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おいでませ敵幹部様御一行 ③

「あはははは! 頑張りますねえ、先輩方! どれくらい保つのかなあ!?」


 防御魔法陣は絶え間ない攻撃にさらされて激しく鳴動していた。風の刃は弾かれては壁や窓を叩き壊し、建物自体に不穏な亀裂を走らせていく。

 絶対的な破壊をもたらすミカの高笑いは狂気に満ちていたのだが、フレッドにはどうやら苛立ちをもたらしたらしい。


「くっそ、このガキ! ガキのくせに強いんだよ、このやろう!」

「……同感。天才少年って嫌だねえ」


 悔しげに笑ったフレッドに、ネージュも苦笑を返す。

 同じ平民出身の同期で、同じくらいの実力で、同じ副団長にまでなって、同じだけの辛酸を舐めてきた。フレッドの憤りが手に取るようにわかるから、ネージュはもう迷わなかった。


「フレッド、走って!」


 まさか味方に攻撃されるとは思っていないフレッドの背中はガラ空きだった。

 彼の首根っこを掴み、自身の背後に引っ張り下げてやる。フレッドがよろめいた途端に防御魔法が解け、全ての負担がネージュにのしかかってきた。


「ネージュっ!」


 フレッドの驚きと悲痛を含んだ絶叫が聞こえたが、聞こえないふりをした。代わりに防御魔法に全神経を集中して、ミカを消耗させる作戦に出る。

 大丈夫だ。フレッドにばれたって構わない。今はこの人を助けることだけを考えなければ——。


「何だ、この珍妙な状況は」


 それは刹那の出来事だった。目が眩むほどの光が迸って、それと同時に轟音が空気を割く。魔法による雷がもたらしたものだと理解したのは、目の前に見上げる程に大きな背中が立ちはだかっての事だった。


「フレッド。お前はレディの背に庇われて、一体何をしている!」


 第二騎士団長ハンネス・オルコットの振り返り様の一喝に、ネージュはつい肩を竦ませてしまった。

 彼の得意とする雷魔法の如き迫力だ。黒豹騎士団の捜索に出向いていたはずなのに、どうしてここに。


「ハンネス団長、なんでここに?」


 困惑しきった声に背後を振り返ると、怒鳴りつけられた張本人はぽかんと口を開けて呆けていた。まさかの展開に頭が追いついていないようだ。


「丁度定期報告に帰ってきたのだ。お前たち、怪我はないな」


 ネージュはフレッドと同時におずおずと頷いた。しかし部下の反応を受けたハンネスは、にわかに太い眉を釣り上げて見せる。


「フレッド、ならばなぜ後ろにいる! とっとと剣を構えぬか!」


 ——相変わらず熱い人だなあ……。


 ネージュは唖然としたまま場違いな感想を抱いていた。あまりにも有難い援軍に、本当に現実なのかと疑う気持ちが湧いてきてしまう。

 しかしフレッドは素直だった。彼は尊敬する団長の熱意に感化されて、いつも誰よりも早く立ち上がる。


「す……すみません、ハンネス団長!」


 慌てて前に出てきたフレッドが、上官の隣で剣を構える。その背中に強靭な意志を見て取って、ネージュはふと嘆息を漏らした。

 ハンネスが来たならミカに負けることはない。こんなことが起こりうるのだ。本当なら死んでしまった筈の人物が、誰かを救うために力を貸してくれるようなことが。

 胸が熱い。自分がやってきたことは間違いじゃなかった。いかにシナリオから逸れて、予測不能のトラブルに見舞われたとしても、生きているというだけで何物にも代え難い僥倖だ。


「……ちっ。団長格が出てきたのでは、流石に分が悪いですね」


 ミカが舌打ちをしてふわりと浮き上がる。風魔法を得意とする彼は、魔獣無しで空を飛ぶことができるのだ。


「逃げる気か、フルスティよ」

「ええ。僕、勝てない勝負はしない主義なので」


 ハンネスのモスグリーンの眼光で睨みあげられても、ミカは泰然としたものだった。先程はカーティス相手に攻撃しまくっていた気がするのだが、エキサイトすると主義主張すら忘れてしまうということだろうか。なんだか今は目が据わってるし、テンションの落差がすごすぎる。

 ミカは甘やかな微笑みを残し、突風となって窓の外へと飛び出して行った。

 後に残されたのは破壊し尽くされた本部の廊下と、瓦礫の匂いと、戦いを終えたばかりの三人の騎士。ネージュは気が抜けるような思いがして、その場にぺたりと座り込んでしまった。


「ネージュ、大丈夫か!?」

「レニエ副団長!」


 二人は振り返って膝をつくと、同時に顔を覗き込んでくる。その表情には明らかな心配が表れていて、その生き生きとした様子に安堵が降り積もっていく。

 良かった、生きている。彼らはここで死なずに済んだのだ。


「ネージュ、お前無茶しやがって……! なんで俺を庇うような真似したんだ!」

「そうだな。フレッドの不甲斐なさについては俺から詫びるが、無鉄砲については少々考えた方が良かろう」


 先陣切るの大好き人間たちに無謀を諌められるとは。なんだかおかしくなって、ネージュはつい笑ってしまった。


「申し訳ありません、あまりに無策でした」


 二人は虚を衝かれたような顔をした後、仕方がないなとばかりに笑う。

 素直な人たちで良かった。魔力についてもばれなかったし、次の作戦を果たすために動かなければ。


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