第5章17 発進
「着いたよ。それじゃあエミル山に入るメンバーを決めようか」
ヤオフーが指揮をとっている。ここはフォックスハウンド艦橋。ヤオフーや操舵士・オペレーター達クルーの他、カイン、アクラ、フリンが集まっていた。今現在、潜砂船フォックスハウンドは砂漠の砂の海を潜航しエミル山の麓の地下に駐留している。
「ライラ、地上の様子はどうだい?」
ヤオフーが女性オペレーターに話しかける。ライラは主にレーダーやエコーの解析による監視観測を主とするオペレーターだ。砂の上まで伸ばした潜望鏡による有視界調査とレーダーによる広域観測により地上の様子をモニターしている。ライラが答える。
「付近に異常は見られませんね。レーダーにも不審なものは見当たりません」
「フリン、ここはどの辺だい」
「ここは村のちょうど逆側だな。村側なら山道が整備されてたりして、誰かに会う可能性もあるけど、こっち側は岩場や崖ばっかりで村人もあんまり近づかないな」
「よしっ。上陸場所はここにしようか。上陸メンバーだけど——」
言いながら、ヤオフーはカイン、アクラ、フリンと順番に視線を動かす。そしてフリンのところで視線を止めると——
「フリン、あんたと嬢ちゃんはこっちだ。バルムンクは戦艦の遺跡なんだっけ?広いみたいだし警備システムが生きてる可能性があるなら、ギアが必要だね。鹵獲したラブディを一台預けるから嬢ちゃんと同乗しな。操縦はできるよね?」
「コカヴィエールとそうそう変わらないよな?」
「まあ、基本は同じだろうね。ワーカーも操縦できるなら問題ないだろ。あとは——」
ヤオフーはフリンから視線を外し、アクラに視線を移した。
「兄さんもよろしく。あとボウも必要だね。それから——」
バルムンクに潜入する人員を指折り数えていたヤオフーはカインの方に視線を向けた。阿吽の呼吸でカインも全てを察したように顎を引く。
「それから——、私も行くよ。カイン、その間フォックスハウンドのことはお前に任せた。もしかしたら、まだ空の奴らの残党が残ってるかもしれないから気をつけるんだよ」
「承知しました。こっちのことは任せてください。ラブディが一台余ってますがパイロットはどうします?」
「リーかハクかだな。スープーはまだ無理だろう。配置はカインに任せるよ」
「承知しました」
「それじゃ、潜入メンバーは一時間後の午前十時にギアハンガーに集合。ギアに乗って待機しているように。ボウは私のギアに同情させる。マオ、ハンガーの連中に伝えておいてくれ」
ヤオフーがそう言うとマオと呼ばれた女性オペレーターが、承知しました。と返事し、早速ハンガーに向けて通信を行なった。ヤオフーはその様子を確認すると——。
「じゃ、解散だ。また後でね」
◇ ◆ ◇
フリンは艦橋を後にするとその足で医務室のユニのところへやってきた。午前九時過ぎ、ユニはすでに起きていて、ベッドの上に腰掛け本を読んでいた。フリンに気がつくと、——ちょっと待って。と言って、急いで切りのいいところまで読み、本を閉じてベッドの横のサイドテーブルに置いた。
「おはよう、ユニ。飯はもう食べたのか?」
「おはよう、フリン。もう食べたよ。フリンはご飯の話ばっかりだね」
ふふっ——とユニが笑った。口元を手で隠しながら、可愛らしい笑顔をフリンに向けている。フリンはその様子を見て、今日は調子が良さそうだなと思った。
「さっき、ヤオフーから話があってバルムンクに行くメンバーが決まった。ユニは俺と一緒にラブディってギアに乗ることになったよ」
「そう……」
「初めて乗るギアだけど、戦闘は無いだろうし、ヤオフーとアクラも一緒だから大丈夫だよ」
「うん……」
ギアの話が出た途端に、ユニの顔から明るい表情が消える。反応も薄く、フリンの焦りは増していく。フリンはユニをなんとか落ち着かせたいと願う。しかし——。
「ユニも着替えとか準備あるだろ?俺もラブディのマニュアルを確認しておきたいし……。九時五十分になったら迎えにくるな」
もどかしい気持ちを抑えきれないままフリンはユニに言った。ユニを安心させる言葉も思いつかず、一緒にいたいけど、気を落としているユニにかける言葉が見つからず気まずさから逃げたい気持ちが言葉になって口から漏れてしまう。フリンの声音、表情からそれを察したユニが悲しく微笑む。
「ありがとう。よろしくね——」
◇ ◆ ◇
ユニと別れ、フリンはギアハンガーにやってきた。そこでは整備の作業員達が出撃に向け慌ただしく働いている。一台のラブディもフリンの操縦に合わせた調整が慌ただしく進められていた。ラブディの調整班の一人がフリンに気が付き話しかける。
「フリンさん、待ってましたよ。基本はワーカーと一緒ですけどマニュアルに目を通してシミュレータでチュートリアルはこなしてくださいね。それからこのサイズのギアは初めてだと思いますけど、スティグマータみたいな無茶はできないので気をつけてくださいね」
「ボウ、遅くなって悪かったな。まあ、ヤオフー達がいるし無理はしないよ」
「じゃ、早速ですけど操縦席はスタンバイ済みなのでちゃっちゃとやってください」
「はいはい」
「はい、は一回ですよ」
フリンはラブディに乗り込み、基本的な操縦方法をシミュレーターを通して学んだ。操縦の基本はワーカーもギアもスティグマータもそう変わらない。いわゆる統一規格で作られているのでフリンは苦もなくシミュレーションをこなすことができたが、コカヴィエールに比べるとフリンの操縦への追随性や出力に物足りなさを感じてしまう。それを調整の要望事項としてボウに伝えるが現状が精一杯だと返されてしまった。
時間は進む。
フリンはユニを迎えのから戻り、ユニと共にラブディに乗っている。ラブディのコックピットは広く、設計上は単座・複座の両方に対応できるように作られ、二脚の操縦席がデフォルトで設置されている。スティグマータのような全天周型モニターではなく、メインパイロット(機体前方)の操縦席前方には三面鏡のように複数のモニターが配置され機体前方を映し出され、サブパイロット(機体後方)の側には前方を写す機体の前後左右を写すモニターと機体状況を表すサブモニターが設置されている。サブパイロット側にも操縦桿はあるが——。
「ユニ、そっちにも機材とか色々あるけど、基本的には俺の方で全部操縦できるように調整してあるから乗ってるだけで大丈夫だぞ」
とフリンがユニに言った。ハンガーにはバルムンク潜入組が既に揃っている。
「ミュラ、艦首を上に向けろ。マオ、ハッチを開け。ギア発進の時だけ艦首のみを砂の上に出すぞ」
ヤオフーが艦橋のクルーに指示を出す。その後、潜入組の四人に向けて、——何があるかわからない。気を引き締めろ。と声をかけた。バラストタンクの砂が排出されフォックスハウンドが少しずつ浮上していく。その上昇に合わせて艦全体が獣が身震いするように震える。その様子にフリンの緊張も高まっていった。やがて、艦が斜めになっていき、ハンガーの片隅、艦首側のハッチが開き、砂漠の太陽がフリン達を照らした。ヤオフーが——行くよ。と言ってヤオフーの搭乗機、天使のような翼を持ったパードレが飛び出していく。それに続き、アクラのスティンガーが発進し、フリンもユニに行くぞと声を掛け、二人のあとを追ってエミル山に向かって飛び出していった。
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