必要だとわかっていても ①
仮本部の騎士団長室にて、お馴染みになった三人は顔を突き合わせての会議に勤しんでいた。
ネージュが先週末に纏めた資料を元にした話し合いの内容は、予想される動きにいかに対応するかを取り決める綿密なもの。ひとまず半ばまで完成した作戦は非常によく出来ているようでいて、これまでの流れを考えれば不安を拭い切ることなどできなかった。
「黒豹騎士団は個性派ぞろいだからなあ……」
バルトロメイのため息混じりの呟きに、カーティスは困ったような笑みを、ネージュは乾いた苦笑をこぼした。
これは敵対してようやく見えてきた事実なのだが、黒豹騎士団幹部はよく言えば個性派、悪く言えば珍獣集団だ。
幹部三人の襲撃から始まって、彼らはまったく予想通りの動きをしてくれなかった。しまいにはロードリックが単身で乗り込んでくるし、騎士団長の苦労が透けて見えるようだ。
「住民を避難させることを大前提としなければなりませんが……難しいですね」
ネージュは眉を寄せて呟いた。
予測不能の黒豹騎士団の面々にいかにして対応するのか。全てにおいてミスは許されないが、住民の守護は最も優先される事柄だ。
バルトロメイもこれについては頭を悩ませているらしく、鉛色の瞳を細めて見せる。
「確かその魔獣は見上げる程の巨躯だと言ったな。しかも空を飛んで火を吐くと」
「はい、その通りです。あれから身を守るには、建物の中に避難するのでは到底足りません」
街中に飛来されてから極大魔法をぶつけたとしても、相殺された魔力のかけらが街中に降り注ぐことになるだろう。
速やかに住民の避難を行う必要があるが、一体どうすればそんなことが可能なのか。
「それについてはいい考えがある」
カーティスが確かな声でそう述べるので、バルトロメイとネージュは顔を見合わせた。
「レニエ副団長の莫大な魔力を使おう。安全に市外への避難を敢行できるはずだよ」
そうして語られた作戦は、大胆でありつつも非常に的を射たものだった。ネージュは感心して二つ返事をしかけたが、すぐに疑問に思い至って愕然とした。
この作戦にはひとつだけ問題がある。唯一にしてあまりにも重大な問題が。
「しかし、私が住民の避難を担当するとなると、誰が魔獣を迎え撃つのですか……?」
ネージュの魔力は莫大だ。住民の避難にあたって唯一無二の戦力になるのは間違いないが、それは魔獣に対しても同じこと。
魔獣の力はゲームでは推量れなかった。ただただ強大だという描かれ方をした恐ろしき闇の眷属を、どうして放置することができるだろう。
空色の瞳が静かな色を宿している。その輝きに無言の決意を見て取って、ネージュは心臓が引き絞られたような痛みを訴えるのをどこか遠くに感じていた。
「私がやる。それ以上に成功率の上がる配置はないだろう?」




