第2章3 広場の光景
自宅からエミル山への方角とほぼ同じ方向に広場がある。ユニが話していたフリンの父親が犠牲になり、なおも人質達の生命が蹂躙されているという広場だ。
フリンはその光景を想像すると恐怖に押しつぶされそうだった。出来ることならそんな光景は見たくない。すべては夢であってほしい。そう思いながらも、広場の状況を確認せずにはいられなかった。
エミル山への道を少しそれ、広場に向かう路地に入る。しかし、まっすぐ広場に向かってしまったら、村を襲ってきた者たちでいっぱいだろう。どうするべきか…。
路地を抜け、広場までもう百数十メートルというところまで来て、奴らの攻撃により壁に穴が開いた建物を見つけた。ジルおじさんの住居兼パン屋だ。ジルおじさんは村で有名なパンの作り手で、とても気さくだけど少し調子の良い人だ。いつも笑顔でフリンに雑用を押しつけてくる。そのかわり仕事を手伝うと、いつも腹一杯パンを食わせてくれた人だ。家の中には誰もいない。無事でいてくれたら良いんだけど…。
フリンはジルおじさんの家に入り、二階の窓から広場の様子を伺った。
ユニが話していたとおり広場では捕まった村人たちが後ろ手に拘束され順番に座らされていた。全員で十人ほどいる。見ると女性も子どももお構いなしに座らされている。おそらく、その時広場にいた人たちを無作為に捕えたのだろうか。泣きじゃくる我が子を、必死に静かにさせようとして、母親が半ば叫びに近い声を上げている親子らしき人たちもいた。その親子に対し、周りを取り囲む兵士が無慈悲に銃を向けている。
広場には、銃を手にした兵士やワーカーがうじゃうじゃといる。見える範囲でも十数名。捕えた人たちよりも、若干人数は多そうだ。しかし、本当に住民たちを抑えている四人以外は、入れ替わり周辺の捜索等をしており、正確な人数は把握できない。
ともあれ、ユニの言っていた「あいつら」とは、あの兵士たちで間違い無いだろう。
広場に拘束された人たちのうち、左端から三人は、身体の力をなくし、首を傾げ項垂れている。一番左端の人に至っては、この状況にも関わらず仰向けに寝てしまっている。
いや、そうじゃない。あれは、そんな事じゃ…。
捕らえられている人たちは、その三人を見ようとしない。兵士たちも、その三人を無視するかのように、既に無関心になっている。ユニの話が本当なら既に三人がその手にかけられたという事だろう。
そして、その一番左端にいる人は、両手が背中で拘束されているため、まっすぐ仰向けに倒れられず、身体が傾き、フリンの位置から顔は見えないが…。
「あれは父さんだ…」
フリンは実際にその光景を目の当たりにしても信じたくなかった。顔が見えたわけじゃない。勘違いであってほしい。目の前が涙で霞む。しかしここで泣いてしまったら、もう立ち直れそうにない。コカヴィエールならきっと村を守れる。それまでは気をしっかり保っていないと。
心臓の鼓動が早い。うまく呼吸ができない。胸に手をあて、必死に心を落ち着ける。
「しかし、あいつらは一体どこの軍なんだ?」
西のアストラン地方を含め、この世界は東西南北に四つに分かれる地方と中央都市の五つの勢力に分かれている。そして、そのそれぞれが軍を持ち自治区の統治を行なっているが…。
「奴らはアストラン軍じゃない。それどころか五つのどの勢力とも違う。あんな制服や装備は見た事がない。それに…」
時折、頭上をギアが通り過ぎていく。
「あのギア、完全に空を飛んでるよな…?あんな技術、この世界のどこにもないはずだぞ…。奴らは一体何者なんだ…?」
この世界には空を飛ぶような機械は存在しない。そのような遺跡もこれまで発掘されていないはずだ。コカヴィエールのような機体ならブーストジャンプによる跳躍は可能だが、その他の移動手段としては車や船舶のような乗り物しかないはずである。
頭が混乱している。しかし目の前の状況は現実に起きている事だ。ギアを隠したのはフリンだ。村の人たちは関係ない。
「奴らを止めないと」
フリンはジルおじさんの家を離れエミル山に向かった。
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