第5章11 フォックスハウンド ギアハンガーにて
「ボウ。次の目的地が決まったよ。ギアの整備が済み次第発進する。あとどのくらいかかりそうだい?」
ヤオフーはハンガーにやってきていた。フォックスハウンドに六基設置されたギア用の整備台にはこれまでコカヴィエール、スティンガー、パードレの三機しか置かれてなかったが、エリナの加入によってグレイブ・クラーケが加わり、さらに、先のミズガルズ攻防戦で鹵獲したミズガルズ王国軍の主力機体ラブディ二機が加わり、今や六基の整備台全てにギアが鎮座している。損傷の少なかったスティンガーとパードレは既に修理が終了し作業員はいなく、グレイブ・クラーケはエリナを中心とし数人の作業員が整備を行い、鹵獲した二機のラブディは同様にミズガルズ攻防戦の戦地で回収してきたパーツを使い急ピッチで修理が進められているところだった。ボウはフリンと共にコカヴィエールの前にたち何やら打ち合わせをしているところだったが、コカヴィエールの前には他に作業員達の姿が見えない。ヤオフーはそんな二人のそばまで歩き、ボウに声をかけた。
「あ、ボス。ええっと、ワーカー五台とスティンガー、パードレの方はもう終わってます。エリナさんのグレイブと鹵獲した二機も戦地に大量にパーツが溢れているんで、明日中には修理の目処を立たせてみせます。ただコカヴィエールは……」
「内線でも状況が悪いっていうようなことを話してたよね」
「はい。破損したパーツを回収して可能な限りのことはやったんですが、バックパックの復元は難しい状況です…。それに一番の問題はヴィーさんが——」
「起動しないんだったね」
「はい。ブラックボックスに蓄積されたデータを洗い出してみても、例のバルムンクって言葉以外何も出てこない状況で……」
「フリンには何か心当たりはないのかい?」
「——わからない。ただあの時、コカヴィエールから二本目のケーブルが出て、俺の座席の後ろにいたユニにもケーブルが繋がったんだ。その後からユニもヴィーも俺が呼びかけても全然反応しなくて……」
「二本目のケーブル?間違い無いのかい」
「ああ、それは間違いない」
ヤオフーは腕組みをしたままコカヴィエールを見上げる。コカヴィエールはコールのギアに切断された両手足とバックパックと胴体部が全て分離されパーツごとに分けられていた。胴体部で様々なケーブルが繋がり整備台にぶら下げられるように固定され、両肩部や鼠蹊部から伸びたケーブルはそれぞれの手足に繋がれ調整が進められているようだった。しかしバックパックはズタズタに切り裂かれたまま手付かずで置かれているようだった。ヤオフーはコカヴィエールを見上げたまま口を開いた。
「ボウ。コカヴィエール以外のギアの整備は明日中に終わらせな。明後日に出発する。それからフリン。あんたには道案内をしてもらうよ。明後日午前七時に艦橋に来な」
——わかりました。と、ボウが返事をする。フリンは声が出ないままヤオフーの顔を見つめていた。ヤオフーが言う。
「それから、嬢ちゃんの事だが、状況から考えて、バルムンクへは同行させた方が良いだろう。嬢ちゃんの身に何が起こったかわかるかもしれないからな。ただその後で村に帰すかどうかはあんたに任せるよ」
ヤオフーの言葉にフリンの反応はない。ただヤオフーの胸のあたりに視線を落とし、虚ろな様子で黙っている。傍目には話が聞こえているのかわからないが、ヤオフーは構わず続ける。
「私達はこれからも空の奴らを追っていく。悪いけど、あんたにはこれからも付き合ってもらうよ。ただ嬢ちゃんは別だ。帰れる場所があるのはいい事だよ。明日一日好きに使っていい。よく話し合うんだね」
——それじゃ、と言ってヤオフーがその場をあとにする。ボウは右手を上げて、その場を立ち去ろうとするヤオフーの背中に一礼すると、フリンの横顔を見つめる。暗い表情をしたフリンに何か言葉をかけようと考えるが、結局その言葉も見つからず、やさしく肩を叩こうと上げた右手も胸の前で弱々しく震わせ、そのまま降ろしてしまった。ボウは、フリンの横顔にも一礼すると、その場を離れ、作業員達を集め、指示を飛ばし始める。
フリンは作業員達がボウの指示を受け忙しく動き始めたのをひとしきり横目で眺めると、一人ハンガーを離れ自室へと向かっていくのだった。
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