第一話 何でも屋さんは黒い火の玉頭の紳士さん
男は森の中を歩いていた。
腰に剣を携え、鎧を纏った剣士だった。
無精髭を生やし、頬には古い傷跡が目立つ。
「本当にあるのか・・・【フォルトナ】は・・・やはりただの噂でしかなかったのか・・?」
男はある店を探していた。
どんな依頼でも、報酬を払えば必ず達成してくれるという【フォルトナ】という店を。
単なる噂でしかないと、ある者は言う。
店は存在すると、ある者は言う。
実際にそこに行った事があると、ある者は言う。
行った事はあるが、店主の顔は覚えていないと、ある者は言う。
【フォルトナ】に関しては、色んな噂がある。
剣士の男は【フォルトナ】に関しては、半信半疑であった。
しかし今はその店の存在を信じて、森の中を歩いていた。
【フォルトナ】はどこの森の中にもあってどこの森の中にもない。
本当に依頼したい者しか、見つける事ができない店。
男は切実に願った。
「頼む・・本当にあるなら・・どうか俺の依頼を受けてくれ・・!」
ふわりと、風の匂いが変わった。
気づくと男は別の森の中にいた。
何故別の森だと分かるのか。
それは、先ほどまでいた森とは打って変わって、全ての木が薄桃色の花で満開だったから。
「ここは・・・・」
まるで別世界のような光景だ。
男はそう思った。
そして見つけた。
ある家を。
小じんまりとした家だけど、どことなく不思議な雰囲気のある家。
家の周りをぐるりと白い塀が囲んであり門がある。
庭だろうか。
小さな畑のようなものもあった。
「っ!」
男は門の前である物を見つけ目を見開いた。
家の木製の扉の所に看板があり、そこにこう書かれていた。
『ようこそフォルトナへ』
「っ本当に、あった・・・!」
男は急いで門を開け、扉に続く石畳を走り扉の前に立つ。
銀のドアノックで扉を数回叩いた。
コンコンコン。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぁい」
扉の向こうで誰かが走る音が聞こえ、扉ががちゃりと開く。
「いらっしゃいませ」
「え・・・・あ・・・あの・・・・・」
扉を開けたのは少女だった。
黒い石の付いたチョーカーをつけ、ダークブラウンの長い髪を二つに縛り、眼鏡をかけてて少し変わった服を着た・・・・・少々ふくよかな少女。
「えっと、俺は・・・」
まさかこんな少女が出てくるとは思わなかったので男は咄嗟に言葉が出なかった。
だが少女は慣れた様子でにこりと笑う。
「アルフィーさんに、御用ですよね」
「あ、アルフィー・・・?」
少女は体をずらし、男を家へ招く動作を取る。
「ここに来られた方は皆そうですから。貴方も、受けてほしい依頼があって来られたのですよね」
「っじゃ、じゃあやはりここは・・!」
「はい、何でも屋【フォルトナ】でございます」
少女の案内である部屋に通された。
暖炉がある広めのリビング部屋だった。
部屋の中は何やら良い香りがした。
「こちらへどうぞ。今、アルフィーさんをお呼びしますので」
少女が一礼し、部屋を出た。
ただ部屋を出る前に気になる言葉を残した。
「あの・・驚くかもしれないですけど・・驚かないでくださいね・・」
驚く?
一体何に驚くというのだろうか?
残された男は首を傾げながらもひとまずソファーに座り、部屋を見渡した。
「ふぅん・・・」
火がつけられていない暖炉の上にはよく分からない小物でいっぱいだった。
壁に飾られている絵は、どこかの風景だろうか?
ソファーの前にあるテーブルの上に小物入れのような物があった。
そこから薄い煙が出ている。
良い香りの正体はこれだった。
香らしい。
男は普段、こういうものには興味はなかったけれどこの香りは嫌いではなかった。
こつこつ・・・。
「っ!」
廊下から足音が聞こえた。
少女の足音ではない、硬い足音だ。
男は無意識に背を正し、扉の方を見た。
がちゃりと、扉が開けられる。
「・・・・ようこそ【フォルトナ】へ。払うものを払ってくれるならどんな依頼も必ず達成しましょう」
男は目を大きく見開いた。
「(驚くなというのはこの事だったのか・・!)」
水晶のような透明な石の飾りがついたステッキを持ち、白いシャツに黒のベスト、黒いコートを肩から羽織ってまるで翼のようだ。
だが問題は首から上だ。
彼は、人間ではなかった。
「僕の名前はアルフィー。【フォルトナ】の店主です」
紫がかった黒い火。
目の部分は紫に光り、モノクルをかけている。
彼の頭部は、メラメラと燃える黒い火の玉だった。
「あの人もやっぱり、驚いたでしょうか・・驚いたでしょうね」
紅茶に、彼が焼いた手作りクッキーをトレイに乗せ、少女はリビングへと足を運ぶ。
少女の名前はユウ。
ここで働く人間の少女。
そして、金貨一億枚という借金を抱えているメイドだった。
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