第4章32 ミズガルズ攻防戦7
「なっ、エリナ!?どういうつもりだ!?」
「違いますっ!私じゃありませんっ!グレイブがいうことを聞いてくれないっ!?」
「——っきゃあ!また撃ってきた!フリン、どうするの!?」
コールの赤橙のギアがグレイブに左手を向けた途端、突然グレイブは敵対したかのようにコカヴィエールに攻撃を開始した。さらに頭上からも赤橙のギアの右手からビームが放たれ、コカヴィエールは再び球状のビームシールドに身を包み身動きが取れなくなってしまった。ヴィーのサポートなくユニが同乗しているこの状況で、フリンにはグレイブの致命傷にならないように動きを止める出力を調整した精密射撃や高速機動による戦闘離脱など、この状況を打破できるような操縦はできず、ただ亀のようにシールドにこもって立ち尽くすしかなかった。しかし、二機からの激しい攻撃により、攻撃を防ぐビームの膜は徐々に薄くなりつつあった。
「くそっ、どうすればいい!?何ができる!?」
「——フ……フr……、フリン…」
「ヴィー!大丈夫か」
シールドも薄くなり、フリン、ユニがいよいよ絶体絶命かと思ったその時、コックピット内にヴィーの声が小さく響いた。
「——あっ!?う、うぅ」
「ユニ!?どうした!?」
「首に何か……。っ!?ぁっ、あっ、あっ!——きゃぁぁぁあああ!!」
そして、ヴィーの復帰と時を同じくしてユニが悲鳴を上げた。ユニを見てみると、ユニの後頭部、首の付け根のあたりにフリンと同じようにケーブルが繋がれていた。ユニが悲鳴を上げる。フリンは「何が起こっているのか?」と混乱しながらも、その様子を見守っていたが、しかし、ユニの悲鳴はケーブルが接続された事実に対する反応としてだけみるにはあまりにも大袈裟であった。断末魔のような鋭い悲鳴が止まると、ユニが生気のない無機質な声音で呟くように言った。
「ハイパーモード、起動」
コカヴィエールのコックピット内の普段は緑色で表示される各種モニターやパラメータが
ユニの声に反応して赤く輝き出した。
「な、何が起きてるんだ…?ユニ!しっかりしろ!ユニ!」
「——行きます」
「う、うわっ?何だ?勝手に動いてる!?」
明らかに様子のおかしいユニはフリンの言葉にも聞こえていないかのようにまったく反応しなかった。そしてコカヴィエールもユニに同調しているようにフリンの操縦を無視して一人でに動き出した。
コカヴィエールの全身に設置されたスラスターに燃料が送られ、全身のスラスターから白色の粒子が吹き出し始めた。そしてビームシールドを解くと、再びビームを二つの大きな翼状に変化させた。途端、正面と上部から襲いかかる弾丸の嵐を高速機動で回避する。
「——う…ぐぅ…。何が起きてるんだ…?ユニ、無事か!?」
不意の高速機動に聖痕持ちとして強化されているフリンの身体に苦悶がよぎる。飛んでくる弾丸を回避するため断続的に高速起動を続けているコカヴィエールからのgに身体が慣れ余裕がうまれたところで、フリンは強化された肉体を持たず、ましてシートにすら座っていないユニの無事を確認するため、自身の座るシートの後ろを振り返った。しかし、そこには相変わらず生気のない表情をしたユニが、まるで何の衝撃もない安定した室内にいるかのようにまっすぐと立ち、前面モニターの正面にいるグレイブ・クラーケを見つめていた。
コカヴィエールのコックピット内の明かりがさらに赤さを深めて輝く。
「(何かやばい空気がする……)——エリナ!エリナ、聞こえるか!?すぐに逃げろ!!」
「フ、フリンさんこそ動けるなら早く逃げてください。このままじゃ二人を殺しちゃう……」
「違うんだ!こっちも何かおかしいんだ!」
あいかわらず暴走しているグレイブ・クラーケからエリナの沈痛な訴えが発信される。フリンの叫び、思いも虚しく、ついにコカヴィエールがフリンの想定していた最悪な行動を実行した。
コカヴィエールは上方から降り注ぐビームの雨を掻い潜りながら、ビームの右翼を前方のグレイブ・クラーケに向かって大きく振った。その羽ばたき一閃で六つ腕が構える銃器全てが砲身を抉られ、行き場を失い膨張したビームが爆発し、また実弾銃の火薬が誘爆しグレイブ・クラーケの前で六つの小さな爆発が起こった。
「——きゃぁぁぁあああ!!」
「エリナ!無事か!?」
「——私は大丈夫です。ありがとうございます。これでフリンさんを撃たずにすみますね」
「そうじゃないんだ!頼むから逃げてくれ!」
「——え?」
通信から聞こえた武器破壊によるエリナの安堵の声が、一瞬にして恐怖の色に染まった。コカヴィエールは武器破壊で止まることなく、爆発の隙をみてグレイブ・クラーケの前方十数メートルに接近すると、両腕のビームブレードを展開し、グレイブ・クラーケの前で踊るように数回転した。コカヴィエールの両腕、両翼のビームにより幾発もの斬撃が放たれグレイブ・クラーケが胴体部に頭と右腕だけを残し切り刻まれコカヴィエールの足元に転がった。そしてグレイブ・クラーケからの通信が途絶えた。
「なんなんだよ…。ちくしょう…。ヴィー?コカヴィエール?もうやめてくれ…」
グレイブ・クラーケが動かなくなったのを確認すると、コカヴィエールは興味をなくしたようにコカヴィエールの足に寄りかかるように倒れたグレイブ・クラーケの胴体部を蹴り放し、頭上の赤橙のギアを見上げるのだった。
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