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おいでませ敵幹部様御一行 ②

 屋根を飛び降りて非戦闘員のいる本部一階へと滑り込んだネージュは、丁度いいことにフレッドと出くわすことになった。

 フレッドは騎士服を着込んでおり、既に抜刀して廊下を疾走している。並んで走りながら、ネージュは屋上での戦闘の音に負けじと大声で叫んだ。


「非戦闘員を逃せとの命を受けた! フレッドもだよね!?」

「ああ、行くぞネージュ!」

「了解!」


 良かった、これで切り込み隊長の無鉄砲を抑えることができる。あとは各自が本部襲撃時の訓練に則って動いてくれれば、スムーズに避難が完了するはずだ。


「レニエ副団長、ご指示を!」


 走っているうちに直属の部下のルイスたちも追いついてきた。各自取り残されている者を探すよう伝えると、目にも留まらぬ速さで散開していく。

 彼らなら仕事を果たしてくれる。全幅の信頼を胸に走るネージュは、事務所の大扉の前にたどり着くなり間髪入れずに開け放った。中にいた事務員は女性も多く、すっかり震え上がって動けなくなっている。


「私達で避難誘導します! 慌てず速やかに、指示に従って動いて下さい!」


 現れた騎士たちの姿に、事務員たちから安堵のため息が上がった。フレッドと共に彼らを廊下へと促して、次々と地下へと続く避難口に入ってもらう。

 昔からお世話になっているベテラン女性職員のミラが心配そうにこちらを見つめてきた。彼女は皺だらけの手を固く握りしめていたが、気丈にも騎士の安全を気にかけてくれているらしい。


「二人とも、大丈夫なのかい?」

「俺たちなら大丈夫だよミラちゃん。何も心配せずにゆっくり歩くんだ、いいね」


 フレッドに背中を支えられ、ミラは地下への避難口へと消えて行った。

 やっぱりこの男も優しいのだ。男女問わず人気者で顔が広いのは、市井を愛する彼だからこそ。


「ネージュさん、怖いよお」

「大丈夫。私達が絶対に守るから」


 同じ寮仲間の女性職員たちを宥めてやったら、皆一様にぽわっとした表情になってしまった。なんだろう、何か変なこと言った?

 フレッドの部下も集まって、避難のスピードも上がってきている。そろそろここは彼らに任せ、他の階層に残された人がいないか確認するべきか。

 そう考えたところで、今までで一番の轟音が空気を震わせた。

 職員たちから恐怖の悲鳴が上がり、隙間に積もった埃が舞い散る。状況を確認するため周囲に視線を走らせると、曲がり角から小柄な少年が姿を現した。


「幹部、みーっけ」


 薄青の髪を煌めかせ、風魔法で破壊した廊下を歩いてきたのは、何を隠そうミカ・フルスティその人だった。


 ——きたか。


 ネージュは瞬時に顔を引き締めた。

 真ルートに入る場合、フレッドはミカとの戦いでシェリーを庇って命を落とす。

 だからこそシェリーとフレッドは別の場所に配置してもらった。ネージュが彼と行動を共にして、確実に死亡フラグを叩き折るために。


「フレッドさんに、ネージュさん。実力者たるお二人をまとめて始末できるなんて、ラッキーだなあ」


 にこにこと微笑みながら歩いてくる姿は愛らしい少年そのものなのに、何しろ台詞が怖すぎる。そして彼の言い分は全く間違っていないのだ。ミカの魔法の腕前は、ネージュとフレッドを束にしても僅かに及ばない。

 ただしそれは、神に魔力を授かる前のことだ。


「さあ、潔く死んでくださいね。……風切り羽!」


 音を立てて風の刃が迫る。しかし後ろには未だ職員がいるのだから、ここで引くわけにはいかない。

 防御魔法なら出力を調節する必要はないためネージュのコントロールでも扱える。ミカの攻撃を防いでしまったらフレッドは変だと気付くだろうが、もうそんなことを言っている場合ではない。


「土篭りの盾!」

「風壁の守り!」


 しかし防御魔法を発動させたのはネージュ一人ではなかった。フレッドが隣に立ち、自身の得意な風属性の盾を作り出していたのだ。

 二つ分の魔法陣が眼前に広がり、膨大な数の風の刃を弾き返していく。想定を超えた衝撃を受けた防御魔法が不穏な軋みをあげ、その振動が腕へと直に伝わる。風圧と衝撃に息を飲んだネージュと違って、フレッドはすぐさま背後を振り返った。


「おい、お前ら! 振り向かずに走って逃げろ!」


 呆然と立ち竦んでいた騎士たちがフレッドの怒号で我に帰った。残された職員を連れて避難口へと吸い込まれたのを確認して、ネージュは困惑の視線をフレッドに向ける。

 どうしよう、そりゃそうだ。一人ではミカの攻撃を受きれるわけがないと知っているのだから、フレッドなら当然二人で防御魔法を張るに決まっている。

 ネージュなら一人で防げるのに。今守られるべきはフレッドなのに。


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