第5章13 フォックスハウンド食堂にて
フォックスハウンドの食堂は六人掛けのテーブルが四台かける三列の十二台設置され、入り口から向かって右側にあるカウンター——奥には厨房がある——から好きなメニュー——と言っても、いくつかのホットミールの組み合わせであるが——を選び好きな席に座って食べられるようになっている。
フリンとエリナが食堂に入ると席はすでに七割ほどが埋まっていた。カウンターは夕食ラッシュの波が過ぎ、束の間の休息ムードが流れていた。
フリンとエレナはそれぞれ夕食を受け取ると食堂隅に設置された大テーブルの一番端に向かい合わせに腰掛けた。
「いっただきまーす!」
エリナは胸の前で両手をあわせて言った。いつも敬語でハキハキしているエリナに珍しい笑顔と声音に、フリンは少し驚いてエリナの顔を見ていた。すると、エリナは——。
「色々あるんでしょうけど、話は後にして、まずはご飯にしましょう」
小首を右に傾げながら笑顔でそう言うとスープを掬って口へ運んだ。その姿を見てフリンはふふっと笑顔を見せ——。
「何だか腹減ってきたな。いただきます」
と言って食べ始めた。ずっとフリンの身体を重くし、胸につかえていたものは笑顔と共に溶け出していた。エリナはミズガルズ戦以降ようやく見られたフリンの笑顔に満足そうに笑みを返すと二人は夕食を食べ始めた。
夕食を食べ終え、二人は食後の水を口にする。そして——。
「あの時はごめん。怪我はもういいのか?」
「怪我の方はもう心配いりませんよ。それより、何度謝れば気が済むんですか?気にしないでいいって何度も言いましたよね」
「あ、ごめん」
「また謝る……。さっき私のことを避けようとしたのは、それが原因ですか?」
エリナが不満そうに頬を膨らませてフリンのことを見つめる。わざと冗談っぽく振る舞うエリナの態度を感じ、フリンは自分を自分を情けなく感じる。大きく深呼吸をして気持ちを切り替えてエリナに向かって言った。
「次の目的地は俺とユニの故郷なんだ。コカヴィエールが不調でなんとかできないかってコカヴィエールを見つけた俺たちの故郷に行くことになったんだけど、ヤオフーから、その場にユニも同行させるって言われて。お前もユニのあの様子を見ただろ?もうギアには近づかせな方がいいんじゃないかって思うんだ」
「でも、船長の決定なんですよね?」
「ああ、だから俺が喚いたところでダメなんだろうけど、やっぱり心配で……。それに、俺はあのギアが原因で故郷の村を追い出せれてきたんだけど、ユニは家族に逆らって俺についてきてくれたんだ。そんなユニをあんな状態にして故郷に帰るなんて、みんなにあわせる顔がねえよ」
フリンは下を向き、水を飲むでもなく両手でコップを挟んでいる。エリナは何も言わずにフリンの言葉を待っていた。フリンが続ける。
「ヤオフーに、ユニを村に返して来るかどうかは俺に任せるって言われたんだ。多分このまま一緒にいるよりは村でゆっくりさせたほうが良いんだろうとは思う。でも、俺のせいであんな風になったユニを村に返してそれで終わりだなんて、そんな逃げるようなことしたくない。俺、村を追い出された時ユニがそばに居てくれて本当に救われたんだ。その時だけじゃない。ちっちゃい時からずっとユニがそばにいてくれた。だから、今度は俺が助けてやりたい……」
「ユニさんのこと大切に思ってるんですね。ユニさんが羨ましいです。確かにユニさんをコカヴィエール所縁の地に同行させるのは疑問もありますけど、スティグマータのこととかあの時のことを聞かされるとユニさんの異変を知るためには必要な事かもしれないのかなとは思います。そこはフリンさんがユニさんのことをしっかり見て上げて、支えてあげて欲しいなって思いますね。ユニさんを村に戻すかどうかは、ユニさんの気持ちも聞いてみてはどうですか?」
「ユニの気持ち……?」
「ええ、ユニさんだってフリンさんについて行った時はもう村には戻らない覚悟もあったと思うんです。それだけフリンさんを大切に思っていたんじゃないですか?フリンさんはどうです?私はフリンさん一人で考えるんじゃなくて、二人で話し合って決めた方がいいと思います」
「……そうだな。……エリナはユニを村に戻すか、このまま一緒にいるかどっちがいいと思う?」
フリンの問いかけにエリナは困ったように頭を掻いた。今、二人で話し合えって言ったのにそれを聞くのかよと、頭の中によぎり呆れたような声音になるのを抑えて答える。
「うーーんっ。一番はユニさんの気持ちを尊重することだと思いますけど、ここにいたら今後もギア戦は避けられないですよね。ユニさんがギアに乗る乗らないはともかく危険は避けられないと思います。フリンさんはユニさんと一緒に艦を降りるとかはないんですか?」
「ヤオフーからは一緒に来いって言われてる」
「船長はそうだとして、フリンさんはどう思ってるんですか?」
俺……?エリナに改めて聞かれてフリンは答えられない。ユニを安全な村でゆっくりさせて方がいい気持ちと、自分が支えてやりたい気持ちとが同じぐらい大きくどちらかを選ぶことができない。なかなか答えの見つからないフリンを上目に見ながらエリナは水を一口啜った。
「すぐに答えを出す必要はないと思いますよ。ユニさんと話して何がいいか一緒に考えてみてください。その上で答えが見つからない場合は私もまた話を聞きますね」
ありがとう。——エリナに礼を言い、また考え込んでしまったフリンに、私はこれでと告げて、エリナは自分の食器を戻し口まで運び食道を後にする。フリンもその後を追って、残った水を飲み干し食器を片付けて自室へ戻っていった。
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