【コミカライズ開始記念小話】最恐お父さん
お久しぶりです。
お陰様で書籍化&コミカライズでございます…!
応援下さった皆様、本当にありがとうございました。
そして本日よりコミカライズがパルシィ様にて連載開始です。是非お読みくださいませ。
この小話はシェリー編の前日譚です。
どうかお楽しみ頂けますように。
「カーティスさんは、シェリーが結婚するならどんな人がいいですか」
それは結婚した後、買い物からの帰り道。喧騒の絶えない街角を歩きながら、ネージュは思いつきを口にして隣を見上げた。
何のことはない会話。特別な話題だとも思わなかったし、事実カーティスも面白そうに笑い、短い思案の末に言った。
「そうだな。シェリーが幸せならそれでいいよ」
父親として理解のある完璧な答えだ。従兄弟と結婚して家を継ぐなら心配なし、もし愛する人を見つけてきたとしても、シェリーの選んだ相手なら信頼できるということなのだろう。
確かな信頼関係で結ばれた親子に胸を温かくしていると、カーティスからも質問が返ってきた。
「ネージュはどんな人がいいと思う?」
「私ですか? うーん……そうですねえ……」
ネージュ自身はそこまで割り切れそうにない。シェリーには絶対に幸せになってほしいから、素晴らしい相手でなければ駄目だ。
「優しくて誠実でかっこよくて、騎士の仕事に理解があって、シェリーに負けないくらい仕事ができて、シェリーを愛している人……が大前提ですね」
「はは、ずいぶん要求するなあ」
「そんなことはないですよ。シェリーほどの女の子なら、お相手だって立派な人じゃないと!」
ネージュが拳を握って力説すると、身贔屓が過ぎると笑われてしまった。
とは言ってもシェリーの選んできた人なら文句なんてないし、本人が幸せであることが一番なのだけれど。カーティスがおおらか過ぎるのだと反論しようとしたところで、彼はふと空色の瞳を細めて見せた。
「ああでも、私にも条件は一つだけあるよ」
ネージュはやっぱりと言って笑った。友人の立場ですら思うところがあるのだから、親としてはあれこれ条件をつけたくなるものだろう。幾つになっても子供は子供、いつまでも心配したいのが親心なのだ。
カーティスはどんな条件を掲げるのだろうか。身分……は自身がネージュを選んだくらいだから気にしていなさそうだが、となるとやはり仕事だろうか。きちんと働いていること……は流石に最低限すぎるか。性格? シェリーの無鉄砲をうまく制御してくれる人とか。うん、これは良い気がする。
色々と想像を巡らせてわくわくしていると、カーティスはニッコリと笑ってこう言った。
「私より強い男だと安心だね」
——無理ですよね!?
反射的に突っ込まなかったことを誰か褒めてほしい。
カーティスが単騎で魔獣を撃退した顛末は、ハンネスから詳しく聞かされている。その内容を真実と受け取るならば、彼はもはや歩く最終兵器と言っても過言ではない。
要するにカーティスより強い男となると、普通に考えてネージュの出した条件よりも遥か上どころか、遥か上空をマッハで駆け抜けるレベルの無理ゲーである。そんな人はこの国にはいない。いや、世界中を探しても見つかるかどうか怪しい。
ああいや、冗談だろうか。この笑顔は……駄目だ、わからない!
ネージュは口元を引きつらせて「いるといいですね……」と答えることしかできなかった。そしてまだ見ぬシェリーが選んでくるかもしれない相手へ、降りかかるであろう受難を察して心中で祈りを捧げたのだった。
シェリー編に続く→→→
しばしの間お待ちくださいませ…!




