第2章4 エミル山、再び
フリンはエミル山に向かう途中、何度か兵士たちを見つけた。その度、物陰に隠れたり迂回したりしていたため、思ってたよりも到着に時間がかかってしまう。
エミル山の入口に辿り着いた。程なく登山道を離れ森の中に分け入っていく。すると。
「フリン?」
不意に声をかけられた。声の聞こえた方向を見る。
「やっぱり!フリン、あんた無事だったのね!」
草木の影からフリンの母親が姿を現した。隣にはユニの両親もいる。
よく見ると、ここには村人の半数ぐらいが逃げてきているようだった。ジルおじさんの姿も見つかった。
「私、ダリルと一緒に夕飯の買い物に行ってたの。ダリルと歩いていたら、あの兵隊さん達がいきなり銃を撃ってきたのよ。私、何が起こってるのかわからなかった。ダリルがすぐに逃げろって!フリンを連れてくるから、私は先に逃げろって。村の出口近くでみんなに会って、一緒にここまで逃げてきたの」
母さんが早口に続ける。
「ダリルは一緒なの?それにユニちゃんは見てない?」
「ユニは、家の中に隠れてる。父さんは…」
フリンは、ダリルがユニを庇ったという話は伏せ、広場で見たことを伝える。
「ダリル…。ダリルゥゥゥゥッッ!!」
フリンの母親が泣き崩れる。ユニの母親が言う。
「フリン、あなたはユニを置いて一人で逃げてきたの?」
それを聞いてフリンはハッとした。
——みんな奴らの目的を知らないのか?
「そうじゃないんだ。やつら、エミル山から持ち出された遺跡を見つけるために村を襲ったんだよ」
フリンの言葉に、ユニの両親だけでなく、その場に逃げていた村人たちも含め、その空気が凍りついていく。
「あなた何を言ってるの?ここに遺跡なんてないでしょ?」
ユニの母親がフリンを問い詰める。
「とにかくここは危険なんだ。やつら、この辺もまだうろついてるんだよ!」
フリンが答える。ユニの母親が、でも…と、フリンの話を信じたくないのか、言い寄ろうとする。ユニの父親が、それを制止して落ち着いた声音で、フリンに話しかける。
「村が襲われた状況は、とりあえず納得しよう。ここが危険だってことも、わかった。このことは俺から村長に報告しておく。だが…」
ユニの父親が続ける。
「フリン。おまえはここが危険だと知っていて、なぜやってきたんだ?」
一瞬、フリンは返答に詰まる。自分が引き起こした事がきっかけで村が襲われたなんて言えるわけがない。
「みんながここにいるって聞いたから、危険だって伝えなきゃって思って…」
「おまえはこれからどうするんだ?」
ユニの父親が尋ね、フリンが答える。
「俺は村に戻る。ユニを迎えに行かないと」
「そうだな。俺も一緒に行こう」
ユニの父親は娘の無事がわかり、いてもたってもいられないようだ。
「いや、俺に策があるんだ。おじさんは一刻も早く、このことを村長さんに伝えて、ここから逃げて」
「娘を残して俺だけ逃げるわけには…」
「いいからっ!ここは俺にまかせてっ!」
ユニの父親の言葉を遮りフリンは声を張り上げる。納得した表情ではないが、ユニの父親が頷く。
「そこまで言うならわかった。必ず戻ってこいよ」
フリンはみんなの元を離れ、なおも森の中を突き進んで行った。
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