第4章25 混乱
コカヴィエールの正面に立っていたミズガルズ軍に正式配備されたギア、ラブディが躊躇なく撃ってきた。
「くそっ!」
コカヴィエールの周囲にはいまだ観覧式に参加した国民など一般人が大勢いる。撃たれた銃弾を闇雲に躱すわけにもいかずコカヴィエールはビームシールドを左腕の前にだけ盾のように展開し受け止める。実弾である銃弾はビームシールドに触れて蒸発していく。
「ちっ、ここじゃ戦えない。マリー小隊長、一体なにが起こってるんですか!?」
コカヴィエールは周辺への被害拡大を懸念して反撃にも移れず、暴走するラブディの攻撃をシールドで受け続けている。フリンは状況確認、また指示を仰ぐため第三小隊長のマリーに通信を行った。
「フリンか…?無事か!?今、司令部も混乱し指揮系統が機能していない。市街にはミズガルズ兵や傭兵を問わず、ミサイルの攻撃を合図としたようなタイミングで暴れ出した奴が大勢いる。一部の報告では、一般市民の中にも人が変わったように急に暴れ出した者がいるらしい。とにかく今は暴動の鎮圧に集中しろ」
「暴動の鎮圧なんて、簡単に言って…。もう撃つしかないか。ヴィー、右腕のビームの出力を調整してくれ」
コカヴィエールは調整された右腕のビームで正確にラブディのライフル銃を撃ち抜いた。銃を失ったラブディが剣を抜いてコカヴィエールに突撃してくる。
「う、うわっ」
明らかにコックピットを狙ってきている敵機の動きに恐怖したフリンは反射的にラブディのコックピットを撃ち抜いてしまった。出力の絞られたビームはラブディの胸部装甲を貫き、コックピットを蒸発させ、機体を貫通することなく、背面装甲の手前で止まる。しかし操縦者を失ったラブディはその場で崩れ落ちて沈黙した。
「俺だって死にたくなかった。仕方なかったんだ…」
フリンは目の前でうつ伏せに倒れているギアに対し、懺悔するように呟いた。
「とにかく、ヤオフーと合流しよう」
◇ ◆ ◇
フリンがヤオフーのもとに到着したとき、ヤオフーの搭乗するパードレがちょうど暴走するラブディを撃墜したところだった。ここでも味方同士で争っている。
「ヤオフー、無事か!?」
「ああ、生きてるよ。しかし、一体どうなってるんだ?ミズガルズ軍はこんなにスパイに入り込まれてたのか?」
「さっき聞いた話だと、兵士だけじゃなくて一般市民にも暴走してる奴がいるらしいぞ」
「なんだって?」
「いくらなんでも異常じゃないか?フォックスハウンドにも連絡入れといた方がいいかもしれない」
「そうだね」
ヤオフーはフォックスハウンドに通信回線を開いた。フリンも通話メンバーに追加される。ヤオフーが呼びかけると副司令を務めている男カインが通話に参加した。
「こちらヤオフー、フォックスハウンド、無事か!?」
「ボス、大丈夫でしたか?こっちは今、艦内部で数十人が急に暴れ出し混乱しています」
「なっ…?そっちにもか?」
「スープー達が暴れ出しました。自我をなくしたように暴走して正気に戻る気配がありません。仕方なく武力で制圧し縛り上げて牢に入れています。こちらは徐々に鎮圧に向かっています」
スープー…。あのネズミの亜人か、とフリンは思った。しかし、『達』とは、どう言うことだろうか…?副司令官のカインが続ける。
「…その、ボスは大丈夫なんですか?」
「どういう意味だ?」
ヤオフーは言っている意味がわからないと、カインに訊き返す。
「その、艦内で暴れた者は、全員亜人なんです…」
「マジか!?」
「なんだって!?」
カインの言葉にフリンとヤオフーが同時に反応する。フリンがよくよく周囲で暴れている歩兵や市民に目を向けてみると、ミズガルズでも正気を失って暴れているのは亜人連中だということがわかった。フリンが恐る恐る言う。
「確かに、よく見たら、こっちでも暴れてるのは亜人達だ…。ヤオフー、おまえはなんともないのか?」
「ああ、なにも変わりはないと思う。しかし、この状況は解せないね。まだ何かあるかもしれない。フォックスハウンドは作戦領域から離脱しろ」
「了解です」
「兄さんが心配だ。フリン、移動するよ」
ミズガルズ城に進路を向けて発進しようとした二機の前に、隊長機を示す角付きのラブディが立ち塞がった。機体の左肩には赤いラインが二本入っている。
「あれは、スコル小隊長か?」
フリンが言う。ヤオフーが重い口調で応える。二人の間に緊張が漲る。
「そうだね。…スコルも亜人だよ」
目の前の角付きは、二人に向けて銃口を向けた。
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