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エンディングのその後は ②

 ぎぎぎと音がしそうな動きでカーティスへと顔を向ける。静かに見守ってくれていた彼が困ったように苦笑したので、ネージュは蒼白になってしまった。


「今、何日ですか……?」

「一月七日だね」

「年が明けているではありませんか!?」


 駄目だ、目眩がしてきた。

 こんなにも健康体なのに十日間も眠り続けていたとは、重ね重ね悲惨すぎる行いだ。あれだけの真実を知るには時間がかかるということなのだろうが、もう少し何とかならなかったのか。


「戦いはどうなったのですか? 皆は無事ですか? 被害は」

「落ち着いて。君は病み上がりなのだから」


 カーティスが水の入ったコップを差し出してくる。騎士団長閣下に給仕の真似事をさせてしまったことに硬直していると、いささか強引に手の中にコップを握らされてしまった。

 いつのまにかシェリーとファランディーヌがベッドの脇の椅子に腰掛けている。彼女らにも飲んでと促されたネージュは、確かに喉が渇いていることにも思い至ってコップに口をつけた。


「大丈夫よ、ネージュ。貴女が心配するようなことは起きていないわ」


 ファランディーヌが力強い笑みを見せてくれる。水の冷たさとその笑顔の頼もしさに幾分か冷静を取り戻し、女王の説明をおとなしく聞くことにした。


「人的被害は怪我人だけで済んだの。王宮含めて建物なんかが壊れてしまったから修復中だけど、既に民の生活は元に戻っているわ。あとね、ブラッドリー領はグレイル王家の領地として接収することになったの。接収と言っても不当な扱いはしないわよ? 当面はモンテクロと同じように治めていくつもり」


 ネージュは安堵の溜息をついた。被害がそれだけで済んだのは騎士団の力があってのことだ。そしてファランディーヌの見事な采配によって、ブラッドリー領も以前と同じように栄えていくことになるのだろう。


「色々と法律を駆使して叔父上以外は罪に問わないことにしたの。領地さえ押さえて民に還元すれば、敗戦領をどう扱うかは国王の意によるところが大きいから、不満も出なかったしね。ちなみに新領主には黒豹騎士団長のチェンバーズ卿を指名する予定なのよ」


 これにはネージュも水をむせそうになった。

 確かに最適な人選なのかもしれない。能力は極めて高いと思うし、領民の信頼も厚いのだろう。

 けれど彼は胃痛持ちなのに大丈夫なのだろうか。まあ復讐は終わったし、彼の心労も軽減される……はずだ。うん。頑張れロードリックさん。


「叔父上は意識が戻らないの。怪我自体は治っているから精神的なものだろうって、エスターが言っていたわ」


 マクシミリアンの魂は奥方に会いに行っているはずだ。ネージュが目を覚ましたのだから、彼もまた程なくして意識を取り戻すのだろう。

 しかしシェリーは真実を知ったのだろうか。聞いていいことなのかも判らずに視線を彷徨わせていると、その答えは本人の口から語られた。


「シェリーはお見舞いには行っていないのよね?」

「当然です。陛下がお許しになられるとしても、私はそう簡単には許せません」


 シェリーは突っぱねるように言った。硬質な態度はどこか拗ねた子どものようで、ネージュはそっと胸を撫で下ろした。

 どうやら彼女は全てを知ったらしい。実の父親を刺してしまったことで心配していたが、この様子なら大丈夫そうだ。


「そこはシェリー次第でいいと思うよ。よく考えて決めてごらん」


 カーティスは苦笑をしていて、娘の意思を尊重する気でいるようだった。実の父親が己が主君に仇なす敵であった事実は、どれほど大きな器を持っていても受け止めるには時間がかかるだろう。


「まあ、目が覚めたら顔くらいは出してみてもいいと思っていますが……」


 決まりが悪そうに呟くシェリーに、ネージュもまた小さく笑った。

 妻と再会したマクシミリアンにどんな変化が訪れるのかはわからない。外野の立場としては口を挟むことではないし、できることならお互いのしこりがなくなればいいと思う。


「さて、エスターを呼んでこようか。元気そうに見えても診てもらうことは必要だ」


 カーティスがおもむろに立ち上がって病室を出て行く。その後ろ姿を目で追ったネージュは、ふと視線を戻した先に美少女二人のにやにや笑いと出会うことになった。


「ネージュ、あのね。カーティスは本当に心配していたのよ」

「そうよ、朝昼晩とここに通っていたの。黙々と仕事をして、時間を作って。凄く落ち込んでいたけど表に出さないようにしていたから、むしろこっちが不安になるくらいで」


 シェリーがにっこりと微笑む。それは華やかではあったが、父親を想う優しい娘の表情だった。


「後で話を聞いてあげて。お願いよ」





 そうこうしているうちにネージュが目を覚ましたという一報は騎士団内を駆け巡ったようで、見知った顔ぶれが次々と病室に雪崩れ込んでくることになった。

 最も安否を心配していた第三騎士団の面々は皆が安堵したように笑っていたが、マルコだけは号泣していたあたりまだまだ子供だ。バルトロメイには無茶をするからだと説教されてしまったので、鉛色の瞳が潤んで見えたのはきっとネージュの気のせいなのだろう。

 ハンネスとフレッドは本当に良かったと言って笑い、ライオネルなどは助けてくれてありがとうと頭を下げてきたので慌ててしまった。

 そして最後、エスターとヤンによって入念な診察が行われ、もう大丈夫だとの診断が下る。もう少し大事を取った方がいいと説得された上で、ネージュは明日にでも病室を出ることに決めた。

 今日のうちに考えをまとめておこう。何があったかきちんと説明して、騎士団を去らなければならないのだから。


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