第4章39 幕引き
「ユニッ!」
フリンはユニのベッドに駆けつけた。まだ身体の動きづらいエリナも、身体に鞭を打ってフリンの隣に並んだ。フリンは驚いてエリナの方を見て、まだ寝てるように声をかけようとするが、エリナの真剣な眼差しに一瞬たじろぎ、何も言わずにユニに向き直った。二人の正面のベッドの上では、ユニが今まさに目覚めるところであった。
「——ここは?」
「——ユニ、気がついたか?」
ユニは状況が分かってないように周囲を見渡している。目が宙を泳ぎ、手が何かを探すように宙をかいている。フリンはそんなユニの手を握りユニの綺麗に整った顔に自分の顔を寄せ、その茶色い瞳を覗き込んだ。
「——フ、フリン……?え?あれ、ここは?」
状況の掴めていないユニの怯えが、握った手から、涙の溢れる瞳から、震えた声から伝わってくる。フリンはユニの手を優しく握り返し、ユニを安心させるため出来るだけ穏やかで優しい声音で話しかけた。
「もう大丈夫だよ。全部終わったんだ。あの赤いギアや他の奴らももういない」
「————」
「ここはフォックスハウンドの医務室だ。あの戦いの最中、ユニは気を失って倒れたんだ。どこか痛いところとか苦しいところとかはないか?」
「——フリン、何を言ってるの?赤いギアって?」
「——えっ?」
「——私、砂漠の狐の人たちの車に紛れ込んで、ミズガルズに行って、そしたらでっかい遺跡のところに行ったんだけど、遺跡が飛んだと思ったらいきなり攻撃を受けて墜落して……。それで……。あれ、それからどうしたんだっけ?」
ユニは自分の記憶を確かめるように、ひとつひとつ自分の行動をなぞって言葉にしてみたが、フリンに出会ってコカヴィエールに乗り込んだあたりのところから記憶が曖昧になり何も思い出せないでいるようだった。ユニは記憶を探るあいだ自分の手を握っていたフリンの手を振り解き、自分の頭を押さえていたが、何も思い出せない焦りから、次第に声を荒げ、頭を掻き毟っていった。フリンは我をなくして暴れるユニの肩を抱きしめ必死に落ち着かせた。始めはフリンの制止を腕を振り上げ拒んでいたユニであったが、根気よく支えるフリンの腕と言葉に徐々に落ち着きを取り戻していくと、そのまま気を失ったように眠ってしまった。フリンは抱いていた肩を離すと優しくベッドに寝かせ布団をかけてやった。一部始終を見ていたエリナが口を開く。
「——落ち着いたみたいですね」
「ああ、あんなに取り乱すなんて思わなかったよ。俺に会ったあたりから覚えてないみたいだったな」
「ショックによる一時的な記憶喪失かもしれませんね。戦場ではたまにあることです」
「大丈夫なのか?」
「個人差はありますけど、身体が治ってくれば自然に思い出していくことが多いみたいですよ」
「そっか……」
「それにしても、あの取り乱しようは、ちょっと気になりますね」
「————」
「——フリンさん?」
「——悪い。なんでもない」
「何か心当たりでも?」
「——いや、わからない、な」
「——?そうですか……」
「エリナもまだ本調子じゃないんだろ?付き合わせて悪かったな」
「いえ、勝手について来ただけですから、お医者さんには私の方から伝えておきますね。フリンさんもちゃんと休んでください」
「お前もそれ言うか……。俺、そんなに疲れてそうか?」
「ええ、そんなんじゃユニさんが起きたときに心配させちゃいますよ?」
「そか……」
フリンは力なくエリナに笑い返した。エリナもそれに笑い返すと二人はユニのベッドを後にした。エリナをベッドまで見送り、フリンも自室に戻った。やる事もなくベッドの上に寝転がると、そのまま泥のように、深く深く眠りに落ちていく。
長い長い一日が幕を下ろした。
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