拭い取り、その指をぺろりと舐めた。


「美味しそうに食べる君はとても可愛い」

「っ!」


ユウの顔は真っ赤に染まった。


「(お、お父さんやお母さん以外に可愛いって言われたの初めて・・!そ、それに私この人に、き、キス・・)」


アルフィーをちらりと見える。

彼は紅茶を飲みながら、にこりと笑っていた。

自分にとても優しく紳士的に接してくれるアルフィー。


「(・・あれはキスとかじゃなくて、私が薬を飲めるようにしてくれた彼の善意的な行為の筈・・!なのに下手に意識したら・・アルフィーさんに失礼ですよね!さっきだってただクリームを取ってくれただけっ動揺するなんて可笑しいですよユウ!)」


ユウは落ち着くために小さく深呼吸した。

そして話を元に戻そうとした。


「あ、あの・・ここに来たい人しか来られないって、どういう意味ですか?」

「ああ、ここはね、特別な空間でできた世界なんだ。魔法で作った・・といえば簡単かな?ここへは僕に成し遂げてほしい依頼を持った人しか来れないようになっている。

ここへ自由に出入りできるのは僕と、僕が許した者だけなんだよ」


紅茶に薄桃色の花びらが落ちた。

周りの全ての木はすべて薄桃色の花で満開だ。


「魔法で、できた世界・・。じゃあ私がこの特別な場所に来れたのはアルフィーさんのお陰なんですね」

「緊急事態だったからね。たまたま用を済ませた後に魔物に襲われている君を見つけたのは本当に運が良かったよ。まあ、あんな状況でなくても君ならいつでも迎え入れたけどね」

「え・・」


さあっと風が吹いた。

薄桃の花びらが舞う。

ユウの脳裏に何かの記憶が掠めた。

けれど白い靄がかかったように、はっきりと思い出せない。


「あの・・アルフィーさん・・私と貴方は・・どこかで」

「お茶、冷めてしまったね」


かたりとアルフィーは立ち上がり、ティーポットを持った。


「新しく入れ直してくるよ。少し待ってて」

「あ・・・は、はい・・・」


花はサクラによく似た花です


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