第4章30 ミズガルズ攻防戦5
「——コールッ…!?」
フリンの口から言葉が漏れる。その響きには敵意と畏怖が込められていた。ユニが頭上のギアを不思議そうな表情で見上げている。
「フリン、あのギア…」
コカヴィエールに似ていると言いかけてユニは言葉を止めた。背中越しからでも伝わるフリンのただならぬ雰囲気にユニは言葉を続けられなかった。そしてその雰囲気は無線の向こう側にいる女性のものも同じように感じられた。
「ユニ。しっかり捕まっててくれ」
「フリンさん、来ますよ」
赤橙のギアがコカヴィエールとグレイブの前に着地した。そのパイロットから通信が送られる。
「二人ともそんなに緊張しないでください」
コールは場違いなほどの穏やかな声音でそう言った。しかし、これだけの惨事を引き起こした張本人のその穏やかさにフリンとエリナの二人はは言葉では表現できないほどの不気味さを感じていた。ユニだけが状況を飲み込めずにいるが、フリンの緊張から良くない予感に不安を示していた。フリンが口を開く。
「コール、これはおまえの仕業なのか?」
「もう聞いているんでしょう?」
「コールさんはなんであんなことをしたんですか?」
「あなた達に答える必要はありませんね」
「——」
「それよりもフリンさん、そのギアはどこで手に入れたんですか?」
「——答える必要はない」
フリンは先ほどのコールの言葉をそのまま返す。コールはやれやれというようにため息をひとつこぼすと質問の矛先を変えた。
「えっと、名前はなんと言ったかな…?忘れてしまったな…。まあいい。コカビエルに宿りし君、答えてくれないか」
「あっ…。あっ…」
「ヴィー?どうした!?ヴィー!?」
模擬戦の時、コールと対峙した時、ヴィーの様子がおかしくなったことがあった。今もその時のようにヴィーの様子がおかしい。そして、この二人の反応。フリンはヴィーとコールの間に何か関係があるのか訝しむ。しかし、今はそれに気を取られている場合ではない。フリンはヴィーのサポートがないとコカヴィエールを操れない。ましてやユニを守って生き延びることなどできるはずもないと思っている。そのことが焦りにつながり、周りも見えず、声も聞こえず、フリンはヴィーに呼びかけ続ける。
「フリン、しっかりして!」
「フリンさん、大丈夫ですか!?」
ユニとマリーが同時にフリンに声をかける。しかし、フリンはヴィーの不調に意識を集中し二人の呼びかけに答えられない。
「——今はヴィーと呼ばれているのですか。ヴィー、答えなさい」
コールがなおもヴィーに話しかける。
「やめろ…。やめろ…!」
「ふぅ、パイロットは邪魔ですね」
コールの声音が変わる。相変わらず口調は穏やかながらも、その響きには聞くもの達すべてを戦慄させる圧倒的な圧迫感があった。
「フリン、しっかりしなさい!」
ユニがフリンを頬を思い切り叩いた。周りの声も聞こえなくなるほど焦っていたフリンが正気に戻り赤くなった左頬をさすっている。
「——落ち着いた?ずっと一緒に戦ってたんでしょ?ヴィーちゃんが困ってる時はフリンが支えてあげなきゃ」
「悪い。どうかしてた」
「フリンさん、反省は後にしてください。来ますよ!」
「それが何者かも知らずに…。友達ごっこは済みましたか?気が済んだのなら、それは返してもらいますよ」
コールの乗る赤橙のギアの腕にビームの炎が灯る。戦闘態勢に入り、背中のスラスターにも粒子が漲っているのが見える。フリンとエリナも操縦桿を握り直し、戦闘に備えるのだった。
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