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Skies fall down  作者: 伊佐谷 希
第5章 神か悪魔か
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第5章3 老兵カイン

 「では、イチ、ニのサンで飛び出すぞ」


 カインがマオにそう告げる。マオはコクリと首だけを動かして頷く。二人は背中あわせになり、身を隠していた操縦パネルの両端についた


 「イチ、ニのサンッ!」


 カインの合図で二人が一気に飛び出した。マオは操縦パネルの片隅から同僚のオペレーターたちが身を隠すパネルの陰に駆けていく。しかし、その目的地への順路は我を失って暴れているミュラ操舵士の目の前を横切ることとなる。当然ミュラはマオに対して銃を向けたが、カインは背後からミュラに襲いかかり、銃を振り放させると首に腕を絡めて締め落とした。


 「…俺もまだまだ捨てたもんじゃないな」


 歳を重ね、すっかり艦長職が板についてきたカインが、腕っぷし自慢のミュラを制したことで、ボソッと呟く。そのカインに艦橋に残る二人の正気を失ったクルーが一斉に襲いかかる。

 先にカインの元にやってきた男性クルーから、カインの顔面目掛けて突きされた右拳をカインをいなして後ろに投げ飛ばすと、続け様に襲いかかってきた女性クルーに向き合った。女性クルーは右手に持ったボールペンを振り上げてカインの顔目掛けて振り下ろしてきた。カインはそのボールペンを間一髪のところで交わすと、右手をとって女性クルーの背後に回り、後ろ手に腕を決める。痛みに女性クルーの腕の力が緩んだところでボールペンを奪い取ると、首に腕を回し絞め落としにかかった。

 しかし、その攻防の間に先ほど投げ飛ばされた男性クルーが起き上がり再びカインに襲いかかってきた。

 一撃くらうのを覚悟し、女性クルーの無力化を優先して首を絞めた腕に力を込めたカインに、しかし一向に拳撃の衝撃は訪れなかった。疑問に思い、気絶させた女性クルーをゆっくり床に寝かせながら、男性クルーの方に目を向けると、そこには。


 「——ぐうぅっ」


 呻き声を上げて男性クルーが床に崩れ落ちていくところだった。その理由はすぐに明らかになる。崩れ落ちていく男性クルーの背後から、先ほどミュラから奪い、床を転がった銃を手にしたマオが現れた。


 「撃ってはいないですよ。グリップ部分で頭を叩いただけです」


 マオが困り顔で告げた。わずかに体が震えているのもわかった。


 「すまない。よくやってくれた。彼らが目を覚ます前に手足を縛っておくか」


 「副船長。それは私に任せてください。それより……」


 マオはそう言って視線を、先ほどマオが走り抜けたパネルの方に向ける。そこにはミュラたちの暴走から身を隠していた女性クルーがカインの方を向きながらも顔を俯けて力なく立っていた。


 「ライラか。怪我はないか?いったいどうしたというんだ」


 ライラと呼ばれた女性クルーは、自身の無事を告げると、パネルの操作を始めた。程なくして、壁際に設置されたサブモニターに艦内の監視カメラの映像が表示された。


 「私、ここに隠れながら、艦内の状況をずっとモニターしていたんです。そしたら、この異変はここやハンガーだけじゃなくて、艦内全体で起こっているのがわかって……」


 「なんだと!?見せてみろ!」


 カインの指示に従い、ライラが監視カメラの映像を回していく。通路やブリーフィングルーム、食堂、居住区などの至る所で戦闘が起こっている。中には激しい銃撃戦に発展しているところまであった。


 「これはなんだ……?暴れているものの中にはベテラン組も多いじゃないか」


 「ハイ=ミズガルズへの急襲に合わせて、一斉に裏切ったんでしょうか?」


 ライラが質問する。カインはライラの方は見ずに、監視カメラの映像の中にいる通路で激しい銃撃戦を繰り広げているカインと同じ年頃のたてがみに白髪の混じったライオンの亜人を見つめながら言った。


 「そうは思いたくないな。士官学校の時から一緒だったんだ。グリトニルが滅んだ時だって、俺たちと同じように奴らのことを憎んでいたはずなのに……」


 そう言って、カインは顔を伏せてしまった。しかし、悲しんでいるわけではない。右手で顎の先をつまみ、左手は右に回して腕を組むようにして思案する。


 (——ダメだ、頭が回らない)


 しかし、混乱しきった頭では、何も考えが浮かんではこなかった。何かがあるはずだ。これは普通じゃない、ありえない事態なんだ。そんな気持ちばかりが溢れ、カインの思考力のメモリを食いつぶしていく。


 「あっ……」


 いつの間にか、三人を縛り上げ戻ってきていたマオが小さく声を上げた。


 「どうした?」


 すかさずカインはマオに問いかける。しかしマオは首を横に振り。


 「なんでもありません」


 と返した。しかし、その瞳はやはり何かに気付いたように意思を持ってモニター上に視線を這わせていた。


 「なんでもいい。何か気付いたら言ってくれ。今は考えを始めるためのきっかけやヒントが必要なんだ」


 カインが食い下がる。マオは戸惑った瞳を向けながら話を始めた。


 「これは、その、差別でもなんでもないです……」


 「——?なんだ?どういうことだ?」


 「その、ここもそうですけど、暴れている人たちって、、亜人が多いと思って」


 「何っ!?」


 マオに言われて、カインは監視カメラの映像を回して、確認していく。


 「確かに!副船長!確かに裏切り者たちは亜人が多いですよ!」


 カインと一緒にモニターを確認していたライラも同意の声を上げた。


 「裏切ったかはわからん。しかし、確かに亜人組が多いな。というか、暴れているのは全員亜人じゃないか?ライラ、ハンガーに通信を繋いでくれ」


 ライラがパネルを操作すると、すぐにモニターにはハンガーの映像が写し出された。しかし、いくつのカメラは破壊されてしまったのか、砂嵐の映像も紛れ、ハンガーの全体像を把握することができない。いくつ目かのカメラの映像の中にカインは棒の姿を見つけた。


 「ボウ!無事だったか!?」


 「副船長?良かったです。急に通信が切れて心配しましたよ」


 「すまなかったな。状況はどうだ」


 「リーさんとハクさんがワーカーで気張ってくれて、他のみんなも頑張ってますけど、かなり厳しいです」


 「そうか。悪いが、艦内全体で混乱が起こっていて、すぐに駆けつけられそうにない。なんとか持ち堪えてくれ。それから、確認したいことがある」


 「なんですか?」


 「暴れている連中に共通点はあるか?」


 「共通点…?」


 映像の中でボウが暴れているクルーたちを見渡している。すぐに返事が返ってきた。


 「もしかして、全員亜人ですか?」


 「やはり、そうか。すまないが、頼んだぞ」


 通信が切れる。


 「しかし、全員が亜人だからなんだというんだ……」


 まだ何か足りないピースがあるのだろうか。しかし、何も心当たりが浮かばなかった。


 「とにかく、騒動を鎮圧するのが最優先だ!マオとライラはここに残って艦内の状況を監視してくれ。何かあったら、すぐに俺に連絡しろ!」


 カインがそう言うとマオから銃を受け取って艦橋の出口に向かう。


 「副船長はどうするんですか?」


 「この混乱だ。中にはスピーカーが壊れたのか放送が届かないところもある。直接現地で指揮し、この場を収める」


 カインが艦橋を出て行こうとしたその時。


「——こちらヤオフー、フォックスハウンド、無事か!?」


 艦橋内にヤオフーの声が響き渡った。

ご高覧いただきありがとうございました。

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