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稀代の伊達男による助言 ②

 カーティスに夕飯を食べに来るよう誘われたのはその日のことだった。

 ついこの間出かけたばかりなのに、こんなに時間を割いてもらっても良いのだろうか。ネージュが戸惑いを顔に出さないよう気をつけている間、カーティスはいい魚が手に入ったんだと言って笑っていた。

 内陸部であるこの王都において魚は貴重品だ。供された鯛のムニエルは見るからにこんがりと焼きあがって、食べられるのを待つのみとなっている。


「凄い。こんな大きな切り身、初めて見ました」

「なかなか立派だね。頂こうか」

「はい、頂きます!」


 カーティスが話したところによれば、海辺で領主を務める友人が転移魔法で遊びに来たついでに置いていってくれたらしい。名前を聞いたら大変名のある魔法使いだったので、ネージュは感嘆の溜息をついた。

 当たり前だがやはり顔が広い。名門侯爵家の当主である上に王立騎士団長なのだから、その人脈はネージュが想像するよりも遥かに広く、そして複雑なのだろう。

 またカーティスの凄いところが見えてきてしまった。ネージュは美味しい鯛を咀嚼しながら沈んだ顔をしそうになって、いやと心の中で首を振った。

 意味もなく暗い顔をしていては駄目だ。フレッドも前向きに頑張れと言っていたのだから。


「あの、シェリーは来ないのですか? こんなに貴重で美味しいものを」

「声はかけたけど断られてしまった。邪魔するわけないでしょうって、ちょっと怒ってたよ」

「……シェリーったら」


 どうやら親友に気を遣わせてしまったと知り、ネージュは呻くように言った。

 恥ずかしいのと申し訳ないのと、何だかくすぐったいのとで顔が熱い。誤魔化すようにワイングラスを傾けたら、カーティスが面白そうな顔をした。


「そういえば、ネージュは酒に強いんだったね」


 どこか含みのある笑みに過去の記憶が呼び起こされていく。とある思い出を掘り出したところで、ネージュは盛大に赤面した。


「ブラッドリー城下の酒場では頼もしかったな。付いてきた意味は無かったと思ったものだ」


 ——やっぱりその話!


 随分前のことのように感じるが、あれからまだ半年も経っていないのだ。カーティスが覚えているのも当然のこと。


「うあっ……わ、忘れてくださいっ! いくら演技とはいえ、あんな態度を取って……は、恥ずかしいです!」

「悪いけど、私から見れば可愛い以外の感想がないんだ。残念ながら一生覚えているだろうね」


 重ねるようにとんでもないことを言われたせいでいよいよ頭がクラクラしてきた。しかしネージュはとある疑問を抱いて、ワイングラスに添えた手に力を入れた。

 あの時のことを可愛いと言うだなんて、既にその時にはネージュのことを好きだったような物言いだ。

 一体いつから? 私なんかのどこを好きになって下さったのですか?


 ——って聞けるかああ!


 全然初心者向けじゃないよ、フレッド。そんなことを聞けるのは自分に自信のある美人くらいなもの。

 だってもし聞いてみて困った顔をされてしまったら。私、どうしたらいいの……?


「う、うう……! ワイン、お代わり頂戴します!」


 マナー違反なのはわかっていたが、ネージュは手酌でワインを注いだ。酒でも飲まなければ、恥ずかしさと自信のなさでどうにかなりそうだった。

 カーティスはちょっと心配そうな顔をしたが、結局はネージュの好きにさせてくれた。

 酒に強い体質に心から感謝したい気分だ。しかしそんな盲信が祟ったのか、段々と思考がおぼつかなくなってくる。

 そしてデザートが登場する頃には、ネージュはすっかり上機嫌になっていた。


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